Image by: 吉森大祐
これからの美容界をリードする美容師の現在地に迫る連載、第6回。今回はBOTAN吉森大祐さんにフォーカス。自身がインスタントカメラで撮影した日常風景とともに、繊細な性格、湧き上がる好奇心、丁寧な仕事ぶりから彼の頭の中を紐解きます。
#6 吉森大祐 よしもりだいすけ
Instagram
1996年1月27日生まれ。広島県出身。広島美容専門学校卒業後、BOTANに入社。2019年にスタイリストデビュー。20代前半の顧客を中心に支持を集める。得意分野はパーマスタイル。
BOTAN ボタン
公式サイト
“自分らしさ”に出会える表参道のヘアサロン。丁寧なカウンセリングからショートやパーマスタイルを得意とする美容師が多数。
ADVERTISING
―ご実家が床屋だったとのことですが、床屋ではなく美容師を選んだ理由は?
父の仕事姿を見て、自然とハサミを持つ仕事に僕も就くんだろうなと思っていました。男性客がメインの父の床屋に対し、僕は女性のお客さまやもっと幅広い層の方の髪をやりたいと思い美容師を志しました。そう決めたのは幼稚園生くらいのときですね。
―かなり早くから将来の進路を決めていたのですね。他の職業をやってみたいと迷ったりしなかったのでしょうか?
美容師になるまではブレることはなかったのですが、じつは美容師になってからいろんな職業に興味が湧いてきて(笑)。植物が好きなので花屋さんになりたいと思ったり、カジキマグロ漁に出てみたいと思ったり、建築に関わることをしてみたいと思ったり…。でも、「職業は20年やらないと本物になれない」という信念が根底にあるので、まずは美容師を20年、と決めています。
―美容以外への興味の幅がかなり広いのですね。
僕、岡本太郎がすごく好きなのですが、彼が著書の中で「職業は何か?」と問われたときに「本職は人間だ」と答えているんですね。その言葉に1年目からものすごく影響を受けていて、僕もそうありたいと思うようになっていって。美容が好きですし、一生懸命取り組んでいるのですが、さまざまなものへの興味は持ち続け、僕も職業は“人間”でいたい。美容師として今積み重ねている経験はきっと次に挑戦したいことの土台になると思っています。でも、楽しくてきっとやめられないでしょうね、美容師は。
生田緑地内の近くにある川崎市岡本太郎美術館。この辺りに住み始めたタイミングで岡本太郎のファンになったため、縁を感じているという。
これまで影響を受けてきたたくさんの本たち。
―たくさんのことに関心が向く中で、“まずは美容師を20年”と決めている理由は?
単純に、美容が楽しいんです。お客さまによって耳の高さや骨格、癖など素材が全部違うじゃないですか。そういった中、一人ひとりに合ったヘアをプロとして形にしていく工程は面白いですし、最終的に形になったヘアを鏡でお見せした瞬間に喜んでもらえるのも何より嬉しい。僕は人と繋がることがそんなに得意ではない性格なのですが、そんな僕でもお客さまに求められるということが何よりもハッピーなんですよね。
―“人と繋がることが得意ではない”とのことですが、それは接客業である美容師をやる上でハンデになったりしなかったのでしょうか?
お恥ずかしながら美容師になる前は、思いやりを持って人に接することをあまり心がけたことがなくて。自分さえ楽しければいい、という性格だったんです。自分のものさしでしか物事を測れず、人の繊細な部分を見られなかった。今の会社に入って精神的に磨かれたということも大きいのですが、美容師をやればやるほどお客さまのふとした表情や仕草を読み取る癖がつき、些細な変化を察知する体質になってきたんですよね。
―美容師になってからご自身の繊細さに気づかれたと。
1年ほど前に副店長をやらせていただいていたのですが、精神的にひとつ上の段階にいかなければならないと感じた1年間でした。でも、全力を尽くしすぎたせいか、僕自身がやられてしまい、難聴になってしまって。僕が愛情を持って接しても、相手によってさまざまな受け取られ方をすると知ったとき、僕にとって“人と繋がること”は難しいことなんだなと実感したんです。
―今後はどういった働き方をされていくのでしょうか?
今は、一旦リセットする期間を設け、5月までは幹部から降ろさせていただいています。9月から、新店舗でマネージャー職をやらせていただく予定なのですが、自分の繊細さも理解しながらスタッフやお店を支えたいと思っています。サロンワーク中も自分らしさを失わずに、もっと大きくなっていきたい。
―ご自身の中にそういった繊細な感覚を持つ中で行うサロンワークはいかがですか?
お客さまが僕の元へ来ていただく理由はさまざまです。お客さまが求めていることがヘアスタイルなのか、サロンの居心地の良さなのか、スピード感なのか…。十人十色の求めていることを、その方の表情や目の色を見ながら読み解けるようになりました。髪を切りに来て、「また明日も頑張ろう」と思っていただけることが僕のサロンワークのゴールです。大げさにいうと、僕のところに来ることで「生きててよかったな」と思っていただければいいなって。
―スタイリストになって嬉しかったことを教えてください。
1年ほど前、結婚することになり、お客さま50人以上から結婚祝いをいただいたことですね。絵本や食器などお客さまご自身が使っていいと思ったものをいただけたのがすごく嬉しくて、どうしてこんなに優しくておおらかな人たちが僕の周りにはいっぱいいるんだろうって。
9月に挙式を予定。この日は、ウェディングドレスの試着日。
―人と繋がることが得意ではないとおっしゃられていましたが、吉森さんご自身を幸せにするのは、“人”なんですね。
そうかもしれないです。お客さまは鏡だと聞いたことがあるのですが、ようやく自分が今までやってきたことは正しかったんだなと実感しているところです。これからもお客さまとの繋がりを大事にしていきたい。表面的なところだけじゃなくて、お客さまの心の声にも耳を傾けることも大事だと日々感じているので。そう気づけたのは妻の影響もありますね。
―吉森さんにとって、奥さまの存在はかなり大きいのでしょうか?
そうですね。初めて会ったとき、「僕の女性バージョンがいる!」と思うほど、何もかも同じ感覚を持っていた人なのですが、今まで出会ってきた人の中で一番繊細だと思うくらい繊細な女性で。普通はなかなか気づかないような細やかな部分にも妻は気づいてくれるので、一緒にいるだけでお互いの感性が磨かれていくような感覚があります。僕が悩んだり、壁にぶつかったりしたときは「大ちゃんみたいに頑張れる人は少ないんだよ」などといつも励ましてくれますが、何よりも「帰ったら妻がいる」という安心感が落ち着きますね。
どんなときも支えてくれるという妻のみきさん。「僕にとって結婚は大きな人生のターニングポイントでした」(吉森)
夫婦でよく散歩に出かける近所の生田緑地。何かあったら自然のパワーをもらえる特別な場所。休日は二人でラジオ体操も。
▶︎妻 みきさんのInstagram
▶︎みきさんが手掛けるブランド「プティク(putic)」
―Instagramでは、「#大祐の目」というハッシュタグで発信されているようですね。そこにも奥さまとの素敵な写真がたくさん。
「#大祐の目」は、僕が見たことや感じたことを等身大で発信するハッシュタグです。なので、妻との日常もありのままに投稿します。SNSで発信するときは、嘘をつかないことをルールにしているんです。お客さまもSNSを見て来店してくださるので、SNSとリアルでお会いしたときのギャップをできるだけなくしたい。僕は僕らしく、表面を取り繕うことなく、好きなものを好きと言っていたいんです。
―物や情報で溢れ返る中での、嘘のない発信は信頼できますよね。
自分の魅力を自分で認めたり、好きなものに自信を持ったりすることってすごく美しいことだと思うのですが、最近はそれがなかなかできない人が多いと感じていて。人の目を気にして必要以上に萎縮してしまい、“好き”を出しづらくなっているのではと思います。SNSで発信する理由には、「好きなものを発信することは素晴らしいことなんだ」というメッセージを伝えたいという想いもあります。それぞれが好きなものを好きだと言える世の中になれば、社会はもっとハッピーなものになるんじゃないかなと。
―最後にこれから美容師になりたい方に向けてメッセージをお願いします。
社会に出ると小さな輪の中でのルールや誰かが作った決まりごとがたくさんあります。もちろん、ある程度それに合わせることも大切ですが、そこで自分の視点や感度を無理やり下げる必要はありません。SNSでもヘアスタイルでも自分らしさを発信していくことで、人としての面白さを発揮できたり、魅力的な人間になれたりすると思います。だから、自分の本質を大事にしていってほしいです。
(写真:吉森大祐、企画・編集:福崎明子)
編集者、ライター
出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。「now&then」の聞き手、文を担当する。
FASHIONSNAPでは、ビューティ/ウェルネス専用のInstagramとTwitterも更新中。新作や最旬トレンドのほか、記事には載らない情報もお届けしています。ぜひチェックしてみてください!
■Instagram https://fsna.co/UrR
■Twitter https://fsna.co/Be8
ADVERTISING
RELATED ARTICLE
関連記事
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
MM6 Maison Margiela 2025 Spring Summer