
SOSHIOTSUKI 2026年秋冬コレクション
Image by: ©Launchmetrics Spotlight

SOSHIOTSUKI 2026年秋冬コレクション
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かつて「ジル サンダー(JIL SANDER)」がその美学を遺憾なく発揮したイタリア・フィレンツェにあるサンタ・マリア・ノヴェッラ教会の回廊が、鋭利な光によって切り裂かれた。暗がりの中に浮かび上がる直線的なライティングは、かつてのエディ・スリマン(Hedi Slimane)のステージングを彷彿とさせ、張り詰めた緊張感が石造りの回廊を支配していた。「第109回ピッティ・イマージネ・ウオモ(Pitti Immagine Uomo)」のゲストデザイナーとして、2026年秋冬ランウェイショーを披露したのは、大月壮士が手掛ける「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」。待望となる欧州初のショーは、ブランドの歴史における決定的な転換点となることを高らかに告げていた。
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発表されたコレクションのタイトルは「IN FLORENCE」で、その根底に流れるのは、「ノスタルジア(郷愁)」という不可思議な感覚への問いかけ。大月が着目したのは、自身が実体験として持たない1980年代から90年代、すなわち日本のバブル期における「アルマーニ・スーツ」への熱狂である。当時、日本に大量に流入したイタリアン・テーラリングは、極東の島国という閉じた環境の中で独自の進化──いわば「ガラパゴス化」を遂げた。大月は、その歪みと情熱を孕んだ日本のスーツ文化を、今回テーラリングの聖地であるイタリアへと持ち込んだのだ(この行為を彼は「逆輸入」と呼ぶ)。それは西洋の規範に対する単なる模倣でも反抗でもなく、日本というフィルターを通した「カウンターポイント」としての提示であった。

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ランウェイに現れたのは、圧倒的な質量を伴うクラシックなメンズウェアの変奏である。その象徴は、威厳に満ちたダブルブレストのジャケットやコートだ。肩幅は広く強調され、対照的にパンツは細身に設計されている。この逆三角形のシルエットバランスは、往年のソフトスーツが持っていた権威的な男性像を想起させながらも、決して古臭いコスチュームには陥っていない。その理由は、大月が施した緻密な「操作」にある。巨大なピークドラペルやシャツの襟先には、パターンエンジニアリングと執拗なアイロンワークによって、人工的な「カール(捲れ)」が施されていた。通常、テーラリングにおいてラペルは胸に吸い付くように仕立てられるのが正解とされるが、大月はあえてその先端を宙に浮かせ、静的な構造の中に微細な「動き」を与えている。また、インナーに合わせられたオックスフォードシャツはバイアス(斜め)使いで仕立てられており、タックインした際に生まれるドレープが意図的に強調されている。さらに、前シーズンから継続する、見返しを多く取り返すことでタイとして機能させるアイデアも見逃せない。既存の構成要素を拡張し、全く新しい機能を付与するこのアプローチは、テーラリングにおける一種の「発明」と言えるほどの独創性を放っている。そしてこれらは、着用者の動作や風によって偶発的に生まれる「乱れ」を、あらかじめデザインとして定着させる試みであり、この動的なアプローチこそが、クラシックな装いに現代的な息吹を吹き込んでいるのだ。

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素材使いにおいても、重厚さと軽やかさが巧みに交錯する。肉厚なレザーや、裏地にシアリングを配したジャケットが冬の厳しさと高級感を演出する一方で、スポーティなフランネル素材が軽快なリズムを生む。特筆すべきは、今回発表された複数のコラボレーションが、テーラリングの文脈を拡張する装置として機能している点だ。「アシックス スポーツスタイル(ASICS SportStyle)」との協業によるジャージートップスは、構築的なジャケットのインナーとして差し込まれることで、クラシックな装いを現代のストリートやスポーツの領域へと引き寄せている。また、1896年創業の「グンゼ(GUNZE)」との肌着や、スペインのシャツメーカー「カミサス マノロ(CAMISAS MANOLO)」、そして古布と刺し子をアートへと昇華させる「プロレタ リ アート(PROLETA RE ART)」との共作は、歴史への敬意とアヴァンギャルドな実験精神が同居する、ブランドの多層的な視座を物語る。これらの要素は単なる「外し」ではなく、身体構造や機能性を再考するための必然的な実験として配置されている。

中に着たジャージーはASICS SportStyleとのコラボ
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PROLETA RE ARTとのコラボ
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ショーの中盤、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)氏への憧憬を隠さない「イブニング」のルックが登場する。しかし、そこで提示されたのは、立体的な身体を包み込む柔らかなドレープではなく、どこか平面的で強さを持つシルエットだった。過剰な装飾や露骨な感情を削ぎ落とし、静謐(ひつ)かつ厳格に仕立てられたその服は、大月が語る「姿勢、決断、そして態度の蓄積によって形成されるアイデンティティ」を体現しているかのようだ。かつて日本人が憧れ、模倣し、独自に変形させた「イタリアン・テーラリング」。その憧憬を携えてフィレンツェの地に降り立ったソウシオオツキのコレクションは、単なる原点回帰ではない。それは、過去の亡霊を現代の技術と解釈で蘇らせ、未来のテーラリングの在り方を問う、静かなる「攪拌(かくはん)」であった。

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「LVMH Young Fashion Designers Prize(LVMHプライズ)」を受賞し、日本の宝としてスター街道を歩む大月だが「現実にまだ自分が追いついていない」と現状について語る。ただ、世界的デザイナーのファッションショー以上とさえ思わせたサンタ・マリア・ノヴェッラの回廊に響いた拍手は、彼が確実に歴史の1ページにその爪痕を残したことを証明していた。アリスター・マッキー(Alister Mackie)によってスタイリングされた、クラシックでありながら強烈にコンテンポラリーな男性像。それは、極東の島国で醸成された「ガラパゴス」な美学が、普遍的な価値を持って世界に接続された瞬間でもあった。
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