
左からピエール=ジュニア・メナナ、アリス・ジェンス
Image by: NOTES DE BAS DE PAJE

左からピエール=ジュニア・メナナ、アリス・ジェンス
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かつて法律の道を志していた2人が、香りの世界へと転身して立ち上げたフランス発のフレグランスブランド「NOTES DE BAS DE PAJE(ノート ドゥ バ ドゥ パージュ)」を知っているだろうか。ブランド名に掲げる“脚注”というコンセプトのもと、香りに2人の物語を重ねながら、独自の世界観を築いてきた。
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立ち上げから3年。ニッチフレグランス市場が広がりを見せる中で、彼らはどのように自身の立ち位置を捉え、何を大切にしているのか。アリス・ジェンス(Alice Gensse)とピエール=ジュニア・メナナ(Pierre-Junior Menana)に、ブランドの誕生秘話や制作背景、そしてニッチフレグランス市場での展望について聞いた。

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目次
法律からフレグランスへ──2人が見つけた香りという言語
⎯⎯お2人は元々弁護士を目指していたのですよね。なぜ全く異なるフレグランスの道へ進んだのでしょう?
ピエール=ジュニア・メナナ(以下、ピエール):2人とも本当に情熱を持てるものが、別のところにあると気づいたからなんだ。
出会った当時、僕たちは弁護士試験の準備をする学生だった。将来は一緒に法律事務所を開こうと話しをするくらい、法律以外の道は考えていなかったんだよ。しかし、互いを深く知るにつれて、法律は本当に情熱を持てるものではないことに気づいた…。そこから将来についてアイデアを出し合っていたとき、アリスが「香水を作ろう」と言ってくれて。この最高の一言がすべての始まりだったんだよ。
⎯⎯香水には元々詳しかったのですか?
ピエール:僕はニッチフレグランスが好きで、その影響でアリスもすぐに夢中になって、共通の趣味として楽しんでいたんだよ。ただ、あくまでファンとして楽しんでいたので、香水ブランドを運営する方法については全くの無知だった。会社の経営はもちろん、香水がどのように作られるのかさえまったく知らない状態からのスタートだったよ。
⎯⎯そこからどのようにブランドを立ち上げたのでしょう?
アリス・ジェンス(以下、アリス):一番の課題は、サプライヤー探しと、ブランド立ち上げからフレグランス開発までのプロセスを一から理解することでしたね。規制も多く、最初は何も分からなかったから、自分たちで調べたり、さまざまな人のもとを訪ねたりしながら、ひとつずつ学んでいきました。香水を愛することと、それを実際に作ることはまったく別のことだと痛感したんです。
また当時、香水業界で唯一の知り合いに相談すると、「やめたほうがいい」と言われたぐらい。フランスは香水の長い歴史と高い専門性を持つ国だし、実際に市場は飽和状態にあるので無謀だと…。それでもむしろ、「挑戦すべきだ」と確信したんです。自分たちには、この世界に新たな風を吹かす何かがあると信じていたから。

Image by: NOTES DE BAS DE PAJE

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⎯⎯脚注を意味する“NOTES DE BAS DE PAJE”というブランド名にはどのように辿り着きましたか?
ピエール:法律を学んでいた僕たちにとって、“脚注”はとても大切な存在だった。読み飛ばすこともできる、言ってしまえばささやかな部分なんだけど、きちんと読めば、最初は知らなかったことや、表面的にしか理解していなかったことに新たな発見をもたらしてくれる。
僕たちは香りを、一種の“脚注”のようなものだと考えたんだ。誰かの香水の香りを感じることで、その人について少し深く知ることができる。香りの好みはもちろん、その人が大胆なのか控えめなのか、独創的なのか好奇心に満ちているのか…。香水を通して、その人の輪郭が自ずと浮かび上がってくる。その豊かな気づきこそ、何より魅力的な瞬間なんだ。“脚注”のように美しく意味のある香りを丁寧に創り出すことを目指し、この名前に決めたんだ。
⎯⎯「page」のスペルをあえて「paje」の変えているのはなぜでしょう?
ピエール:ブランド名に個人的なタッチを加えたかったからなんだ。香りを通して自分たちの人生から生まれた物語を語っているから、2人のイニシャル「P」と「A」を組み込んで「paje」と付けたんだ。
⎯⎯法律の知識はブランド運営にどのように生かされていますか?
アリス:法律で培った考え方や働き方が、ブランド運営に大きく役立っていると思います。法律の世界では、細部まで正確であることが求められ、あらゆる事柄を予測し、説明できなければなりません。この経験を通して、ブランドを立ち上げる前には、長い時間をかけて一貫性のある、練り上げられたメッセージを作り上げることができました。
また、私たちは知的財産を専門としていたため、会社の運営やブランドの発展においても大きな強みになっていますね。契約書の作成や交渉も自分たちで行えるので、非常に価値のあるスキルだと思っています。法律分野でのバックグラウンドを後悔したことは、一度もありません。

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“脚注”から広がる4つの物語
⎯⎯現在計4つの香りを展開しています。いずれも香りを通して物語を紡ぐことを目指しているのですよね?
ピエール:そうなんだ。香りとそこに添えた“脚注”を通して、本の世界に没入するように、香水の世界にも深く入り込んでいただきたいと考えているよ。
「プロレゴメネス(PROLEGOMENES)」はセーヌ川のほとりで始まる見知ぬふたりの物語を、「オラトゥア(OLATUA)」忘れられないひと夏の記憶を、「トゥウェデ(TOWEDE)」は私の母の人生を表現しています。この3種は物語の序章をイメージしていて、文学のジャンルで言うとこれらは古典的な小説にあたるね。
⎯⎯2026年3月に4つ目の香り「カランボラージュ(CARAMBOLAGE)」を発売されました。
ピエール:カランボラージュは、私が数年前に経験した交通事故から着想を得ているんだ。厳密に言えば、それは玉突き事故ではなかったのだけど、人生の中で起こったさまざまな出来事の連なりの中にある一つの出来事だった…。だから、玉突き事故と表現したんだ。この香りはノワールやスリラーのような雰囲気の物語をイメージしているよ。

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CARAMBOLAGE
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⎯⎯この香りにはどのようなメッセージが込められているのでしょうか?
ピエール:私たちはこの香りを通して、どんな出来事からでも立ち直る力「レジリエンス」を伝えたいと思っているんだ。人生には、多くの困難や思いがけない出来事が待ち受けているけど、たとえトラウマとなるような経験であっても、そこから何か美しいものを生み出すことができる。今回の香水は、その考えを一つの形として表現した作品だと思う。
香りの印象もこのメッセージを反映して、最初は衝撃的で意外性のある香りが立ち上がり、次第に爽やかで明るい香りへと変化していくように仕上げた。この作品は、私たちのブランドにとって一つの転換点となっているんだ。
⎯⎯新作のローンチに合わせてパッケージを刷新。理由を教えてください。
アリス:ブランド立ち上げ当初から大切にしてきた文学的な側面をより明確に形にすることで、お客さまに私たちの世界観により深く入り込んでいただきたいと考えたからなんです。そのため、12ページの小冊子をパッケージの一部として加えました。内容はそれぞれの香りをイメージした短編小説になっています。

新しいパッケージ
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⎯⎯ 一番人気の香りはどれでしょうか?
アリス:ありがたいことにどの香りも良い反応をいただいていますが、中でもトゥエデが最もよく選ばれていますね。
この香りは、ピエールの母へのオマージュとして生まれました。彼女の出身地であり神秘的な文化で知られる西アフリカの国・ベナンから、その後生活の拠点を移したヨーロッパへと続く旅の物語を表現しています。本当に誰かに抱きしめられているような感覚を与えてくれる、まさに“気分を良くしてくれる”フレグランスなんです。

Image by: NOTES DE BAS DE PAJE

Image by: NOTES DE BAS DE PAJE
⎯⎯日本人におすすめの香りを選ぶとしたら?
アリス:すべての香りをおすすめしたいところですが、あえてひとつ選ぶとしたらオラトゥアです。オラトゥアはバスク語で「波」を意味するので、葛飾北斎の有名な波を連想する人もいるかもしれませんね。この作品は、ビアリッツの海辺で過ごす夏からインスピレーションを得た、とても繊細でやわらかな香りです。日本は海に囲まれた群島の国なので、この香水が呼び起こす海辺の空気感に、どこか懐かしさや心地よさを感じていただけると思います。
広がるニッチフレグランス市場と揺るがない哲学
⎯⎯かつては“知る人ぞ知る”存在だったニッチフレグランスが、SNSを通じて可視化され、若い世代にとって一種のステータスにもなっています。この現象をどのように見ていますか?
ピエール:確かに、ニッチフレグランスの世界は大きく変化したと思うよ。私が興味を持ち始めた約15年前も多くのブランドは存在していたけど、当時はまだ限られた人のための、本当に愛好家の世界という印象だった。
今は若い世代の間に「他とは違う自分を表現したい」という強い意志があり、その結果としてニッチフレグランスが改めて注目を集めているんだと思う。私はそれを悪いことだとは思っていない。クリエイティブであり続ける限り、むしろとてもポジティブな変化だと捉えているんだ。
⎯⎯ニッチフレグランス市場の拡大とともに、売上や規模の成長も求められています。芸術性と商業性のバランスについては、どのように考えていますか?
アリス:私たちにとって、何よりも大切なのは品質です。手に取ってくださる方にとって、本当に大切にしたいと思えるような製品を届けることを一番に考えています。だからこそ、目先の成長を追うのではなく、長い時間をかけてブランドを育てていきたい。数は少なくても、自分たちが心から納得できる香りであり、きちんとした物語を持った作品を丁寧に生み出していきたいと考えています。
⎯⎯今年でブランドは3年目を迎えますが、もしブランドそのものが一冊の本だとしたら、いまはどの章にいると思いますか?
アリス:ちょうど最初の章に入ったところだと思います。エピローグにたどり着くまでには、まだ長い物語が続いていくはずです。
⎯⎯今後ブランドをどのように成長させていきたいですか?
アリス:このブランドが長く続き、それを知ってくれた人の心に触れ続ける存在であってほしいと願っています。
具体的な売上目標を設定しているわけではありませんが、大きな成功を収めてほしいとは思っています。しかしそれ以上に、ノート ドゥ バ ドゥ パージュが香水だけでなく、私たちが大切にしている読書や芸術の価値を広める存在になれたら嬉しいです。
ピエール:私たちの語る“物語”が、これからもっと多くの人の心に届いてほしいと思っているよ。そして香水の世界において、欠かせない存在になりたい。同時に、文学とその発展にもより一層力を注いでいきたいと思っているんだ。文学は社会にとって、とても大切なものだと信じているからね。

Image by: Jim Browski
最終更新日:
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