ADVERTISING

【新卒記者が聞く】閉鎖的なコミュニティブランドで終わりたくなかった デザイナー吉田圭佑の現在地

男性

吉田圭佑

Image by: FASHIONSNAP

男性

吉田圭佑

Image by: FASHIONSNAP

【新卒記者が聞く】閉鎖的なコミュニティブランドで終わりたくなかった デザイナー吉田圭佑の現在地

男性

吉田圭佑

Image by: FASHIONSNAP

ADVERTISING

 「一般大学出身のデザイナーがいるらしい」。入学したばかりの大学で、知り合って間もないファッションサークル仲間に教えてもらったそのブランドこそ「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」でした。すぐに2021年秋冬コレクションのルックを見てみると、紫の学校机の上に直立したモデルが。しかもBGMはホラー要素たっぷりのベートーヴェンの「月光」。このコレクションに込められた想いは、学校という狭い世界の否定なのか、はたまた擬似的に生み出した教室を舞台に提示する社会規律へのアンチテーゼなのか。学校という制度に馴染むことができず、自ら望んだものの大学へ進学したことを後悔し始めていたこの頃の私は、自分の置かれた世界と交差する何かをデザインに落とし込んだこのブランドに一気に惹きつけられました。

 4年半の月日を経て、私はケイスケヨシダのデザイナー吉田圭佑さんにインタビューをすることに。聞きたいことは山ほどあります。デザインに込めた想いのこと、一般大学に通いながらデザイナーを目指した背景、そもそもの人となり。事前に書き出した質問数は想定していたよりも随分と多くなってしまいましたが、10個下の新人記者が辿々しいテンポで投げかける質問に、丁寧に耳を傾け一つひとつ誠実に答えてくれました。

■吉田圭佑
1991年東京都北区生まれ、立教大学文学部卒業。「ここのがっこう(coconogacco)」とESMODE JAPON「A.M.I」でファッションデザインを学び、2015年に自身の名を冠した「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」を立ち上げる。2022年に国立新美術館で開催された「FASHION IN JAPAN 1945-2020」ではコレクションの一部が展示されたほか、2023年にはFASHION ASIA HONGKONGによる「10 Asian Designers To Watch」に選出された。

今作りたいのは現代人の生き方に寄り添う服

⎯⎯10周年おめでとうございます。実は記者として初めて行くファッションショーが「ケイスケヨシダ」2026年春夏コレクションでした。振り返ってみてどうですか?

 今回は、現代において「今を生きること自体に厳格さが必要されている」と感じたことが製作の出発点でした。身返しや襟裏といった服の内側に手を入れるところからデザインを始めて、ここ数シーズン続けてきた「繊細で厳格な女性像」を基盤にし、すべてが複雑化した現代の都市で生きることをテーマに据えることで、共感の幅を広げることができたのではないかなと思います。

⎯⎯ファッションデザイナーとして、目指しているショーの形はありますか?

 個人的に好きなファッションショーは、暴力的なまでに態度を見せつけられるもの。ただ、今はもっと人の心に寄り添いながらも、魂を揺さぶれるようなものを目指しているのかなと思います。

⎯⎯お気に入りのルックを選ぶとしたら?

 今季やりたかったことを一番表現できたのはファーストルックです。テーラードにおいて、襟は男性性や厳格さの象徴のように感じます。それをあえて崩して枯れた花のように垂れ下がる形にしました。厳格さを保ちながらも、少し緩みを持たせることで生み出した緊張感と開放感のバランスが気に入っています。

2026年春夏コレクション ファーストルック

2026年春夏コレクション ファーストルック

 あとは、ポケットの袋布が吹き出したパンツやスカートも気に入っています。一見無造作に見えますが、袋布が引き上げられることで布地が足に張り付き、独特のシェイプが生まれ、結果として厳格さを強調する造形になっています。ケイスケヨシダらしいスタイルができたと思います。

2026年春夏コレクションより

2026年春夏コレクションより

⎯⎯ここ数シーズンのコレクションと比べると、日常使いしやすいアイテムが増えた印象でした。

 僕自身、日常でデニムを穿いたり、Tシャツを着たりしていますが、そういった感覚やスタイルをもっとブランドのスタイルにも反映させていく必要があるように感じています。テーラードやトレンチコートといった象徴的なアイテムを、デニムやカジュアルシャツなど、より日常に近いアイテムと組み合わせられるような素材感やシルエットにしてみたり。フォーマルなアイテム以外にもブランドらしい空気を漂わせることを意識するようになりました。今後も、アイテムやスタイルの幅を広げていくことに積極的に取り組みたいと思っています。

冴えなかった思春期、目指したのは学校でイケてるやつ

⎯⎯好きこそ物の上手なれとも言いますが、そもそもファッションに興味を持ったきっかけは?

 中学時代に、落ちこぼれていて冴えなかった自分の現状を変える手段としてファッションに興味を持ちました。というのも、小学校から私立の附属校に通っていたのですが、いつも落第ギリギリで「あと1つ失敗したらもう終わり」みたいな感覚を常に持っていて、周囲に対して途方もない劣等感を抱いていたんです。でも目立ちたい、何者かではありたいという自己顕示欲も同時にあって。おしゃれになったら学校でイケてるやつになれるんじゃないかと思って、色々な服装を試すようになりました。

⎯⎯例えばどのようなことをされていましたか?

 当時オダギリジョーさんがファッションアイコンの一人で、彼の“半分坊主半分ロン毛”を真似したこともありました。狙いとは裏腹に、学校の掲示板に悪口を書かれたりするようになって......イケてる奴にはなれなかったわけですが(笑)。

⎯⎯笑。当時からデザイナーズブランドに傾倒していましたか?

 最初はとにかく雑食でしたね。15歳の頃に「ファッションニュース(FASHIONNEWS)」や「ギャッププレス(gap PRESS)」を初めて読んだことで、“モード”の世界を知りました。

⎯⎯読後、どんなことを思ったんですか?

 それまで自分が着るものとしてしか服を見ていませんでしたが、ファッションってなんかヤバい…...と、言葉にできない衝撃を受けました。そこからは毎日学校終わりに原宿に服を見に行ったり、図書館や本屋に行って片っ端からファッション誌を読み漁ったりして。知れば知るほど楽しくて、そうしてファッションにのめり込んでいきました。

⎯⎯当時好きだったデザイナーやブランドは?

 当時はエディ・スリマン(Hedi Slimane)による「ディオール オム(DIOR HOMME)」の全盛期でした。あとは、ラフ・シモンズ(Raf Simons)、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)、ヴェロニク・ブランキーノ(Veronique Branquinho)、A•Fヴァンデヴォースト(A.F.Vandevorst)など、90年代に出てきたアントワープのデザイナー達が好きで、今でもとても影響を受けています。

⎯⎯デザイナーを志し始めたのも高校生の頃からですか?

 そうです。卒業後本当は専門学校への進学を希望していたのですが、一貫校に通っていたので両親の意向もあって付属の大学への進学に変更しました。

⎯⎯不満はなかったのですか?

 落第ギリギリだったため、勉強ができないから進学できずにファッションに行ったと同級生から思われるのも癪に障るので、大学進学は最終的には自分の意思でもありました。ただファッションに対する想いはずっとあったので、大学では哲学や美術史など、ゆくゆくの創作の糧になりそうな分野を選んで学びました。中高では悪かった成績も、大学では良かったので結果として自信にも繋がりました。

⎯⎯四年制大学に通う生活を送りつつも、ファッション熱は冷めなかった。

 そうですね。一応ファッションサークルに所属して、自分たちでファッションショーを開催したりしていたのですが、それだけでは満足できなくて大学3年生のとき「ここのがっこう(coconogacco)」に入りました。入学当初は、知識だけのファッションオタクだったので、いざ製作となるとどうアプローチすれば良いか分からず大変でしたね。

⎯⎯その状況をどのように脱却しましたか?

 自分の過去と向き合ったことがきっかけとなりました。変わりたくても変われなかった少年時代であり、ファッションとの出会いでもある思春期と対峙することで生まれたのがファーストコレクションです。

2015-16年秋冬コレクションより

2015-16年秋冬コレクションより

⎯⎯個人的には、吉田さんといえば東コレデビューコレクションのファーストルックで登場した「ゲーマー風ルック」なのですが、あれはSNSで話題になることを狙って作られたモノだったんですか?

 そんなことはありません。ファーストコレクションで既に同じような表現をしていて、その延長としての取り組みでした。だから当時はファッションウィークで発表することに対して「これが受け入れられるのだろうか」とか、「これで大丈夫なのだろうか」といった不安と自信の半々でしたね。

⎯⎯ストリートキャスティングのモデルを起用することも、当時はまだ珍しかったのかなと思います。

 「格好いいモデルが格好いい服を着てランウェイを歩く」という当たり前のことが、当時のムードや、人の心と少しズレているのではないかと感じていました。思春期の頃の自分のような、変わろうとしている生々しい若者たちがランウェイに出ることで、その姿に憧れを見出すことができたら美しいと思ったんです。

⎯⎯ターゲットは当時の自分と同世代の若者?

 そうですね。思い悩むさまの美しさをファッションショーという場で表現することで、当時の自分と同じような環境にいる若い子や、同じような心情で生きる人々を同志の目線から勇気づけたいと思っていました。

⎯⎯2017年春夏コレクション以降、冴えない少年を落とし込んだデザインから、洗練された女性像を投影したデザインへの方向転換があったように感じます。理由はありますか?

 年齢を重ねていく中で、思い描く少年像が自分にとって等身大ではなくなったからです。デザインを考えるときに、自分の中にあるものではなくリサーチを通して若者像を作り出そうとしていることにふと違和感を覚えて。あとは、この方向性を続けていても、「半径5メートル」程度の狭い範囲にしか影響を与えられないと思ったんですよね。クローズドなコミュニティブランドで終わらないために何ができるか?を考え、方向性を模索していたのが2017年春夏〜19年春夏頃のコレクションでした。

2018年春夏コレクションより

2018-19年秋冬コレクションより

⎯⎯軌道修正で目指したものは?

 デザイナーを志した当時に憧れたような、ファッションブランドやファッションデザイナーの姿に改めて近づいていくべきだと思い、意識を広げていきました。それまでブランドが一貫してテーマとして掲げてきた”若者の生々しさ”を、“精神性”や“ムード”として捉えて、そこからスタイルを見出したり、服のシェイプに落とし込んでいくようなアプローチ方法をとり始めました。同時に、ファッションの流れの中でいかに新しいものを作れるかに執着していましたね。

10周年を迎えたブランドの現在地

⎯⎯ブランドの方向性を模索していた時から更に5年ほどの月日を経て、服作りに対する考え方は変わりましたか?

 今も常に新鮮さを大切にする気持ちは持っているけれど、そのために服作りをしているかと言われたらそれは違うかもしれません。

 今、社会全体で大小さまざまな問題や変化が次々に起こっています。そんな忙しない日常の中で、装いに対して革命的な変化を人々は求めていないように感じていて。繰り返される日々の延長に何を見出すか、そして人の在り方をファッションを通してどう模索し、更新していくことができるかを考えるようになりました。1回1回を真新しくすることも大事だけれど、ブランドとして歴史を積み上げていくことで、どれだけ大きな変化を生み出すことができるかの方が今はより大切だと思うようになりました。

⎯⎯製作プロセスにも変化はありましたか?

 もともと内省を突き詰めたその先からデザインを生み出すやり方を得意としていましたが、ここ数年で、良い意味で自分自身への関心が薄れたように思います。デザインに対する態度は変わりませんが、今は個人的な表現よりも、ブランドとしての表現をするという意識を持つようになりました。

 これまでは社会に対してどこか疎外感を感じている自分自身の地点を始発として物事を考えていましたが、最新コレクションは社会の内側にケイスケヨシダを置いてみて、そこから現代を俯瞰して眺めてみることを始発点としてデザインをしています。

⎯⎯ここ数シーズンは「アクネ ストゥディオズ(Acne Studios)」や「エムエム6 (MM6)」などを手掛けるスタイリストのレオポルド・デュシュマン(Léopold Duchemin)さんとタッグを組まれていますね。

 彼がチームに加わったことで、表現への広がりが生まれました。日本語的な感性で物を作っているブランドに、グローバルな編集者が入ったことはブランドの成長にも繋がっていると思います。

⎯⎯難しさはありますか?

 僕はすごく日本人的な情緒を大切に物づくりをしているので、頭の中に浮かんでいる抽象的な言葉が、英語に変換したときに意味も変わり伝わってしまうようなことはありました。でも、最近は彼がブランドのことを理解してきてくれているので、「こういうことでしょ」とニュアンスを汲み取ってくれています。その一連のやりとりを通して、新たな気づきを得ることも多いです。

⎯⎯ケイスケヨシダのコレクションテーマは抽象的な部分も多い印象です。ここをハードルに感じてしまう人もいるのではと思うのですが、そこについて思うことはありますか?

 これは最近とても関心がある部分です。情報が溢れすぎている今、答えにすぐ辿り着けるものや、ぱっと見で理解できるものが求められている。また、多くの人はテンポの良さに心地良さを覚えているので、冗長な表現やそこに流れている情緒への関心は薄れているとも感じています。例えば、ChatGPTと会話をしたら直ぐに明快な答えが返ってきますよね。僕もショート動画をよく見るし、ChatGPTを使うので、そのようなリズム感が当たり前だと思い始めていることを体感しています。

 ファッションにおいても、その感覚は同じように求められていると感じていて。でも、今まで僕が表現の中で惹かれてきたのは、言葉にできない感覚や、人間的な感情や葛藤、一見すると退屈にも思えるような情緒でした。だからこそ、時代が求める感覚と調和させながらも、そうした要素を大切に服作りをしていきたいと思っています。ぱっと見では理解しにくいものもあるかもしれませんが、それこそが余白であり、奥行きだと思うんです。

 ただ、もし今僕たちの作っているものが、ぱっと見で難しそうに見えて興味の対象から外れてしまっているとしたら、それは作り手としての落ち度だと思います。

⎯⎯作り手としての落ち度。どうしてそう思うんですか?

 自分が中学・高校生だった頃、情報にたどり着くのは今ほど簡単ではありませんでした。それでもファッションをもっと知りたいという意欲を持てたのは、当時憧れていたデザイナーたちがファッションを何も知らない15歳そこらの自分にも直感的に響くコレクションを作ってくれていたからです。そこには、見る人の知識や経験に関係なく届く力がありました。だから、感覚的に良いと思わせて、もっと知りたいと感じさせるきっかけとなる「何か」が足りていないのかなと。

⎯⎯服を通して自身の考えを世の中に提示する理由はなんですか?

 服を作ることで社会を変えたいみたいな大それたことは思っていなくて。ただ、僕たちが現代に生きる中で抱えているフラストレーションとか生きづらさみたいなものに対して、表現をもって問いかけたり、向き合ったりすることはできると思うんです。それに触れた人の心の在りように、良い影響をもたらすことができたら嬉しいです。

⎯⎯「ケイスケヨシダ」の服を着る人には、服に込めた思いを常に知っていてほしいですか?

 そんなことはないです。僕たちが作っているのはあくまで洋服であって結局は着るものだから。例えば、ファッションショーでルックを見ているとき、言葉による説明なんて不要なわけで。だから目で見て、そこで美しいとか、着てみたいと思ってもらえることのほうが大事です。

⎯⎯それでも自身の考えを言葉で残す理由は?

 コレクションの背景に興味を持った人が調べたときに、ちゃんとブランドのステートメントとして言葉がある必要性を感じているからです。僕の場合は、それが制作したことに対する責任でもあるように感じています。とはいえ、必ずしもきっちり説明されている必要があるとは思っていなくて。ときには詩のようなものでいいかもしれないし、ときには一言二言のキーワードでもいいんです。

⎯⎯自身の過去や負の感情をモチーフにした作品を世に出すことに対して、怖さはないですか?

 自分のパーソナルな部分を作品を通して見せることについて、恐怖心を抱いたことは殆んどありません。表現する過程で、そこは受け入れて乗り越えているんだと思います。あとは、初期の頃に散々に自身を曝け出してしまっているので、今はもう何をやっても手遅れだろうという感覚もあります(笑)。

 作家にとって自分を理解することはとても大切なことです。ただ、先ほども話した通り、最近はファッションを通して自分自身を表現することにはあまり関心がありません。物を作る以上、経験や感情、感性はどうやっても溶け込んでいくのでそれで十分だと思っています。

⎯⎯この先の10年を見据えた、デザイナーとしての展望を教えてください。

 まずはブランドを拡張していきたいです。アイテムやスタイルの幅を広げることもそうですし、販路も広げていきたい。そのためには海外へも挑戦したいです。そうやってクリエイションを通してコミュニケーションがたくさん生まれたり、チームの輪が広がったり、ブランドがグローバルに浸透していくことを目指していきたいです。

 あとは、ファッションに救われてきた1人の人間として、ファッションに恩返しをしたいという気持ちは常にあります。享受した知性や、影響を受けた文化を発展させながら次の世代に継いでいけるようなデザイナーになりたいです。かつての自分がそうだったように、ケイスケヨシダが今の若い世代にとってファッションに興味を持つきっかけや、誰かの心を前向きにできるような存在になることができればと思います。ファッションの魅力は「人が変われる」ってところなので。

FASHIONSNAP 編集記者

菅原まい

Mai Sugawara

2002年、東京都生まれ。青山学院大学総合文化政策学部卒業後、2025年に新卒でレコオーランドに入社。中学生の頃から編集者を志し、大学生時代は複数の編集部でインターンとして経験を積む。特技は空手。趣味は世界中の美味しそうなお店をGoogleマップに保存すること。圧倒的猫派で、狸サイズの茶トラと茶白を飼っている。

最終更新日:

ADVERTISING

PAST ARTICLES

【インタビュー・対談】の過去記事

過去記事一覧

吉田圭佑

Image by: FASHIONSNAP

現在の人気記事

NEWS LETTERニュースレター

人気のお買いモノ記事

公式SNSアカウント