Fashion モードノオト

「モードノオト」の日乗(其の六)

MIKIO SAKABE 2014-15年秋冬コレクション
MIKIO SAKABE 2014-15年秋冬コレクション
Image by: Fashionsnap.com
 

 標題は「ノートブック」と「音」を掛け合わせたもので、どうでも冴え冴え澄み切ったとはいかぬまでも、精一杯に濁りを排した目線でもって、服の作り手が奏でる音を抄(すく)いとってみたい。いっかな耳をすましても聴こぬ音かもしれない。あるいは書き手が野暮すぎて、たまさか拾う不協和音でしかないかもしれない。それでも作り手の内にある蒼白い焰(ほむら)の気配だけは書き残したい。これは、東京コレクション期間限定「モードノオト」的な日乗の断篇である。(文責:麥田俊一)


【3月21日(金)午後6時10分】
 「ミキオサカベ」のショー開始。若い世代に注目されているだけあって、会場の規模に比して集客力があることに驚かされる。坂部三樹郎とシュエ・ジェンファンの二人組とも長いつきあいである。「つまらない」とか「意味がない」など、デビューしたての彼らに悪態口をきいたことも、いまではすっかり昔話。一笑に付してくれよう。さんざ毒突かれてもへこたれないのは、二人が服に対して固い信念を持っていたからだ。それは彼らにとって信仰心のようなもので、それをぎこちないながらも頑なに守り続けているから、こちらも対峙する意味合いがあるのだ。私は彼らが好きである。

 一見、性差を超越するかの如きデザインに見えるが、これは立派にメンズのショーである。自棄っぱちに映るが、毅然としてコンセプチュアルなデザインである。ショーは、男の子がボディコンシャスなドレスを着て登場する、悪趣味を絵に描いた如き、誤解承知のものだった。男の子の中に潜む女性性に眼を向け、それをデザインに落とし込み、発展させようと云う試みを、連作形式で見せている。昨年ロンドンでジョナサン・ウィリアム・アンダーソン(「J.W.アンダーソン」)が性差を解き放ったメンズコレクションを発表して話題を攫ったが、「ミキオサカベ」はそれに先んじてかのテーマを懐り、カタチにしようと悪戦苦闘していた。

mikiosakabe-140321_056-s.jpg さて、ショーを振り返ってみよう。ポルカドットになぞって愛らしい星型を乗せたファンタジー、レースの縁飾り、シャーベットのような甘い色彩、生脚を晒す着丈の短いボクサーパンツ。なかなかに愉快である。肩の下で切り取られたチャイナドレスの残骸が首回りを飾る不思議な装飾となっている、ビーズを連ねたフリンジ刺繍、エンブロイダリーやジャカード等で、中華的装飾をふんだん採り入れている。ジェンファンの故郷である台湾に因んだのだろう。漢字プリントもある。

 服でもアクセサリーでもない意味不明なパーツに私は注目した。拡大した文字を象ったフェルト製のオブジェだ。レーザーカットで風穴を開けたフェルトの服よりも、身体を覆う部分が極めて小さい。服をタブローにたとえた斬新なデザイン(識者諸氏にあっては「プラダ」の事例を思い浮かべることだろう)に剣突を喰わせたかの如し。記号を服に見立てたアイデアが痛快である。漢字には明朝体、ローマ字にはロココ風の書体を使っている。「LOVE」なるメッセージは受け止めたが、流石に中国語の意味までは見当がつかない。ショー終了後の舞台裏で聞いたのだが、意味のあるものもあれば、人の名前風のものもあり、「僕自身、ジャンファンから教えてもらっていない言葉もあります」と坂部。おとぼけかと思いきや、この間の悪さ、不思議なテンションが坂部流なのである。「人にプレッシャーをかける、ちょうどミキオのような性格を指す言葉も使っています」。坂部に聞こえぬよう、こっそりジャンファンが私の耳元で囁いた。ショーには堀内太郎、玉井健太郎等、交遊のあるデザイナーが顔を見せていた。堀内は愛息を連れている。眼に毒ではないのか、とほき出そうとするも寸前で思い止まる。

 【映像・画像】MIKIO SAKABE 2014-15年秋冬コレクション


【午後7時】
 ジェンファンがデザインする「ジェニー ファックス」の新作が「ミキオ」の会場の隣で見られると云うではないか。次の取材まで時間は充分ある。早速迷路のような会場内を進み「ジェニー」を目指す。坂部とジェンファンが二人で「ミキオ」と「ジェニー」ふたつのブランドを手掛けているわけだが、「ジェニー」はジェンファンが主導権を握り、主従関係が明確になっている。「ジェニー」がウィメンズ、「ミキオ」がメンズと云う棲み分けもなされていて、ショーとプレゼンテーションの発表形式もシーズン毎に交互に変えている。「最近『ジェニー』人気に押され気味ではないの?」と坂部を揶揄したことがある。「それが問題なんですヨ」と苦笑いする坂部。しかし今回は面目躍如と云っても好いだろう。

 狭いブース内にハンガーに掛けられたカットソーやトレーナーが並んでいる。「ドン底のテンションにあったときにデザインしたから、今回は限りなくハッピーになれるような服にしました」とジェンファン。プリントには「沈没しないかな」と云うメッセージが載せられている。なかなかにユニークである。つねに「ジェニー」には作り手の心象風景にある、底知れぬ暗部がデザインに投影されている。残酷性、諦観、嫉妬...。どうも「可愛い」と短絡な評価に収まる節があるが、このブランドは生身の人間の負の情感に根差していて、それが大きな魅力なのだ。ときにホラー映画の如き怖気(おぞけ)を感じてしまう程だ。


【午後8時20分】
 「アリス アウアア」の会場に到着。流石に会場では、女子は黒髪か銀髪に黒装束、男子は黒のレザーパンツと銀のゴツい指輪を重ね付けと云うゴスな拵えがとりわけ眼につく。「ミキオサカベ」とは対極の風景である。

 モデルの顔を覆い尽くす黒いフェースマスク、太く束ねた黒髪が一角獣の角の如きヘアメイク、コルセットのレースアップ、サイハイブーツの切っ先のようなヒールには金輪が掛けられている。大きく割られたヒップのスリットからはシルバーの貞操帯が覗くデザイン。貞操隊からはサーベルの如き蔓が伸びていて、シルバーの尻尾のよう先が丸くカーブしている。ひび割れた爬虫類の皮膚のような乾いた質感も不気味である。ビザールやボンデージに想を得ているが、エグミは感じさせるものの終始淡々、美的情操、つまりエロスが伝わって来ない。

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 【映像・画像】alice auaa 2014-15年秋冬コレクション


【午後9時15分】
 気が付くと会場は人で埋め尽くされようとしている。「エー ディグリー ファーレンハイト」のショーである。薄暗闇の空間に続々と人が呑み込まれていく。定時から30分遅れで開始。周囲から「パリコレ並みだなァ」と云う声が聞こえてくる。所謂カタチを創る立体裁断の技、硬軟ある生地を巧みに操るドレーピングの妙が持ち味のブランドである。残念ながらここ数シーズンは、それ以上、それ以下でもないのだ。無類に上手いのであるが、新たな展開、ドキドキさせてくれるスリルが欲しい。破綻のないスタイリストで終わって欲しくない。今日はどうやら「ミキオ」礼讚になって仕舞ったわい、と猛省を促しつつジンをグッと呷る始末。

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 【画像・詳細】A DEGREE FAHRENHEIT 2014-15年秋冬コレクション

麥田俊一(むぎたしゅんいち)
shunichi_mugita_01.jpg1963年7月神奈川県横浜市生まれ。
1988年玉川学園大学文学部外国語学科フランス語専攻卒。
服飾業界紙記者、ファッション誌編集長、ファッションディレクターを経て
2012年株式会社澁太吉事務所設立。
1990年代よりパリ、ミラノ、NYC、東京各都市のコレクション取材及び
ファッションデザイナーへのインタビュー取材を続け新聞、雑誌に記事を執筆。
現在「QUOTATION FASHION ISSUE」ファッションディレクター。

 (photo by Shuzo Sato)

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