ついに登場したアップル初の折りたたみスマートフォン「iPhone Duo」。発表会で実際に製品を手に取ることができたので、その印象を紹介したい。
日本では「36万4800円から」という価格ばかりが話題になっているが、実際に触ってまず感じたのは、その価格に見合うだけの、アップルらしく妥協なく作り込まれた製品だということだ。
開閉時に表示される美しいアニメーション。マグネットに吸い寄せられ、「カチッ」と本体が閉じ切る瞬間の心地よい感触。自撮りをしながら覗き込んでいた画面上の黒いレンズが、アプリを切り替えるとスッと消えてしまう演出(大画面に搭載されたカメラのみ)。
一つひとつは小さな演出だが、とにかく触っていてワクワクする。
ADVERTISING

日本時間9月10日、アップル米国本社で行われた発表会より
Image by: Nobuyuki Hayashi
目次
8年かけて成熟した「折りたたみスマホ」にアップルが参入
折りたたみスマートフォンの歴史は意外に長い。2018年に、当時ほとんど知られていなかった中国メーカーのロヨル(Royole)が「FlexPai」を発表。翌2019年にはサムスンが初代「Galaxy Fold」を発売した。その後、多くのメーカーが多種多様な折りたたみスマートフォンを投入してきた。
しかし、分厚い、重い、壊れやすい、高価といった難点も多く、折りたたみスマートフォンが世界のスマートフォン市場に占める割合は過去最高の出荷台数を記録した2025年7~9月期でも2.5%(Counterpoint Research社調査)。カテゴリー全体を一気に大衆化させるほどの製品は、まだ登場していない。そこへアップルが参入した。
アップルはデジタル機器メーカーとしては稀有な「ブランド企業」でもある。単に新しい技術を搭載するのではなく、製品を構成するあらゆる要素が一定以上の品質に達するまで市場投入しないという姿勢を繰り返し示してきた。
iPhone Duoにも、その思想が色濃く表れている。折りたたみディスプレイの画質や折り目の目立たなさだけではない。触れた時の艶やかな質感、工芸品のような筐体の仕上げ、手に持った時の重量バランス、製品の動きに自然に溶け込むアニメーション。そして、多くの折りたたみスマホで後回しにされがちだった音質まで妥協していない。どの方向から眺めても「ここは仕方がない」と思わせる部分が極めて少ないのだ。

Image by: Nobuyuki Hayashi

他の折りたたみスマホがAIなどデジタル技術に注力する中、アップルは工芸的な「技」にも配慮。精巧なつくりで、スムースな開閉と、ピタッと安定して好きな角度で止められる機構を採用。“デジタルではない”最先端の技術が詰まっている。
Image by: Hayashi Nobuyuki
そもそも、なぜスマートフォンを折りたたむのか
ここで改めて、折りたたみスマートフォンの魅力を整理しておきたい。
通常のスマートフォンの最大の魅力は携帯性だ。ポケットからさっと取り出し、電話、ソーシャルメディア、メッセージ、ゲームまで、片手に収まる一台でほとんど何でもできる。
一方で、そのサイズは本や雑誌、コミックを読むには小さい。映画や長時間の動画も、ストーリーを追うだけなら十分だが、映像の美しさや迫力まで味わおうとすると物足りない。
そこで、本体を「カパッ」と開くだけで、約2倍の画面を出現させられるのが折りたたみスマートフォンだ。閉じた状態では、外側のディスプレイを普通のスマートフォンのように使える。そしてコンテンツをじっくり楽しみたい時には本体を開く。
iPhone Duoの内側のディスプレイは7.6インチ。iPad miniほどではないものの、スマートフォンよりははるかに大きい。コミックや映画ではスマホ画面なら見逃していたであろう背景の小物まで見えるようになり、長い文章を読んだり書いたりする際にも余裕が生まれる。これが折りたたみスマートフォンの基本的な価値だ。

iPhone Duoは「二態」を意味するDuoに由来。これまでの折りたたみスマホは2種類の使い方に注力していたが、iPhone Duoは山型に立てて時計やフォトフレームにしたり、ノートPC風に置いたりと、多様な置き方や使い方を想定している。
Image by: Nobuyuki Hayashi
「開いた時」から逆算した横広デザイン
従来の折りたたみスマートフォンには一つ問題があった。多くの製品は、閉じた時に普通のスマートフォンらしく見えることを優先して、縦長の形を採用してきた。その結果、本体を開くとディスプレイが正方形に近くなる。正方形に近い画面でワイド動画を再生すれば、上下に大きな黒帯が生まれる。電子雑誌や電子コミックも見開きで読むにはいいが、1ページだけを大きく表示すると左右に余白ができ、せっかくの大画面を使い切れない。
iPhone Duoは、この問題に対して閉じた時から少し背が低く、横幅の広い形を採用した。5.4インチのアウターディスプレイと7.6インチのインナーディスプレイは同じアスペクト比で、開くと画面面積がほぼ2倍になる。

iPhone Duoは開くと、巨大画面を備えたこれまでで最薄のiPhone。奥に見切れているApple Watchのストラップと比べてもらうと薄さがわかるだろう。
Image by: Nobuyuki Hayashi
重要なのは、長辺と短辺の差がはっきりしていることだ。横長に構えれば、映画などのワイド動画を無駄な余白を抑えながら大きく表示できる。電子雑誌や電子コミックなら2ページの見開きがきれいに収まる。90度回転させて縦長に持てば、今度は雑誌やコミックの1ページを大きく表示しやすい。構える向きを変えることで、それぞれ異なる使い勝手を引き出せる。よく考えられたプロポーションだ。
妥協ゼロ 「全部入り」を成し遂げた美学
もっとも、この横に広めな画面プロポーションを採用したのはアップルが初めてではない。同様のプロポーションを先に採用した折りたたみスマートフォンはいくつもある。
さらに、Apple Pencilで絵や文字を書けることも、折りたたみスマートフォンとして世界初ではない。Apple Pencilそのものの描き心地には定評があるが、ペン対応という機能だけを見れば先行例は存在する。
自由な角度で本体を止められるヒンジも、高品質なカメラも、画面の中にカメラを隠す技術も、AI処理を重視した高性能プロセッサも、マグネットを利用したワイヤレス充電も、高い防水性能も同様だ。
iPhone Duoは水深6mに最大30分間沈めても耐えられる高い防水性能を備える。これも「折りたたみスマホ史上初」というわけではない。
では、iPhone Duoの何がすごいのか。答えは、それらをほぼ全部、同じ一台の中で成立させたことにある。
これまでの折りたたみスマートフォンには、ある性能を追求すると別の性能を諦めざるを得ない製品が少なくなかった。理想的な画面比率を採用した代わりにヒンジの自由度が低い。薄さや軽さを優先した代わりにマグネット充電や防水性能で妥協する。カメラ性能を上げれば重くなる⎯⎯といった具合だ。
iPhone Duoの個々の機能は「世界初」ではない。しかし、これらの条件を同時に満たしながら、全体を一つのバランスの良い製品としてまとめ上げたことが魅力となっている。
iPhone Duoの内向きのカメラは、使っている時には黒い丸として現れるが、アプリを切り替えて使わなくなるとスッと消えてしまう。実はこれはアップルらしい演出だ。このカメラ、本来は画面の下に隠れており見えにくい設計になっている(光の当たり方によっては見える)。ただ撮影するときだけ、レンズがどこにあったかわかった方が目線が合わせやすいので黒い丸として画面上に表示される。つまり、実際は消えているのではなく、その反対で撮影するときだけ表示されていたのだ。
Video by Nobuyuki Hayashi
折りたたむからこそ生まれた、新しい体験
しかもアップルは、単に既存の技術を集めただけではない。
例えば音。折りたたみスマートフォンは構える向きが多く、スピーカーの設計も難しい。そのため音質が後回しにされる製品も少なくなかった。iPhone Duoはそこにも手を抜かず、内蔵スピーカーだけで空間オーディオによる立体的な響きを楽しめるよう設計されている。
さらに、2つの画面があるからこそ実現できる機能も用意した。その一つが、子供を撮影するための「キッズキュー」だ。子供にカメラを向けると、途端にそっぽを向いてしまうことがある。そこで撮影者は大きな画面で構図を確認しながら、子供の側を向いた外側の画面にかわいらしいスヌーピー(PEANUTS)のアニメーションを表示する。子供がそれを見て笑顔になった瞬間を撮影するという仕掛けだ。発表会で紹介された際には、会場から笑いと喝采が起きた。また、2面を生かして3人以上でFaceTimeビデオ通話を楽しむなど、従来のiPhoneにはなかった使い方も開発されている。

内側の大画面を見ながらの撮影。被写体の方を向く外向き画面に数十種類あるスヌーピーのアニメーションを表示させてシャッターを切る瞬間に子供を笑わせる。
Image by: Nobuyuki Hayashi
従来の折りたたみスマートフォンは、既存のスマートフォンアプリを大きな画面、あるいは分割した画面に表示することに重点が置かれがちだった。アップルはさらに一歩踏み込み、アプリ開発者に対して折りたたみディスプレイを生かしたアプリを設計するためのガイドラインまで用意した。iPhone Duoという一製品だけでなく、その形を生かしたアプリの生態系まで育てようとしている。
薄さ5.2mm、それでも254g
これだけの機能を盛り込みながら、iPhone Duoは開いた状態でわずか5.2mm。歴代iPhoneで最も薄い。ただし、ディスプレイを2枚搭載するだけあって重量は254g。iPhone 18 Pro Maxよりわずかに重い。

iPhone 17 Pro Maxと比較。横幅は6.1mm広く、手が小さいと大きく感じる可能性があるが、縦は45.6mm短くなっています。開いた状態では最薄なものの、折りたたむと厚さは11.3mm(2.5mm増)、重さも21g重くなる
Image by: Hayashi Nobuyuki
サムスンの最新折りたたみスマートフォンで、形状も近いGalaxy Z Fold8と比べても、閉じた状態では約1.6mm厚く、53g重い。
数字だけを見れば軽い製品ではない。しかし実際に手にすると、筐体の剛性感が高く、重量バランスもよく考えられているため、数字から想像するほど重くは感じなかった。
iPhone Duoの前にも折りたたみスマホはさまざまなメーカーから出ており、軽さで秀でている製品、薄さで秀でている製品など一芸に秀でた製品はいくらでもある。
しかし、この製品が素晴らしいのは、どの角度から見ても妥協がなく人々がアップル製品に期待する水準と品質を満たしていること。その上でこれまでの折りたたみスマホにはなかった新しい機能や体験を提供していることで、おそらく折りたたみスマホというジャンルを飛躍させる製品となることだろう。
最大の弱点は、日本での36万4800円という価格
ここまで完成度の高いiPhone Duoだが、他社製品と比較した時、最も大きな弱点はやはり価格だろう。最も手頃な256GBモデルでも、日本では36万4800円。Galaxy Z Fold8との差は約9万5000円にもなる。
ところが米国価格を見ると、iPhone Duoは1,999ドル、Galaxy Z Fold8は1899ドル。差はわずか100ドル。この価格差を日本円に単純換算すると約1万5000円程度なのだ。
米国程度の価格差なら、これだけ多方面で完成度を高めたiPhone Duoにはかなりの競争力がある。折りたたみスマートフォンが依然として市場全体の約2%にとどまる中で、アップルの参入が市場を大きく動かす可能性は高い。ところが日本では、価格設定時の為替レートなどの影響もあり、この小さな差が約9万5000円という大きな差になってしまった。
iPhone Duoそのものが魅力的で、十分に価値のある製品であることには変わりない。希少性もあり、価格にかかわらず購入する人も少なくないだろう。しかし、さすがに36万円台となれば、欲しくても手が届かない人は増える。さらにタイミングが悪いことに、現在は夏前よりいくらか円高に振れている。そのため発表された日本価格の割高感が、なおさら強く見えてしまう。せっかくこれほどよくできた製品なのに、日本だけ価格が普及の大きな障害になるとすれば、あまりにももったいない。アップルはブランド企業だ。ファッションブランドなどと同じように、一度発売した製品の価格を後から簡単に変更することは難しい。
iPhone Duoの予約注文開始は10月16日。それまでに、アップルには勇気を持って日本での発売価格をもう一度見直してほしいと思う。

本体色はスターホワイト(白系色)とナイトスカイ(黒系色)の2色を用意
Image by: Nobuyuki Hayashi
Nobuyuki Hayashi
1990年からデジタル分野の最先端や最新イノベーションを生み出したきた主要人物の取材を続けているジャーナリスト/コンサルタント。テクノロジーは必ずしも人を幸せにしないと考えを改めてからは、良い未来を生み出すデザインやAI時代を生きるヒントをくれるアート作品、22世紀まで残したい伝統なども数多く取材している。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学名誉客員教授。Nobi(ノビ)の愛称でも親しまれている。
最終更新日:
ADVERTISING
RELATED ARTICLE











