Fashionキボウの消費

【連載:キボウの消費】02 デザインエンジニア 田川欣哉「五感の領域さえデジタルが担うかも」

 新型コロナウィルス問題によって、ファッションを取り巻く環境が変化することは間違いありません。「キボウの消費」と題した本稿では、環境がどう変化していくかについて、さまざまな分野の人に聞いていきます。

 2回目は、Takramを率いる田川欣哉さんに登場いただきます。田川さんは、デザインとエンジニアリングの双方に精通し、架け橋となるプロジェクトを数多く手掛けています。最初にお会いしたのは、田川さんがミラノサローネで東芝の展示を手がけた時のこと。展示デザインにいたるストーリーを、論理的かつ創造的に説明する様子に、「頭の中はどうなっているのだろう」と感じ入ったのです。そんな田川さんが、今とこれからをどう見ているのかを聞いてみました。(取材・文:ifs未来研究所所長 川島蓉子)

  

あくまで主体はデジタル

 Takram(以下、タクラム)では、2月中旬からリモートワークを始めたそう。ほとんど不自由なく移行できたし、これからも続けていけそうと田川さん。コロナ問題を契機に、リモートワークを導入するか否かなど、多くの場面で「変える変えない」の選択が出てきていて、経営陣の判断と実行力が求められていると感じます。タクラムの変化に対するスピード感とフィット感は抜群だと思いました。

 田川さんはファッション分野の仕事もやっているので、最初はその話から。今回のことが業界にどんな影響を与えるのか聞いたところ、「ハイテクとハイタッチの最適化が加速度的に進み、デジタルとリアルの棲み分けが明確になっていく」というお話。どんな線引きになっていくのか――「あくまで主体はデジタル。リアルは減っていきますが、現段階のリアルは、人が五感で感じられる場として稀少性を持つようになりそう」。小さなリアルショップと、プラットフォームとしてのデジタルを組み合わせた、ハイテクとハイタッチのバランスが求められるとみています。

 では、これからのリアルの価値とは?「買い物の楽しさは、思いもかけなかったものとの出会いではないでしょうか」。言われてみると、ECでの買い物は、価格やデザインの比較検討や、その人の嗜好に合わせたリコメンドなど、欲しいと思ったものを手に入れるのに適しています。ただ、「思いもかけない提案」には乏しいので、そこにリアルが価値を持つことには納得がいきます。そしてその服は、「買い物した思い出=体験」と一体化し、ある価値を持つようになる。しかもファッションは身に着けるので、「思いもかけない提案」によって、新しい自己表現を体験できる。田川さんの話に強い説得力があります。ただそれは、集客力のある大型商業施設でマニュアルに基づいた接客を行うことではありませんし、プロとしての技量が問われる厳しい領域でもあると感じました。

 もうひとつ、リアルの可能性について田川さんは、「規模は小さくても、徹底してそのブランドの世界観を伝え、デザイナーや作り手と"つながる場"としての店は、これからも大事な存在」といいます。70年代にファッションビルが登場した時は、独自性を持ったブランドが世界観を発信できる場だったし、数々のデザイナーズブランドのブティックも"つながる場"としての役割を担っていて、それが魅力になっていたと思います。その精神を取り入れつつ、これからを創っていく知恵こそが必要ではないでしょうか。

田川氏が参加している21_21 DESIGN SIGHT企画展「㊙展」のディレクション(開催期間は2020年9月22日まで ※事前予約制)/会場写真:吉村昌也

 

ファッション界の強みと弱み

 また、田川さんがファッション業界と仕事していて感じるのは、「流通と小売が連携した仕組みが強固で、強みになっている反面、"創造的な組み換え"がしづらい弱みにもなっている」ということ。既存のシステムにのっていれば、ある程度の安定が得られる――そんな意識がブレーキになっていたのかもしれませんが、そうはいかなくなっているのが現状です。半強制的にでも変革せざるを得ない。できなければ生き残れないくらいの覚悟が必要です。

 考えてみれば、もともとファッション業界は、DCブランドやファッションビル、セレクトショップ、ファストファッションなど、"創造的な組み換え"を得意としてきたところ。誰もがうまく行かないと思っていたビジネスをゼロから成立させ、大きなうねりを作ってきたのです。その精神が、これからますます大事になっていくと感じました。

外部パートナーとして田川氏が参加したメルカリのリブランディング・CXO補佐(2018年)

 

デジタルにおける中世

 最後に、テクノロジーのこれからについて。田川さんは英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートの名誉フェローでもあり、教育分野への造詣が深い方。「新型コロナ問題を契機に、ケンブリッジ大学がすべての授業をオンラインに切り替えました。それも暫定措置ではなく、恒常的に行っていく予定。さまざまな分野で、デジタルのイノベーションは想像以上に加速化すると思います」(田川さん)。

 そうは言ってもデジタルは、創造的な発想や五感を動かす感動を生み出すのは難しいのではと問いかけたところ、「その領域さえデジタルが担う可能性があるのでは?2030年くらいに振り返った時、『あの時代はデジタルにおける中世時代だった』という会話があってもおかしくない状況ですから」。

 今はデジタルに不慣れな人とそうでない人が混在していますが、生まれた時から空気のようにデジタルを受け容れてきた、本質的に"デジタルネイティブな世代"にとって、今でいう常識とはまったく異なる"常態"が生まれてくるのではないかと田川さんは言います。

 既に私は立派なロートルに入りかけているのですが、「時代の変化にのり遅れず」と考えると重苦しい。それより「自らを変えてみる」方に小さなワクワクが潜んでいる気がしています。

取材・文:川島蓉子
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』などがある。
1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
お話を聞いた人:田川欣哉
プロダクト・サービスからブランドまで、テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通する。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「e-Palette Concept」のプレゼンテーション設計、日本政府の地域経済分析システム「RESAS」のプロトタイピング、メルカリのCXO補佐などがある。グッドデザイン金賞、ニューヨーク近代美術館パーマネントコレクションなど受賞多数。東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。2015年から2018年まで英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授を務め、2018年に同校から名誉フェローを授与された。経済産業省産業構造審議会知的財産分科会委員、日本デザイン振興会理事を務める。Takram:https://ja.takram.com/

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