「人々の生活や想像を掻き立てられるカーテンは、記憶の色をしている。そういうものを洋服で作れたらいいなと思った」――今年デビュー10周年を迎える「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」が、2021年春夏コレクションをウィメンズパリファッションウィークのトップバッターとしてデジタル配信した。
デザイナー 黒河内真衣子が手がけるマメ クロゴウチの2021年春夏コレクションのテーマは「Window(窓)」。窓が持つ内と外の2つの世界を分かち繋ぐという役割と、風をはらむカーテンから着想を広げ、経過する時間や淡い記憶が表現されている。
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前回パリのランウェイでコレクションを発表し帰国した後、黒河内の日常に変化が訪れた。新型コロナウイルスの影響で、インスピレーションの旅や日本各地の生産地に足を運ぶなど「移動」を中心とする生活から、大半を自宅で過ごす生活に。アイデア源でもあった「旅」は今回、物理的な移動を伴うものではなく「空想の旅」に変わり、黒河内自身の内面へと向かっていった。
穏やかな時間が流れる中、毎日部屋の中から眺めていたのは、窓と窓から見える景色。窓と対話したり、買い物の帰り道に誰かの家の窓を眺めて想いを馳せたり。生活に根付くカーテンを窓に掛ける感覚でファブリックを選び、またカーテンをドレスのように身体に巻き付けるなど、子どもの頃に戻ったかのような純粋な気持ちでコレクション制作に臨むことができたという。
今回のコレクションは初めてデジタルで発表。黒河内と親交の深い奥山由之が監督を務めた2分半のコンセプトムービーを公開した。8ミリフィルムを使用し黒河内の生まれ育った長野で撮影され、音楽を担当したのはSeiho。薄いカーテンのヴェールに包まれたような映像は、おぼろげな夢や思い出を辿る記憶の中に入り込んだかのようだ。
ルックブックは計48枚の写真で構成されたストーリーテリング仕立て。キーカラーの白は、ナチュラルなエクリュや陽に焼けたようなパステルイエローなど、バリエーション豊かに展開されている。町工場の窓枠や無人の部屋に忘れ去られたカーテンといったこれまで撮りためていた写真やスケッチから、柔らかなテクスチャーや身体を包むボリューム、豊かなタックといったファブリックやディテールが生まれた。随所に散りばめられた花のモチーフは、部屋で生けていたアヤメやユリなどの押し花や、窓際に飾られた花束などを編み地や刺繍などで描いている。
透かし模様が懐かしさを呼び起こすレースカーテンをそのまま着ているようなドレスをはじめ、網戸や磨りガラスをモチーフとしたシアーな素材がノスタルジアを感じさせる。一方で、窓枠を想起させる格子柄や片襟のみのアシンメトリーデザイン、目深なバケットハットといったスタイリングはモダンな印象だ。刺繍が施されたバッグやシューズ、そして腕に巻かれたシルクオーガンジーのスカーフがアクセントとなっている。
黒河内からの手紙のようなコレクションノートには、最後に「今回の洋服は、私の数ヶ月の記憶の色をしている。それをまとって、10年目のいま新たな窓を開けようとしているのだと思う」と記されていた。思い出を呼び起こし想像を広げながら制作されたコレクションは、時間を感じさせるがふわりと軽く、包み込まれるような優しさを併せ持っている。
【全ルックを見る】Mame Kurogouchi 2021年春夏コレクション
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