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「僕はいつだってDIVAになりたい」──タナカダイスケが得た新たな魔法に掛けられて

26年秋冬コレクションで魅せた新ステージ

 ブランド設立から5年目の田中大資による「タナカダイスケ(tanakadaisuke)」の2026年秋冬コレクションを“目撃”した後、一瞬の強い輝きに目が眩み、それから心の底からエネルギーが湧き出るのを感じた。それは、パワフルなDIVA(歌姫)のパフォーマンスを前にして、圧倒されながらも胸が熱くなる感覚に似ていた。

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 「まだ見ぬ自分と出会えますように」とまじないをかけるようなコレクションを手掛けてきた田中自身、アイドルやDIVAから多大な影響を受けたことを明かしており、その精神性が投影されたのではと推察する。

 田中の経歴を少し振り返ると、ブランド立ち上げ以前からアーティスト衣装などを手掛け、コロナ禍で発売した刺繍入りのマスクは、先行きが見えない時代の中でも心穏やかな生活を守らんとする人たちの心に刺さり、ファンを抱えていた。待望のブランドデビューでのコンセプトは、「おまじないをかけたようなお洋服で、自分の中にいるまだ見ぬ自分と出会えますように」。緻密な刺繍、繊細なレース、柔らかなシフォンなど、ひと針ずつ祈りが込められたようなクリエイションは、キャッチーな見た目とは裏腹に、強固なファンダムを形成している。

 ひと目で分かるアイコン性というものは、トレンドの波に消費され、一過性のブームで終わる危険を常にはらんでいる。ファッション業界に身を置く者なら、その恐ろしさは痛いほどわかるはずだ。運営会社パッチワークスのもと基本的にセールは行わず、毎シーズン行われる受注会は、じっくりと試着し、吟味し、コレクションを「大切に味わう」ファンで混み合っている。彼らは、田中が作り出す「おまじない」を信じ、その対価として決して安くはない金額を支払う。そこにあるのは、作り手と受け手の、極めて健康的で強い信頼関係である。

 そして田中は、名だたるアイドルやアーティスト衣装制作を着々と手掛け、認知を拡大してきた側面を持つ。特定の誰か、つまり「固有のミューズ」のために仕立てられた唯一無二の装束。そのファンたちがブランドに流入してもブランド価値が毀損されることはない。それは、単純に「タナカダイスケの服を着れば、推しとシンクロできる」という同質化にとどまらないからであって、田中の「スターのための特別な一着」を作る技術はさることながら、それを「誰しもが高揚感を味わえるコレクション」へと転換する卓越した力があってなせる技だと思う。そして今回のショーは、その転換力が意識的に高みへと引き上げられていた。

 2026年秋冬コレクションのテーマに掲げた「Hitting the Star」には、手の届かないはずの光に触れたいという衝動を込めたという。アイドルを含め、「ファン」をしている人はピンと来ると思うが、彼ら、彼女らの存在を奇跡に感じることがある。「推し」という精神性を深く理解する田中が今回のテーマに、奇跡的に起こる「Shooting Star」ではなく、手を伸ばし、衝突するニュアンスを含んだ「Hitting the Star」と据えたのには理由がある。「僕はスターやDIVAに憧れて、日々勇気をもらって生きている。憧れを抱きながら、真似でもコスプレでもない形で、自分らしさの純度を上げられるはずだと思った」と語る通り、彼らをただ見上げるのではなく、欲望的な衝動(憧れ)を力に、自らも輝けると提示したのだ。

 そうした誰しもが普遍的に高揚感を得られるファッションとして、スウェットのジップアップジャケットや、パジャマ風のシャツとパンツ、毛足の長いフリースを用いたアノラックパーカといった、ラフなアイテムが印象的に差し込まれていた。ジャカード生地の素材感をプリントで再現したブルゾン、レオパード柄のプレートを鱗のように縫い付けたブラ、飾り紐で装飾したパーカなども登場。ラッフルを施したコットン地の巻きスカートは、スリットからレザーのガーターベルトが覗く。

 一見カジュアルなアイテムの随所にビジューやフリンジ、かぎ針編みのコードの装飾が取り入れられ、ラッフルやドレープで動きを出すなど、ひっそりとブランドのコードを落とし込んだ点も新鮮なポイント。これは「極論、僕はいつだってDIVAになりたい。表面的なものではなく内面での鍛錬だとか、精神的な強さを常にまとっていたい」という田中の思いを反映したに違いない。

 一方で、往年のファンの心を躍らせるビジューを施したチュールドレスや、細かな刺繍レースとビジューが煌びやかなミニドレス、レースやラッフルをたっぷりとあしらったランジェリードレス、大小のスパンコールを全面に縫い付けたセットアップ、ベロアのタキシード、艶やかな羽根をあしらったジャケットやレオパード柄のボアジャケットといったアイテムからにじみ出る、ロマンティックでダークなムードも健在。白いタンクトップとデニムに、ビジュー付きのチュールケープと王冠を合わせたルックは、誰もが一度は経験した「憧れのスターを無邪気に真似する」幼い頃の記憶を呼び起こすようだった。

 また、ウィメンズとメンズでほぼ同数のルックを披露。さらなる成長と海外進出のため、メンズを本格的に強化する姿勢を明確にした。「メンズルックはジェンダーレスやアンドロジナスのような均質的・流動的なものではなく、強さやストイックさ、繊細さ、優しさのように、相反するもの、二面性があるものを衝突させていった」と制作を振り返る。今後は、パリのメンズファッションウィークの期間に合わせ、現地での展示会を計画しているという。

 アイドルの衣装は常々、本人たちに似合う「解釈一致」が賞賛されると同時に「意外性」の欲求にも晒される。今回のコレクションは予定調和な「タナカダイスケっぽさ」に固定されず、「こんな表情もあったのか」という驚きを与え、既存のファンにとって愛着を強固にするものになったのではないだろうか。

 ショー会場に選んだ三越劇場は竣工から約100年。ロココ調の華美な舞台空間では、これまで幾度となくスターが出演し、観客の胸を打つ公演が行われたことだろう。田中のコレクションをまとったモデルたちは、舞台から伸びる階段を伝って客席へと降り、観客の真横をすり抜けていく。手を伸ばせば届く距離にいながら、ファッションショーという公演から漂う緊張感がそれを許さない。どれほど近くにいても、彼らは私ではない。至極当たり前のことではあるが、推しとの過剰な同質化が毒にもなり得る現代において、田中はむしろていねいに線引きし、その内実は「憧れの誰かに変身するのではなく、誰だってDIVAになれる」という鼓舞として機能させたのだと思う。そして、目にかかるほど長い前髪やうっすらとクマが透ける目元から伝わる、陰鬱なムードもまた、スターだって人間なのであるという優しさだろう。

 奇しくもタナカダイスケがショーを行った日の午前0時、日本のアイドル文化の金字塔のひとつ「ハロー!プロジェクト」がサブスクリプションを全面的に解禁した。彼女たちは、友情、愛、希望だけでなく、時には嫉妬や承認欲求も歌い上げる人間味も人気の所以だ。「ハロプロオタ」でもある田中自身も、ショーを終えて「聞きまくった」という。今回のコレクションでタナカダイスケは、これまでのお守りのように寄り添う方法ではなく、憧れる力を現実を生きる力へと転換する「新たな魔法」を手に入れた。スキルアップして迎えた新たなステージで魅せる演目はどんなものになるのか。次回を楽しみにしたい。

tanakadaisuke 2026年秋冬

全ルックはこちらから

tanakadaisuke

2026 AUTUMN WINTERファッションショー

FASHIONSNAP 編集記者

平原麻菜実

Manami Hirahara

埼玉県出身。横浜国立大学教育人間科学部人間文化課程卒業後、レコオーランドに入社。国内若手ブランド、国内メーカー、百貨店などの担当を経て、2020年にビューティチームの立ち上げに携わる。ポッドキャストやシューティング、海外コスメレビュー、フレグランス、トップ取材など幅広い観点でファッションとビューティの親和性を探る企画を進行。2025年9月より再びファッションチームに所属。映画、お笑い、ドラマ、K-POP......エンタメ中毒で万年寝不足気味。ラジオはANN派。

最終更新日:

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