Fashion モードノオト

「モードノオト」の日乗(其の五)

Onitsuka Tiger × ANDREA POMPILIO フィナーレ
Onitsuka Tiger × ANDREA POMPILIO フィナーレ
Image by: Fashionsnap.com
 

 標題は「ノートブック」と「音」を掛け合わせたもので、どうでも冴え冴え澄み切ったとはいかぬまでも、精一杯に濁りを排した目線でもって、服の作り手が奏でる音を抄(すく)いとってみたい。いっかな耳をすましても聴こぬ音かもしれない。あるいは書き手が野暮すぎて、たまさか拾う不協和音でしかないかもしれない。それでも作り手の内にある蒼白い焰(ほむら)の気配だけは書き残したい。これは、東京コレクション期間限定「モードノオト」的な日乗の断篇である。(文責:麥田俊一)

【3月20日(木)午後3時30分】
 「タンバリン」の会場に到着。会場は明るい。整然とした雰囲気が漂うのは、客席の4列が水平に伸びているのと、会場が明るいせいか。これまでの「ノゾミ イシグロ タンバリン」とは趣がことなる。此度のショーは、石黒望のモノ作りに長年携わってきたゴトウフミカの独り立ちのお披露目である。ブランド名からも石黒望の名を外して文字通り軽やかな出立だ。疾走感はそのままに、ラジカルなメッセージは鳴りを潜める。それが狙いなのだろう。

nozomi_ishiguro_tambourine2014320-20140320_001-s.jpg スウェットのフードから背中にかけて黄色いフェイクファーが縫い付けられている。獅子のたてがみのように勇ましく、かつユーモラスである。ネイティブアメリカンの民族衣裳に想を得ているのだろう。インディアンの横顔もプリントとして登場している。異なる格子柄のパッチワークやアートワークの如きプリント、裂いたり破いたりの破壊行為ではなく、極めてストリートに忠実な服を一等最初に据えたあたり、デザイナーの新たな表明と云えよう。肩からずり落ちそうな大判ニット、シャツテールに繋げたプリーツのオーバースカート等、男女のモデルを使い分けるが、性差を意識させないカジュアルと云う心棒はぶれない。世相や社会の矛盾に向けてアジるように声高な、迸る語り口を封印する代わりに、お行儀よくミックスマッチの過程をデザインに反映させている。薄い編み地のモヘアセーターは、穴あきの屑布とは対極にある繊細なニュアンスの服として晴れがましくもあり、接ぎだらけの生地は襤褸布とは異なるポップなパッチワークに生まれ変わっている。しかし、激変ではない。作り手のニュアンスの相違が具現されただけで、大股で闊歩する快活な調子は不変である。ちょうど五歳位の女児が母親と一緒に来場していた。ベンチシートの上に乗せられたれた人形のようで、愛らしくも微笑ましい。本人よりも背中に背負ったリュックの方が大きかった。かの女児の眼にはどのように映ったであろうか。

 【画像・詳細】tambourine

【午後5時45分】
 「ミハラヤスヒロ」のショー会場に到着。表参道にある旗艦店が会場である。東京でのショーは3〜4年振りのことではないだろうか。メンズとウィメンズが交互に登場する。店と云う私的な空間に相応しい演出だ。三原康裕と云う人は、反骨精神を懐りながら、モノ作りへの拘りを語らせたら立て板に水の如し、いっかな話し尽きることがない、激した情熱家型デザイナーである。日本の伝統的な意匠に眼を向け、自らの服に融合させようと試みて久しい三原は、今回も西陣織を随所に採り入れ、スノッブな服に絹織物特有の微妙な陰翳を与えている。スノッブと形容したが、特にメンズでは、軍モノやバイカーをアレンジしたテッズやモッズ(今回はモッドな臭いが勝っていた)のテイストが強い。これも三原の得手の分野だろう。上質な生地で仕立てたスウェットはコーディネートの鍵的存在。ハリスツイード(特に柄のピッチが異なるヘリンボーンの接ぎ合わせ)やツイードとデニムの接ぎ合わせ(尻ポケットやウエストの前立て部分)で見せるミックスマッチの感覚、シャツテールをポイントにした重ね着、前身頃を二重構造にした騙し絵的重ね着のデザインに三原らしさが窺える。牡丹や鳥と云った「和」の図案も然り。線描画に見られる牡丹柄はレースさながら、ひときわ繊細であった。

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 【画像・詳細】MIHARAYASUHIRO 2014-15年秋冬コレクション

【午後8時10分】
 「オニツカタイガー×アンドレア・ポンピリオ」のショーが始まる。銀色のボディスーツを着たモデルが暗闇を駆け抜けていく。宇宙ステーションがどうやら舞台らしく、それでいて着装しているヘルメットがモータースポーツに使うフルフェースに見えてしまうのはご愛嬌か。いまやアスレチックのテイストは数多のデザイナーにとっては必要不可欠な要素のひとつ。如何に上手く手懐けるか骨粉砕身する彼らの様が、各都市で発表されるショーを取材していて痛いほど伝わってくる。もちろんこのショーはその逆で、スポーツテイストを街着にアクセスさせるかが主眼である。ナイロン、メッシュ、マジックテープ等のシンセティック素材、スポーツ的細部、蛍光色に加えて、錯視効果を狙った幾何学柄がアスレチックと相性が好い近未来的なデザインに落とし込まれている。この場合の要所はツイードである。このクラシックな生地を異素材にアレンジすることで今様の均衡を模索した。八の字状の動線を駆け抜けるモデルたち。交差する折、衝突しないものだろうかと要らぬ心配の連続であったが、アイコニックな虎のプロフィール(横顔)だけは心に残ったのである。

 【映像・画像】Onitsuka Tiger × ANDREA POMPILIO 2014-15年秋冬コレクション

【午後8時50分】
 「ファセッタズム」の会場に到着。高い壁で空間は見事に真っ二つに分断されていて、着席すると向こう側が見えない。壁を見上げるように座っていると少しく圧迫感が兆してくる始末。壁が近すぎるのだもの。この狭い動線をモデルが足早に往くものだから、迫力が倍加される。もちろん服にも力があった。ボンディングして硬質感を持たせた生地は、思わず触ってみたくなるような男泣かせの素材感である。肉厚のレザーは一枚でもハードな風合いなのに、それを敢えて重ね着に採り入れた。異なるアコーディオンプリーツを重ねたオーバースカートは襞と襞を交錯させ、身頃にはフリルリボンを幾重にも重ねることで、厚みのあるデザイン、密度の濃い装飾を狙った。ジャケットとコートが重なり、ぶつかり合い、細部のデザインが凝縮されて生まれた衝撃波を至近距離からまともに受けちまったのだからひとたまりもない。勢いジンを呷るピッチも上がろう。

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 【映像・画像】FACETASM 2014-15年秋冬コレクション

麥田俊一(むぎたしゅんいち)
shunichi_mugita_01.jpg1963年7月神奈川県横浜市生まれ。
1988年玉川学園大学文学部外国語学科フランス語専攻卒。
服飾業界紙記者、ファッション誌編集長、ファッションディレクターを経て
2012年株式会社澁太吉事務所設立。
1990年代よりパリ、ミラノ、NYC、東京各都市のコレクション取材及び
ファッションデザイナーへのインタビュー取材を続け新聞、雑誌に記事を執筆。
現在「QUOTATION FASHION ISSUE」ファッションディレクター。

 (photo by Shuzo Sato)

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