Fashion モードノオト

「モードノオト」の日乗(其の八)

ANREALAGE 2014-15年秋冬コレクション
ANREALAGE 2014-15年秋冬コレクション
Image by: Fashionsnap.com
 

 どだい継続的にひとつ事を為すのが不得手な性分で、あまつさえ日記なぞ、論外。小学校の級長当番日誌以来である。記事の体裁ではなく日乗形式で書きたいと談判した手前、八日間とは云え、あだや欠かすわけには往かぬ。ショーの開始時間を中見出し的に使うがために、何処に居ても時間が気になる。腕時計が嫌いだから、ショーの前後で頻々と携帯電話(時間表時)をチェックする仕儀となり端(はた)からは、さぞや気ぜわしく見えたことだろう。

 標題を「モードノオトの日乗」としたのは、「ノート」を擬人化する、つまり取材者たる私自身を帳面に見立てたわけである。故に此度は原稿書きの折、実際ノートしたメモは一切見ずに、必死に脳裡に摺り込んだ印象にもとい稿を起こした。細部を穿つ描写を危うくするリスクはあるが、たとい謗(そし)られようとも、大仰だけれど自がフィーリングに誠実にありたかった。それをモードの「音」としたかったのである。また、少しくジンの酔いを借りたことも断っておく。

 過日あるショー会場で「相変わらず愚にもつかねえ字数稼ぎかよ。一体ひと文字幾らの仕事受けてんだよ」と、元上司に因縁を吹っかけられた。「知ったことか」と心中毒突くが、「えェ、まァ」と、相変わらずの傍若無人ぶりに思わず蹴倒してやりたいところを、苦笑いでごまかす。私にはどうでこのようにしか書けぬのである。日乗であるから、その日の折々の機微に触れておきたいがために、いっかな悪文勢いづくのである。端(はな)より分量は決められていたが、なし崩し的に駄文が嵩み、とどのつまり「字数制限はなしにしましょう」と小湊編集長にご配慮頂いた次第。さてもこの項が最終回である。(文責:麥田俊一)


【3月28日(金)】
 「クリスチャン ダダ」が、東京で最後のショーを昭和初期に建造された小笠原伯爵邸で発表すると云う。前回意表に出た「和」への傾倒ぶりで新たな境地を見せてくれ、パリコレクション参戦の布石となろう今回のショーである。ますますもって興味が掻き立てられよう。


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【午後6時30分】
 会場に到着。勇み足で、少しく早く着いてしまった。受付付近で開場を待つ。黒ずくめ、ゴス、漢字柄のプリント(前回のショーで登場した作品だろう)を纏った、ヒョロッとした男たちが音もなく集まり来る。「ダダ」マニアの集会のようである。

 気配を感じさせぬまま突然、大音響でパンクが流れてショーが始まった。供されるまま、シャンパンなぞに気を許して無防備なところに、ナイスなタイミングではないか。こちらの肝をグッと掴む始まりから、スキンタイトなレザー、野性味溢れる毛皮をふんだんにあしらった服が疾走する。シャンデリアの明かりのもとで繰り広げられるショーを見ていると、パリに見参する前の、かの「ナンバーナイン」のVolga(東京タワー近くにあったロシア料理屋)での伝説的なショーを想い出してしまった。しかしボンヤリと回想に耽っている時ではない。ウィメンズを出さずメンズに絞り込んだ気概、レザーの質感、パターンメイキングともに過去の作品にはない水準の高さと見た。赤や爽やかなグリーンを使った格子柄は、金糸を差した黒のジャカードに比べて「らしさ」が薄れちまったように見えるが、この際パンクで展開しようとする森川マサノリの如才ないリップサービスと受け取ったが好いだろう。

 前回森川は「和」の紗幕越しに曩時の暴走族、昭和のヤンキーと云った懐古的浪漫を見せてくれた。昨年来、私の中では俄然、この「トッポさ」が大きなテーマになっていたから、「お若いの、中々出来るわい」と独り悦に入っていたのである。今回は丁度、その普及版とでも云おうか。モッズやテッズ、パンクと云った英国由来、往時のビートと蜜月時代を過ごしたカルチャーに舵を切っている。簡明直截な表現であるが、そのぶん少しくフックに欠ける印象も残る。パンクの狼煙とも云えるユニオンジャックがフィナーレを飾った。英国、ロンドンはモノ作りの原点であると云う森川らしい粋な計らいである。前回のアイデアはロンドンコレクションのために温存しておきたかった、と云う彼の言葉を思い出して、ショー終了後の舞台裏に急いだ。「ほんとはロンドンでやりたかったんじゃないの?」と水を差すのは野暮の骨頂である。森川は云う「今年6月のパリメンズ参加に向けて最終調整に入っています」。是非にも続けて欲しい。


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 【画像・詳細】CHRISTIAN DADA 2014-15年秋冬コレクション「∞/INFINITY」


【午後8時20分】
 「アンリアレイジ」の会場に到着。「ファセッタズム」の落合宏理が来ている。前シーズンの「ファセッタズム」のショーには「アンリアレイジ」の森永邦彦が姿を見せていた。なにがしかの交流があるのだろう。力技、直球勝負でいまを描こうとする落合の眼には、ストーリーテラー的な発想で変化球を投げ分ける森永はどのように映ったことだろうか。

 会場には電飾を内蔵した舞台が設えてある。点滅する箱は、往時のクイズ番組を彷彿させる四辺の電飾パネルを連ねた舞台である。縦のコマが赤く色付き、濃くなったり薄くなったり、急激に上下する柱は温度計の目盛りをイメージして、ひっきりなしに伸び縮みを繰り返す。


anrealage-2014aw-20140328_038s.jpg 服は寒色から始まり、暖色系へ。舞台の電飾に煽られ、季節の彩りを投影した服が鮮やかである。森永は以前、骨や筋に着眼したことがある。愉快なデザインだった。今回は解剖学的な所見に加えて、環境、つまり日本の四季の移ろいにも言及しているようである。つまり体温と気温である。人体のメタモルフォーゼを服に定着させようと、色彩、柄出し、編み地、ハイテク生地への探究、取り組みにさぞや汗したことだろう。古典的な柄には、体温の高低差をグラフィカルに処理した模様がアレンジされている。ハイテク生地は、近未来的なスタイルではなく、むしろクラシックなデザインに変換されている。このあたりの作意が森永らしいのである。

 何百、何千の眼(まなこ)が見守る。色が変わるの?カタチが変わるの?それとも?純粋に、夢見心地に期待する大半の眼に混じり、容赦なく目新しさを見つけようとする眼、眼、眼。変容を期待して止まぬ視線。そのアイデアが擦り切れようと、手加減する事なくこれまで通りのテンションの高さ、いやそれ以上の過激さを求める視線。この路線を自ら敷いたのは森永自身である。酷な言い分であるが、この外圧に十二分に抗ってこそ本物である。しかし残念ながら、クリエーションの張力は依然緩んだまま。いまだ滾(たぎ)りを感じない。見せ場は終始重たい空気に支配された。会場を後に駅に向かう途中、街路灯に照らされた淡い夜桜がやけに心に沁みた。つくづく「変えられないのだろうなァ」なぞと、無礼承知ながら、つい愚昧な我が身に重ねてしまうのである。


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 【画像・詳細】ANREALAGE 2014-15年秋冬コレクション「SEASON」


 どうでジンがやりたくなった。地下鉄に乗る。車中、ふとした場面にでくわした。ショー帰りであろう女子二人組みの会話をなんとなく耳にしていたが、たわいのない談笑の合間に、一人がトートバッグから、やおら小さな温度計を取り出した。それは招待状が入った封筒に同封されていたものである。こちらの濁った眼にはどうで映りようもない夢を、まるで反芻しているかのように、かの女子は愛おしむように温度計を指でなぞり、そっと鞄に仕舞ったのである。その何気ない仕草に、少しく救われた気分だった。結句、そんな身勝手な心持ちが今夜もジンに向かわせるのであったが。

麥田俊一(むぎたしゅんいち)
shunichi_mugita_01.jpg1963年7月神奈川県横浜市生まれ。
1988年玉川学園大学文学部外国語学科フランス語専攻卒。
服飾業界紙記者、ファッション誌編集長、ファッションディレクターを経て
2012年株式会社澁太吉事務所設立。
1990年代よりパリ、ミラノ、NYC、東京各都市のコレクション取材及び
ファッションデザイナーへのインタビュー取材を続け新聞、雑誌に記事を執筆。
現在「QUOTATION FASHION ISSUE」ファッションディレクター。

 (photo by Shuzo Sato)

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