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「“普通”の服を作った」 メゾン ミハラ ヤスヒロが打ち出すファッションの本質

Image by: Maison MIHARA YASUHIRO

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「“普通”の服を作った」 メゾン ミハラ ヤスヒロが打ち出すファッションの本質

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 「Ordinary People(普通の人々)」と題された「メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)」の2026年春夏コレクション。「やってることは基本的には変わらない。普通の生活の中で僕が考える普通の洋服を作った」と語る三原康裕は、なぜ今シーズン「普通の人」を題材に「普通の服」を作ったのか。

「日常」に潜む異常性と尊さ

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 世界では戦争や紛争が起きている中、今日も日本のワイドショーでは芸能ゴシップが話題の中心にある。ひとりひとりの「日常」や「普通」の定義は個人を取り巻く環境ごとに異なり、一見「普通」に見える人にもさまざまな側面が内在する。そしてその日常は永遠を約束されたものではない。

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 「最近は多くの人が自分らしさを服装を通して表現しようとするけれど、僕はスタイルというものをある意味記号的に捉えているし、ファッションは表層的なものだと思っている。ただ、それがすごく好き」と三原は話す。デニムジャケットのようにワークウェアの文脈の上にあるアイテムを現代では誰もが身近に親しみ、ドレスを着ればフォーマルでエレガントな要素を取り入れることができる。人と接する際に「本音と建前」を使い分けるように、服装はあくまでもその日の気分やその時のシーンを表すものであり、着用者個人のパーソナリティに紐づく必要はない。歴史を辿れば、近代以降のファッション史において、個々人のスタイル(生活様式や哲学、趣味嗜好から滲み出るもの)は服装と強く結びついていた。しかし現在では産業化と大量生産、メディアの発達によりトレンドは高速で移り変わり、ファッションは表面的な情報ゲームへと変質している。ただ、その浅薄さこそが現在のファッションの面白みとなっていると同氏は指摘。ならば、表面の装いに過ぎない服装に「自分らしさ」という「人間性」を求めることは、作り手にとっても受け手にとっても不誠実なのではないか? そういった問いを持つ三原は、「自身にとっての日常着」を通して、「衣服」ではなく「個人のパーソナリティ」そのものが「ファッション」にすり替わってしまった時代に対するアイロニーを含んだ視線を投げかける。

Image by: Maison MIHARA YASUHIRO

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 コレクションで多用されたのは、1990年代末に初めて製作したデニムジャケットとMA-1を前後でドッキングしたアウターをはじめとする前身頃と後身頃を切り替えたデザイン。戦闘服や作業着といった本来のコードの意味が破綻した2種類の衣服の無意味な結合からは、何を着るか、どう着るか次第で気軽にその表象を着替えることができる人間の自由さや多面性、ファッションの面白みが見出される。4本袖のコートやブルゾン、シャツ類は、長袖とノースリーブ、長袖と半袖といったバリエーションでの着用が可能。全てのアイテムには汎用的な素材を採用し、コーディネートやシェイプは徹底的に「普通」を追求しながらも、レイヤードなどのテクニックによって複雑な人間味を立体的に表現した。

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 若い才能に対する感度の高さもメゾン ミハラヤスヒロらしさのひとつ。ショー会場では、ペンと手を使ってリズムを奏でるアーティストのレニー・シーモ(Lennie Simo)によるライブパフォーマンスが行われた。「Fassion weak」などあえてスペルミスをした文字によってグラフィックにシニカルなメッセージを加えるアートプロジェクト「ファッション・ラングウィッチ(Fassion Langwitch)」を発表しているアーティスト ナヴィンダー・ナングラ(Navinder Nangla)が手掛けた落書きのような奔放なグラフィックは、フーディーやTシャツ、ジーンズといったデイリーウェアの記号性そのものを問い直す。先シーズンから引き続き、「Snow Man」のラウールもモデルに起用した。

8ルック目に登場したラウール。「Don’t tag me(私をタグ付けしないで)」というメッセージが書かれたトップスにシンプルなジャケットを合わせたスマートで遊び心のあるスタイル。

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ナヴィンダー・ナングラのアートワークがあしらわれたスウェットセットアップ。

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ミハラ流の「エスプリ」 エレガンスが際立ったウィメンズ

 今シーズンの特徴として、ウィメンズのエレガントな佇まいについても注目したい。「普通の人にこそフェティシズムを感じる」と話す三原は、「エスプリ感」を通じてそのイメージを表現したかったとも明かした。それぞれのコードから逸脱したアイテムは、現代人のリアルな生活感のあるレイヤードや小物との組み合わせによって柔らかさが加わり、ウィットを含みながらも軽やかなエレガンスを感じさせた。

Image by: Maison MIHARA YASUHIRO

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 メゾン ミハラヤスヒロらしい遊び心がありながらも、より日常に寄り添う抜け感のあるスタイリングが多く見られた今シーズン。ショーでは多くのモデルが花束を手に持っていたのも印象的だった。毎日のなんでもない1日に、花を持ってどこかへ向かうようなモデルたちの姿からは、日々変化する時代の流れの中でも何気ない毎日を守ろうとする人々の姿や、誰もが表層的なファッションを楽しめる平和への願いと愛を持った眼差しが含まれているようにも思われた。三原は「ファッションは表面的なものであるからこそ素晴らしい」「誰もが毎日、その日に着たいものを着れば良い」とも話す。「普通」と定義された同コレクションは、作り手・受け手ともに人物像と強く結びついた昨今のファッションに疑問を投げかけると同時に、ファッションの本質的な自由さを再認識させた。

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Maison MIHARA YASUHIRO 2026年春夏コレクション

2026 SPRING SUMMERファッションショー

最終更新日:

FASHIONSNAP 編集記者

橋本知佳子

Chikako Hashimoto

東京都出身。映画「下妻物語」、雑誌「装苑」「Zipper」の影響でファッションやものづくりに関心を持ち、美術大学でテキスタイルを専攻。大手印刷会社の企画職を経て、2023年に株式会社レコオーランドに入社。若手クリエイターの発掘、トレンド発信などのコンテンツ制作に携わる。

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