
Courtesy of Gucci
デムナ(Demna)率いる「グッチ(GUCCI)」が、ミラノファッションウィークで初のショーを行った。前回の「序章」を経て、ブランドとしてデムナの「新章」と位置付けた2026年秋冬コレクション。イタリアを代表するグッチというブランドを「メゾンではなく、実用的なプロダクトとエモーションを同時に宿すスーパーブランド」と捉え、その視点はルネサンス期までさかのぼった。
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就任後初のコレクション「La Famiglia(家族)」では、写真家キャサリン・オピー(Catherine Opie)によるポートレートを制作。各ルックは「Principino(星の王子さま)」や「La Principessa(プリンセス)」から、「Cocco di Mamma(マザコン)」、「RUBACUORI(女たらし)」に至るまで個性豊かなネーミングを施し、キャラクター化することで多様な「Gucciness(グッチらしさ)」を具現化した。
今シーズンのテーマ「プリマヴェーラ(Primavera)」は、グッチ発祥の地・イタリアの黄金期であるルネサンスの巨匠ボッティチェリによる「プリマヴェーラ(春)」に着想。デムナはメゾンを象徴するグラフィック「グッチ フローラ」のインスピレーションとなった同作の鑑賞のためにフィレンツェのウフィツィ美術館を訪れ、別の作品「ヴィーナスの誕生」に目を奪われた。美術館からシニョリーア広場へと移動した際、グッチのアーカイヴが収蔵されている歴史的建造物「パラッツォ グッチ」が一際目についた体験から、ブランドとイタリア文化の縁を再認識したという。
会場はこれまで幾度となくデムナのショー会場を手掛けてきた、ベルリンの建築家 ニクラス・ビルトシュタイン・ザールがデザイン。展示会場の「パラッツォ・デッレ・シンティッレ」を大理石調に彩り、ルネサンス期を彷彿とさせる彫像の巨大なレプリカを配置した。





ショーのファーストルックから、力強く生命感があり、均整美に基づいた「ルネサンス的・ボディコンシャス」なスタイルがインパクトを残した。ウィメンズではホージャリー素材のミニドレスやキャミソールドレス、レザーのスキニーパンツが、メンズではストレッチナイロン素材のTシャツなどが登場し、肉体美を強調。片方の肩にドレープを効かせたTシャツは古代ローマの衣服「トガ」を引用したもので、着用モデルの腹筋が露わになり、ボディへと視線を誘う。
余談だが、ボッティチェリ作品において、プリマヴェーラは天上の愛、ヴィーナスの誕生は地上の愛という対の存在と言われている。イタリアの美学の礎であるルネサンス期にグッチのDNAを見出したデムナは、これまでのオーバーサイズや構築的なシルエットから一転して、人体が持つリアルな輪郭を描いた。





ミニマルなスタイルはトム・フォード(Tom Ford)時代を彷彿とさせるが、肉体の内なるエネルギーをパフォーマティブに露出させたのがデムナ流だ。セクシーさを打ち出したミニドレスやタイトフィットなTシャツとスキニーをまとうウィメンズモデルは、挑発的にヒップを揺らしながらウォーキングし、パンプアップしたマスキュリンなメンズモデルの堂々とした態度がそれを印象付ける。こうしたアクションの数々は、彼らが単なる無機質なマネキンなどではなく、熱を帯びた生命力を内包していることを観客に見せつけていた。


メンズのスーツはややルーズなサイズ感と薄めのショルダーパッドが作るラフなシルエットで、デムナ流のグッチ・スーツとして提案した。



終盤は煌びやかなドレスルックがフィナーレへと誘った。全面にビーズやストーンを縫い付けた輝くドレス群に、メタリックなフローラルジャカードに立体的に装飾を施したドレスなどが畳み掛けるように登場。ラストは約30年ぶりにグッチのランウェイ復帰となったケイト・モス(Kate Moss)がハイネックのスパンコールドレスを着用し、スローなウォーキングで視線を独占した。ドレスのバックスタイルは大胆に露出した官能的なデザインで、GGモチーフをあしらったTバッグは10カラットのジュエリーで製作されている。





また、これらのグラマラス、マスキュリンなモデルの“特異点”として登場したモデルにも触れておきたい。ラッパーのフェイクミンク(Fakemink)やネットスペンド(Nettspend)といった、次世代のカウンターカルチャーの担い手を、アレックス・コンサーニ(Alex Consani)やエミリー・ラタコウスキー(Emily Ratajkowski)といったスーパーモデルと並列して起用。特にフェイクミンクはランウェイの中盤で立ち止まり、スマホを取り出すという日常的なアクションを見せ、ストリートとラグジュアリーの境を揺さぶり続けるデムナの変わらぬアティチュードを感じさせた。


そのほか、シューズやバッグは、ストレートにシグネチャーを再解釈したアイテムを披露。シグネチャーモチーフのホースビットは、ウィメンズのスティレットヒールやブーツ、メンズのローファーにあしらった。また、バスケシューズとローファーをドッキングしたような新作のメンズスニーカーなども製作した。
ホースビットはウィメンズの新作ショルダーバッグ「ホースビット リストレット」にも取り入れられ、レザーやGGキャンバスといったバリエーションに。「グッチ バンブー 1947」はクラシカルな台形のフォルムで、ハンドルはレザーでバンブーモチーフを再現。メンズはヴィンテージ調のメタルタグをあしらった、スリムなボディバッグを印象的にスタイリングに取り入れた。なお、GGキャンバスは近年のバージョンよりもカラーコントラストを強調し、「オールドグッチ」のニュアンスを落とし込んだという。






デムナが描いたグッチの新たな春(プリマヴェーラ)は、ヒューマニズムを興隆させたルネサンス期を回顧し、磨き抜かれた肉体(それが露骨だとしても)をこの時代に改めて賛美した。観客の予想を逸れたこの新章は賛否を巻き起こし、マーケティングリサーチ会社Onclusiveによれば、ショー開催前後にグッチに言及したSNS投稿は170万件以上で、今季のミラノファッションウィークでの“瞬間最大バズ”となった。「グッチは知的である必要はない。ただ、グッチは“感じる”ブランドであってほしいのです」というデムナの言葉通り、圧倒的なインパクトで話題をさらうことには成功したと言えるだろう。一部のアイテムおよびコマーシャルピースは、「シーナウ・バイナウ(see now buy now)」形式で3月31日まで先行販売しているが、この反響が実際の売上にどう着地するのか。7月以降の実売期に、改めて業界の注目が集まりそうだ。
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