
Image by: 高山都
特別な日のためのもの、あるいは一部の愛好家のものと見なされがちだった着物。しかし今、その価値観に変化の兆しが見える。SNSでは着物をファッションとして楽しむ投稿が目を引き、街中でも着物姿の若者とすれ違う機会が増えたように感じないだろうか。この現象は、銀座の老舗呉服店「銀座もとじ」でも例外ではない。同店を率いる泉二啓太社長に取材すると、若い世代や新しい顧客層が着物の世界に足を踏み入れているリアルな姿が浮かび上がってきた。
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若年層が「工芸」に回帰する背景
銀座もとじの現在の顧客層は国内が約85%、海外が約15%。インバウンド需要の追い風で、日本独自の土産物として着物を選ぶ訪日客の姿も多く見られるというが、国内の若年層の客数も着実に増加している。国内需要のうち8〜9割が日常的に着物を着る習慣を持つリピーターで、世代も20〜70代と幅広い。売上金額ごとの年齢比率は20代が約5%、30代が約15%、40代が約20%、50代が約30%、60代が約20%、70代が約15%。来客数だけで見ると若年層の割合はより多くを占めるという。客数、売上高ともに増加傾向にあり、中でも20〜30代の顧客の売上は2022年には約1割だったのが、現在では約2倍に伸長している。
なぜ今、若い世代は着物に惹かれるのか。泉二社長は、いくつかの要因が複合的に絡み合っていると分析する。まず背景として、コロナ禍にYouTubeなどを通して自分で着付けを始める人が増えたこと、海外渡航が制限される中で「日本文化に改めて触れたい」という意識が拡がったことを挙げる。また、近年注目を集める「昭和ブーム」や「平成ブーム」のように、SNSを通して世界中の情報に触れ、独自の審美眼を育てたデジタルネイティブ世代が日本の文化の価値や手仕事の魅力に気付き、関心を持っていること。特定の着物インフルエンサーがブームをけん引しているというよりは、ファッション感度の高いモデルやクリエイターたちが自身のスタイルに着物を取り入れている姿が共感や憧れを呼んでいるのだという。日頃からSNSで着物スタイルを発信しているモデルの高山都さんは、FASHIONSNAPの取材に対して「流行に関係なく、自分らしい美しさや魅力を体現できる」ことが着物の魅力だとコメント。日々加速するトレンドの変化を追いかけることに気疲れを覚えたことから普遍的な魅力を持つ着物に関心を持つようになったという。
結婚式などのハレの日の装いとして、ドレスではなく着物を選ぶ人が増えていることも、着物ファンを生む新たな入り口となっている。晩婚化に伴う花嫁や参列者の年齢の上昇からドレスへ抵抗感を感じ、和装の結婚式や訪問着を選ぶ人も増えつつある中で、そうしたハレの場での着用をきっかけに、年齢を問わずさまざまな色柄を着こなせる着物の魅力を発見する人も多いようだ。

高山さんがフランス大使館でのイベントで着用したという小紋。ドレスやワンピースの代わりに着物という選択も最近は増えているという。着物は誉田屋源兵衛、帯は織樂浅野のもの。
Image by: 高山都
泉二社長は、ファストファッションが浸透した時代だからこその揺り戻しがあるとも指摘。「長く着られる良いものが欲しいという層は確実に増えていて、その選択肢として着物が浮上しているようです。デザイナーの歴史や背景を詳しく調べたり語るのが好きなファッション好きたちが、日本の伝統文化である着物の奥深さに惹かれるのも自然な流れでしょう。手仕事や工芸の魅力を再発見し、関心を寄せる方が増えているように感じます」(泉二社長)。着物と下駄の和装スタイルに、デザイナーズブランドやラグジュアリーブランドのミニバッグを合わせて楽しむファッション好きも少なくないという。トレンドに左右されやすく、ロゴやデザイン次第でブランド名のイメージが刷り込まれやすい洋服と異なり、さまざまな着こなしを長く楽しめる点も魅力に映っているようだ。呉服店で仕立てられる高級な着物や浴衣は、日本の上質なテキスタイルを全身に纏うことができる贅沢なアイテムであるという点も特徴。海外のファッションスクールでは日本産のテキスタイルの質の高さが教えられ、世界のトップデザイナーたちも日本からインスピレーションを得ている。そんな時代における着物への関心の高まりは、一過性のトレンドではなく、自分たちのルーツや文化を見つめ直し、その価値を再発見しようとする若年層の心理を象徴しているのかもしれない。
Q&A:はじめての着物の選び方
着物に興味はあっても、何から揃えればいいのか、費用はどのくらいかかるのか、わからないことだらけ、という人も多いだろう。初心者が最初の一歩を踏み出すためのヒントをQ&A形式で紹介。
FASHIONSNAP
初心者がまず最初に手にいれるべきアイテムを教えてください。

泉二社長
TPOに応じた選択が重要です。
【人に見られる場(招かれた席、お茶会、結婚式など)】には、江戸小紋がおすすめです。一枚でカジュアルからフォーマルまで幅広く対応でき、紋を入れれば改まった席にも使えます。
【自分の楽しみで完全にカジュアルに着る場合】には大島紬がとても便利です。シワになりにくく、旅行や雨の日にも気軽に着られる扱いやすさが魅力です。
江戸小紋





友禅作家 生駒暉夫さんの「銀座」江戸風情の帯と江戸小紋を合わせたスタイル
Image by: 銀座もとじ
大島紬





軽くて涼しい「大島紬」生紬の紅型帯に、深緑の小物で秋を演出

丹波布のチェック柄の帯を合わせてカジュアルに。
Image by: 高山都

織樂浅野の帯を合わせたスタイル。鮮やかなグリーンのバッグが差し色に。
Image by: 高山都
グレーの着物はいずれも大島紬。帯の選び方でも雰囲気を変えることができる。いずれも「銀座もとじ」で仕立てたものだそう。「流行に左右されることなく、今の自分にも10年後の自分にも似合うものを選ぶようにしています。あとは自身のTPOに合うかどうかも重要で、帯によって華やかにもカジュアルにもなる大島紬はすごく重宝しています」(高山さん)。
FASHIONSNAP
夏祭りのために用意した「浴衣」をもっとさまざまなシーンで活用する方法はありますか?

泉二社長
もとじでも、浴衣から入る方が圧倒的に多いです。そこで私たちが提案しているのは、単なる浴衣としてだけでなく、長襦袢などを合わせることで着物のように着こなせる浴衣です。そうした選び方をすることで、行ける場所は格段に広がって、例えばホテルでの食事など、浴衣では少し気が引ける場所にも堂々といけるようになりますよ。

襦袢を合わせると着物のようにも着こなせる高山さんの浴衣は「鈴三」のもの。
Image by: 高山都
FASHIONSNAP
まずはお手頃のものから揃えたいと思った際のおすすめは?

泉二社長
着物のように着こなせる仕立ての浴衣には、帯や小物も含めて10万円台で揃えられるものもあるので、汎用性の高いアイテムを揃えてから徐々に小物などで変化を加えていくのがおすすめです。最近は古着屋でも着物や浴衣を置いている店がありますし、既製品の浴衣であれば比較的安く購入できます。しかし、やはり自分のサイズに合わせて仕立てた方が着心地もよく、美しく着こなせますよ。
FASHIONSNAP
暑さが不安になる夏シーズンの着物選びのポイントを教えてください。

泉二社長
着物には季節があるので、それを守るのが基本ですが、猛暑が当たり前の現代では、見えない部分で涼しさを確保する工夫も重要です。長襦袢や肌着には涼感素材のものや通気性の高いものを選ぶと良いでしょう。
また、カジュアルに楽しむ時には、季節に厳密にこだわらず、体感温度に合わせるのも現代らしい選び方です。透け感のある麻や紗などの素材を6月ごろから早めに取り入れると見た目も涼やかです。
FASHIONSNAP
新しく着物を着はじめた客層に人気のデザインは?

泉二社長
モダンな雰囲気を持つ「和モダン」な柄がとても人気です。たとえば、七五三やお宮参りといった特別な行事では、古典的な柄ではなく、現代的な感性に響くすっきりとしたデザインのものが選ばれる傾向が強いです。親世代や祖父母世代から譲り受けたことをきっかけに着物を始める方も多いですが、そういった環境でなかった若い親御さん方からも「自分たちの新しい感覚で着物を取り入れたい」という声が聞かれます。

モダンなテイストを取り入れた和柄 例:東郷織物 (盛夏/単衣に)夏大島紬 白大島紬「よろけ立涌」
Image by: 銀座もとじ
FASHIONSNAP
“着物警察”が話題になるほど、玄人の目線が厳しいという印象もある着物の世界。自信を持って自分らしい着こなしに挑戦するために、覚えておくべき着こなしのポイントや心構えがあればお教えください。

泉二社長
まずは基本をしっかり知ることが大切です。
「着崩し」は、きちんとした基本があってこそ美しく見えます。帯締めや帯揚げの結び方、長襦袢や足袋の整え方など、最低限の基本を押さえておきましょう。
その上で、自分らしさを少しずつプラスする感覚でアレンジするのがおすすめです。
周囲の目が気になることもあるかもしれませんが、過度に気にしすぎず、自分が心地よいと思えることが1番です。「装いに品を持つこと」「スタンダードを知ること」を意識しておけば、十分に自信を持って楽しめると思いますよ!
最終更新日:
◾️銀座もとじ:公式オンラインストア
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