Image by: Hiroyuki Ozawa

Image by: Hiroyuki Ozawa
ロンドンを拠点に活動するヴィンテージファッションのバイヤー、ジェナロ・ボッチャ(Gennaro Boccia)。彼はイタリアの家族が代々続けてきたテキスタイルやファッションの歴史を受け継ぎながら、現在は日本との強い繋がりを持ち、ユニークな感性でヴィンテージアイテムを世界へ届けている。本稿では、彼がどのようにしてその道を歩んできたのか、そして日本のファッション文化への深い敬意、さらに自身のルーツと今後の展望について語ってもらった。
ADVERTISING
── 自己紹介をお願いします。
日本の皆さんこんにちは。私はイタリア・ナポリ近郊のサン・ジョルジョ・ア・クレマーノ出身で、2011年にロンドンに移住しました。家族は何世代にもわたってファッションの小売業を営んでいて、私も自然とその道を歩むこととなりました。ただ、当時のナポリでは自分の可能性を活かしきれないと感じ、もっと広い世界を見たいと思ってロンドンに来ました。
ロンドンではブリックレーンにあるヴィンテージショップで6年間働きました。ジョン・ハウリングという方が私の師匠で、ヴィンテージの魅力を一から教えてくれて。デニムやレザーの魅力にどんどん引き込まれていき、自分でも本を買って勉強して、洋服のディテールにも興味を持つようになりました。

ディテールについて語り出すと止まらないジェナロ。お客さんが来店するたびに笑顔で話しかけるフレンドリーな人柄。
Image by: Hiroyuki Ozawa
── ご家族についても少し教えてください。
私の家系は4代にわたってファッション業を営んでいます。曾祖母はリネンの製造と販売をしており、曾祖父は布地を持って地方を回って販売していました。戦後、祖父はナポリで既製服の店を開き、父は1980年代に「リーバイス(Levi’s®)」などのグローバルブランドを扱うショップを経営し、私はヴィンテージという形でその伝統を受け継いだ形です。幼い頃、父の店でジーンズに囲まれて育ったので、今でもデニムの匂いを嗅ぐと子ども時代を思い出すんですよ。

Image by: Hiroyuki Ozawa

1999年に登場したリーバイスの「エンジニアードジーンズ」の中でも珍しい、ワンシーズン限定バージョン。
Image by: Hiroyuki Ozawa
── 独立を決意したきっかけは?
2017年に「自分の視点でヴィンテージを発信したい」と思い、ヴィンテージショップを辞めました。その時には業界にたくさんの友人がいたんですが、彼らに「仕入れ先を教えてほしい」と頼まれ、故郷のエルカーノというヴィンテージマーケットに連れて行くようになりました。その経験を通じて、他のショップ向けにヴィンテージを仕入れるホールセール業を始めました。
そして、自分自身のテイストを反映したショップを持ちたいと思い、まずはオンラインでスタートしました。AOSマーケットプレイスに出店し、その半年後にはロンドン・ヴィネガーヤードに、今はない初の実店舗を開きました。それが2019年のことです。
── その後コロナのパンデミックをきっかけにイタリアに戻られた。
はい。2020年にイタリアへ戻り、ホールセールの仕入れを本格化させました。そして2021年、ナポリ近郊のトッレ・デル・グレーコに2店舗目をオープン。若い世代が多く訪れるようになり、活気あるショップとなりました。さらに2022年にはイーストロンドンに3店舗目をオープンしました。静かなエリアなため、当初は苦労しましたが、徐々に認知が広がり、今では日本人スタッフ1人も含めた素晴らしいチームとともに運営できています。

Image by: Hiroyuki Ozawa

撮影日に出勤していた、カナダ人で音楽活動をしている彼女にコーディネートを組んでもらった。
Image by: Hiroyuki Ozawa
── 日本との繋がりはどのように生まれたのですか?
ある日マーケットで、現在も仲良くしている日本人バイヤーと出会ったんです。彼は元々私のインスタグラムを知っていて、すぐに意気投合しました。そこから私のショップに来てくれて、アーカイヴを見せたり、一緒に写真を撮ったりして、すごくいい時間を過ごしました。東京でも一緒に食事をしたりと、素敵な関係が続いています。
また、私の故郷エルコラーノはヴィンテージの聖地とも言える場所で、日本からのバイヤーも多く訪れます。父の店には1980〜90年代のリーバイス、「ディーゼル(DIESEL)」などがたくさん残っていて、日本の方々にもとても人気があります。そうした経緯もあり、日本との繋がりを強く感じることができています。
── イタリアと日本のファッションの違いについてはどう思いますか?
日本のデザインはミニマルでありながら、ステッチや素材、パターンへのこだわりが強い。一方イタリアは、身体にフィットするシルエットや流れるような形に重きを置いています。たとえば「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」と「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」を比べると、どちらも素晴らしく、似ている部分もあるけれど、アプローチが異なります。素材だけに注目すると、時に「着る人」を忘れてしまうこともある。服はやはり着られてこそ美しい、と私は思います。どちらの国の服でも、素材が良いだけではなくて、着た時に美しいものを集めていきたいですね。
── 最近日本に行かれたそうですね。日本での買い付けについて教えてください。
感動する体験ばかりでした。日本では服の保存状態が驚くほど良くて、本当に新品のようなヴィンテージばかり。日本人はモノを大切にする文化がありますよね。宗教的背景もあるのか、物への敬意がある。それが服にも現れていて、とてもきれいな状態で保たれていると思います。ヨーロッパやアメリカではなかなかそうはいきません。

日本で買い付けした2020年の「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のコート。「軽量で皺加工が施されたナイロン素材を使用し、立体的なシルエットを生み出している。実用性と芸術性のバランスが素晴らしい」とジェナロ氏は言う。
Image by: Hiroyuki Ozawa
── 買い付けで重視しているポイントは?
まず素材と仕立ての良さを重視します。有名ブランドであるかどうかは関係なく、70年代、80年代、90年代の無名のピースでも、上質なレザーやデニム、シルクなどが使われていれば、それだけで惹かれます。
加えて、ディテールにもこだわります。たとえば、襟の形が少し尖っていたり、アームホールのステッチの位置が計算されていたり、ボタンの配置が独特だったり。こうした細部の違いが、似たようなシャツでも「これが一番良い」と感じさせる決め手になります。量産されたものとは違う“個性”を持った服を見つけることが、私のバイイングにおける喜びです。
例えばこのバイカージャケットは、裏地に地図がプリントされています。第二次世界大戦中、特にA-2ジャケットなどのフライトジャケットの裏地には、地図が縫い込まれていることがありました。これは襲撃されたパイロットが生き延びるためのサバイバルツールであり、「エスケープマップ(脱出地図)」または「エヴェイジョンマップ(回避地図)」と呼ばれていました。敵地に不時着した時に、捕まらずに逃げるためのナビゲーション手段として使われていたんです。これらの地図は布や絹で作られており、音が静かで、防水性があり、簡単に隠せるという特徴がありました。このバイカージャケットの裏地に使われている地図は、1980年代のファッション的なデザインです。フランス製のバイカージャケットにこのアイデアが応用されているのは、とても興味深いですよね。

バイカージャケット
Image by: Hiroyuki Ozawa
── 「スラム ジャム(Slam Jam)」の古着のセレクトもされていると聞きました。
私は昔からスラム ジャムの活動に憧れていて、いつか一緒に何かやりたいと思っていました。2020年、パンデミックの最中にナポリでスラム ジャムのマーケティング責任者であるカルロと出会い、私の家に招いたんです。当時はまだショップがなく、自宅にヴィンテージのラックを並べていたのですが、彼はそれを見て、「これはすごい」と感動してくれました。
その後、数年かけて私が成長していく姿を見てくれ、オンラインでのコラボレーションから始まり、店舗でも取り扱ってもらえるようになりました。今ではスラム ジャムの実店舗やオンラインストアで私のセレクションを展開していて、これは永続的なコラボになる予定です。スラム ジャムのチームとは美学や価値観を共有できるので、とても充実した関係です。

ヴィンテージの軍用耐Gスーツで、高Gに耐えるため脚や腹部が膨らみ、脳への血流を維持する仕組み。任務中に使用された可能性の高い、南イタリアの地図が下部ポケットから見つかり、このスーツに歴史的な価値を与えている。
Image by: Hiroyuki Ozawa
── ブランドとのプロジェクトも行っていますよね。「シーピー カンパニー(C.P. COMPANY)」とのプロジェクトについて教えてもらえますか?
2020年にシーピー カンパニーのスタッフから連絡を受け、私が10年以上集めてきたアーカイヴを50周年の本に掲載したいと言われました。さらにミリタリーのコレクションの構築も手伝い、私の仕入れ先を紹介しました。2022年には東京でポップアップを開催し、私のアーカイヴから50点を展示・販売し、すべて完売しました。日本の顧客の情熱に驚かされましたね。
── 活動が多岐に渡っていると思いますが、今後の展望は?
もう1店舗、どこかに新しいショップを開きたいと考えています。ミラノ、パリ、東京のいずれかですね。ヴィンテージを通して国や文化を越えて人々をつなげる。それが私の夢であり、使命でもあると思っています。
── 最後に、あなたにとって「美しい服」とは?
ラベルではなく、素材やディテールにこそ美しさがあります。無名ブランドでも、襟の形や縫製、シルエットに独自の魅力が宿っている。そうした「物語を持った服」を見つけることが、私にとって最大の喜びです。

Image by: Hiroyuki Ozawa
最終更新日:
◾️PEZZE
所在地: 17 Amhurst Terrace, Lower Clapton, London E8 2BT United Kingdom
営業時間:11:00〜19:00
Instagram
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【インタビュー・対談】の過去記事
RELATED ARTICLE
関連記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング

BALENCIAGA 55th Couture Collection

COMME des GARÇONS HOMME PLUS 2027 Spring Summer

LAD MUSICIAN 2026 Autumn Winter

CHANEL 2026 Autumn Winter Haute Couture Collection















