
Image by: FASHIONSNAP (Photo by Harry Miller)

Image by: FASHIONSNAP (Photo by Harry Miller)
9月、ミラノ。ヨーロッパのなかでも穏やかで明るいイタリアはファッションウィークで、ひときわ賑やかになる。そんなはなやぐ街のなかでも異質なオーラを放ち視線を集めるのは俳優・伊勢谷友介。ディーゼルが招待したランウェイの前日、現代的な建物と歴史が混在するミラノの街を闊歩した。俳優、映画監督、アーティスト、そして実業家。さまざまな顔を持つ男が、多岐にわたる表情を見せるミラノで、成熟した大人の側面と歳を重ねても変わらない才気溢れる姿を見せてくれた。
SCENE1:@Piazza Velasca
ブルータリズム建築とモダニズム。異形の塔と伊勢谷友介
普段ベルリンで音楽ジャーナリストとして活動する私にとって、初めてのミラノ。初めてのファッションウィーク。ランウェイなどこれまで生で体感したことはない。私はどこか緊張と旅の高揚感で落ち着かない気持ちでいた。そんな心配をよそにこの日、颯爽と撮影現場に現れた伊勢谷友介はあくまで肩の力が抜けて自然体だった。
「50歳になったけど、ミラノの街にまた新しい刺激があるのか、今から楽しみ」そう口にしている彼の目はディーゼルの世界が体現するような自由と野心、気持ちのいい奔放さに溢れていた。
まず訪れたのは、ヴェラスカ広場。イタリア・ミラノの中心部にある、街の歴史と近代建築が融合した象徴的な広場(スクエア)だ。ミラノの象徴である「ドゥオーモ(ミラノ大聖堂)」からもほど近く、市民からは「サスペンダー(あるいは骨組み)付きの塔」とも呼ばれ、戦後のブルータリズム建築を代表する歴史的建造物にも指定されている。足早に駅へ向かう人々に混ざっても一段と目を惹く伊勢谷は、こうした街のディテールにも早速目を留める。



「日本でトラムの横で撮影していたら、怪訝な顔をされかねない。でもこの街の人は『ああ、ファッションウィークで撮影しているのね?』って具合で気にも留めないおおらかさがある。それでいてスーツを着てサングラスをかけた運転手が、裸足に革靴で涼しい顔をしてこちらを見てる。余裕があって、人生を謳歌していて、素晴らしいな」撮影中も街を全身で捉え、素直に感じて、言葉を紡ぐ。その姿にこちらまで触発されていく。オーストラリア出身のフォトグラファーと撮影中、英語でサーフィンの話をする様子や冗談を飛ばし合う様子からも、次第に親密で暖かな空気が彼を中心に自然と生まれていく。
SCENE2:@San Lorenzo Maggiore
歴史と今が共存する路地で待ち合わせ
続いて訪れたのは、サン・ロレンツォ・マッジョーレ聖堂の前に並ぶ16本の古代ローマ列柱。もとは2世紀頃の神殿か公共浴場の一部だったとされ、4世紀にこの地へ移設された。ミラノがメディオラヌムと呼ばれた古代ローマ帝国の要衝だった時代を伝える、数少ない遺構のひとつだ。日中は観光客で賑わい、夜になると近隣のバーに繰り出す若者たちの溜まり場にもなる、この街でもっとも“生きた”史跡と言えるかもしれない。列柱を手前に、行き交うトラムを眺め街に溶け込む。過去だけに価値があるわけではなく、積み重なって新しい形に変化する——。そしてまた街に新しいドラマが生まれるのだ。



「グラフィティのクオリティがびっくりするぐらい高くて。歴史的な石畳の隙間に、今のストリートカルチャーが当たり前みたいな顔をして入り込んでいる。過去と今、どちらかだけを大事にするんじゃなくて、両方がちゃんと共存できている。それがすごく人間的で、歴史を背負った街の美しさの一つの形なんじゃないかな」ミラノの街をそう語る伊勢谷自身もまた、同じように時間の蓄積を抱えながら、"今、この瞬間"に対峙している——そんな熱量を感じさせた。
SCENE3:@Darsena
ミラノの“出口”だった水辺に沈む夕陽の穏やかさ
一日の終わりに我々が歩みを進めたのは、2つの水流が合流する水辺、ダルセナ(Darsena)。かつてミラノでもっとも賑わう内陸港のひとつで、16世紀からドゥオーモを建てるための大理石を運ぶ船がここに着岸していた。運河を航行可能にした水門の設計には、当時ミラノに滞在していたレオナルド・ダ・ヴィンチも関わったと伝えられている。
1960年代に港としての役割を終え、長らく荒廃していたこの一帯は、2015年のミラノ万博を機に大規模に再整備され、遊歩道とカフェが立ち並ぶ、街でもっとも開放的な水辺へと生まれ変わった。今では昼夜を問わず人々が行き交い、日没時には空の色を映した水面がひときわ美しい。犬を散歩している女性や散歩にでかける人たちもどこか長閑だ。こうした人々が放つエネルギーによって、夕刻には一日の終わりにふさわしい穏やかさをたたえる。


かつて大理石を積んだ船を送り出した、ミラノの"出口"でもあったこの水辺で、長い一日を歩き終えた伊勢谷の視線は、静かに水面の先を見つめていた。穏やかなミラノの日常のワンシーンを体感した私たちは明日、一転してランウェイの熱狂に包まれることになるのだ。

RUNWAY:@Superstudio Maxi
混沌と創造。グレン最後のショー、その熱狂を目撃
翌日、9月22日。伊勢谷が招かれたのは、グレン・マーティンス(Glenn Martens)が6年にわたり率いてきた「ディーゼル」のショー。その最後のコレクションの発表の場として選ばれたのが大型スペース「Superstudio Maxi」だ。2020年の就任以来、ディーゼルをもう一度世界のファッションの会話の中心へと引き戻してきたマーティンスは、この2027年春夏コレクションを最後に退任し、兼任してきたメゾン マルジェラ(Maison Margiela)での仕事に専念することが発表されている。ミラノファッションウィークの始まりを告げるディーゼルのショーは、毎シーズン規格外のスケール感で会場そのものを一つのインスタレーションに変えてしまうことで知られる。

前日まで歩いてきた歴史的建築や雑踏の日常的なムードとは対照的に、会場には世界中から集った何百人ものセレブリティを含むゲストと熱気が渦巻いていた。会場に向かう車から眺めるとK-POPスターを待つ夥しい群衆。それから、シャッターを切る人たち。凄まじい場所にきたと思った。しかしいざ中に入るとインダストリアルな鉄骨がむき出しの空間に重低音が鳴り響き、大型のファンが起こす風と、薄く照らし出される赤い光。テクノレイヴさながらの空気のなか、緊張と興奮が否応なく高まっていく。これはまるでベルリン、ホームグラウンドじゃないか? そんな思いがよぎった。重低音が会場を揺らし、期待と熱視線を一身に浴びながらショーは幕を開けた。

Image by: DIESEL
モデルたちが着る服は、どれも挑発的だ。隠すべきところがむき出しになり、オーキッド(蘭)の花柄で境界が覆われ、コラージュされる。計算し尽くされたダメージ加工。はみ出すような口紅。そしてその熱に侵されたのか会場の至るところでキスをしたり、絡み合う多種多様な人々。ランウェイだし、ミラノだしこういうものなのか?だが中盤に差し掛かると、ドナ・サマー『Love to Love You Baby』が、テンポを落とし官能さが増していく。さながら繋ぎ合わせた服のように何度も裁ち直されていく。レイヴの終盤でDJがレコードをスクリューするように、ゆっくりと引き伸ばされたかと思えば、一気に回転速度を上げる。——そんな縦横無尽なリミックスに乗せて、座席に紛れ込んでいた200人がヘッドバンギングをする。やられた!そう思えるサプライズのパフォーマンスだったのだ。
序盤から中盤に来場者が感じたであろう「どこまでが仕込みで、どこまでが本当なのか」という気持ち。その戸惑いすらエンターテイメントに変えてしまう手腕に、自由で挑戦的なディーゼルらしさを見た。目と耳、そして感情までいい意味で振り回された末、最終的には、私も音に乗り、パフォーマーに乗せられるがまま踊った。今この瞬間を祝うようだった。最後には誰が始めるともなく最前列のセレブリティから最後列のオーディエンスまで、スタンディングオベーションの大喝采が起こる。初のランウェイは最高に楽しかった。
熱狂の中心にはグレンがいた。彼のクリエイションがこの街でどれだけ愛され、リスペクトされているか、その熱量を目の当たりにした1日だった。

Image by: DIESEL

Image by: DIESEL
<DIESEL SS27 RUNWAY SHOWの全ルックはこちら>
演出、創造、自由な「ディーゼル」に感化される伊勢谷友介
熱狂の最前線。フロントロウの席に身を置いた伊勢谷もまた、興奮気味だった。
会場の熱気が冷めやらぬなか、バックステージに招かれた伊勢谷は、この日「ディーゼル」での最後のショーを手掛けたグレン・マーティンスと言葉を交わした。「どう着ていいかもわからないくらい、形が想像できない服が、モデルが歩いた瞬間にものすごく美しくなる」——率直な感想を伝えると、グレンは素直に喜び、「Because I want to make you
happy(ハッピーな気持ちにさせたいから)」と冗談めかして返してきた。そしてまた、ワッと笑い声が上がる。構築と破壊が連続していくような、隙のない彫刻的な完成度。ファッションやアートの空間だからこそ提示できる"完璧"には、気持ちよさがある。——かつて自身もランウェイを歩いた経験を踏まえ、伊勢谷はそんな分析も口にした。


これが6年間グレン・マーティンスが率いたディーゼルでの最後のショーだった。祝祭のような熱気に満ちたバックステージで、伊勢谷はこの旅で取り戻した感覚について語った。「僕の中からこの規模感での芸術活動に対する"興奮"がなくなっていたんだと思う」。日常や社会への問いを草の根から投げかける活動に魅力を感じていた時期に、その真逆の世界で真っ向からの本気を見せつけられたのだ。言葉はさらに熱を帯びていく。
「服だけじゃない。演出の隅々にまで、見る者を飽きさせない工夫が詰め込まれていた。気づけば、ショーではない何かを見ていた瞬間さえあった。あの空間とあの時間をチーム一丸となってつくり出した演出こそ、面白かった。ランウェイというフォーマットでのエンターテイメントの底力を見せつけられた感じがする。ダメージ加工も含めて、隠すべきとこが見えている。音楽と共にカオスのなかにあるエロスと美が打ち出されたコレクションの自由なムードに自然と体が乗せられた。そこに一番感動できた」

「ディーゼルほど規模が大きなブランドは、マーケットに対して『これが今かっこいいんだ』と価値観を打ち出せるメディアとしての役割を持っている。そのダイナミズム、規模感、パンチ力、すべてにエネルギーを感じたね。そこにグレンのカリスマ性と、元々ブランドの持つ力とが重なったショーだった。そこがエキサイティングな部分なのかなと。そしてなにより素晴らしいのは、彼のクリエイションが若者でも頑張れば買えるということ。それも含めてディーゼルの創造性、魅力なのかもしれない」


充足感に満ちた表情で、送迎車に乗り込む伊勢谷。街を歩き、人と触れ合い、ショーの熱狂に身を委ねた2日間を振り返る。「ショーで言えば、エロスとか本能の解放というか。『衣食住』というくらい、服は誰しもが着るもの。みんなが楽しめるファッションを体現している、ディーゼルの創造性、そしてミラノの“バイブス”にやられました。自分もまた前向きなメッセージを創造していかないといけない」
会場を後にするも、既に視線は日本へ向かい、決意を新たにしている姿が印象的だった。




おわりに:
実は伊勢谷にとって、ミラノは初めての街ではない。遡ること約30年前にランウェイモデルとして招待されたという。今回の取材のために当時使っていたイタリア・リラの硬貨を、記念品として取材陣に持ってきてくれた——もう二度と使うことのない通貨を、懐かしそうに手のひらで転がしながら。
「当時はまだリラが使われていた時代。もうあの頃のミラノはどこにもない。これをユーロに換金しても安い。でも物の本当の価値ってそういうことじゃないよね?それが面白いんだって。よかったら記念に持って帰ってよ」
好奇心の赴くまま、聞き手が求めること以上に言葉が溢れ出る。知性と無邪気さ、そしてクールさ——取材前に頭のなかで浮かんでいた3つのレイヤーは、最後までそのまま伊勢谷友介という人のなかに同居していた。そしてロマンを忘れていなかった。「Because I want to make you happy」そう語ったグレンともどこか重なるというのは言い過ぎだろうか。
「この年齢になると、慣れがくる。そのなかでも、まだ見たことないものを見せてくれる楽しさに改めて触れられた」と総括したミラノでの2日間、新鮮に今この瞬間のインスピレーションを大事にする人柄に魅了された私もまた、今後の彼の表現を追い続けていきたいと、自然と思えた。
LOOK1:ジャケット ¥132,000 | シャツ ¥50,600 | パンツ ¥91,300 | サングラス ¥28,820 | ベルト¥23,100 | スニーカー ¥30,800
LOOK2:レザージャケット ¥165,000 | ニット ¥61,600 | パンツ ¥102,300 | ローファー ¥64,900 | バッグ ¥118,800
LOOK3:デニムジャケット ¥80,300 | シャツ ¥111,100 | デニムパンツ ¥56,100 | ベルト ¥23,100 | ブーツ ¥102,300
※すべて税込、着用アイテムはこちら
photography: Harry Miller, video direction: Masaya Kato, creative direction & writing: Hiroyoshi Tomite, hair & make: Yohei Kuroshima | editing: Yuui Imai, project management: Tomoya Sasaki(FASHIONSNAP)
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