「ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)」の国内最大規模となる旗艦店がオープンした。ウィメンズ、メンズのフルラインナップに加え、日本初上陸となる「ヴィヴィアン・ウエストウッド カフェ」を併設した新店舗は、近年人気が再熱するブランドにとってどんな意味を持つのか。
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オープンに合わせ来日した、CEOを務めるカルロ・ダマリオ(Carlo D'Amario)氏は、1970年代からヴィヴィアン・ウエストウッド本人と共にブランドをグローバルファッションハウスへと成長させてきた。長年、独立系ファッションブランドとしてビジネスを支えてきた同氏に、今新たに日本で旗艦店を出店する背景や、アフォーダブルな価格の理由、クリエイティブとビジネスの両立などを聞いた。
新たな旗艦店はヴィヴィアン・ウエストウッドと日本の友好の印
⎯⎯ヴィヴィアン・ウエストウッドが日本に上陸してから30年が経ちました。アジアで最初に展開した国でもありますが、現在の日本市場をどのように捉えていますか?
日本は1990年代にヨーロッパ以外の国で我々に応えてくれた最初の国で、非常に誠実な友好関係を築いてきたと思います。それだけ長く力を入れてきた市場であるとともに、大切に思っています。
アジア地域は2024年の売上高が前年比50%を超える二桁成長で、1億5000万ポンド(約300億円)を上回っています。その中で日本が最大市場。2024年の売上は約6000万ポンド(約130億円)に上ります。
⎯⎯新たな旗艦店は、メインラインのフルコレクションを日本で初めて展開しています。
今回の旗艦店は、ヨーロッパで生産されたメインラインのフルコレクションを扱うという、我々の新たなヴィジョンを体現する店舗。ここでは「ローカルとグローバルの共存」を表すように、グローバルな製品を提供しながら、日本の建築やデザイン要素を取り入れています。これはヴィヴィアン・ウエストウッドと日本の友好の印のようで、私個人としても、とても嬉しく思います。
この旗艦店にも通ずることですが、我々は今、日本におけるブランドポジショニングの強化に向けて、レディ・トゥ・ウェアのリロケーションを進めているところです。この進化の一環として、2024年末で日本国内のアクセサリーローカルライセンスを終了し、当該カテゴリーはグローバルコレクションに一本化しました。併せて、グローバルコレクションの一部として日本で生産されるバッグや小物などは継続し、日本限定展開の「Vivienne Westwood RED LABEL」「Vivienne Westwood MAN」「Vivienne Westwood RED+MAN」は独自のディストリビューションを続けます。



■日本展開のリテール略歴
1992年:Vivienne Westwood Ltd.が伊藤忠商事株式会社と契約し日本事業開始。1994年にライセンス契約で拡大
2002年:RED LABEL(ウィメンズRTW)開始
2005年:ANGLOMANIA(ウィメンズ・ディフュージョン)開始
2005年:MAN(メンズRTW)開始
2019年:RED LABELとANGLOMANIAを統合し新RED LABELへ
2022年:デイム・ヴィヴィアン・ウエストウッド女史が逝去
2024 年:アクセサリーライセンス終了。INCONTROとJOI’Xとの新ジョイントベンチャーのもとでウィメンズ/メンズの小売事業を統合
2025年:ユニセックスコレクション「Vivienne Westwood RED+MAN」をローンチ
⎯⎯カフェ併設も日本では初めての試みですね。
私は常々、カスタマーへのホスピタリティを重要に考えていて、旗艦店が単なるファションブティックではなく、人々の会話を促し、本を読んだり、時間を過ごしたりする場として機能させたかったのです。カフェはそうしたコミュニケーションの場であり、今回のリニューアルでの注力事項でした。最近は高級ブティックが閑散としている一方で、カフェやレストラン、ホテルが賑わっていることからも、どんな場を提供するべきか、明らかですよね。

ちなみに今後は、日本でもブライダルコレクションを強化したいと考えています。市場調査をしていて私自身も驚いたのですが、最近は多くの若い人たちの中には再びウェディングドレスにこだわりを持ち、投資する動きがあるようです。
時間は人類が持つ最もラグジュアリーなもの
⎯⎯日本ではY2Kファッションのリバイバルなどを背景に、若年層からのブランド人気が再熱しています。そうした「イメージ」が先行することは、進化の足掛かりとなるでしょうか。それともリスクとなり得ますか?
いい意味でも、悪い意味でも、トレンドや世の中の新たな潮流を作るのは、常に若い人たちです。ですから、若い世代とのエンゲージメントはブランドの「前進」を後押しすると思います。
⎯⎯いつの時代も、若者がファッションを動かしてきたと。
その通りです。イヴ・サンローランが1966年に「イヴ・サンローラン・リヴ・ゴーシュ(Yves Saint Laurent Rive Gauche)」を始動してプレタポルテに進出したのは、富裕層だけでなく、ファッションを楽しむ機会のなかった若い世代にもハイファッションを提供するためでした。それから、ジャクリーン・ケネディ(Jacqueline Kennedy)が結婚式で「常識に捉われずに」既製品のウェディングドレスを着てムーブメントを起こしましたよね。常に若者がファッション業界のゲームチェンジャーなんです。
⎯⎯若者の消費行動の変化は激しく、数々のラグジュアリーブランドが投資しているものの、苦戦しているように感じます。
昔と比べて、若者とファッションの関係はガラッと変わりましたし、今も変化し続けています。特にスマートフォンの登場は、フランス革命におけるバスティーユ牢獄の襲撃のようなものだとすら感じます。
⎯⎯どんな変化を感じますか?
店頭で服を買わないとか、挙げればキリがありませんが、私が思うのは、彼らの服の消費の仕方は「キャンディショップ」のようだなと。かつては、ジャケットからスカート、シャツまで同じブランドで統一しスタイルを作っていましたが、今はヴィヴィアンのジャケットに他のブランドやヴィンテージのパンツを合わせ、シューズはまた別のもの、という風に自由なスタイリングを楽しんでいますよね。良い悪いの話ではなく、そういう風にファッションをアレンジしているのです。
私はいつの時代も、ファッションを楽しむ若者をリスペクトしていますし、ブランドもそうあるべきだと考えています。

⎯⎯そのリスペクトは、具体的にどのようにビジネスに反映されているのでしょうか。
ブランドが「これを着なさい」と指示するのではなく、皆さんが何を求めているのか耳を傾け、それに応える。それが我々の仕事です。質の良い素材とクラフトマンシップ、良いサービスと手に取りやすい価格であることも重要です。ラグジュアリーブランドの価格はどんどん高騰していますが、我々は100ドルで作ったバッグを1万ドルで売るようなことは、決してしません。
なぜなら、特に若い人たちから「時間」を奪いたくないからです。もし1万ドルという価格設定をしたら、それを買うために膨大な時間を労働に費やさなければならない。時間は人類が持つ最もラグジュアリーなものではないでしょうか。若者の創造の負担となるような労働を強いてしまう構図は作りたくないのです。

クリエイティビティとはお金を正しく使うこと
⎯⎯創業者のヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)氏が亡くなり、ブランドは新たなチャプターの真っ只中かと思います。そしてブランドは世界でも数少ない「独立した」グローバルファッション企業です。ヴィヴィアン氏の哲学をどのように継承していくのでしょうか。
ブランドを成長させ、ファッション業界を共に盛り上げてきたラグジュアリーブランドの数々は、今やほとんどが大手コングロマリットの傘下となりました。我々が独立した経営を貫く理由のひとつは、ボトムアップのアプローチをとっているからです。ファッションはブランドが作るのではなく、ストリートから生まれるもの。先ほども伝えた通り、今を生きる若者のエネルギーを感じ取らなければなりません。
⎯⎯さらなる成長のために資本を入れるブランドが多い中で、独立経営でブランドを存続させるために必要なこととは?
未来に何が起こるかは誰にも分かりません。だからこそ、我々は働き続ける。自己資本での経営は、ただ自分たちがやりたいことをやるという意味ではありません。むしろ、人一倍働かなければならない。私は社員を家族のように思っていますし、長く働いているチームとブランドが自分が去った後も継続できるよう、体制を整えています。
⎯⎯クリエイティビティとビジネスの両立はファッションブランドの永遠の命題の一つですが、長年デザイナーと二人三脚でブランドを運営してきたカルロさんが考える最適解は何でしょうか。
私の立場からすると、クリエイティビティとはデザイン面の突飛さや真新しさではなく、質の高いデザインやクラフトマンシップ、そして資金を正しく扱い、ブランドに再投資することです。
⎯⎯その正しい使い方とは?
例えば、ヴィヴィアン・ウェストウッドでは、常に新進気鋭の才能と共に仕事をすることを重視してきました。また、家賃の高い一等地に店を借りるのではなく、発展途上のエリアで建物が購入できるまで待つことが多く、その結果としてより高い独立性を確保してきました。家賃を払うとなると、途端にそこに伴う計算や妥協が発生し、創造性を蝕んでしまうのです。
⎯⎯昨今は、ファッションに限らず、バックオフィスの売却などむしろ固定費を抑える方が主流になっていますが、不動産を持つことがクリエイティビティに繋がる?
ブランドビジネスにおいて私の経験上ではそう言えます。かつてジョルジオ・アルマーニ氏と働いていた時代に、彼が「カルロ、Tシャツはレンガのようなものだ」と言いました。ファッションビジネスでは、生産、デザイン、流通の3つの柱があり、生産とデザインのコストは「これを作るために10ポンド必要だから、10ポンド払う」という風に、等価交換です。ですが流通、つまり店舗にかかる費用は、売れようが売れまいが支払いが発生する。ジョルジオが言わんとしていたのは、店舗が土台で、Tシャツやそのほか我々が販売するアイテムは、そこに積み上げられていくレンガなんだと。

今日奇抜に見えるものが、明日のクラシックになる
⎯⎯改めて、新しい旗艦店を見た感想を教えてください。
とても満足しています。同時に、新しい靴を「履き慣らす」ように、これからお客さんが楽しめる場所になり、カフェが会話で賑わうのを見るのを楽しみにしています。店舗は私たち自身だけでなく、徐々にこの街にも馴染んでいくのだろうなと。






⎯⎯もし、ヴィヴィアン氏が来店したら、どんなリアクションをすると思いますか?
彼女はいつも日本を愛していました。新しい店舗もきっと気に入ってくれることでしょう。なぜなら、いたる所に英国的でクラシックな要素が散りばめられ、それでいて日本という特別なロケーションと見事に融合しているからです。ヴィヴィアンはパンクや挑発的なイメージが強いと思いますが、私個人が彼女と接して感じたのは、とてもクラシカルな英国のスタイルを持った女性でした。一見奇抜でも、ツイード生地やステッチ、さまざまなチェックパターンなど伝統的な要素が根底にありました。だからこそ、ヴィヴィアン・ウエストウッドは、私も着るし、20代も着ているというタイムレスな強い魅力があるのです。

Image by: ヴィヴィアン・ウエストウッド
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