「アンセルム」2026年春夏コレクション
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20周年を迎えた東京ファッションウィークが転換点に立っている。 2005年にJapan Fashion Week(JFW)が正式にスタートして以来、冠スポンサーの交代や発表形式の多様化を経て、東京は独自のコレクション都市としての地位を築いてきた。
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節目となった「Rakuten Fashion Week TOKYO 2026 S/S」では、参加ブランドは25にとどまり、スケジュールには空白も目立った。例年に比べ控えめな印象は否めない。一方で、アニバーサリー企画や気鋭デザイナーのデビューショー、各種アワードから成長したブランドの躍進など、20年の積み重ねを示す成果も確かに見られた。
ハイライトの周年ショー

オートモード平田
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節目にふさわしく、記念すべきショーが目玉となった。「ツモリチサト(TSUMORI CHISATO)」はブランド設立35周年を迎え、表参道の店舗でのショーと渋谷ヒカリエでの展覧会を同時開催。2019年にイッセイ・ミヤケグループ傘下のエイ・ネットとのライセンス契約が満了し、ブランド事業を独立させて以降も、デザイナー自身が描くカラフルでユニークなグラフィックは健在で、独自の世界観を改めて発信した。
「オートモード平田(Haute Mode Hirata)」は、創設者で日本の帽子界の巨匠・平田暁夫の生誕100年を記念したショーを開催。娘の欧子、孫世代の早姫と翔が手掛けた31点の帽子が披露され、故人が切り拓いた帽子の創造性を時代を超えて継承した。クリエイティブディレクションを務めたエディター山口達也のもと、「リュウノスケオカザキ(RYUNOSUKEOKAZAKI)」の岡﨑龍之祐、「ミスターイット(mister it.)」の砂川卓也、「タム(Tamme)」の玉田達也らが手掛けた衣装とともに発表され、強い印象を残した。
舟山瑛美による「フェティコ(FETICO)」は、冠スポンサー・楽天の「by R」の支援を受け、ブランド5周年を記念したショーを開催。ブランドらしさを凝縮したコレクションで、女性の内なる強さと複雑さを繊細に表現した。ビューティブランド「スリー(THREE)」とのコラボレーションも披露され、2025年度「第42回毎日ファッション大賞」新人賞・資生堂奨励賞の受賞も決まり、ブランドの次なる新章を予感させた。
アワードの功績ー参加ブランドの成熟

「ハルノブムラタ」2026年春夏コレクション
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東京ファッションウィーク20年の最大の成果の一つは、アワード創設による支援体制の拡充だ。東京都が2015年に立ち上げた「TOKYO FASHION AWARD」では、現役バイヤーが有望ブランドを選出し、パリでの展示会と東京でのショー発表を支援してきた。過去10年間で60以上のブランドが支援を受け、海外進出の足掛かりを築くと同時に、ショー表現の幅も広げている。
受賞後も公式スケジュールで発表を続けるブランドも多い。「ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)」は日本発ラグジュアリーの路線で存在感を強め、「ピリングス(pillings)」は独自の視点でユニークなクリエイションを深化。「チカキサダ(CHIKA KISADA)」はバレエ由来の造形美をデフォルメし理想の形を探求した。「ヴィヴィアーノ(VIVIANO)」は白と黒だけで新たな表現に挑み、海外PR契約の強化を通じてブランドの可能性を広げている。
また「JFW ネクスト ブランド アワード 2026」では、木村由佳による「ムッシャン(mukcyen)」がグランプリを受賞し、デビューショーを開催。完成度の高いコレクションで確かな実力を示した。さらに「TOKYO FASHION AWARD 2026」も同時受賞し、来シーズンはW受賞ブランドとして東京でのショー発表とパリ展示会進出への切符を手にした。
初参加のインパクト

「ナゴンスタンス」2026年春夏コレクション
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今季デビューした「アンセルム(ANCELLM)」は、古着のようなダメージの経年変化を岡山・児島の高度な加工技術で再現し、モダンなアイテムへと昇華。同じく初参加の折見健太による「オリミ(ORIMI)」や津吉学が手掛ける「ファンダメンタル(FDMTL)」も、ショーを通じて独自の世界観を提示し、存在感を示した。
大手バロックジャパンリミテッドの「ナゴンスタンス(någonstans)」の東コレ参入も、新たな局面を印象づけた。デザイナー植田みずきは「マウジー(MOUSSY)」「スライ(SLY)」を立ち上げ、2000年代渋谷ファッションを牽引した仕掛け人物。2012年の「エンフォルド(ENFÖLD)」、2017年デビューのナゴンスタンスも女性から根強い支持を集めている。今季ランニングスタジアムで発表した、アウトドアや自然を着想源としたカラフルでプレイフルなウェアには、来場者の共鳴が確かに感じられた。
関連イベントとして新設された「インキュベーションショー」では、専門学校生による新鮮なクリエイションが披露された。今季は創立76年を迎えたマロニエファッションデザイン専門学校の学生たちが新たな才能の芽を見せた。
浮き彫りになった課題

「ピリングス」2026年春夏コレクション
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一方で、参加ブランドの減少傾向は看過できない。2024年春夏が50ブランドだったのに対して、24年秋冬は43ブランド、25年春夏は33ブランド、昨シーズンの25年秋冬は37ブランド、今季は25ブランドという縮小が鮮明になっている。今季からコロナ禍以降続けてきたデジタル発表が廃止され、「ハイク(HYKE)」「ミントデザインズ(MINTDESIGNS)」などデジタル発信を軸としていたブランドが不参加となった。
参加には一定の審査基準が設けられていることも一因だ。しかしより大きな課題は発表時期の問題だろう。東京ではメンズデザイナーの活躍が目立つものの、メンズコレクションに対応する時期のファッションウィークが存在しない。そのため「シンヤコヅカ(SHINYAKOZUKA)」「シュガーヒル(SUGARHILL)」「カミヤ(KAMIYA)」といったブランドは、海外のメンズファッションウィークに合わせて6〜7月頃に単独で発表している。
同様に、ウィメンズでも「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」などの中堅が、バイイングのタイミングを重視して発表を前倒しするケースが増えている。
この結果、本来なら東京の目玉となるべきブランドが流出し、ファッションウィーク全体の集客力やPR効果の低下を招いている。今こそメンズファッションウィークの創設、あるいはその時期に合わせた新たな発表プラットフォームの整備を検討することが急務だろう。
ファッションウィークで発表する意義

「ヨシオクボ」2026年春夏コレクション
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ファッションショーは多大なコストを要する一方で、その価値は計り知れない。会場演出、音楽、モデルの表現に至るまでがブランドの世界観を体現し、インパクトを残す。業界関係者やメディア、バイヤーが集う場は、新作の発表や商談の場であると同時に、ブランドの知名度を高める絶好の機会だ。SNSの普及により、ショーの映像や写真は瞬時に世界へ拡散され、大きな広告効果を生む。東京で定期的に発表することは、単なるイベントを超えたブランドの存在証明ともいえる。
東京ファッションウィークで発表する最大のメリットは、公式スケジュールに名を連ねること自体が信頼を担保する点にある。さらにJFWによる海外ジャーナリストやバイヤーの招聘制度も整備され、東京から世界へ向けた発信力は着実に高まっている。海外進出を視野に入れるブランドこそ、まず東京で表現を磨き、海外展でコレクションを披露するというステップアップが重要だ。
東京での発表は、日本発ブランドが世界へ挑むための出発点であり続ける。20周年を迎えた今こそ、東京からデザイナーが未来に挑むための舞台としてさらに育てていくことが、ファッションウィークの次なる使命だろう。
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