5月19日付けで「M・A・C」のグローバル・クリエイティブ・ディレクターに就任したニコラ・フォルミケッティ(Nicola Formichetti)。ニコラは、イタリア人の父と日本人の母を持ち、静岡県沼津市で幼少期を過ごすなど、日本を“故郷”と呼びます。流暢な日本語と笑顔で語られるとグッと引き寄せられる魅力があります。
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レディ・ガガ(Lady Gaga)のスタイリストや、「ユニクロ(UNIQLO)」のクリエイティブディレクション、「ミュグレー(MUGLER)」のクリエイティブディレクター、「ディーゼル(DIESEL)」のアーティスティックディレクターといった経歴を持ちます。そして「FREE MAGAZINE」の創刊、「VOGUE HOMMES JAPAN」のファッションディレクターなど、数々の雑誌でも活躍。さらに自身のブランド「ニコパンダ(NICOPANDA)」では、M・A・Cとコラボレーションを果たしています。こういった輝かしい才能を持つニコラの目に、日本はどのように映っているのでしょうか。現在はニューヨークで暮らすニコラの、日本滞在中にiPhoneで撮った写真を見せてもらいました。

◾️ニコラ・フォルミケッティ(Nicola Formichetti):「M・A・C」のグローバル・クリエイティブ・ディレクター。M・A・Cの広告、SNS、製品、パッケージ、店舗体験まで、ブランドイメージの全戦略を統括。ファッション分野でのディレクション経験を活かし、ファッション、音楽、文化、テクノロジーを融合した先見性で、M·A·Cの「すべての年齢、人種、ジェンダーのために」という包括的な理念に新たな息吹を吹き込んでいる。2025年5月から現職。
目次
NICOLA’S TOKYO DIARY
ニコラが来日したのは、M・A・Cのグローバル・クリエイティブ・ディレクターに就任して以来、初めて。「 日本で育った僕にとって東京は大好きで、何度も訪れたい街。 またこの街を歩けることにとてもワクワクしています 」と語り、今回の来日をとても楽しみにしていたそう。今回の東京の旅でまた新たな発見がiPhoneに収められていました。
TOKYO



日本の朝ごはんは最高! 魚とご飯、お味噌汁で一日を始めるのが大好きな習慣です。東京タワーは本当にアイコニックで、通るたびに写真を撮らずにはいられません。
JAPANESE BREAKFAST IS THE BEST . STARTING THE DAY WITH FISH, RICE AND MISO SOUP IS MY FAVORITE RITUAL. TOKYO TOWER IS SO ICONIC I CANT STOP TAKING PICS EVERYTIME I PASS BY.




僕は歩くのが大好きです。特に原宿や渋谷を歩くのは、子どもの頃の思い出につながっています。みんなが集まる場所で、どの角を曲がってもいつも新しいことが起きているように感じられるんです。
I LOVE WALKING EVERYWHERE. ESPECIALLY AROUND HARAJUKU AND SHIBUYA. ITS MY CHILDHOOD MEMORIES. ITSA PLACE WHERE EVERYONE COMES TOGETHER AND FEEL LIKE THERES ALWAYS SOMETHING NEW HAPPENING EVERY CORNER.
SHIMOKITAZAWA


下北沢で過ごす1日は、まるで創造力のポータルに足を踏み入れるような感覚です。昔音楽シーンで有名な場所で、素敵なヴィンテージショップもたくさん。散策するのが大好きな場所のひとつで、昔ながらの東京のエネルギーを感じられます。
A DAY IN SHIMOKITAZAWA ALWAYS FEELS LIKE STEPPING INTO A PORTAL OF CREATIVITY. THIS PLACE WAS FAMOUS FOR ITS MUSIC SCENE AND YOU CAN FIND AMAZING VINTAGE STORES, ITS ONE OF MY ABSOLUTE FAVORITE PLACE TO WALK AROUND. OLD SCHOOL TOKYO ENERGY.
JINDAIJI


最近、深大寺の静かな魅力を発見しました。ここは本当に特別な場所で、自然に囲まれたお寺。とても永遠的でスピリチュアルな空気。そして、お蕎麦でも有名なんです!
I RECENTLY DISCOVERED THE SRENE CHARM OF JINDAIJI. ITS SO SPECIAL HERE. SHIRINES SURRENDED BY NATURE, ITS SO TIMLESS AND SPIRITUAL. ITS ALSO FAMOUS FOR SOBA NOODLES!
INTERVIEW WITH NICOLA

⎯⎯今回の来日の前に、韓国を訪れていたとか。韓国の魅力はなんだと思いますか?
韓国は活気があるよね。この2年ほど韓国によく行ってるんだけど、なぜか行ってしまう気持ちがある日本人は多いんじゃないかな。ビジネス的なことを言えば、K-POPアーティストを起用したマーケティングの力があるよね。
⎯⎯韓国と日本の違いについてどう思われますか?
興味深いことに、日本の友達とは日本ではなく韓国で待ち合わせすることもあるんだ。日本は少しおとなしい印象なんだけど、韓国はクレイジーな方向にエネルギーがあって、そこが面白い。
⎯⎯M・A・Cのグローバル・クリエイティブ・ディレクターに就任する前、M・A・Cに対してどんなイメージを持っていましたか?
実は昔から関わりがあって。ロンドンに住んでいた23歳頃かな、スタイリストとして働いていた時に、初めての大きなブランドコラボレーションがM・A・Cだったんだ。当時のクリエイティブディレクターだったジェームズ・ゲイジャー(James Gager)という素晴らしい方から多くを学んだね。私の就任が発表された時も彼から連絡があって、祝福してもらえて嬉しかったよ。
⎯⎯当時のブランドイメージはどのようなものでしたか?
ビューティブランドというよりも、それ以上のカルチャーブランドという感じだったね。カナダ出身のメイクアップアーティスト兼フォトグラファーのフランク・トスカン(Frank Toskan)とサロンオーナーのフランク・アンジェロ(Frank Angelo)が創業したアーティスト発のブランドで、創業からの90年代は非常に大胆なことをしていたんだ。ドラァグクイーンを起用したり、今では当たり前になったコラボレーションを最初に始めたりしたのもM・A・Cなんだよ。リアーナ(Rihanna)やレディー・ガガ(Lady Gaga)とのコラボ、黒いハローキティのコレクションなど、常識を覆すような挑戦をしていたね。
⎯⎯実際にM・A・Cに入られてどうですか?
まだ10週間ほどだけど、予想以上に自然に全てがフィットしている感じがするよ。すでに広告も1つ制作して、これから出てくるプロジェクトも進行中。想像していた以上にグローバルなブランドの規模に驚いているかな。世界中とつながっていて、やりがいを感じているよ。

私の最初の広告は90年代M・A・Cへのラブレター
⎯⎯チームの皆さんはどうですか?
皆さん90年代のM・A・Cの記憶を大切にしていて、そのパワーを取り戻したいという思いがある。私の最初の広告は90年代のM・A・Cへのラブレターのような作品なんだ。M・A・Cの強みは世界中に1万2000人ものメイクアップアーティストがいることで、彼らがブランドの魂だと思う。アーティストファーストなブランドとして、他にはない独自性があるよね。
⎯⎯スタイリストやファッションディレクターなどのキャリアをM・A・Cでどう活かしていきますか?
私が今、感じでいることは世界的に多くの人の関心が、ファッションからビューティへと移行しているということ。私の周りも同様で、ビューティの方がビジネス的にも成長していて、より面白いことができる可能性があると感じでいるんだ。私自身はメイクアップアーティストではないし、M・A・Cにおいてファッション出身のクリエイティブディレクターが就任するのは初めてだけど、長年メイクアップアーティストと仕事をしてきた経験を活かして、面白いことをやっていきたいね。

モノクロの広告で伝えたいメッセージ
⎯⎯すでに製作されたという最初に手掛けた広告について教えてください。
初めての広告として、ファンデーションの「スタジオシリーズ」を手掛けたんだ。M・A・Cは「アーティストのためのツールボックス」でクリエイティビティを表現するための製品が揃っている。この広告はモノクロで表現していて、90年代を意識したタイムレスでクラシックな印象を目指したんだ。「自分に自信があるから、M・A・C以外は何も必要ない」というメッセージを込めて。音楽も90年代に流行った「スウィート・ハーモニー」を使用しているんだよ。
⎯⎯モノクロの広告には、コスメティックブランドなのにと私も驚きました。M・A・C社内からはどんな反応がありましたか?
本社でプレゼンしたとき、びっくりされるかなと思ったし、ちょっとドキドキだったんだけど。見せたあと、一瞬の沈黙があって、そしたら全員が立ち上がって拍手してくれたんだ。M・A・Cをピュアな原点に戻すという意図が伝わったんじゃないかな。メイクアップが中心のブランドなのにモノクロというのは意外なんだけど、一度クラシックなゼロからスタートするという意味を込めたんだ。

⎯⎯クラシックでありながら、ソーシャルメディアも活用されていますよね?
そうだね、クラシックな広告撮影と同時に、SNS向けのコンテンツも制作しているよ。90年代の美学を大切にしながらも、現代のプラットフォームで展開することが重要だと考えているからね。両方のバランスを取ることがとても大事なんだ。
⎯⎯広告のキャストも豪華だそうですね。
クリス・ジェンナー(Kris Jenner)、ドージャ・キャット(Doja Cat)、そして水原希子など、素晴らしいキャストが参加してくれたよ。M・A・Cが長年大切にしてきた「すべての年齢・人種・ジェンダーのために(ALL AGES, ALL RACES,ALL GENDERS)」の理念を体現する人なんだ。
⎯⎯水原希子さんについての印象は?
希子ちゃんとは10年来の付き合いで、彼女がまだ有名になる前から知っているんだ。今はとても自信に満ちて、自分でいろんなものを創り出していて、アジアの誇りと言える存在だよね。しっかりと自分の意見を持ち、それを形にできる素晴らしい人。まさにM・A・Cらしい人だと思うよ。希子ちゃんとはこれからも一緒に素晴らしいことをやっていきたいね。単に彼女の名前を借りるだけでなく、クリエイティブな面でも一緒に作り上げていくような関係を続けていきたい。


アーティストと一緒に新しいことに挑戦
⎯⎯M・A・Cをこれからどんなブランドにしていきたいですか?
元々持っていたDNAを大切にしながら、アーティストと一緒に新しいことに挑戦していきたいね。それは何か、やっぱりコラボレーションかな。でも新しいコラボレーション。セレブリティやアンバサダーとも協働しながら、楽しいことを共創していきたいね。
ドージャ・キャットは、MTVビデオ・ミュージック・アワード(VMAs)のレッドカーペットで、自身のシグネチャーであるレッドリップ「マキシマル シルキー マット リップスティック/レディ デンジャー」をかじるという大胆な演出を行った。しかし、このリップスティックは世界的に有名なパティシエ、アムリ・ギションが作ったチョコレートのレプリカであったという、ドージャらしいユニークな演出で会場を沸かし、SNSでも話題を集めた。
⎯⎯日本はニコラさんにとってどんな“存在”ですか?
日本は家のような存在だね。小学校が沼津だったから、今でも「日本に戻る」と言う感覚。今週末も沼津に行く予定だよ。子どもの頃は、イタリア人の父と日本人の母のハーフということで注目されるのが嫌で、目立たないようにしていたし、ロンドンに渡った18、19歳の頃は自分のルーツを少し忘れたい気持ちがあったんだけど。25歳か26歳の頃だったかな。ロンドン、そして日本に帰ってきて幼い頃によく通った神社やおばあちゃんの家を訪れたとき、自分のルーツの大切さに気づいたんだ。そこからロンドンのカルチャーと日本のルーツを混ぜ合わせた新しい自分が生まれたと思う。
⎯⎯最後に、若い人に対してのメッセージと夢を教えてください。
日本はとても特別な国だから、希子ちゃんや私のようなインターナショナルな人材をもっと増やして、みんなで盛り上げていきたいね。M・A・Cでも日本で面白いことをたくさんやっていきたい。最近、日本の若い人があまり海外に行きたがらないと聞くけど、そういう人たちにもインスピレーションを与えていきたい。ビューティやファッションの力でみんなをワクワクさせるのが私の役割だと思っているよ。
■M·A·C:公式サイト
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