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【連載:キボウの消費】04 建築デザイナー 長坂常「無駄ととらえていた情報も大事」

 新型コロナウィルス問題によって、ファッションを取り巻く環境が変化することは間違いありません。「キボウの消費」と題した本稿では、環境がどう変化していくかについて、さまざまな分野の人に聞いていきます。

 4人目は、スキーマ建築計画を率いる長坂常さんに登場いただきます。長坂さんは、日本における「ブルーボトルコーヒー」の建築デザインをはじめ、家具から建築、街づくりまでを幅広く手がけ、国内外で活躍しているクリエイターです。(取材・文:ifs未来研究所所長 川島蓉子)

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 最初にお話を聞いたのは、青山に「イソップ(Aesop)」がオープンした時のこと。古い躯体を生かし、素っ気ないほどシンプルな棚に商品を物量で見せる設え――ピカピカの新しさではなく、周囲に馴染んだ店のありようが魅力になっている。独特の空気を作り出せる方と感じ、話を聞きに行ったのです。

イソップ店舗

 今回、事務所を引っ越したばかりで片づけ中という長坂さんに、今とこれからについて聞いてみました。

 表参道から北参道へ。前から決めていた事務所の引っ越しが、たまたまコロナ下になったという長坂さん。スタッフと一緒に新しい事務所を作り込みながら、通常ワークも行っているそう。道路に面したロケーションなので、スタッフと机や椅子を持ち出して戸外でランチしたり、隣近所の人たちと立ち話したりしている。そう語る姿が楽しそうです。

新事務所
新事務所の内部

 コロナ問題によって変わったことはと投げかけると、「日常の解像度が上がったように感じます」。それはどういうことなのでしょうか――じっくりものや人と向き合うことで、今まで見えなかったことが見えてきたというのです。「無駄ととらえていた情報も大事」であり、そこから見出せす価値は、解像度がなせる技だといいます。たとえばデザインのプロセスにおいて、PCの画面上から始めるのでなく、あえて手を動かしてやってみる。そうすることで空間との対話が生まれ、環境とデザインがつながっていく。

 確かに、新しくできた建物やショップを訪れた時、かっこいいけれど緊張感があって居心地が悪い、隙がなさすぎて息が詰まる、作品的な主張が強過ぎて気になる――そういうことが少なくはありません。周囲とくっきり区切られている巨大な商業施設より、昔からあるかのように馴染んでいる場の方が、居心地が良いと感じます。

 効率から言えば、一箇所でさまざまな店を回ることができる集合体が勝るのですが、それが過度に進むと、どれも同じように見えてしまって、利便性を求めるならネットで十分と思ってしまう。だからこそリアルな街、リアルな場、リアルな店の価値は、そこならではの独自性があること。そして五感で体験できることと、改めて思い及びました。

 最近リニューアルしたばかりの、表参道GYREの地下にある「CONNECT」のショップデザインも長坂さんの仕事のひとつです。「『インターフェース』という建築と家具の間のようなものを作り、これで空間を構成することで、動き続けることができる店舗空間を提案しました」(長坂さん)。

HAY

 店の人が動かせる什器で、壁や間仕切りにもなるものを作ったのです。デザインして終わりではなく、オープン後も店の人が代わって店作りに携わっていく。「そうすることで店自体がもっと面白くなって、お客さんも喜んでくれるはず」と長坂さん。店という空間は、訪れる人、使う人、商品が一体となって、過ごす=体験する場としての心地良さを生み出すもの。送り手からの一方通行ではなく、建築家、店の運営者、お客、それぞれが双方向で関わっていく大切さは、これからますます求められていくに違いありません。

HAY

 また、長坂さんは「見えない開発」という考えを根底に置き、仕事しているといいます。作り上げていく過程もデザインととらえ、周囲に向けて開いていく。たとえば韓国の済州島で進んでいるリノベーションのプロジェクトでは、複数の建物について、ひとつずつ改修を施しながら段階的に新しくしているそう。「未来に向けて創造している過程への期待感も含め、街づくりと一緒に開発を進めています」とにっこり。少しずつ開発が進んでいて、ある日、気がついたら心地良くなっている、綺麗になっている、楽しくなっている。そういう開発のあり方は素敵です。

 最後にひとつ。働き方改革が叫ばれるようになり、スキーマ建築計画では、長坂さんとスタッフが話し合いを重ねているといいます。「事務所の引っ越しも含め、リアルに人や街と関わることで、僕もスタッフもリアルな楽しさを感じるようになってきました」(長坂さん)。リアルとデジタル、暮らしと仕事、街と仕事場など、さまざまなものの境界を際立たせるのではなく、混じり合いながら共に良くしていく。そんな価値観へと、人の気持ちは向かっているのではないでしょうか。

 本質的なことに触れながら、平易に語る長坂さんの話は、情熱的に盛り上がる語り口でなく訥々と続くもの。なのに聞く人の耳を傾けさせる確かさがあります。そのリアリティこそが、長坂さんの仕事にそのまま現れているように感じました。

スキーマ建築計画が手掛けているブルーボトルコーヒー
取材・文:川島蓉子
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』などがある。
1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
お話を聞いた人:長坂常 / スキーマ建築計画
1998年東京藝術大学卒業後にスタジオを立ち上げ、現在は北参道にオフィスを構える。家具から建築、町づくりまでスケールも様々、ジャンルも幅広く手掛ける。どのサイズにおいても1/1を意識し、素材から探求し設計を行い、国内外で活動の場を広げる。既存の環境の中から新しい価値観を見出し「引き算」「知の更新」「半建築」など独自な考え方で、建築家像を打ち立てる。代表作として、BLUE BOTTLE COFFEE、桑原商店、HAYなど。

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