
Google Store表参道のデザインを手掛けたデザインチーム長、アイビー・ロス。デザインチームが同店のために作ったアート作品「California Dreaming」の前で
Image by: Nobuyuki Hayashi

Google Store表参道のデザインを手掛けたデザインチーム長、アイビー・ロス。デザインチームが同店のために作ったアート作品「California Dreaming」の前で
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2026年8月、東京・明治神宮前交差点に面した東急プラザ表参道「オモカド」に、グーグルの直営店「Google Store 表参道」がオープンした。
2021年にニューヨークのチェルシー地区で最初のGoogle Storeがオープンしてから米国で10店舗を開いたが、米国外はこの店が初めて。同時に、これまでで最大規模の店舗で、地下1階、1階、2階の3フロア構成。同社の日本市場への意気込みは、この店だけに用意されたアート作品や日本限定グッズからも伝わってくる。
ストアでは、PixelスマートフォンやPixel Watchをはじめとする最新のGoogle製品、同店限定品を含むオリジナルグッズを販売。AIで自分のアバターを生成できるプリクラのような体験をはじめ、グーグルの最新技術を試せるコーナーを2階に設けるほか、地下1階では修理や専門スタッフへの相談にも対応する。店内の各所には、Google製品の世界観や製造背景を紹介する展示がちりばめられている。
店のデザインを手掛けたのは、グーグルのチーフ・デザイン・オフィサー、アイビー・ロス(Ivy Ross)。「カルバン・クライン(Calvin Klein)」「コーチ(COACH)」「スウォッチ(Swatch)」「ギャップ(Gap)」のほか、マテル(Mattel)社などで製品デザインやブランド、マーケティングの要職を歴任し、2014年、スマートグラス「Google Glass」の責任者としてグーグルに入社した。2016年に発足したハードウェアデザインチームのトップに就任し、「ハードウェアを機械ではなく、日々身につけ、触れ、感情を重ねるものとして考える」という姿勢のもと、柔らかなフォルムや温かみのある色使い、一目でGoogle製品と分かる個性を備えたPixelシリーズなどの世界観をつくってきた人物だ。
大盛況だったオープン翌日の早朝、帰国を前にしたロスが、空港へ向かうまでの短い時間、インタビューに応じてくれた。
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オープン初日の開店前の行列の様子。
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目次
細部までこだわった、これまでで最大の表現
「私はものをつくることが好きで、いつも“つくり手”としての感覚を大切にしています。Pixel Watchのような小さなものでも、空間のような大きなものでも、デザインするときのマインドセットは同じです。ただ、この店舗は、私たちがこれまで手掛けてきた中でも最大の表現でした。スケールが大きい分、関わる人も、考えなければならない要素も多く、大変でした」
ロスとそのチームはGoogle Store 表参道の出店にあたり、米国の10店舗で用いてきた要素をそのまま持ち込むのではなく、物件の選定から店舗構成、建築、家具、展示、体験コンテンツに至るまで、社内外のさまざまな人々と試行錯誤を重ねて完成させたという。
テクノロジー、ファッション、文化が交差し、新しいトレンドが生まれる表参道は、グーグルのハードウェアデザインと最新技術を発信する場所にふさわしいと考えた。品質や緻密なデザインに対する日本の顧客の高い感度を踏まえ、Google Storeらしさと、日本のクラフトマンシップや接客文化を交差させることを目指した。
「冷たく、テクノロジーを前面に出した要素は避けました。代わりに自然な質感、柔らかな色調、美しい木材を用い、来店した人が自宅のようにくつろげる空間を目指しています。あらゆるタッチポイントを、細部まで徹底的に磨き上げました。一つひとつは意識されないかもしれません。それでも木目の向きや階段のディテールなど、すべてが積み重なることで、クラフトマンシップ、細部への配慮、思慮深いデザインというメッセージが無意識のうちに伝わると思っています」
もちろん、これまでの店舗も同じ姿勢でつくられてきた。それでも、表参道店のつくり込みは特別だという。「例えば、全店舗共通の要素として、注目すべきテクノロジーなどを紹介する『Cabinets of Curiosity(好奇心の棚)』という木製のキャビネットがあります。他店では支柱に黒いスチールを使っていますが、表参道店の左官壁には似合わないと思い、この店だけ支柱も木製にしました」。

グーグル最新製品の特徴を紹介する「Cabinets of Curiosity」。これまでの店舗は支柱が黒かったが、自然素材を大事にする日本へのリスペクトで、同店だけのために新たに木の支柱を作ったという。
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天井を見上げれば、木の格子が重なる意匠が目に留まる。「私たちはこれを“Bento Box Ceiling”と呼んでいます」。一枚のフラットな面にする方が簡単なはずだが、ロスらは、弁当箱や重箱が重なる様子を連想させる天井を選んだ。場所ごとに天井の表情を変え、単調ではない空間をつくっている。


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“Bento Box Ceiling”
中でもロスが強いこだわりを見せるのが、地下1階から2階までをつなぐ階段だ。巨大なスクリーンの前を、進行方向に対して少し角度をつけながら延びている。この曲線と角度を成立させるため、144の部材を、パズルのように組み合わせたという。
「私はこれを見ると折り紙を連想するんです。この階段は、日本の木工職人たちと一緒につくりました。このカーブを見れば、すべてのピースを合わせるのが、どれほど大変だったか分かるでしょう。クラフトマンシップは本当に素晴らしかった。特に気に入っているのは、角のない柔らかな手すりです。来店する人、みんなに触ってほしいですね」

地下から2階までを繋ぐ木製の階段。
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日本人アーティストと米デザインチームの共創
Google Storeでは、地域とのつながりを感じてもらうため、現地にゆかりのあるアーティストと協働した作品を飾ることが慣例となっている。ロス自慢の階段を地下1階まで降りると、正面に、黄色い線が複雑に絡みながら輪郭を描く立体作品が現れる。studio noteを主宰し、内装デザインや店舗アートワークも手掛ける寺山紀彦が、この店のために制作したものだ。Googleハードウェアの開発・製造過程で余った糸をワイヤーに巻き付けている。「実は1号店のチェルシー店にも寺山さんの作品を買って飾ってるのですが、その作品がとても好きだったので、今回、日本の店舗ではこの店のために彼に新作を作ってもらいました」。寺山の作品は、Google Store 表参道におけるサステナビリティとクラフトマンシップの接点にもなっている。

Pixel Watchの端材で作った寺山紀彦さんの作品。地下フロアのカウンター横の壁に展示されている。
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表参道店には、同店だけの目玉として、もう一つアート展示がある。明治通りから店内を覗き込んだ時にも見える、1階の最も目立つ場所に置かれた「CALIFORNIA DREAMING―色彩のランドスケープ」だ。
実はこの作品を制作したのは、グーグルのデザインチーム。製品全体のインダストリアルデザインとCMF(色・素材・仕上げ)を担当するデザイナーたちが、2026年のハードウェアのカラーパレットを、着想源となったカリフォルニアの風景へと展開した。特注色の砂、プリザーブドモス、黄鉄鉱、溶岩石、黒い結晶、ウォッチバンドの素材などで、オリーブの古木、花、砂丘、苔の丘、漆黒の砂浜を表現している。ところどころには、風景と同系色のGoogle製品もさりげなく組み込まれている。


「California Dreaming」——最新グーグル製品の形や色のインスピレーションを展示したアート作品。花はPixel Watchのバンドの端材で手作りされている。
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「自然こそが偉大なデザイナーであり、Googleのデザイナーは常に自然界に目を向けています」とロス。天井から延びる枝に咲く手作りの花には、Pixel Watchのバンドにも使われる糸が用いられている。「ある日、デザインスタジオへ行ったら、いつもはスマートフォンなどのハードウェアをデザインしているデザイナーが、柔らかな花をいくつも手作りしていたんです(笑)」と振り返る。
展示の一角にあるのが、2023年のミラノデザインウィークで発表された「Shaped by Water」を受け継ぐ水滴の実験だ。スポイトで器へ水を垂らすと、表面張力によって水が丸みを帯び、隣に置かれたPixel Watchと呼応する形へ変わっていく。「水がつくる曲線がとても美しかった」とロス。Pixel Watchの柔らかな輪郭は、表面張力が崩れる直前に水が描く曲率から着想を得ている。

霧をイメージした台の上に浮かぶ黒い円形の土台。その1つにスポイトで水を加えると表面張力できれいな曲面を描き、隣にあるPixel Watchの形に近づいていく。
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展示に近づくと、カリフォルニアの自然を思わせる鳥の声も聞こえてくる。Pixelの製品カラー「Fog」に合わせ、当初は実際に霧を発生させる案も検討したという。しかし、湿気による管理上の問題に加え、展示の要素が多くなり過ぎるとして採用を見送った。「最終的には、何を取り除くかも重要です。霧を使うのは楽しいアイデアでしたが、少しやり過ぎでした。デザインは、足し算だけではありません」。
1階「Touch & Try」 - 数量限定すべてが一点物のチャーム

1階のグーグル最新製品の展示
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1階のテーマは「Touch & Try」。California Dreamingを囲むように、Pixel 11シリーズをはじめ、ウェアラブル、イヤホン、スマートホーム製品など、Googleハードウェアの最新ラインナップが並び、実際に手に取り、比較しながら購入できる。スマートフォンを自分らしく飾る日本のカルチャーを意識し、ケースやアクセサリーも豊富にそろえ、キャラクターやブランドとのコラボレーションモデルも多数陳列している。
フロアの一角には、表参道店を象徴する取り組み「Recrafted by Google Pixel」が展示されている。同店で世界に先駆けて展開する、リストレットやチャームなどの限定コレクションだ。

地上階にあるRedrafted by Google Pixelの展示。数量限定ではあるが、いくつ在庫が用意されているかは明らかにされていない。
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素材となったのは、新しい製品をつくる過程で生まれた未発売の試作カラー、デッドストックの糸、実験的に制作されたPixel Watchのバンドなど。製品開発では多くの色や素材を検討するが、完成品に採用されるのは一部に過ぎない。
Recraftedの始まりは、一人のデザイナーによる小さな実験だった。余っていたウォッチバンドの素材を取り出し、結んだり組み合わせたりしながら、チャームのような形をつくってみたという。
「それを見て、“この素材を使って、何か新しいものをつくれないだろうか”と考えました。会社としても、これまでにない試みでした。余剰素材を再利用するだけでなく、それをどのように製造可能な製品へ変えるのか。アップサイクルだから品質が低い、というものにはしたくありませんでした。新しいアクセサリーとまったく同じ、プレミアムな美しさと耐久性を持たせています。グーグルのデザインの歴史の一部を、実際に手で触れ、身につけられる形にしたものです」
こうして生まれたチャームは、素材の組み合わせが一つずつ異なる数量限定品。ロスは、素材の限りを欠点ではなく、このコレクション固有の価値として捉えている。

オープニングイベントでRecrafted by Google Pixelを紹介するアイビー・ロス。
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2階「Experience & Play」 - オリジナルアバターの生成も
最上階にあたる2階は「Pixel Studio」。テーマは「Experience & Play」で、フロア全体を製品やAIの体験に充てている。具体的には、Pixel 11 Proの「120倍超解像ズームPro」を試せるコーナーや、Geminiを使ったアバター生成ブースを用意。来店者の写真から、原宿、ストリート、「かわいい」といった日本のカルチャーを反映したスタイルを組み合わせ、オリジナルのアバターを生成できる。完成したアバターは、記念のカードとしてプリントしてもらえる。
オープン時には中条あやみさんとKing & Prince の永瀬廉さん、髙橋海人さんもAI体験ブースでのアバター作りを楽しんだ。
当初は、このフロアをカフェにする案もあったという。「でも、コーヒーは東京のいろいろな場所で飲めますよね。それなら、この場所ではGoogleにしかできない体験を提供した方がいい。AIや新しい機能を使って遊び、来るたびに新しい発見ができる場所にしたいと思いました」。
フロアの一角には大きなスクリーンとローチェアがあり、イベントスペースとしてワークショップやトークなどを開催する予定だ。

2階の体験フロアにはグーグル社の生成AI、Geminiを使って自分のアバターを作ってプリクラ印刷できる機械などを用意。他にも最新Pixelのズームの威力を体験できるコーナーも。
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グーグル製品のユーザーが集えるイベントスペース。
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グーグルのロゴ入りグッズも豊富に用意。同店限定商品も多数ラインナップされている。
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地下1階「support & learn」 - 製品の内側を知る
日本チームからロスのチームへ伝えられたのは、日本の利用者は製品について詳しく知りたいと考える傾向が強く、落ち着いた環境でスタッフと話すことを重視するということだった。そこで地下1階は「support & learn」をテーマに、利用者とスタッフが座って向き合い、周囲から適度に距離を保ちながら相談できる場所を設けた。
「日本のお客様には、より詳しい情報を知りたいという期待があり、少しプライバシーを保ちながら、落ち着いて一対一で話せる場所が必要だと教わりました。私たちが大切にする“Here to Help”を、日本のおもてなしに合う形へ変えています」

地下フロアではグーグルが選んで用意したイスに座って店員とじっくり話をすることができる。
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空間を構成する家具は複数のメーカーから選び、それぞれが同じ場所になじむよう、布地の見本を木材や壁の色と照らし合わせながら調整した。完成した空間で家具が調和しているのを見た時、ロスは「うまくいった」と大きな喜びを感じたという。
完成間際には、デザイナーが「ここには、もう少し温かさが必要」と判断し、急きょ観葉植物も加えた「彼女の判断は正しかったですね。上のフロアにはCalifornia Dreamingの大きな木がありますから、地下にも植物の温かさが必要でした。空間を最後に完成させるのは、そうした直感的な判断なのだと思います」。
製品の内側までより詳しく知るための地下フロアでは、壁にも仕掛けがある。カウンターの後ろにあるスクリーンでは、Google製品がどのようにつくられているかを紹介した同店のオープンに合わせて撮り下ろした最新映像を公開。素材、製造、修理可能性、耐久試験などを紹介する写真や映像を、表参道店のオープンに合わせて制作した。そしてカウンターと反対側の壁には18個の額縁が並び、製品の原料や分解したパーツを展示。実は額縁1つ1つが、グーグルのものづくりの姿勢を紹介する展示になっている。
「ほとんどの人は製品を分解しないので、内側を見る機会はありません。でも、私たちは外側だけでなく、内側も同じように美しくデザインしています。この展示には勝手に“The Beauty Inside”というタイトルをつけて呼んでいるくらいで、個人的にとても気に入っています」

地下フロアの壁にはグーグル製品の作られ方や内部の美しさを紹介する展示が並んでいる。
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展示の中には製品を構成する部品を昆虫標本のように整然と並べた美しい展示があるが、これは先に紹介した寺山紀彦の作品だ。

地下の壁に並べられた展示はグーグル社デザインチームの手による物だが、こちらの作品だけ寺山紀彦さんが手掛けている。
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「人を中心に考えるという原則は変わりません」
3フロアの店舗構成を振り返ったあと、ロスはこう語った。
「私たちの美意識は、日本の美意識ととても近いと思います。少ない要素を丁寧に整え、素材や細部を大切にする。日本の人たちが評価するものは、私たちが評価するものによく似ています。だから、この店舗をつくるにあたって、故郷に家をつくっているような感覚がありました」
ロスは、Google Storeのデザインで大切にした三つの原則を挙げる。
1つ目は、利用者へ焦点を当てること。人と人とのつながり、共感、快適さを優先し、店内で過ごす時間を前向きなものにする。2つ目は、すべての人のためにつくること。年齢、身体的な特性、ライフスタイルにかかわらず、誰もが歓迎され、自分らしく過ごせる空間を意図的に設計する。3つ目は、シンプルに保つこと。冷たく、テクノロジーを過剰に主張する要素を避け、自然な質感や色、人の感覚へなじむ形を使う。
実はこれらの原則は、Google Storeだけでなく、Pixelのハードウェアにも共通するものだという。
「形や技術は進化し続けます。カメラの構成が変わることも、新しい技術によって、これまでできなかった形が可能になることもあります。それでも、人を中心に考えるという原則は変わりません。これらの原則に根を下ろしたまま、どう進化し続けるかが、私たちに与えられた課題だと思っています」

Google Store 表参道の外観
Image by: Nobuyuki Hayashi
最終更新日:
Nobuyuki Hayashi
1990年からデジタル分野の最先端や最新イノベーションを生み出したきた主要人物の取材を続けているジャーナリスト/コンサルタント。テクノロジーは必ずしも人を幸せにしないと考えを改めてからは、良い未来を生み出すデザインやAI時代を生きるヒントをくれるアート作品、22世紀まで残したい伝統なども数多く取材している。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学名誉客員教授。Nobi(ノビ)の愛称でも親しまれている。
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