Image by: © ISSEY MIYAKE INC.

たった一枚の布から“ちゃんとしている”を探求するイッセイ ミヤケのメンズブランド「アイム メン」

2026-27年秋冬コレクション

Image by: © ISSEY MIYAKE INC.

 「ちゃんとしている」──イッセイ ミヤケが展開する「アイム メン(IM MEN)」の2026-27年秋冬コレクションノートには、そう繰り返し記されていた。「ちゃんとしている」身なりとは何なのか。それは単に、フォーマルウェアを指すものではない。服装、髪型、立ち振る舞いなど、入り口は違ってもその奥にある共通の感覚を、私たちは無意識に共有している。幅が広く、曖昧でありながらも確かな輪郭を持つこの言葉が、「FORMLESS FORM」と題された今季のコレクションの核となった。

 発想の起点となったのは、ある作品を鑑賞したときの体験だ。デザインチームの河原遷はこう振り返る。「朝日を想起させる空間に、ピアノの演奏だけが流れていて、背筋が伸びるような感覚があった」。今回はその凜とした空気感を指針とし、形のない「服装の奥にある感覚」を表現することを目指したという。

 素材感や色、シルエットのバランスといった断片的な要素の積み重ねが、人に「ちゃんとしている」という印象を与える。「そうしたオーラのような要素を服に残せられれば、フォーマルな形でなくても、きちんとした佇まいは伝わるはず」。

 この思想は、ショー空間にも明確に投影された。舞台となったのは、13世紀に建てられたCollège des Bernardins。荘厳な空間に一直線のランウェイ。響くのはピアノの音と光だけ。極限まで削ぎ落とされた演出が、静謐な緊張感を生み出した。躍動感に満ちていた過去2回のショーとは対照的なアプローチだ。

 暗闇の奥から現れたファーストルックは、タイを締めたシャツに彫刻的なフォルムのブラックジャンプスーツを重ねたスタイル。端正でありながら、どこか抽象的な印象を残す。このジャンプスーツは、アイム メンが掲げる「一枚の布」という思想から構築されている。

 「フラットな布は、人体に合わせることでドレープが生まれます。今回は一枚の布そのものを立体的に設計することで、体に沿う新しい表情を作りたかったのです」。ジャカード織機を用いて生地段階から構造を仕込み、縫製後に洗いをかけることで、糊付けされていた部分にストレッチが戻り、本来の立体形状が立ち上がる。可動性の高さと端正な佇まいを同時に成立させる仕組みだ。

 フロントジップを開けるとテーラーカラーが現れ、ジャケットのような表情も持つ。さらにコットンを主体にポリエステルをブレンドすることで、控えめで上品な光沢を加え、静かな品格を宿している。

 黒を基調としたルックが続いた後、グレーやくすんだブラウンへと移行し、グラデーションのウールセットアップが登場する。数色の染料を上から流し落とす技法によって染色された生地は、混ざり合う部分が縦のストライプ状に現れ、濃淡による奥行きが生まれている。

 胸元のフラップと背中の雨よけを一枚の布でつなげたコートには、ワッシャー加工を施したコットンナイロンを使用。一枚布ならではのシンプルな美しさが際立つ。袖口のベルトを外してポンチョのように着用したり、肩のエポーレットで布をたくし上げたりと、着方によってシルエットを自在に変化させることができる。

 色調はホワイトへと移行。その中でも目を引いたのが、“いかだ”を思わせる構造のコートだ。中綿にはリサイクルポリエステルの素材を使用。ダウンのような羽状繊維が一本の糸に組み込まれ、空気を多く絡め取り、軽さ、そして高い保温性を備えている。

 往年のイッセイ ミヤケを想起させるディテールも登場する。ボタンの意匠など、いまでは発想しにくい形やバランスが、レトロな空気とともに男臭さやダンディさを生み、かえって新鮮な印象を与える。

 再び色調は深まり、ベージュへ。表にマット、裏にウールバックサテンを用いたコートは、身頃から袖まで一体化したパターンにより、襟や袖口から裏面の艶が覗く設計だ。タキシードにも用いられる素材を、アイム メンらしい自由な構造へと転換。袖を通さずロングベストのように着たり、袖部分をストールやフードのように巻いたりと、多様な着こなしが可能となっている。

 フラットに折りたためるデザインも、今季を象徴する要素のひとつ。ブランド創設時から続く「四角く、フラットにできる」という発想から生まれた構造で、台に置くと平面になり、着用すると有機的なドレープが現れる。生地を切らずに構成し、“IM MEN”の名を織り込んだセルビッチとデザインが噛み合う。これまで使用してきたポリエステルに代わり、今回はウールを採用することで新たな表情を引き出した。

 終盤、色彩は再び鮮やかさを増し、フィナーレを飾ったのが「DAWN」と名付けられた染色シリーズだ。夜から朝へと移ろう光の変化を色で表現するため、東京の染め工場で6〜7メートルの生地を蛇腹状に吊り、薄い色から徐々に重ねていく工程を重ねた。最後のルックのコートでは、黄色、サックスブルー、濃いネイビーの3色を重ね、実際の朝日の写真を参照しながら色を作り込んでいる。

 暗闇から始まり、夕日や朝日へと移ろう一日の光を、色として具現化し、テキスタイルの妙で描き出した今季のコレクション。その構成は、ショー全体を通して静かに、しかし確かに観る者の感覚に訴えかけた。

 「イッセイ ミヤケ メン」の後に、新たなメンズブランドとして2021年に本格始動し、今回でパリでのランウェイは3度目となったアイム メン。自由度の高い発想と肩の力が抜けた表現は、これまで以上の自信を感じさせる。

 「世の中には『イッセイ ミヤケとはこういうもの』というイメージやデザインコードがすでにあります。でも、そこから先へ進んでいくことこそが、イッセイ ミヤケらしさのはずです」と河原は言う。「分かりやすいディテールよりも、新しい素材感やシルエット、テクニックを感覚的に受け取ってもらえたらいい。理解されるよりも、なんとなく『いい』と思ってもらえる服を作りたい。見た瞬間に『イッセイ ミヤケっぽい』と思われないもの、『え、これイッセイ ミヤケなんだ』と思われるものの方が面白い。その積み重ねが、次のイッセイ ミヤケ像につながっていくと思っています」。

IM MEN 2026年秋冬

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IM MEN 2026-27年秋冬コレクション

2026 AUTUMN WINTERファッションショー

Runway looks / Detail images: Frédérique Dumoulin-Bonnet
Show images: Olivier Baco

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