
Image by: Steve's POV
“JDM”と呼ばれる日本車が、近年世界中の車好きから熱視線を集めている。JDMは「Japanese Domestic Market」の略で、本来は日本市場向けに生産された車を指す言葉。現在では、特に1980~90年代の日本のスポーツカーや、その改造を含めたカルチャー全体を指して使われることが多い。かつて日本では“走り屋”のイメージが強かったそれらの車は、映画「ワイルド・スピード」やレースゲームの世界的ヒットにより、今や漫画やアニメに並ぶ日本のクールコンテンツになった。そんな日本独自の車文化を、流暢な日本語で発信しているのがYouTubeチャンネル「スティーブ的視点」のスティーブさんだ。スティーブさんの発信を通し、日本人は逆輸入的にJDMの魅力に気づき、海外の車好きは日本の車文化への興味を深めている。米テキサス州在住のスティーブさんにオンラインで聞いた。
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スティーブ/YouTube「スティーブ的視点」オーナー

Image by: Steve's POV
1970年、アメリカ生まれ。大学時代に比較政治学や経営学を学び、日本や日本経済に興味を持つ。大学3年時に初めて来日し、埼玉の養鶏場にホームステイ。その経験を語った全米日本語弁論大会で最優秀賞受賞。卒業後は日本でのサラリーマン生活をスタート。1999年に米カリフォルニア州に移住、2020年にテキサス州に移住。2013年に開始した日本語発信のYouTube「Steve’s POV Steve’s Point of View スティーブ的視点」は、登録者数が77万人。現在はYouTubeを手掛けながら、「ほし」というブランドで日本食カフェや焼肉BBQ店を経営。インスタグラム(@stevespov)も日本車好きたちに人気。
円安でJDM人気が加速





カーミーティングに参加するトヨタ86
Image by: Steve's POV
──日本ではここ数年で、「JDMがアメリカで人気」といったニュースを頻繁に目にするようになりました。本当に盛り上がっているのでしょうか?
かなり盛り上がっていて、日本車は大人気です。背景にはさまざまな理由がありますが、今の若い人たちが幼いころから親しんできた映画「ワイルド・スピード」シリーズや、レースゲームの「ニード・フォー・スピード」などの影響は大きいですね。
私は今56歳ですが、日本車がアメリカ市場で支持を広げたのは1970年代以降です。アメリカに日本車が入ってきた当初は、「安いけど壊れやすい」というイメージがあった。でも実際に買った人たちが「壊れない」「燃費がいい」「よくできている」と気づいたんです。そこからホンダ「シビック」「アコード」、トヨタ「カムリ」「カローラ」などが爆発的に売れて、日本車自体の信頼性が高まっていったという歴史があります。
──安さや燃費ではなく、カッコよさで支持された日本車は当時はなかったのでしょうか?
当時からアメリカのスポーツカー市場に強い影響を与えていた唯一の存在と言えるのが、日産の「フェアレディZ」ですね。アメリカでは「ダットサン240Z」「260Z」「280Z」として売られていました。本当に大人気で、僕が若いころにも、新型Zが出るたびに買い替えている車好きがいました。すごくカッコいい車というイメージが当時からあったんです。
──JDM人気がアメリカで本格的に拡大したきっかけとして、「25年ルール」についてよく言及されます。
アメリカには、1988年に制定された「製造から25年以上が経過した車であれば、海外仕様車を輸入できる」という制度があります。それが「25年ルール」。アメリカで売られている日本車は、基本は左ハンドルのアメリカ市場向けに作られた車(USDM)ですが、日本市場向けの右ハンドル車や日本限定車も生産から25年経って輸入できるようになった。それで、1990年代に生産された名車のスポーツカーや軽トラックなど、それまでアメリカに存在しなかった日本車が近年一気に入ってきたんです。
さらに今は円安もあります。日本の車はちゃんと整備されていて、状態のいい車両を比較的安く輸入できることで、「買ってみたい」と思う人が増えています。
日本車が集まる米国のカーミーティングを紹介するYouTube「スティーブ的視点」
──スティーブさん自身が感じる、JDMや日本車の魅力は何ですか。
第一に、いい車が多いんですよ。日本のメーカーは、1970〜90年代に本当にすごいものを作っていました。第二に、僕はカーミーティングでずらっと並ぶような車ではなく、他では見掛けないユニークな車が好きなんです。アメリカでJDMに乗っていると、他の人とかぶる確率が低い。JDMを走らせているとすごく注目されるし、みんな笑顔になります。親指を上げるサムズアップのポーズをしてくれたり、「カッコいいね」って声をかけられたり。周囲の人を笑顔にできるところが楽しいですね。
僕や家族は日本車を何台か所有していますが、そのうちの1台が“ハコスカ”と呼ばれる日産「スカイライン」です。名前を知らない人でも、車好きなら見れば「カッコいい」「いい車だ」と感じると思う。僕は大学時代に初めて日本に行って、ハコスカをはじめ、それまで見たことがなかった日本車をたくさん見ました。シャコタンなど、日本独特の車の改造も面白いなと思ったし、靴を脱いで車に乗る人がいたり、タクシーがピカピカだったりといった、日本の車文化のさまざまな面に魅了されました。
「日本車を通し、日本好きと出会える」

「Steve的視点」に登場する日本車好きの若者たち
──アメリカでJDMや日本車を楽しんでいる人は、どんな人たちですか?
日本車に乗る人は、車のサイズやパワーを競う感じじゃないんですよね。フレンドリーな人が多くて、日本の文化や日本食が好きで、そういった日本好き同士でつながって一緒にドライブしたり、交流したりといった楽しみがある。日本車を通して日本好きと出会えることは大きな楽しみになっています。
特にこの世代に日本車が人気、といった傾向もなく、10代から50、60代までさまざまです。男性だけでなく、女性もいますよ。私の肌感では、JDMファンの2〜3割は女性です。私のYouTubeでも、ホンダの「S2000」に乗る10代の女性を取り上げています。ワイルド・スピードに出てくる女性キャラクターに影響を受けているんだと思います。
──1980~90年代の日本のスポーツカーには、昔から日本にも熱狂的なファンがいます。ただ、近年は海外のJDM人気が逆輸入される形で、ファン層が若い世代にも広がっているように感じます。
僕は日本の車関係のイベントにゲストとして参加することもありますが、「10年前から父親と『スティーブ的視点』を見ていて、JDMが大好きになった」とか、「『スティーブ的視点』を見て、この車を買った」などと、日本の若い人からよく声を掛けられます。日本では長らく「若者の車離れ」と言われていますが、JDMをはじめとした車に興味を持っている若い人は多いと思いますよ。
ただ、1990年代に生産された旧車を買って、維持して、車検を通して、といったことを考えると、税制などを含めた日本のシステムは新車を買った方がいい仕組みになっている。だからこそ、日本から流れてくる旧車は、しっかり整備されていて走行距離はたった数万キロと、アメリカ人にとっては新車同様なんです。
維持費、車検、駐車場代などを考えると、日本の若い人にとって車を持つことは非常にお金がかかる趣味。車を買うと決めたとしても、旧車ではなく経済的な新車を選ぶ、といった傾向があると思います。
「軽トラは見る人を笑顔にする」
軽トラや軽自動車を紹介するYouTube「スティーブ的視点」
──スティーブさんの動画には、JDMだけでなく軽トラックなどの軽自動車もたくさん登場します。軽トラのイメージが日本とはかなり異なり、驚きました。
軽トラや軽自動車はアメリカにはなかったからこそ、「かわいい!」「あの車は一体なに?」という気持ちを掻き立てて、見掛けた人を必ず笑顔にしてくれます。子どもたちも軽自動車を見るとすごく喜ぶ。世の中には何千万円、何億円のスーパーカーもあって、それももちろん魅力的。一方で、軽自動車は数十万円で買えるものもあって、スピードや高級かどうかといったことは関係なく、「面白い」「かわいい」と人を惹きつけている。
アメリカでも牧場などで仕事用に軽トラが使われているケースがありますが、私の周りでは遊びや趣味で軽トラに乗っている人が多いですね。通勤車として毎日乗ろうと思えば乗れないこともないですが、日本国内でさえ軽自動車については衝撃に弱いと指摘する声があります。アメリカの高速道路で巨大なピックアップトラックとぶつかったら、とても危ない。だからこそ、毎日乗るよりも週末に軽自動車のオーナーたちで集まって、ルートも考えて走るという楽しみ方が多いです。
──日本車の旧車のアメリカでの流通価格はどれくらいですか。
ものによるので一概には言えません。例えば軽トラなら日本のオークションからでも30万〜50万円で買えますが、近年は値上がり傾向にあります。スズキの「カプチーノ」やホンダ「ビート」、マツダ「オートザム」などの軽自動車の人気車種は、すでに200万円を超えるケースもあります。
JDMの価格はとんでもなく上がっています。日産「スカイライン」などは6万ドル(約950万円)〜10万ドル(約1500万円)以上。GT-Rになればオークションで億単位の価格がつくこともあります。トヨタ「スープラ」は10万ドル(約1500万円)超えが普通ですし、希少なスバル車も20万ドル(約3100万円)クラスがあります。日本車は全般的に価格が落ちづらいですし、JDMは25年ルールで供給量が少ないこと、一方で需要は非常に高まっていることなどから、価格はどんどん上がっている。多少の経済変動はあっても、この傾向は今後も大きくは変わらないと見ています。日本車以外も人気の旧車は値上がりしていますが、日本車の値上がり幅は特に目立ちます。
──日本では欧州車が高級車として扱われるケースが多く、日本車がコレクターズアイテムとして扱われていることに驚きます。
コレクターカーといえば、古い欧州車やアメ車というイメージが強いですよね。日本車は、これまでは忘れられていた側面があったと思うんです。近年のJDMの値上がりを見ていると、日本車に注目する投資家グループが増えているという印象を受けます。
一方で、宝物のような日本車が海外に流出してしまうことについて、日本の車好きは複雑な思いを抱えていますよね。そういう感情をアメリカ人が日本に対して抱いた時代もありました。バブル景気のころに、1960〜70年代の貴重なアメ車が日本にたくさん流出して、当時は「二度と米国に戻ってこないんじゃないか」と危惧されていました。でも、今は再び米国にあります。バブル崩壊やその後の日本の経済状況、円安、インターネットの広がりなどが背景にありますが、日本の仕組みではそういった旧車を維持できなかったという側面があると思う。税制などを含め、古い車を維持し続けることに日本が優しい国にならない限りは、日本にJDMを戻してもまた流出するだけです。
──最後に、来日した際に行く、車関連のお気に入りスポットを教えてください。
やっぱりパーキングエリア(PA)は楽しいですね。でも近年は、人が集まりすぎることで騒音などが問題になっています。海外の人は、PAのことを車を見せ合うカーショーの会場だと思っていることも多いんです。車イベントの賑やかな雰囲気は好きですが、自分がPAで休んでいる長距離ドライバーの立場だったらと思うと、PAで集まろうなんて、決して言えないですね。
テキサスで経営している日本食カフェ「ほしカフェ」では、車好きが集まるイベントを行っています。日本でも場所を借りて、愛車で集まれるイベントができたらと考えていますよ。みんなにマナーを守ってもらって、迷惑のかからない走りをしてもらうことが大事だなと思っています。

スティーブさんの愛車のうちの一台、“ハコスカ”
Image by: Steve's POV
最終更新日:
【連載:令和カーカルチャー】
vol.1 「車は一番大きなアウター」 若者が惹かれるヤングタイマー
vol.2 車好きの集まりからカルチャーイベントへ 拡張するカーミーティング
vol.3 映画ワイルド・スピードから軽トラまで 世界が熱狂する“JDM”
vol.4 ヤンキー熱再燃 “ドリギャル”油浦桃が描く新時代のドリフト文化
vol.5 グッチも参戦? F1が“推し活”でポップカルチャーに返り咲き
vol.6 元ZOZOクリエイティブ責任者が仕掛ける、大人のラジコン文化
番外編 フェラーリ新車は「まるで中国EV」? 上海で見たEV大国のリアル
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