デザイナー中村ヒロキ
Image by: FASHIONSNAP
「visvim(ビズビム)」のデザイナー中村ヒロキが、ウィメンズライン「WMV(ダブリュー エム ブイ)」をスタートした。「visvim」の立ち上げから14年目、メンズにおいて徹底したものづくりを貫いてきた中村が、なぜ今新たにウィメンズラインをスタートさせたのか?合同開催された「visvim」と「WMV」の2014年春夏コレクションの展示会で、「visvim」のものづくりとウィメンズライン「WMV」への想い、そして今後の展望を中村に聞いた。
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14年前、靴作りからスタートした「visvim」
―「visvim」を立ち上げたきっかけは?
「靴を作ろう」と思ったのがきっかけです。まだメーカーに務めていた29歳の頃、ものをつくるなら形として残っていくような、意味のあることがしたかった。当時はインディペンデントな靴メーカーはなかったし、靴だと作り込むことができるんじゃないかと思って始めました。最初は手探りの状態でしたね。でも当時、東京ではインディペンデントを応援するようなムードもあって、周りの人達に助けられながら続けることが出来ました。自分のやり方や「ものづくり」のベースが確立されたのはその頃です。
―「visvim」を最初に発表したのは?
最初の展示会は、カフェの一角の小さいスペース。そしてグループショーに誘われてパリにも出展したんですが、3足ぐらいしか売れませんでしたね(笑)。でもその頃を思い返すと、今こうして同じ志の人たちとものを作り続けていられることが幸せに感じますね。
―2009年からは本格的にパリで展示会を続けていますが反応は?
ブランドを始めて1年目から数店舗で取り扱ってもらえて、それがじわじわと広がっている感じです。ランウェイ形式のショーをやらず、展示会という方法である程度の規模感で見せているカジュアルなブランドは他にないんじゃないでしょうか。うちならではのスタイルだと思っています。
―スタート時から「ものづくり」に変化はありましたか?
当初から「どうやったら履き心地の良い靴が作れるのか」「どうやったら後にも残っていくものが作れるのか」ということを追求し続けているので、あまり変わっていませんね。ただ、その掘り下げ方は徐々に深くなっているかもしれません。元々、軽いものよりもウェイトがあるもの、そして意味のあるものの方が興味があるので、ヴィンテージや手づくりのものには自然と魅かれてしまいますね。それも僕が10代の頃から変わっていない、ものづくりに対する思いの1つです。
―ヴィンテージからインスピレーションを得ることが多い?
インスピレーションを得るというよりも、ヴィンテージに対して「自分がどの点を面白く感じたか」ということをシェアしている感覚ですね。例えば昔の民族衣装に魅かれた時には、その時代や衣裳を分析したり、どこが魅力的に感じるのかを考えたりすることがヒントになっています。
女性に新しい価値観を、「WMV」を立ち上げた理由
―今、ウィメンズブランドをスタートする理由は?
ウィメンズのマーケットでは、メンズのように「ものづくり」を重視したブランドは少ないのかなと思ったのがきっかけです。メンズが始まってから14年が経ち、僕自身、生産や開発のチームの環境が整ってきたと感じていたので、「本格的に新しいことをスタートできるんじゃないか」という時期でもありました。「F.I.L.」には「visvim」を着こなす女性のお客様も意外に多く、そういった方々からの要望、そして妻や周りのスタッフの後押しもありました。僕らが「visvim」を通じてメンズのマーケットで提案してきたことを、今度はウィメンズのマーケットでもチャレンジしようと踏み切りました。
―「visvim」と「WMV」のブランド名に関連性は?
「visvim」は、ラテン語の辞書を引きながら「V」と「I」がふたつずつあるヴィジュアルが面白いと思って付けたブランド名です。「WMV」もその感覚で、「W」と「M」と「V」でジグザグのヴィジュアルが面白いでしょう。メンズとは違って、女性のシェイプで、女性のラスト(足型)を使って、女性のために作ったブランドにしたかったので、敢えて名前を変えました。
―思い描いている女性像は?
特定の女性像はありません。でも常に「visvim」では身に付けることで内側から楽しんでもらえるような商品を提供したいと思っています。世界中でお客様に出会う機会がありますが、そういう価値を共有してくれる方々なんだなと実感しますね。メンズと同様に、「WMV」でもそういう価値に反応して、共有してくれる女性に愛用してもらえればいいな、と思っています。
―トレンドは意識しないのでしょうか。
メンズに比べ、ウィメンズの市場は流行に左右されやすいかもしれない。それもありだとは思いますが、 僕自身は何が流行っているかに興味はありません。でも、世の中の動きやムード、情報、コミュニティなどは、日々自然と僕の中に入ってきて、アウトプットとしてクリエイティブに反映されていると思います。同じ時代に生きている人々はきっと、自然と同じようなことを共有していると思うんです。だから、僕は自然にムードや雰囲気を感じつつ、ものづくりにいかすようにしています。
―ウィメンズのマーケットに向けて訴求したいことは?
僕らが提案しているのは、内側からきれいになれるような、着る人のリッチさやラグジュアリーを引き出せるもの。外側からばかりカッコ良くしても長くは続きません。僕は人間自体も、時間というフィルターが内にある光っているものをよりきれいに、よりカッコ良くしているんだと思っています。そのコンセプトをウィメンズで表現したい。時間がかかるチャレンジだと思いますが、使えば使うほど自分のものになっていくものは、きっと大切にしますよね。僕はその概念をとてもリッチで素敵なことだと思っています。
―「WMV」としてウィメンズラインを本格的に作り始めて変わったことは?
ものづくりに関しては変わりません。ただ、「WMV」のデビューによって女性に合った靴や服が提案できるようになり、家族やカップルで良いものの感覚を共有できたら、もっと幸せじゃないですか。コンセプトの提案なので、それをうまく皆さんに楽しんで頂けたらいいですね。僕はそれを、自分の家族やうちのチームと楽しみたいと思っているので。
「WMV」と「visvim」のこれから
―セカンドシーズンとなる2014年春夏コレクションのコンセプトは?
「WMV」も「visvim」も、今回はアーミッシュ、フレンチワークウエア、日本のボロ、そして藍をキーワードに、それらの要素をパッチワークのように継ぎ合わせて提案しています。
―今シーズンを象徴するアイテムは?
「visvim」でも「WMV」でも展開しているのですが、天然染料を手で擦り込んでいく技法で作ったジャケットですね。これはイタリアンカーフのスウェードに天然のインディゴや泥、植物染料を手で擦り込んでいくと、通常の染色とは違ったパワフルな質感に仕上がるんですよ。あとは、昔のフランスのフレンチエスパドリーユというワークシューズからインスピレーションを得て作ったシューズ。通常機械で作る靴の紐を、ヘンプを使用して国内で手作業で撚っています。デビューシーズンでもブーツに使用していますが独自で開発した左右対称でも履きやすいラストで、アッパーに使用している素材はイタリアのキャンバスメーカーと作りました。
―ブランドのファンとの関係は?
僕は大抵、自分で作ったもののことを覚えているんです。世界の様々な場所で「visvim」を着てくれているお客さんに会った時、「これはどんな時に、どんな思いで作ったものか」というような細かい部分まで思い出して、そんな話で盛り上がることもあります。たまに5枚しか作ってないものを大事に着てくれている人に会うこともあったり、嬉しいですね。コアな服好きの人がたくさんいるので、僕もそうそう油断できません(笑)。「もっと掘り下げないと」と、気持ちを駆り立てられますが、そういう人たちに向けて気を衒ったことをやるのはいけない。継続的に技法やアプローチを僕自身が進化させ、新しいものを提案していくことが必要だと思っています。
―2014年春夏シーズンの新作で、そういった新しい提案は?
今シーズンで言えばこのドット柄の靴。これらは、2シーズン前くらい前に作ったインディアンのティピーというテントが発想の発端でした。以前から本物のテントを作りたいと思っていて、モンタナ州の研究者のもとに行って実際にバッファローの革で作ったんです。(テントは後に、ニューメキシコ州の「Shiprock Gallery」、ロンドンの「DOVER STREET MARKET」、ベルリンの「Andreas Murkudis」、金沢の「F.I.L.」等に展示)その時に見せてもらった1900年頃の写真の中にティピーに絵が描いているものがあって、それを思い出してドットを描いていみることにしました。染色の専門家にも相談して当時の染料を研究したり。そういった過程から完成していった靴で、通常のプリントはアイロンで施されますが、これらは工場の人がドットを手描きで仕上げているんです。
―工場との関係は?
工場については特定ではないのですが、世界中、直接足を運んでとにかく良いものが作れるところにお願いするようにしています。この靴の場合は、中国の工場の方がやってくれると言ってくれました。通常、手作業でクオリティを一定にするのは難しいんですが、密に取り組んでいるからこそ実現できたと思っています。手描きなので1点ずつ違いますが、味がありますよね。
―「ものづくり」で重視していることは?
身につけた方にラグジュアリーだと思ってもらえることが大切だと考えています。本当のラグジュアリーは内側から出てくるものであって、それと対照的なのがプレスティージだと考えています。どっちが良い悪いという訳ではないですが、やはり僕は前者を提案したいですね。
―「visvim」と「WMV」の展望は?
世の中のラグジュアリーブランドはラグジュアリーとプレスティージをごちゃまぜにしてるんじゃないかなと思うことがあります。自分の中から出てくる幸福感や自信が本来のラグジュアリーではないでしょうか。いくらいいもの着て、いいものを身につけても、やはり自分の中が豊かでなければラグジュアリーとは言えないですよね。それは、人間だけではなくものにも同じことが言えて、「visvim」においても「WMV」においても、身につけてくれた方の内側に訴えかけ、心を満たすようなものを作りたいと常に思っています。
幸い、僕の周りにはその考えに共感してくれるサプライヤーがいる。イタリアやフランスの取引先も、日本のうちのスタッフや開発チームもそう。僕が一緒にものづくりしている人達は、内側から幸せになるにはどうしたらいいのか、ということを大切にものづくりをしています。身に付けることで喜んでもらえるようなものを作り続けられたらいいですね。
―中村ヒロキの今後は?
できるだけ自分に正直に、その瞬間ごとに「こういるように、ここにいるように」を心がけてます。将来のヴィジョンを持つことはありますが、できるだけ「今ここにいる」ことを大切にしたい。自分の心の何がしたいかに耳を傾けることが重要だと思うんですよね。日々様々な情報が入ってくるので、頭では色々なこと考えますが、できるだけ心に正直にいることは大切なんじゃないかな。これは、ものづくりをしてきた中で感じてきたことですが、まだまだ成長過程。僕はまだまだ修行の身なので(笑)
聞き手:高村美緒
プロフィール
1971年生まれ。キュビズム代表。visvimクリエイティブディレクター。
2000年にブランド、visvimをスタート。フットウェアを中心にしたコレクションが海外から高い評価を得て、服からアクセサリー、フレグランスまでを扱うトータルブランドへと拡大。
2006年、東京・表参道に直営店F.I.L.を開き、現在は国内外9店舗を展開。2009年-2010年にかけ、「モンクレール V」のデザイナーを担当。
2013年1月に表参道「GYRE」内に新しいコンセプトショップ「F.I.L. indigo Camping Trailer」をオープン。
2013-14年秋冬シーズンからウィメンズライン「WMV」をスタート。
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