
もし、あなたが職を失い貧困だったら。孤独だったら、どう生きるだろうか。ささやかなことに喜びを見出せるだろうか、それとも何もかも放り捨ててしまうだろうか。別の問いを立てるならば、たとえ豊かな生活や他者との情緒的な関わりが奪われたとしても、持ち続けることができるものとはなんだろうか。そのヒントとなるのが松藤勉による「マツフジ(MATSUFUJI)」が「Rakuten Fashion Week TOKYO 2026 A/W」で披露した2026年秋冬コレクションだ。
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コレクションのテーマは、尊厳を意味する「DIGNITY」。資本主義社会の中どこかで、厳しい現実を前にしながらも、内に秘めた希望の灯りを絶やさずに日々を生きる。そんな人々の持つ静かな強さや誇りを、ワークウェアの文脈を引用しながら素材や色使いなどを巧みに組み合わせ表現した。
松藤が着目したのはフィンランドの映画監督 アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)が手掛けた「労働者三部作」と呼ばれる貧しい労働者の生活を描いた連作。作中で描かれているのは、単調な労働や沈黙の時間。そしてそんな日々の中でささやかな希望を持って生きる労働者の姿。そこには、飾り気のない素朴な毎日と、誇りを手放さない“普遍的な美しさ”がある。会場となった渋谷ヒカリエホールAに、心臓が震えるような重低音が鳴り響く中、ショーが幕を開けた。

Image by: FASHIONSNAP

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ランウェイで目を引いたのは、ワークウェアを引用しながらも、現代的に仕上げたスタイリングの数々。ファーストルックでは、工具や部材を携行するための腰巻き型のワークエプロンに、ギンガムチェックのシャツやローファーといったドレス要素を重ねた。続くルックで登場したのは工場を思わせるマットな質感なヌバックレザージャケット。作業服やジャンプスーツなどで見られるウエストギャザーを採用しながらも、ボトムスはストライプのスラックスを合わせることで巧みにバランスを保っている。このほか、作業服などに用いられるアクションプリーツを背面に採用したジャケットも登場した。






ディテールについて、作業に適したビッグサイズのポケットは随所で散見された。スウェットパンツの前面や、レザージャケットなどに配されている。パーカから着想したカンガルーポケットも目立つ。ニットやステンカラーコート、ストライプシャツに採用されている。また、アノラックのハーフジップを落とし込んだチェックシャツも登場。ボトムスには光沢感を湛えたスウェットを合わせ野暮ったくなりすぎないバランスに仕上がっている。


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労働者の動作にヒントを得たかのような着こなしも登場。ケミカルウォッシュ加工の使い古されたかのような様相を見せるデニムジャケットは腕まくりをして着用し、腰にはトップスが巻かれた。インナーのシャツは第2ボタンまで空いており、ついさっきまで働いていたかのようなイメージを思わせる。


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中盤には作業着から着想したジャンプスーツが披露。ラフな表地に対比するように、光沢のあるシルク混のテキスタイル裏地に採用し、労働者の内面に秘めた“誇り”を表現したという。このほか、堅牢なウールやコットンにカシミア混の素材を組み合わせたルックも披露。チェックのシャツとショーツのセットアップにラウンドネックのカーディガンを合わせたルックなどがその例だ。松藤は「日常の中にある静かな強さを表現するために、異なる質感の素材を組み合わせ、無骨さと繊細さの両立を目指した」と語った。


このようなコントラストを通じた表現は素材に留まらない。カラーパレットは、ダークトーンでまとめたルックや、グレーのセットアップなどを基調として構成した一方で、インナーにホワイトを差し込んだコーデも提案されている。ラストルックは、その代表例でブラックのステンカラーコートのインナーにはシャツを組み合わせ、袖からそれを覗かせた。「重めの色の中に、無垢な印象のホワイトを差し込むことで、内に秘めるささやかな希望を表現した」と松藤。
先の通り、コレクションではワークウェアの機能や造形を手がかりにしながら、素材や色彩の対比によって、労働者の内に秘める尊厳が表現された。それは、貧困や孤独が人から豊かな暮らしや、情緒的な関わりを難しくしようとも、誇りだけは外的な環境に依存せずに、自分の意思で持ち続けることができる。苦境においても静かな強さでそれを手放さない姿勢こそ、普遍的で美しいものなのだというメッセージに思えた。
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