2026年6月期を次の成長フェーズへの飛躍に向けた「戦略的投資の年」と位置づけるアイスタイル。生活者とブランドの出合いを創出するプラットフォーム「アットコスメ(@cosme)」を運営し、国内リテールの拡大や海外展開、BtoBビジネスの強化など既存事業を強化しながら、AIを活用した新規サービスや健康食品領域への参入など、多岐にわたる挑戦を続けている。日本の化粧品市場に停滞感が広がる中で、同社の2026年6月期上期決算は増収増益で着地し、成長軌道を描いている。上期の振り返りと今後の展望について、遠藤宗社長に聞いた。
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遠藤宗/アイスタイル社長

1973年生まれ。慶応義塾大学卒。船井総合研究所、たしろ薬品などを経て、2007年コスメネクスト(現アイスタイルリテール)の設立および@cosme STORE開業に合わせて取締役に就任しアイスタイルグループに参画。その後、店舗・ECの運営を行うアイスタイルリテール代表取締役社長などを歴任し、アイスタイルグループの国内外のリテール事業全般を統括。2022年9月から現職。
◾️アイスタイルとは
生活者中心の市場創造をビジョンに掲げ、1999年に設立。口コミサイト「アットコスメ」を中心に、EC、実店舗、データマーケティング、広告事業などを展開する。化粧品に関する消費者情報をデータベース化し、生活者とブランドをつなぐプラットフォームを構築している。2025年6月期は、売上高が前期比22.6%増の687億6800万円、営業利益が同63.1%増の31億6400万円。

目次
強みはメディア起点でデータを蓄積してきたこと
⎯⎯ 中期事業方針の2年目にあたる2026年6月期。市場の状況も踏まえ、上期はいかがだったでしょうか?
日本の化粧品市場は停滞気味に見えますが、その中で相対的にアイスタイルの業績は良かったと思います。
事業全体が成長していますが、特に成長の原動力になったのは、ブランドのマーケティング支援事業です。原宿の旗艦店「アットコスメトーキョー(@cosme TOKYO)」などBtoCのイメージを持たれがちですが、実は当社にとってはBtoBビジネスも、BtoC事業と両輪で重要な位置づけです。収益構造に強みがあるマーケティング支援事業を強化してきた結果、好調に推移できていると思います。

2025年3月にリニューアルしたアットコスメトーキョー
⎯⎯ 具体的に、マーケティング支援事業はどのようなことをしているのでしょうか。
主に、創業以来続けているプラットフォーム、アットコスメ上での広告ビジネスです。口コミを活用しながら、さまざまな形でユーザーに商品の価値を伝えています。また、店舗でのポップアップなど、リアルでの接点創出もマーケティング支援事業の一部です。
⎯⎯ BtoBビジネスが成長した背景を教えてください。
リテール事業が成長してきたことで、各メーカーやブランドとのリレーションがより強固になったことは大きいと思います。例えば、アットコスメトーキョーでのポップアップイベントは、募集開始直後に予約枠を超える申し込みが来るほど、“満員御礼”の状態が続いています。メディア・店舗・ECというアットコスメのプラットフォームをフル活用したマーケティングをやりたいというニーズも増えてきたと感じています。
元々アットコスメはオンラインメディアとして始まり、次にEC、実店舗という順番に展開してきました。オンラインとオフラインの融合に取り組み続けてきたのは、ユーザーにおいても、オンラインでしか化粧品を購入しない、もしくは店舗でしか購入しないという人がいないから。みなさん、どちらも活用していますよね。

⎯⎯ “口コミ”を活用したメディアとしてスタートしたことの強みはありますか。
我々の強みは、ユーザーの行動データを蓄積していることです。そのデータをもとに、品揃えや在庫設計を考えられる。ユーザーがブランドの垣根を越えて多様な商品を見たいというデータがあるから、バラエティ豊かな売り場づくりができました。入口がメディアだったことは結果的に非常に良かったと思います。
⎯⎯ SNSで多くの情報を得られる時代だと思いますが、SNSとの差別化はどのように考えていますか。
実際に調査してみると、商品について知るきっかけは、確かにXやInstagramなどのSNSが有利な状況です。一方で、商品に興味を持った消費者の多くは、購入前に自分に合うかを確かめるために、アットコスメの口コミを活用しています。情報との接点が、フェーズによって違うんですよね。
乱立する「ベスコス」とアットコスメが守り続けるスタンス
⎯⎯ 化粧品業界で欠かせない話題が「ベストコスメ」。アットコスメを含め、数多くのメディアがベストコスメを発表していますが、この状況をどう見ていますか。
アットコスメでは、ユーザーの声を軸に選定するベストコスメアワードを約25年続けています。ありがたいことに、毎年の恒例行事として、ユーザーもブランドも楽しみにして下さっているのではないでしょうか。
⎯⎯ 他社の動きは意識しない?
僕らのベストコスメは、流通チャネルも価格帯も異なる商品を同じ「生活者の声」で選ぶものです。信頼性や公正・中立であることを大事にしていて、アワードのベースとなる口コミは、システムと人の目で24時間全件確認し、不自然な投稿や意図的なやらせ投稿などを厳しくチェックし、排除しています。他社のベスコスにコメントする立場ではありませんが、いろんな切り口のベストコスメがあるのはいいことだと思います。
化粧品市場は「端境期」 曖昧な顧客像をクリアに
⎯⎯ 市場の状況に話を戻しますと、少し停滞気味というお話でした。コロナ前の2019年まではインバウンド需要もあって右肩上がりの市場でしたが、現状をどう見ていますか。
コロナ前は、何かを仕掛けて成功したというより、インバウンドのお客さまが来て大量購入してくれるなど、“自然とそうなった”という側面が強いように思います。
コロナ禍を経てインバウンド客は戻ってきましたが、今はお客さまも買い方が変わってきて、日本のお客さま同様に自分に合うコスメを冷静に見極めていますね。市場全体を見たときには、プロダクトライフサイクル的に端境期にあって、次にどうしていくべきかを考えるフェーズにあるブランドが重なっている時期なのかなという印象も受けています。

⎯⎯ この状況だからこそ、御社に求められる役割も変わってくると。
そうですね。アットコスメを通じてより多くの人に商品の価値を知ってほしい、店舗やECでの接点をもっと作りたいという要望が以前よりも増えました。
⎯⎯ 2025年4月にコンサルティング事業を始めたのも、こうした背景からでしょうか。
ブランドからよく聞くのは「お客さまがどういう人なのか見えにくい」という声です。単純なデモグラフィックではなく、誰がどこに魅力を感じ、なぜ購入したのかがよくわからないと…。
アットコスメでは、何を購入したかだけでなく、購入前にどんな口コミを見たかも明らかにできます。購入後にその商品を使い続けたかどうかのデータもあります。口コミの内容も、発売直後と半年後では大きな違いもあり、その変化も追えます。

コンサルティング事業を推進する新会社「アイスタイルデータコンサルティング」
⎯⎯ 口コミの内容が変わる、というのは興味深いですね。
リーチしている顧客層が変わるからです。最初は新作を必ずチェックするようなコスメ好きの人たちの口コミが中心ですが、商品の普及に合わせて顧客層も広がっていきます。ブランドが「売り」だと思っていた点とは違うところに、お客さまが価値を感じてくれているということも、しばしばあります。こうしたデータをもとに顧客理解を深め、正しい“打ち手”を見つけたいというニーズが増えています。
⎯⎯ BtoBビジネスの今後の課題は何でしょうか。
僕らが持つデータの価値を、より多くのブランドに知っていただくことがまずは重要だと思います。その一環として、2026年1月に口コミデータをAIで分析できるサブスクリプションサービス「@cosme Copilot」をリリースしました。

AI分析ツール「@cosme Copilot」
アットコスメに登録された商品の中で、1件でも口コミがあれば分析対象になり、2014年以降のデータで自社ブランドの現状分析やマーケティング施策の振り返り、商品開発などに活用できます。まずはアットコスメのデータがブランドのマーケティングに役立つことを実感いただき、これを入口に、コンサルティングサービスや広告サービスなどにもつなげていきたい。中小規模の皆さまにも利用いただきやすいプランもご用意していますので、アットコスメを利用するきっかけになればと考えています。
徹底した基礎の上に付加価値体験の積み上げ
⎯⎯ リテール事業では、原宿にあるアットコスメトーキョーのリニューアルや名古屋の旗艦店オープンが印象的でした。現在の進捗と課題を教えてください。
総論として進捗は順調です。私たちが作りたいお店や体験は、現時点での理想に近い形で実現できている環境にあるのかなと思います。課題は、会社が大きくなるにつれて、最も大切な基礎の部分が疎かになるリスクがあるという点です。例えば、お店のテスターをきれいに保つこと。アットコスメストアは「試せる、出会える、運命コスメ」がコンセプトなので、テスターが汚れていたら「試せる」が成立せず、コンセプトから逸脱してしまいます。
付加価値にフォーカスしがちですが、土台ができていないと、その上の付加価値もお客さまには響きません。2026年は新しい価値を生み出すことはもちろん、このベーシックの部分を徹底的に見つめ直したいです。
⎯⎯ 好調な時ほど、変化への挑戦が難しくなる側面もあるかと思います。
それは会社全体に言えますね。会社が大きくなってくると、どうしても守りに入りがちになります。だからこそ、経営陣やマネジメント層が、失敗を許容する文化を作っていかなければいけません。「挑戦しなさい」と言いながら、失敗すると評価が下がるなら誰も挑戦しません。結果と合わせて、チャレンジすること自体やプロセスも見る評価の仕組みも含めて整えることが重要です。
海外市場での成功のカギは、日本で培ったリアルな口コミ
⎯⎯ 海外展開についてもお聞かせください。2025年12月香港にオープンした、海外初のフラッグシップショップの状況はいかがですか。
売り上げも反響も、初動は想定していたより良かったです。海外であれだけ大規模な店舗は初めてで、オペレーションが落ち着くまである程度時間はかかると思いますが。
実際にやってみてわかったこともたくさんあります。今回は日本のブランドを店全体の7割ほど展開していますが、現地では知られていないブランドも多い。現地では香港版のアットコスメを運営しているので、そうしたアプリを活用しながら、商品の魅力をより伝える工夫が必要だと感じています。香港と日本のスタッフが交流する機会も作り、グローバルでサービスの質を高めていきたいですね。


⎯⎯ 今後の海外展開についてはどのように考えていますか。
一時期はタイまでビジネスを広げていましたが、コロナ禍で縮小しました。しかし、今回香港の旗艦店をオープンして、東アジアには十分な可能性があると改めて感じています。
僕たちのビジネスの根源には、生活者のリアルな口コミと、そこに対するユーザーからの信頼があります。海外では案外そういうサービスが少なくて、ユーザーは本当に信頼できる情報を探しています。日本で培ってきた「生活者のピュアな声」を軸にしたビジネスモデルは、海外でも十分戦えると考えています。
⎯⎯ 最後に、今の日本の化粧品業界に必要なことは何でしょうか。
私たち自身にもいえることですが、大きくは2つあります。1つは、「誰がお客さまで、どういう人にお客さまになってほしいのか」が見えにくくなっているからこそ「ユーザーへの理解をもっと深めること」です。新たに始めたAI分析サービスを含め、私たちはそこを大いにサポートできると信じています。
もう1つは「もっと海外に出ること」。日本のビューティ市場規模は世界3位ですが、海外・韓国ブランドの参入で日本市場内の競争は激しくなっています。ならば、日本ももっと海外で勝負できるはず。実際に香港の旗艦店でも、これまで苦戦していた日本の商品が、アットコスメが持つ情報を武器に展開することで、よく売れている例があります。打ち出し方も含めて考えれば、海外には十分な可能性があると思っています。
ただ、これは「個社の努力」だけでは突破できない課題もあると感じていますので、そこは経済産業省の「化粧品産業競争力強化検討会」や、内閣府 知的財産戦略本部の「新たなクールジャパン戦略ワーキンググループ」での活動などを通じて、産業全体の活性に貢献していきたいですね。

photography: Katsutoshi Morimoto, interviewer: Akiko Fukuzaki, text&edit: Mayu Kamitamari(FASHIONSNAP)
最終更新日:
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