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Image by: Koji Hirano(FASHIONSNAP)

この世界でなぜ今、服を作るのか 「ジュンヤ ワタナベ」が提示する創造の喜び

2026年秋冬コレクションをレポート

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 直近数シーズンにわたり、パブリックアートキュビズム「レディメイド」の概念から着想を得たコレクションなど、アートの手法を取り入れることで新しいフォルムを探求してきた「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」。今シーズンは「アッサンブラージュ・アート・クチュール」をコンセプトに掲げた。

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 「アッサンブラージュ」とは、フランス語で「寄せ集め」「組み立て」を意味し、既製品や廃棄物、自然物などの物体を立体的に組み合わせることで新しい意味を創出する彫刻的技法。実際の廃棄物などの物体そのものを素材として使用する特徴から、芸術と現実の境界線を問う表現であり、消費社会への批判的な姿勢を表現する手法としても捉えられている。

 「既存の服作りの概念にとらわれない、純粋な創作衝動から生まれるフォルムを探求しています」と渡辺淳弥は語る。これまでの数シーズンは、身体の上に物体を乗せることで人体のシルエットを拡張するようなアプローチを試みていたのに対して、今シーズンは、身体の曲線に合わせて既製品を寄り添わせる過程で意外性のあるカッティングやパターンを発見している点が特徴的だ。

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 ランウェイには一つの椅子が置かれた。ショーの冒頭では、モデルのイリーナ・シェイク(Irina Shayk)がブラックのコートを椅子に掛けてファーストルックを披露。バイク用のグローブをはじめ、オーストリッチやキルティング、スパンコールなどさまざまな素材のグローブが左右対称に配され、身体を拡張するというよりもむしろ身体を包み込むように造形された。スカートの左右にはヘルメットを、裾にはビニールシートのようなプラスチック素材を使用した。既製品の重なりによるドーム状のスカートとそこからストンと落ちる柔らかなビニールはファブリックとは異なる表情を見せた。

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 ショーでは、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)による「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」の2024年春夏オートクチュールコレクションで演技指導を手掛けた、ムーブメントディレクターのパット・ボグスラウスキー(Pat Boguslawski)が振付を担当。クラシカルな音楽と共に、モデルたちはサイレント映画の俳優のようなドラマチックなアクションを加えながらランウェイを歩いた。

 渡辺は「日常を取り巻く社会環境を、素材そのものをあえて直接的に提示することで表現しようと考えました」とも語っている。ショー前半ではまさに素材そのものを身体の上でコラージュした実験的なドレスが披露された。

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トレーやタワシが使用されたドレス

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 渡辺の日常への眼差しは、日用品を通して服として形を得る。身の回りのものをトルソーに当てることで生まれたような思いがけない形は、即興的でありながら、計算され尽くし削ぎ落とされた洗練性も備える。そうして生まれたドレスたちは、単なるモノと世界中から注目を集めるファッションショーのコレクションピースの境目はどこにあるのか、そもそも「服とは何か」という根源的な問いを見る者に静かに投げかけた。

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ローファーやスニーカーを解体し、曲線や立体をウエストシェイプやスカートの広がりへと発展している。

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 「Que a paz prevaleça no Mundo(世界に平和が広がりますように)」。中盤に登場したルックには、ポルトガル語で書かれたその言葉と三角定規、消費社会の虚無感を象徴するアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)によるマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)のポートレート、デコレーションされたスマートフォンケースなどが組み合わされている。

 大量に物が溢れる社会、不安定な情勢の中で、なぜ今新しい服を作るのか。その一つの答えは、クリエイターたちの「純粋な創作衝動」が生む新しさが、常に見るものの心を動かし、感動させるからかもしれない。

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 一際煌びやかに光るゴールドのルックの後、ショー楽曲は一転して物悲しげなムードに。ファーストルックをオマージュするように、今度はカラフルなファーやグローブ、ウィッグなどがパッチワークされたコートをまとったモデルがコートを脱ぎ捨てた。アイメイクは泣いたように崩れ、モデルたちの動きも悲しさや寂しさ、不安を感じさせた。

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 続いて、ぬいぐるみを繋ぎ合わせたショールやバッグが登場。ショー前半で見られた物体のアッサンブラージュによる即興的で実験的なドレープやディテールは、布帛やレザー、ファー、ウィッグなどより人体に身近なマテリアルへと置き換えられた。不安げな佇まいのモデルたちに寄り添うぬいぐるみの温もりのある質感や中綿のコートなど、人を暖めるという服の本質的な目的にも回帰するようだった。

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 柔らかく身体を包み込むようなパッチワークドレスは、次第にシューズやバッグの造形を大胆に再構築した鎧のような堅牢なフォルムへと移り変わった。

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 拾い集めた日常の断片から生み出された新しい造形は、ファッションウィークという華やかな舞台と現実を結びつけた。ラストルックをまとったモデルのマギー・マウラー(Maggie Maurer)が力強い眼差しと共に手を広げ天を仰ぐと、舞台は暗転してショーは幕を閉じた。鳴り止まなかった拍手は、クリエイションがもたらす驚きが多くの人の心を動かし、不安定な世界に立ち向かう一縷の希望をもたらすことを物語っているようだった。

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JUNYA WATANABE 2026年秋冬コレクション

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JUNYA WATANABE 2026年秋冬コレクション

2026 AUTUMN WINTERファッションショー

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

橋本知佳子

Chikako Hashimoto

東京都出身。映画「下妻物語」、雑誌「装苑」「Zipper」の影響でファッションやものづくりに関心を持ち、美術大学でテキスタイルを専攻。大手印刷会社の企画職を経て、2023年に株式会社レコオーランドに入社。ファッション雑貨、アクセサリー、繊維企業を中心に取材。

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