Media インタビュー・対談

【インタビュー】「SNSはある意味究極体」 iQON創業者 金山裕樹

iQON代表 金山裕樹
iQON代表 金山裕樹
Image by: Fashionsnap.com

 次世代メディアとして注目を浴びるファッション系SNS。雨後の筍状態ともいわれるほど様々な媒体が立ち上がる中で、「頭一つ抜けている」と業界関係者が評するのが、株式会社VASILYが運営する「iQON(アイコン)」だ。2月にはiPhoneアプリをリリースし月間訪問者数が100万人を突破するなど好調な成長を続ける同サイトの代表 金山裕樹氏に立ち上げた経緯やファッション業界を取り巻く環境などについて語ってもらった。

■プロフィール

金山裕樹(かなやま ゆうき):1978年静岡生まれ。05年にYahoo!JAPANに入社後、Yahoo!FASHION、X BRANDの立ち上げに参画。09年に株式会社VASILYを設立し代表を務める。

――VASILYを立ち上げる前はYahoo!JAPANにいらっしゃいましたね。

 もともとミュージシャンをやっていてフジロックにも出たんです。その後、音楽系のベンチャーに入ったのですが、もっとスケールの大きいサービスに携わりたくて、当時、UU(ユニークユーザー)が最もあるヤフーミュージックを運営していたYahoo!JAPANに入るしかないと思って、応募したら受かって、プロデューサーになりました。まあ、言葉にすると簡単ですね(笑)。仕事に就いてからは、レーベルとの交渉や、マネタイズなど、音楽業界とウェブ業界のビジネスの仕方を学ばせてもらいました。

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――ミュージックの次にYahoo!FASHIONを立ち上げた理由は?

 日本だと、ネットで音を流す事自体が権利の処理の問題もありすごく難しい。権利者と交渉しながらやってくのは、ウェブにとってスピードが遅すぎるんです。いろいろなレーベルと話していくうちに「音楽はネットのスピードじゃないな」と分かった。好きなことしか仕事としてやりたくないけど、ウェブのダイナミズムを感じたかったんです。そこで「音楽の他に何かないかな」と考えた時に、ファッションも好きだったので「ファッションとネットいいじゃん」と思い始めました。


――2011年12月には「Yahoo!FASHION」のサービスが終了しました。

 実は、そのことについて特に何も思っていないんですよね。永遠に続くものなんて何もない。ただ、サービスを回せる仕組みを作れなかったのは心残りに思います。属人的なものを作ってしまったのは、よくなかったかな。ホンダやパナソニックなどの大きな会社は、創業者がいなくなっても、ブランドは維持してる。それに、カリスマ的存在だったジョブズがいなくても、アップルが好調を維持できる理由は、社風を含めた『仕組み』を作ったからだと思う。だから、そういう仕組みを作る作業は、自分のこれからの課題かもしれません。

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――その後、雑誌の記事をウェブで展開するというX BRANDを立ち上げます。

 ヤフーとタグボートで昔から話自体はあったらしいのですが、「誰が担当やるのか」という話になった段階で俺に声がかかったんです。はじめに「こんなのあるけど」と見せられたとき、「めちゃくちゃ面白いな」と思いました。

 それは俺自身がファッションの媒体を運営してみて、ファッション単体ではなく、グルメやライフスタイルなどを含めたファッション周辺領域をやらなければと感じていたから。何十誌の雑誌を束ねるなら、俺の考えも現実可能。それに大規模なプロジェクトは、ヤフーじゃないと出来ないことでもあったので「ぜひ、やらせてください」と返事をしました。

――大変でしたか?

 大変というよりも、とにかく時間がなかったです(笑)。リリース日が決まっちゃっててずらせないから嵐のような3ヶ月でした。毎日始発で帰って、シャワー浴びて会社に帰るみたいな生活だったかな。でも楽しかったのは楽しかった。ヤフーファッションは女性向けだからビジネス視点で考えていたけど、X BRANDは自分自身が楽しめるコンテンツが揃っていたから、やっていてすごく楽しかった。雑誌社のビジネスも知れましたしね。

――ヤフーを辞めたのはその後ですね。

 ヤフーでできないことをやるために飛び出してみました。当時から自分はソーシャルにウェブ業界が振れると思っていたので、ユーザーがコンテンツを作ってそこで活性化してメディア化するという流れを自分で作りたかったんです。先程の話に繋がりますが、そのために「しっかりとした仕組みを作らないと」と凄いこだわって取り組んでいます。

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社内風景。オフィスチェアはアーロンチェアとセイルチェア、エンボディチェアが並ぶ。ハーマンミラー好き?

――VASILY立ち上げの際は出資は受け付けなかったんですか?

 はじめは企画書とか作っていろんなところを周りました。かなり手応えはあったので「イケるな」と思いましたね。その中でも高いバリューを出してくれた何人かのエンジェルと詳細を詰めていく作業に入ったのですが、どうしても比率で折り合わないことが多くて、「起業するのに誰かに半分持っていかれるのはな」と思い、結局自分達で出す事になったんです。

――共同創業者の今村さんもヤフー出身ですよね。

 そう、ヤフーファッションからの付き合いで一緒にX BRANDを立ち上げた仲でもあります。近くで見てて「こいつなかなか腕良いじゃん」とずっと思ってました(笑)。ハートも良いし。「こいつしかいないな」と思って誘いましたよ。


――会社は「美女暦」や「妄撮」などのアプリ制作で、2年目には売上6,000万円まで拡大。好調でした。

 出資を受けなかったからiQONをやるための資金を捻出する目的でやっていたのですが、思った以上に売上が出ました。でも「このままでいいのかな」というモヤモヤした思いもずっとありましたね。アプリ制作は売上げもしっかり立つし、ビジネス的に考えれば、普通、受託しつつ、同時進行でiQON開発っていうのが定番ですよね。しかし、この場合は「リソースが受託に奪われてしまい、iQONに集中できない」という問題について強い懸念を抱いていました。なので、この流れは止めようと決断したんです。

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――かなり厳しい選択ですね。

 正直、体に悪い(笑)。今までは売上が上がって銀行残高が増える一方でしたが、今は減っていくだけ。与えられた期間や資金で結果を出さなきゃいけない状況にいます。でも、受託よりは良い経験が出来ているかな? 誰かのものを作るわけではなく、自分たちのプロダクトですからね。


――一度は断念した出資受け入れを実行しましたが、これは受託をやめるからですか?

 それもあるけど、直接のきっかけはGoogleの「Boutiques.com」。あれには危機を感じました。「Boutiques.com」が参入してくるまでは、テクノロジーベースのファッションサイトはブルーオーシャンでしたし、同じようなサービス提供しているところでは、一番の技術力があると思っていたので、じっくりやっていこうと思っていたんです。しかし、グーグルがいきなりファッションに来た。遅かれ早かれ、そのうち日本にも対応したサービスも始まるとも思いました。まあ結局日本には上陸しなかったんですけど。(※2011年10月にサービス終了)

 こんなスピードでやってたら、配信がどうこう言ってるうちにiTunseのような音楽配信サービスが参入してきて、あっという間に音楽の常識がひっくり返っちゃった音楽業界みたいに、ファッション業界でも同じようなことが起こると思ったんです。

 だから取り返しのつかないことが起こる前に、なんとかしなきゃと思ったのでファイナンスを実行したんです。実行は早かったですよ。「Boutiques.com」のサイト開設が分かったその日にVC(ベンチャーキャピタル)に連絡しましたからね(笑)。

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――実行してみてどうでしたか?

 良かった。資金的な面もそうだけど、社外取締役として迎え入れることで、バックオフィスが充実した気がします。ハンズオンだったので経営にも参画してくれて客観的な意見とかはとても参考になっていますね。

――伊藤忠テクノロジーベンチャーズとGMOベンチャーパートナーズの2社を選んだ理由は?

 資金だけ渡して「頑張って」と言う会社よりは、「一緒に頑張ろう」と言ってくれるパートナーを探していました。伊藤忠は繊維に強く、"ファッション"というイメージがあったし、GMOはそれこそインターネットの総合商社なので、この2社がベストだと思ったんです。世間的にVCってあまり良くないイメージあるけど、目的があれば、すごく良いパートナーになれるんだなと、今回の取り組みで感じましたね。

 まあ、自分一人でやりたいっていう人はハンズオフ系がいいんだろうけど、そこはそれぞれかな。

――上場は目指しますか?

 出資家がいる以上、考えなきゃいけない部分ですよね。出資者としては目指す部分だと思いますが、ゴールではないですよね。手段としての上場というよりは、より多くの人にサービスを知ってもらい、より多くの株主を増やすことで、自分たちの理念に共感してもらえる仲間が増えるわけだから決してネガティブには考えていません。


――去年、ワールドがfashionwalker.comを買収してファッション系の起業家としては売却という"出口"が増えました。

 前の環境ではなかなか無かった話ですが、変わってきたんですかね。この先の目指すところが「上場」か「稼ぎ続けるだけ」だったところに「売る」という選択肢が増えたことは喜ばしい。でも、すぐにそこを目指せるほど甘くはないと思いますね。

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ステッカーと名刺。どちらもシンプルなデザイン


――そもそもiQONとは?

 コーディネートを作る事が出来るファッションSNS、ソーシャルコーディネートと言えばいいのですかね。


――いわゆるCGMですね。

 そうです。ユーザーが主役になれる形態としてはベストだと思っています。自分たちの目標は、ユーザーがオシャレになること。

 最近日常生活の中で、ファッションの重要性がすごく下がってると思っています。選択肢が増えてしまってリアルな世界よりもゲームなどのバーチャルな世界に消費が向かっていて、でもそれで現実世界でハッピーになっているかと言うと、そうでもない。ユーザーはいろんな服を見るなかで、ファッションセンスに磨きをかける場であってほしいと同時に、「異性によく見られたいから使うアイテムを探す」とか、「パーティーに着て行く服の参考にする」などしてほしいので、リアル世界への影響を考えながらサイトを作っています。

――しばらく伸び悩んでいましたがiPhoneアプリをリリースして月間訪問者数が100万を突破し、急成長を遂げています。

 アプリをリリースして投稿数が激増しました。20代の女性にiPhoneが普及するタイミングにうまく乗れたと思います。androidアプリもリリースしてモバイル市場を中心に据えていますよ。

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iQONのiPhoneアプリ画面

――これからの展望は?

 アジアを中心に展開する予定。特に台湾と韓国には注目してるので戦略的に攻めていきたいですね。中国は、市場規模はすごく魅力的なのですが、インターネットに関してはブラックボックスすぎるので、慎重に検討しようと思っています。とりあえずは、国内での地位をガッチリ固めるのが先決ですけどね。


――北米やヨーロッパは?

 場所としての興味はありますが、ビジネスとしての興味はまだありませんかね。でもファッションの本場は、やはりヨーロッパ。短期間で本場にアプローチするのは難しいと思います。経済も不安定ですし、爆発的な伸びを期待するならアジアですかね。


――シリコンバレーに行く気は?

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 ないです。だってシリコンバレーにファッションのニーズはないでしょ。みんな、Tシャツにパーカー、ジーンズといったイメージです。シリコンバレー発というのはITとして価値があるのかもしれませんが、誰にとっての価値かを大切にしていきたい。

 自分達が大事にしたいのは、ユーザーにとっての価値。使う人にとっては、使っているサービスがシリコンバレーで出来たのか、東京で出来たのかは全く関係ないんです。だからシリコンバレーにはこだわってません。気候は羨ましいですけどね(笑)。


――最近SNSが注目されてますがどう思いますか?

 人間って基本的に一人じゃ生きられないじゃないですか。だからその繋がっていたい欲求をいつでもどこでも叶えてくれるツールは、今後も残ってくものだと思います。SNSはある意味究極体なのかもしれませんね。

 ただ1つのSNSで、全てを完結させることは少し難しいと思っています。使い分けることがトレンドになっていくと考えています。例えば、Twitterのように瞬間をシェアするものもあれば、facebookのように繋がりをシェアするものもある。ファッションならiQON、仕事ならLinkedInなど、繋がりたい欲求を1つのサービスだけにする必要はないと思いますよ。昼用や夜用なんてSNSも登場するかもしれませんね。

――ビジネスとして捉えると、細分化されすぎると難しいようにも思います。

 そうですね。「そこに広告を出したいという人がいるか」という買い手の問題になるから広告モデルは難しい。アドネットワークで対応するしかないのかな。けれども課金(有料の)となると、そういうSNSでもニーズはあると思っています。例えばトレーダー同士が意見交換できるSNS。情報が収集できるからそれはお金払ってもやる価値がある。ユーザーが払いたくなるようなものであれば成り立つと思います。

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技術書やIT関係の本が並ぶ書棚。ファッション誌は上の段に鎮座

――ファッション業界、特にメディアでは昔は「ファッション×IT」でしたが、現在は「ファッション×SNS」が主流になってきていますね。

 一時のブームでしょ。 紙メディアは、みんなウェブに行きたがるけど紙の1000万円と引き換えにウェブの100万円を取る勇気がないと。ウェブには、早い者勝ちという側面があるので、最先端を狙って「ファッション×SNS」をやろうとするけど、俺たち的には「ファッション×SNS」というのは最先端というよりも根源に近いと思っています。最先端をずっと追い続けると、結局何も残らないですよね。もっと欲求とか根本的なところを突き詰めて、アプローチするやり方じゃないと続かないと思うんです。

――いつも持ち歩いているモバイルに着眼した理由も、そのような考えからですか?

 そうですね。PCがなくなるわけじゃないけど、モバイルを中心にする。20代のファッション好きの女性ってPC開かないじゃないですか。何気なく暇つぶしでいじるのはモバイルですからね。よく考えるとPCは持っていなくても、携帯はみんな持っていますから。スマートフォンになってその流れは加速したと思います。特に今のiQONのユーザーは、強い目的を持ってサービスを利用しているというより、なんとなく使っている人が多く、平均一人、一日9回見ているといういうデータも出ています。中毒性があるからいつも手元にあるデバイスでの展開が合ってるんだと思います。

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好きなブランドはJULIUS。影響を受けた本はヴィクトール・E・フランクルの「夜と霧」


――実はFashionsnap.comの一番初めの取引先はヤフーで担当は金山さんでしたね。

 5年前でしたっけ。「Yahoo!FASHION」を立ち上げる前に、誘って代官山のカフェで会ったんですよね。懐かしいね。あれからITもファッションも環境はすごく変わったけど、サイトは成長しましたよね。当時のFashionsnap.comは立ち上がったばかりで、ヤフーの会社にいるみんなは取引することに不安に感じていたようですが、俺は大丈夫だと思ったのでビジネスしたんですよ。


――あれから5年経って、金山さんはどのように変わりましたか?

 ベースは変わっていません。でも、あれからいろんな経験積んで、歳もとって自分に余裕がでてきたからなのか分からないのですが、関わる人が増えたぶん「自分だけがいい」という考えは薄くなりましたね。もともとは「自分さえ良ければ、押しのけて」という感じだったのですが、今は周りの人が幸せになることに喜びを感じられるようになった。自分でも「大人になったなぁ」と思いますよ。

 家族の近い人の中に、遺伝子の問題で手術して生死を彷徨った人がいるのですが、その時には何もできなかったし、「なんでこんなことが降り掛かってくるんだ」と、理不尽さを感じました。でも「そういう理不尽なことをどうしたら乗り越えられるんだろう」と自分の中ですごく考えたりしていて、どんなことも直視して乗り越える覚悟ができたことは昔と変わった部分だと思います。

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――社会的に変わったと思う事は何かありますか?

 テクノロジーの進化速度が早くなったと思います。2007年からと、今では、それまでの進化と起こってることの量が違いすぎる。今から5年前までに起きたことから遡ると、iPhoneが登場し、ほとんどの携帯がガラケーからスマホになり、無料で電話できるようになって、バーチャルの世界に実名の友達がいて、アマゾンで商品を頼めば次の日に届くようになった。ライフスタイルが完全に変わったくらいの進化をしているんです。次の5年はもっと変化が起きると思う。だからその分、チャンスもピンチもいっぱい生まれてくるんじゃないんですかね。


――そんな時代に会社を起こしたことを、どう捉えていますか?

 幸せだと思います。変化の先には、勝つ人もいて負ける人もいる。諸行無常じゃないけど色んな新陳代謝が起きて誰にでもチャンスがあることって、昔では考えられませんでしたから。なんの後ろ盾もないけど「這い上がってやろう」と思えるやつにはチャンス。もちろん参加できる人も増えて熾烈な競争になるとは思いますけどね。

 その勝負に俺は、もちろん、負けるつもりはないですよ。


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聞き手:光山 玲央奈

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