日本発のラグジュアリージュエリーブランド「タサキ(TASAKI)」から、メゾン初となるフレグランスコレクション「タサキ オート パフューマリー(TASAKI HAUTE PARFUMERIE)」が発表された。1954年の創業から71年という時を経て、タサキが香りを紡ぐという新しい価値創造を共にする相手として選んだのは、2019年設立のフランス・パリを拠点とする新進気鋭パフューマリーブランド「オルメ(ORMAIE)」だ。タサキが持つクラフトマンシップと革新性と、フランスの芸術的センスが融合して誕生した3つの香りは、唯一無二の個性を放つ。
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今回、オルメのオーナーであるバティスト・ブイグ(Baptiste Bouygues)氏と、その母であり調香師として活躍するマリー=リーズ・ジョナック(Marie-Lise Jonak)氏に、タサキとのコラボレーションに至った背景から香りに込めた想い、さらに日本との関係性についてまでを聞いた。

◾️オルメ(ORMAIE):ラグジュアリーメゾンに勤めていた経験と知見をもち、ブランドのクリエイティブディレクターを努めるバティスト・ブイグ(左)と、その母で長年にわたり数々の名香を生み出してきた調香師マリー=リーズ・ジョナック(右)による調香ユニット。ブイグの描く香りのヴィジョンや物語を、ジョナックが豊かな感性と職人技で具現化し、唯一無二の香りを世に送り出している。
「商業的ではなく、タサキのストーリーを香りにしたい」
⎯⎯ 日本発のラグジュアリージュエリーブランドであるタサキとのコラボレーションが早くも話題になっていますね。日本発であるタサキというブランドは以前からご存知でしたか?
バティスト・ブイグ氏(以下、バティスト):もちろん知っていましたよ。仕事でアジアを訪れることが多く、日本にも何度も来ているので、よく知っていました。最近はヨーロッパでも広く認知されていると感じます。
⎯⎯ タサキというブランドについて、どんな印象を持っていますか?
バティスト:祖父が彫刻家だったこともあり、子どもの頃から芸術というものに強く惹かれていたので、タサキの職人たちの確かな技術や芸術性の高さは本当に素晴らしいと感じています。今回のプロジェクトが始まる前に、真珠の養殖場のある長崎を旅しましたが、街を包む静寂な空気や、海と自然の詩的な美しさに感銘を受け、たくさんのインスピレーションを得ることができました。

⎯⎯ 長崎での旅で、すでに香りの構想はできていたのですか?
バティスト:そうですね。長崎の自然や真珠を育む海の詩的な美しさから、香りの創造が膨らみました。その情景を前に、ティーやジャスミン、フリージアなどを重ねたエレガントな香りがいいのではないか、とイメージが湧いてきたんです。
⎯⎯ こういったジュエラーやハイブランドとのコラボレーションは今までにもありましたか?今回のタサキとのコラボの決め手を教えてください。
バティスト:度々オファーをいただきますが、やはり価値観が一致しないと難しいという思いがあり、全てを引き受けてはいません。今回、養殖場の見学を含めタサキについて知れば知るほど、そして日本という美しい国に対して、私たちとしても特別な想いがあふれ、「これだ!」という確信を得られたことから、コラボレーションさせていただきました。母は長崎の旅には帯同できませんでしたが、フランスに帰ってから旅で見たものや感じたもの、タサキというブランドの素晴らしさを伝えたら、「それはフレグランスとして完成させなくてはいけない」と言ってくれました。実は、その時はまだ正式にオファーをいただいていなかったのですが、商業的なことはどうでもいいから、このストーリーを使って香りを創りたいと、想いが募っていきました。
「タサキ」ブランドを感性のままに香りを創作
⎯⎯ ファーストコレクションは3つの香りを発表されました。3つの香りを創ることやそれぞれの香りの方向性について、タサキからの要望は何だったのでしょうか?
バティスト:タサキのチームからは、強い要望はありませんでした。今回のプロジェクトで私たちのクリエイティビティを尊重してくださり、自分たちが受け取った長崎の養殖場や真珠、タサキというブランドを、感性のままに創作。3つのフレグランスを完成させることができました。

⎯⎯ 長崎の旅で感じたものやタサキというブランドを、どうやって3つの香りに落とし込んだのでしょうか?創作にあたっての2人の役割分担も教えてください。
バティスト:フレグランスはアートのようなもので、まとう人に私たちのメッセージや感情を受け取ってもらうことが大切だと思っています。そのためには当然、自分自身が感じたものを明確にしないといけません。まずは、真珠や老舗ジュエラーとしてのブランドストーリー、長崎の美しい自然などタサキのさまざまな側面を探求しました。それをパリに持ち帰って気持ちを整理して、自分が伝えたいストーリーを明確にした段階で、母と共有して3つの香りを一緒に創り上げました。

マリー=リーズ・ジョナック氏(以下、マリー):彼が長崎の旅で見てきたものや感じたことについてじっくり話し合い、写真をたくさん見せてもらっているうちに、「この香りはこういう原料をこう使ったらいいのではないか」など、香りの構成や方向性のアイデアはすぐに出来上がりました。私自身も日本が大好きで何度も訪れているので、イメージを創り上げやすかったのかもしれません。
⎯⎯ 3つの香りについて、それぞれに込めた想いやこだわったポイントを詳しく教えてください。

「99 アイランド(99 ISLANDS)」(20mL 2万2000円、75mL 3万3000円)
バティスト:「99 アイランド(99 ISLANDS)」は、真珠を育む九十九島からインスパイアされた香りです。小さな島がたくさんあることから「九十九島」と呼ばれるようになった、という話を聞いた時に、なんて詩的なんだろうと感銘を受けました。99という数字に深い意味を持たせるのは日本語特有のもの。フランス語にも英語にもありませんから。長崎の海や自然の詩的な要素、静寂さに対する思い、タサキの理念からイメージを膨らませて創り上げました。
⎯⎯ 「バランス(BALANCE)」はメゾンのアイコンジュエリー「バランス(balance)」に着想した香りですね。

「バランス(BALANCE)」(20mL 2万2000円、75mL 3万3000円)
バティスト:はい。老舗ジュエラーのクラフトマンシップやモダンさを表現した香りです。神戸にあるタサキのアトリエでは、最上階で浜揚げされた真珠の選別が行われ、1階で職人の手によってジュエリー加工などが行われています。こういった老舗ならではの伝統的なノウハウや匠の技と、「デインジャー(danger)」コレクションのようにエッジィでクールな世界観のように、相反する要素のバランスからもインスパイアされました。
マリー:タサキの真珠は、長崎産だけでなくペルシャ産も使われているので、フレグランスにも国産とペルシャ産の原料を組み合わせました。ガルバナムの美しさとペルシャ産のレジン、日本の柚子を絶妙なバランスで構成しています。私から見ると非常にパリジャン的な香りの作り方なのですが、日本へオマージュを捧げる香りに仕上がったと思っています。
⎯⎯ 「ハイジュエリー(HIGH JEWELLERY)」に込めた想いやメッセージについてもお聞かせください。

「ハイジュエリー(HIGH JEWELLERY)」(20mL 2万2000円、75mL 3万3000円)
バティスト:タサキのハイジュエリーと、本店のある東京へオマージュを捧げる香りです。どちらも見た瞬間にインパクトがありますよね。ラグジュアリーな雰囲気とハイジュエリーの美しさ、気品あふれるカラーストーンの色彩も表現しています。タサキは伝統と格式のある老舗ジュエラーではありますが、エッジィさも兼ね備えているのでその強さも表現したくて、東京の刺激的な楽しさやハイジュエリーが放つ光の躍動感、華やかさを香りに落とし込みました。
マリー:ラズベリーやライチ、ローズなど花や果実の香りでカラーストーンを思わせる色彩や華やかさを表現しつつ、インド産のウッドと日本のお香を重ねてコントラストをつけ、インパクトのある香りに仕上げています。
タサキの伝統と革新性を際立たせるため、あえて桜の香りは入れず
⎯⎯ 日本の香りとなると、桜を表現することも予想されましたが、3つとも桜は使われていませんね。
バティスト:これまで何度も日本を訪れてきましたが、日本で桜を見たのは実はこの長崎の旅が初めてでした。とても美しくて感動しましたし、桜はたくさんのインスピレーションを与えてくれるものだと思いますが、今回のプロジェクトではタサキというブランドに焦点を当てたかったので、ファーストコレクションでは採用しませんでした。タサキのように、伝統だけではなく革新性も際立たせたかったというのもあります。
⎯⎯ 3つの香りを創るにあたって、難しかったことはありますか?
マリー:バティストが旅の間に撮り溜めた写真を見せながら、日本やタサキについてたくさん話を聞かせてくれたので、アイデアが次々と浮かんで、驚くほど自然に出来上がりました。時には何かが足りなくて、そのラストピースを探し続けるような、終わりの見えない作業を何ヶ月もしなければならないこともありますが、今回はストーリーが明確で、どの要素を盛り込めばいいかわかっていたので難しいことはありませんでした。

⎯⎯ 実際に3つの香りをどういったシーンで使っていますか?
マリー:朝起きて、フレッシュな気持ちで出かけるときは、クリーンな香りの99 アイランドを使っています。清潔感があり柔らかな雰囲気をまとえる香りなので、オフィスにもつけていくことが多いです。もっと自分らしさや個性をきらめかせたいときはバランス、夜に華やかな装いでお出かけするときはハイジュエリーが似合うと思います。
バティスト:僕も同じように使いますね。だからこそ、自分のコレクションに3種類揃えるのも自然なことだったと思います。タサキの世界観を心から受け入れ、その感覚や物語を大切に思うなら、伝えたい感情や会う相手によって使い分けるために3つとも揃えたくなるのではないでしょうか。フランス人である私にとっては、毎日何かしら香りをまとっていないと裸でいるような気持ちになってしまうので(笑)、気分や行動に合わせて香りを使い分けて楽しむことはルーティンになっています。

長崎を訪れた時からボトルデザインもスケッチ
⎯⎯ ボトルも洗練されていて素敵です。どんなイメージからデザインされたのでしょうか?
バティスト:長崎を訪れた時から、実は香りだけでなくボトルデザインのイメージも密かにスケッチしていたんです。さまざまなインスピレーションを得ていたので、デザインのアイデアもたくさんありました。最初は真珠やダイヤモンドから発想を飛ばそうと思っていましたが、香りの創作と結びつく何かを探っていた時に、「自然から生まれ、芸術作品へと昇華していく」というタサキのスタイルは自分たちと似ていると気づきました。銀座本店のファサードはタサキの真珠養殖場のイカダが着想源になっているというエピソードともリンクして、最終的にはとてもシンプルで洗練されたデザインに行きつきました。

バティスト:クラシックなフランス香水のテイストを盛り込みたかったので、丸型のラベルを採用しました。これは真珠を連想させるためでもあります。キャップにも真珠のような光沢を施しました。

⎯⎯ 今後、タサキ オート パフューマリーで創ってみたい香りはありますか?
バティスト:具体的にこんな香りとは言えませんが、タサキにはまだまだたくさんの魅力が秘められているので、今後も香りのインスピレーションは必ず見つけられると思っています。私が初めて見た日本の桜である大村湾の桜が香りになる日も来るかもしれません。でもまずは、このファーストコレクションがタサキのジュエリーのように多くのみなさんに長く愛されることを願っています。

(文:ライター サカイナオミ、聞き手:福崎明子、編集:上玉利茉佑)
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美容ライター
美容室勤務、美容ジャーナリスト齋藤薫氏のアシスタントを経て、美容ライターとして独立。25ansなどファッション誌のビューティ記事のライティングのほか、ヘルスケア関連の書籍や化粧品ブランドの広告コピーなども手掛ける。インスタグラムにて、毎日ひとつずつ推しコスメを紹介する「#一日一コスメ」を発信中。
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