「現代において、“由緒”や、まして階級について語ることに意味があるだろうか?」。パリで発表された「ロエベ(LOEWE)」2024 年秋冬ウィメンズコレクションで、そうコメントを残したクリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)。今日のラグジュアリーブランドが、階級意識(資本と羨望)の上に成り立ち、表現に由緒正しさ(あるいはブランドの歴史へのセルフ・オマージュ)が求められていることは確かだが、ジョナサンはその根底にさえ問いの眼差しを向ける。
今回の「ロエベ」の会場は、パリの東方にあるヴァンセンヌ城。城内にはフラワーパターンの特設テントが建てられ、内部にはアートフェアの一角のような緑色の“ギャラリー”が作り上げられた。そこに展示されているのは、田園風景や花、牛、犬などといった控えめな題材を小さなサイズで描いたアメリカの画家、アルバート・ヨーク(Albert York)のペインティング作品18点だ。城という富める貴族の館や煌びやかなファッションの世界とは対照的なこれらの慎ましい絵画は、何を仄めかしているのだろう?
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コレクションのテーマは、“富と階級”だ。ジョナサンは歴史をさかのぼり、イートン校(英国の名門パブリックスクール)のモーニングスーツやチッペンデールチェアといった富と階級の象徴を、プレイフルに本来の意味を剥ぎ取りながらデザインへと落とし込んだ。ラウンジウェアを注意深く見ると、18世紀の動物画や植物相はキャビアのように細かいビーズで描かれている。
ダブルのチェスターコートの襟には銀箔で覆われた木の彫刻があしらわれ、ドレスの肩には朝露のような透明樹脂のオブジェ、手首にはマイクロモザイクでダルメシアンを表現したバングルが鈍く光る。一見ファッションとは関係の薄い工芸品をデザインに再応用しているが、そこにはひとつも古風なアイテムは見当たらない。ジョナサンの手にかかれば、全てがモダンになるのだ。
Image by: LOEWE
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壁紙のようなフローラルパターンやアスパラガスなどのモチーフは、1700年代半ばにロンドンにあった「チェルシー磁器工房」を参照したものだ。「チェルシー磁器工房」は高値のコレクターズ・アイテムでありながら、そのデザインの多くをフランスの品々からコピーしたことでも知られている。ジョナサンは「コピーのコピーのコピー」と説明したが、つまり今回「ロエベ」がコピーしたものも何かのコピーであるわけだ。しかし実際の品々は、異なるアプローチと文脈の中にそれぞれ魅力的に存在している。
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示唆に富んだハイパー・コンセプチュアルなコレクションは、「ロエべ」のコレクションの中でも最もクラフトに富んだコレクションのひとつとされ、クチュール的な技巧が際立っているのは確かだ。しかし、シャープなテーラード、バルーンパンツ、ベルトのアクセント、丸いシルエットのレザーブルゾンなど、プレーンなルックも負けずと力強い。ウェア、バッグ、アクセサリーの全てが、ただ単純に、洗練された魅力を備えていたことは特筆すべきポイントだろう。
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さて、コレクションの内容とは関連が薄そうな、アルバート・ヨークの作品がなぜフィーチャーされたのか? 会場入り口の壁には、美術展には必ずある作家の説明が書かれていた。彼は1959年から絵を描き始め、初の個展開催は1963年で、生涯で約250点の作品を残した。興味深いことに、ヨークは作品を茶色の紙袋に入れてギャラリーに投函し、自身の展覧会にはほとんど出席しなかったそうだ。アート界から距離を置いたからこそ、彼はこれほどまで集中し続けることができたようで、こうも発言している。「現代社会はただ通り過ぎるだけで、私はそれに気づかない。私は列車に乗り損ねたのだ」。
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ジョナサンは「ロエベ」、自身のブランド「JWアンダーソン(JW Andreson)」、「ユニクロ(Uniqlo)」とのコラボレーションなど、年に15以上のコレクションを発表している。にもかかわらず、尽きることないアイデア、そしてそれを支える興味のピュアネス、クラフトへの情熱――そして、全てにおいて失われることのないバランス感覚が、コレクションに洗練と同時代性をもたらしている。何より、予定調和な答えを提示するのではなく、疑問を投げかけるクリエイションは、ファッションの可能性を拡張してくれるものだ。
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