IMAGE by: モリハルナ
人気美容師の半生に迫る連載第9回。今回はファッションアイコンとしても注目を集める、groovy hairモリハルナさんをフォーカス。ヘアアクセを中心とするブランド「hood」を展開するなどマルチに活躍するモリさんの魅力を、彼女が撮影した写真とともにひも解きます。
#9 モリハルナ
インスタグラム
神奈川県出身。日本美容専門学校卒業後、2店舗を経てフリーランスに転向。2022年3月に高校の同級生、佐藤拓人さんと共に東京・学芸大学駅にgroovy hairを設立。多彩なセンスで自身がファッションアイコンとなり、多くの女性客を熱く惹きつける。ヘアアクセを中心としたブランド「hood」も展開中。
【店舗プロフィール】
groovy hair グルービーヘア
学芸大学駅からほど近いビルの一角にある小さなヘアサロン。マンツーマンで行われるサロンワークはホスピタリティも高く、リピーターも多い。
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ー美容師になったきっかけを教えてください。
絶対に美容師になりたいというより、「なるんだろうな」という思いが昔から自然とありました。特に理由はないのですが、その思いに漠然と身を任せてここまできたという感じです。中学を卒業したら美容科のある高校に行こうとしていたところ、「高校を出てから専門学校に行けばいいんじゃない?」と親に言われたこともあり、日美に進学しました。
ー専門学生時代はどんな学生でしたか?
学生生活の中で一番楽しかったのが専門学校でした。やっぱり同じ目的を持った子たちが集まってくるので、今までとは環境もガラッと変わりそれがおもしろかった。学科は苦手でしたが、学校のコンテストのセット部門で賞を取ったりもしましたね。
就活では、第一志望だった個性派サロンの試験を受けたのですが落ちてしまい…。そこからは「自分の好きな街で働こう」と指針を決め、好きな街だった東京・高円寺でサロンを探しました。
ー“好きな街”で就職先を決めるのって珍しいですね。
大手のサロンに入りたいという思いもなく、表参道などで自分が働いているビジョンも全く持てなくて…。どちらかというと、カルチャーのほうが好きで、高円寺の雰囲気が魅力的だったんですよね。今のサロン、groovy hairがある学芸大学も高円寺に少し似た雰囲気がある場所なので。そういう場所が好きなんですよ。
ー高円寺の美容室とさらにもう一店舗を経て、その後はフリーランスを2年経験されていますね。
デビューする前から、今の相方(佐藤拓人さん)といつかお店を持ちたいねという話をしていたんです。相方は高校の同級生。数字的な意味でも、技量的な意味でも自分たちがどれくらいやれるかわからなかったので、一度自分を試してみようとフリーに転向しました。フリーはgroovy hairを始める前の準備期間という位置付けでした。そこでついてきてくださるお客さまは、きっと場所が変わってもずっとついてきてくださると思っていたところもあります。
ー現在営業はアシスタントをつけずにおひとりでサロンワークを?
そうです。過去、アシスタントを4人くらいつけて営業していたこともあるのですが、「それってどうなんだろう?」という疑問があって。お客さまは私を指名して来てくれるけど、結局カットの5分間しか一緒の時間を作れない…。目まぐるしいと結局何を会話したかさえも覚えていない。そういう忙しいサロンワークより、最初から最後まで自分で担当したほうが自分も安心だし、ちゃんと寄り添える。付加価値としていいんじゃないかなって。ひとりのお客さまに対しての時間は当然ですが、濃くなりますしね。
ーモリさんにとって美容の仕事はどういう存在ですか?
美容は、日常を切り抜くものだと思っています。その人(お客さま)は髪を毎日さわりますよね。そういったお客さまの毎日に寄り添い、お客さまの人生と一緒に自分も年を取っていけたら。それが好きで、美容師をやっていますね。
ー最近ヘアアクセ「hood」というブランドも立ち上げられたとか?
かんざしを使ったヘアアレンジをInstagramのリールにアップしたら、そのかんざしの制作工場の社長さんの目に止まり、それがきっかけでヘアアクセをつくらせていただいています。それ以外でもありがたいことにちょこちょこアパレルの会社からもお声がけいただいていて、最近ではフリークス ストアとのコラボもやらせてもらいました
ーご自身のブランドを持つというのも目標のひとつでしたか?
いえ、それはなかったです。自分のほしいものをつくって、それにたまたま「hood」という名前をつけたというかんじです。来年からは服のブランドもつくろうと考えていますが、あくまでも “発信”という意味合いでやっていきたいと思っています。
「hood」のかんざしとコーム、ゴム。まとめ髪につけるだけでこなれ感がアップ
ーモリさんのおっしゃる“発信”とは?
発信することも、美容師の仕事の一環だと思っています。特に女性美容師の場合、その美容師自身に憧れを持って来店してくださるお客さまが多い気がするんです。実際私のお客さまも、私の好みを知っていてそれが好きで来てくださる方が多くて。
実は私、Instagramにはヘアスタイルを一切投稿しないんです。一見何をしている人なのかわかりにくいんですけど(笑)。ヘアをアップしているときも過去にあったのですが、まったく伸びなくて…。そこからヘアの投稿をぱったりやめ、自分自身を発信していく方向に切り替えました。そこからフォロワーも伸びた気がします。
ーたしかにInstagramはモリさんご自身の投稿が多いですね。
「私はこういうものが好きです」という発信が、結局仕事につながっているようで。好みが似ている方が自分もそのお客さまのことを理解しやすいですし、1言えば10わかる関係をお客さまと築けます。
同時に、今は何かしらで発信していかないと戦えない時代なのかなとも思っていて。めちゃくちゃ美容師さんはいっぱいいて、その中には上手な人もたくさんいる。見つけてもらうには、発信をしていかないと結局いないことと同義になってしまうので。
ー今後どういった力が美容師に必要だと思いますか?
お店の力を借りて営業するというより、SNSが普及してきたおかげで個人が力をつけなきゃいけない時代になったと感じています。だからこそ、「ファッション特化型」や「ハイトーン特化型」など何か強みに“特化”する力が必要かも。
ー何を発信するか、特化したら良いかわからない人も多いのでは?
何に特化したらいいのかわからないという方は、人から「すごいね」と言われたことを思い出してみてください。自分ではそうでもないと思っていても、意外とそれは自分の強みだったりする。些細なことでもいいんです。例えば、「部屋がきれい」な人は、きっと片付け上手として重宝される。「ご飯を食べることが好き」な人だったら、その情報量を営業トークで活かせばいい。些細なことから特性に派生していくことはあると思うんです。そういうのが大事なんじゃないですかね、この仕事を本気で選ぶのなら。
ーなるほど、誰にでも何か“特別”なことがありそうですね。では最後に、将来の夢を教えてください。
人生の節目でまわりの人に助けられてきました。アパレルとのコラボも、昔モデルハントした子がバイヤーとなってつないでくれたり、ヘアアクセをつくるチャンスを製作工場の社長さんにもらったり、リールの投稿のきっかけをくれたのもじつは夫なんです。
そうやって自分の実力じゃないところで、人生が動いてきた実感がある。その分、その人達に返していきたいんです。今は自分の夢というより、恩返しをしたい気持ちのほうが強いかもしれません。
店内の様子。窓からやさしい光が差し込む空間。変形ミラーも美しい
(写真:モリハルナ、企画・編集:福崎明子)
編集者、ライター
出版社2社を経て独立。書籍の企画・編集、ブックライティング、記事等のインタビューなど活動中。ペンギンが好き。「now&then」の聞き手、文を担当する。
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