パリで開催した「イッセイ ミヤケ」2020年春夏コレクションのショー
パリで開催した「イッセイ ミヤケ」2020年春夏コレクションのショー
Image by: ISSEY MIYAKE

Fashion インタビュー・対談 Promotion

身体と布のあいだに――新デザイナー近藤悟史による「イッセイ ミヤケ」が始動 20年春夏コレクションを紐解く

パリで開催した「イッセイ ミヤケ」2020年春夏コレクションのショー
パリで開催した「イッセイ ミヤケ」2020年春夏コレクションのショー
Image by: ISSEY MIYAKE

 「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」の新デザイナー近藤悟史(こんどう さとし)によるデビューコレクションが、2020年1月上旬から店頭に並ぶ。テーマは「A Sense of Joy」。様々な人種や年齢の人々に希望を与えたいという服作りと2020年春夏コレクションについて、近藤の言葉を織り交ぜながら紐解いていく。

【近藤悟史】
1984年生まれ。2007年に上田安子服飾専門学校卒業後、(株)イッセイ ミヤケに入社した。「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE)」や「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)」などのデザインチームを経て、2017年に(株)三宅デザイン事務所に移籍。9月27日にパリで発表した2020年春夏コレクションから「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」の新デザイナーに就任した。

裸=根源に立ち戻ることから

 デザイナー就任が発表されたのは2019年9月。「君が感じる、君らしいものを作ったらいい」三宅一生にそう背中を押されたという。創立50年を迎えようとしているイッセイミヤケ社の基幹ブランドを担うのは重責だが、近藤は「もちろん責任を感じますし緊張感はすごくありました。でもいざ始めると、作る楽しさや思い描いた世界を表現することに対する期待の方が大きくなっていって。あっという間に過ぎ去っていった、ということかもしれませんね」と振り返る。

 コレクション制作の第一歩としてスタッフと共有したイメージは「裸になること」。近藤にとって「裸」とはプレーンな状態、つまり削ぎ落とされた服作りの根源を意味するという。創設者 三宅一生の考え方「一枚の布」にも通じる概念とも言えるだろう。

 「身体と布の関係を改めて感じられる服を作りたい。できるだけ軽やかに」。チームが最初に制作した生成りのコートは、最も象徴的な一着。ショーでは1体目に登場したルックで、仮縫い用のシーチングを長く切り出し、ボディに巻きつけるところからデザインをスタートさせている。「シンプルに一枚の布をまとうような感覚で、身体と布の間に空間があり着ていて包まれるような気持ち良さ」を目指し、何度も試作したという。

 コートに合わせた帽子は一枚の和紙で制作され、ここにも近藤の思いが込められた。「紙でスタートさせることにこだわりました。シーチングも紙も、以前からあるけど大事なもの。身近なものから新しいストーリーを築きたかったのです」。

和紙で作られた軽やかな帽子。一枚の紙から立体的に整形されている。

 次のシーンに登場したヌードトーンのシリーズも、元は3つのホールを空けた一枚の布。伸縮性があるので頭と腕を通すと上部はフィットし、裾は豊かなフレア状に広がる。5人のモデルはそれぞれ異なるニュアンスの色をまとい、身体全体を使ったしなやかな動きでダンス。肌の一部のような感覚で、着心地の良さを見て取ることができる。

 

できるだけ素直に、日常に溶け込むデザイン

 発表されたコレクションは、ニュートラルカラーから次第に鮮やかな色や柄が混ざっていく。「大地に根付いて空へ」というイメージのパートでは、大地をブラウン、空をブルーで表現した。天然の風合いと撥水性を併せ持つ軽量な素材を使い、抽象的な大柄のプリントが施されている。

 絵柄に目を凝らすと、人の顔や体のようなモチーフに気づく。さらに2人の人間が抱き合う絵も施されているが、この「ホールド」という名前がついた柄については「最初なので『これからよろしくね』と挨拶をするような気持ちも込めているんです」と、近藤のユニークな一面を覗かせる。

 ショー中盤以降のカラフルな色展開と、一体成型やプリーツといったテクニックはイッセイ ミヤケならでは。だが、どこか新しさを感じさせながらピースフルなムード。「できるだけ素直に。素敵な一枚の絵を見て感動したり、日常に溶け込みながら自然と心に残るような」そんな誰しもが持つ普遍的な感覚がジワリと伝わってくる。

 目指したのは「見た目の美しさや驚きだけではなく、生活に根付くデザイン」。近藤が経験を積んだ「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ(PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE)」のように、美しさと両立した生活を豊かにする服の提案という理念が根底にあるという。

服作りについて話す近藤悟史。その後ろにはデビューコレクションの象徴的なアイテムが並ぶ。

 

ワクワクするような気持ちで

 根源的な表現としてもう一つ、コレクションの基軸になった10のキーワードがある。

「えがく・つなぐ、かさなる・そまる、ゆれる・のびる、うごく・はずむ、おどる・まわる」

 いずれも身体の動きを表すシンプルな言葉。ここから「どういう素材が合うか、どういう形がフィットするか」とチームで考えを巡らせていった。例えば「かさなる・そまる」から導かれたのは、日本の伝統的な染色法の板締め。「ゆれる・のびる」は、人の動きで揺れた時の美しさや、布が伸びるようなフォルムなどを表している。直感に従い、刺激するような表現を探していく。

ショーの中盤以降はカラフルなコレクションとなった。

 特に「とても楽しいデザイン作業だった」と振り返るのは、ショーでスケートボードに乗って登場したスポーティーな極薄素材のシリーズ。通気性に優れ、空気を着ているような風合いを楽しめることから「AIR」と名付けられている。風を孕んでフワリと広がり、観客の視線を集めた。

 イッセイ ミヤケは伝統と革新を織り交ぜた服作りで知られるが、近藤は「根源的なものに立ち戻り、その上で思いや物語などを込めていくこと」を念頭に置いている。「もちろん色々な技術や素材で作っていますが、あまりそこを語るより、自分が伝えたかったのは服を着る楽しさや喜び。ワクワクするような気持ちを表現することが、今回のシーズンは大事だと思っています」。

 

一歩先の未来へ

 演出家のダニエル・エズラロウによるディレクションで行われた約20分間のショー。特に多くの観客に印象を与えたのは、モデル全員が登場したフィナーレのシーンだった。

ショーのフィナーレ。モデル達の表情から自然と笑顔が溢れる。

 天井から注ぐ自然光と、開かれた大きな扉から吹き抜ける心地良い風。多様な色や形の服を着た様々な人が混じり合い、弾むような笑顔で軽快にステップする。まるでカラフルな花々が一気に咲いたかのような、嬉々たる希望を感じさせた。

 「イッセイ ミヤケは、常にポジティブなメッセージを発していると感じてきました。これが世界の流れだからこういう服にしようというよりも、ちゃんと社会を知り、そしてこの先の未来を考える。地に足をつけて前に進み、一着一着を大事に作り育てていく。そういった感覚は忘れずに持ち続けていけたらと思っています」。

 2020年1月7日から近藤の手掛けるイッセイ ミヤケが店頭に揃い始める。隅々までイッセイ ミヤケの息吹が込められた多様なアイテムから、近藤とブランドのメッセージを感じ取ることができるだろう。

近藤悟史 Image by: FASHIONSNAP.COM

■ISSEY MIYAKE:公式サイト

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