
Image by: Runway:FASHIONSNAP、 Backstage:FASHIONSNAP(Ippei Saito)

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女性的であることの肯定と、伝統的に男性的なものと紐づけられてきた「知性」や「威厳」のコードを取り入れることは、どのように両立し得るのだろうか?⎯⎯デザイナーの舟山瑛美が手掛ける「フェティコ(FETICO)」の2026年秋冬コレクションのランウェイショーを見てまず思い浮かんだのは、そんな問いだった。
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「The Figure : Feminine(その姿、女性的)」をコンセプトに、女性の身体を美しく見せるシルエットやディテールを追求した服づくりを通して、女性たちの自己愛を後押しし続けてきたフェティコ。今シーズン舟山が挑んだのは、これまではある意味“避けてきた”とも言える男性的要素を取り入れながら、ブランドが現代を生きる女性とともに闘い、その日常に寄り添う新たな方法を模索し提示することだった。

今季のコレクションのテーマは、「気品の輪郭(The Contours of Grace)」。まだ女性が自立することが困難だった1920〜30年代に、自らの意思で既存の枠組みを壊して人生を切り拓いた先駆的な女性たちのスタイルや精神性を着想源に、舟山が理想とする「成熟した女性」の在り方や、女性の装いに宿る「気品」を探求しコレクションに落とし込んだという。
ミューズとなったのは、同時代を生きた3人の女性たち。画家でインテリアデザイナーのヴァネッサ・ベル(Vanessa Bell)は、作家ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)を妹に持ち、英国の知識人や芸術家による集団「ブルームズベリー・グループ」の中心として活躍した人物。女性を家庭に閉じ込める、当時のヴィクトリア朝の道徳観を捨てて自由な恋愛や芸術的探求を行い、生活の中での実用性と芸術を融合させることを試みた。リー・ミラー(Lee Miller)は、「ヴォーグ(VOGUE)」のトップモデルとして活躍後、マン・レイ(Man Ray)との創作活動に携わり、第二次世界大戦下では戦地の最前線を撮影する報道写真家に転身。「見られる対象(モデル)」から「見る主体(写真家)」へと自らを転換させた。ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)は、コルセットから女性を解放し、ジャージーやテーラリング、パンツなど、男性服の要素を女性服に転用。装飾を削ぎ落とした、働く女性たちのための実用的で洗練された服を作り、現代女性の装いの礎を築いた。

そんな彼女たちが持つ知性や意志、自由と規律のバランスなどに共通するものを、舟山は「声高ではない成熟した美しさ」だと定義する。この言葉が象徴するように、今季のコレクションがこれまでと明確に異なる点は、「見せる」ことから「着る」ことへと力点がシフトしたことだ。
2020年のブランド設立以来、フェティコは女性の身体の美しさを引き立て強調するシルエットやディテール、ランジェリールックなどをはじめとした、フェティッシュかつフェミニンな、大胆な肌見せも厭わないスタイルを貫いてきた。その背景には、年齢や体型、肌の色、容姿、文化、社会規範など、さまざまな理由で女性に対して向けられる「こうあるべき」といった価値観や不躾なまなざしを蹴散らし、女性自身が本当に好きなものを愛し、楽しみ、自信を持つことを後押ししたいという、舟山の思いがあった。


しかし今回、舟山がコレクションの軸に据えたキーワードは、「気品」「成熟した大人の女性」、そして「日常に寄りそう実用性と、身にまとうことで生まれる高揚感の共存」だ。シェイプされたウエスト、コルセットのようなレースアップ、スリップスカートをはじめとしたランジェリーディテール、繊細なレース使い、刺繍やプリントであしらったバラモチーフなど、ブランドらしいフェティッシュでフェミニンな要素は引き続きベースにある。しかし、その主張は全体的に控えめになり、肌の透けや露出は抑えられ、色味もブラックやグレー、ブラウン、ホワイトなどシックなモノトーンで統一された。



特筆すべきは、「男性的」要素がこれまでになく多様な形でコレクションに取り入れられていることだ。最も象徴的だったのは、ラストルックのネイビーのピンストライプのパンツスーツに、共布のロングテーラードコートを合わせたスタイル。ジャケットのウエストはシェイプされ、首元には刺繍入りのサテンショートタイ、足元にはレースアップのパンプスとフェミニンな要素は加えつつも、これまでになくマスキュリンで中性的なムードが漂っていた。
さらに、ピーコートやトレンチコート、セーラーセットアップといったミリタリー由来のピースのほか、ブラックレザーのジャケットやロングドレスなども登場。メンズウェア由来のプラクティカルで硬質なエッセンスを、フェティコらしいアレンジによって「成熟した大人の気品」あるスタイルへと昇華したアイテムが多く見られた。










舟山は今季のコレクションについて「ブランドを始めて5年が経ち、私自身も大人になったことで、より大人の女性や幅広い方の心に刺さり、選んでいただけるような服作りをしたいと考えるようになった。今季は社会の変化を見つめながら、より日常に根差したクリエイションへと歩みを進めた」とする。センシュアルさを抑え、日常性や実用性に重きを置いた理由を訊ねると、「ファッションブランドとして『見せる』ということは常に大切にしているが、今回は『着る』ということに重きを置いてものづくりをした。実際に着る人の立場に立ち、その人を想像しながら作るという作業を意識的に行った」とその背景を語った。
つまり、フェティコが服を通して女性たちを鼓舞する方法が、これまでとは変わったということだ。先シーズンまでは、ある意味過剰なまでに女性の身体美や女性性を強調して見せることで、他者から向けられるネガティブな視線を撥ね除け、女性たちに自信を与えるというカウンター(反撃)的な側面が強かった。しかし今回のコレクションでは、外からの視線への応答というよりも、その服を着る女性たちが持つ内面の気品や強さが自然と滲み出るような、彼女たちがより自然体で静かな自信を持って日々を生きられるように並走するものへと、アップデートされたのではないだろうか。


その意図は、自然光がたっぷりと差し込む東京都現代美術館のロビーを舞台に、まるで雑踏の中を女性たちが静かに闊歩するような、現実世界と地続きの世界観でショーが行われたことや、モデルの人選にも反映されていた。過去のショーでも、フェティコは人種や体型、年齢など、モデルの多様性を通してブランドが描く女性像を提示してきたが、今回はそれに加えてプロのモデルだけでなく、ブランドが「素敵だ」と考えるファッション業界で働く一般の女性たちもコレクションを纏ってランウェイを歩いた。そのことからも、服作りを通してより多くの女性たちの日常に寄り添いたいという、舟山の意思や願いが感じられる。

もっとも、従来のフェティコが提案してきた、女性の身体美を強調したフェミニンでフェティッシュな装いとそのエンパワメントの在り方を、今回のコレクションによって否定したわけでは決してないだろう。むしろ、これまでの寄り添い方や闘い方にプラスして、新たに「メンズウェア」や「男性的な要素」がフェティコの服の世界に積極的に取り込まれたことで、さらにその選択肢が拡張されたと捉えることができる。
また今回「日常性」を追求した背景には、「海外での発表を視野に入れてよりコレクションとしてのクオリティを高めたいと思う中で、商品構成を含め、これまでのフェティコに足りなかったものやまだできることは何かを考えた」という、将来に向けたビジネス的な思惑もあったようだ。


従来は意図的に避けていたようにも思える「メンズウェア」や「男性的な要素」をどう服に取り入れ落とし込むことで、より女性たちの日常と生に寄り添うことができるのか?そして、ボディコンシャスなシルエットや肌見せ、ランジェリーディテールといった従来のフェティコらしさを削ぎ落としてもなお表現し得る「フェティコらしさ」とは何なのか?⎯⎯そんな新たな挑戦と探求がはじまったように思える今季のコレクションは、ブランドのさらなる拡張や飛躍を予感させるものだった。
最後に、冒頭の問いに戻ろう。女性的であることの肯定と、男性的な記号を取り入れることは、いかにして両立し得るのか。その答えは、今回フェティコが提示した「男性的な要素をただ借りてくるのではなく、いかにして自分たちの美学や世界観の一部として取り込み調和させるかという、たゆまぬ試みと挑戦の中にあるのかもしれない。
知性や威厳を纏うために、フェミニニティを犠牲にする必要はない。一方で、女性らしさを肯定するために、男性的な要素を否定する必要もない。その両者を取り入れ調和させることで生まれる「気品」を目指した今回のコレクションは、「こうあるべき」を静かに撥ね除け、現代社会を生きる女性が自らの選ぶものや道を信じて日々を進んでいくための強さや自信を、そっと後押ししてくれるものになったのではないだろうか。

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