Kaijiro Masuda

"メタボセクシャル"の衣食日記(2)山縣良和のショーからシャルリー事件を考える

増田海治郎

ファッションジャーナリスト

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 2015年1月7日午前11時30分、フランスの言論の自由を揺るがすシャルリー・エブド襲撃事件が起こった。その2週間後、「リトゥンアフターワーズ」「リトゥンバイ」のデザイナー、山縣良和は展示会のために、私はパリ・メンズ・コレクションの取材のために厳戒態勢のパリへ降り立った。11区の襲撃現場は、私の常宿から500メートルしか離れておらず、山縣に至ってはホテルの目の前だった。滞在した1週間、忙しくショー取材をこなしながら、ずっとこのことが頭から離れなかった。山縣はバイヤーにコレクションの説明をしながら、ずっとこのことを考えていた(と思う)。それに対する自らの考えを、かれはファッションショーを通して表明した。今度は私の番である。

charlie_km001.jpg(写真左)事件から2週間経った襲撃現場は、当然封鎖中だった(写真右)1月11日に160万人以上が参加したと言われる追悼集会の中心地、レピュブリック広場

 昨年来、私は「リトゥンバイ」の洋服にハマっている。自分の着るものに関してはクオリティを第一に考えるタイプなのだが、なぜかここの服は多少作りが甘くても、袖を通したくなるものが多い。正直40を過ぎて、白バラ牛乳や0系新幹線のニットを着るのはとても勇気がいる。ヤブ医者をイメージしたショップコートを着ると、自分がヤブ記者になった気になる。でも、着るだけで1日が楽しくなるし、周りもみんな笑顔でツッコミを入れてくれる。服に山縣の主張と力が宿っているような気がするのだ。

 「リトゥンアフターワーズ」のショーは、直径2メートル超の巨大な地球儀がランウェイを"転がる"かたちで幕を開けた。山縣のギャグのセンスは信用に値するが、真っすぐ転がれない地球儀の(中の人の)迷走ぶりに会場からは笑い声があちこちで上がる。そして、小学生の聖歌隊が登場して、マイケル・ジャクソンの「Heal The World(ヒール ザ ワールド)」を歌い始めた。決して全国レベルではない微笑ましい"平和の使者たち"の歌声に頬が緩む。

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 洋服の登場である。様々な国籍、子供から青年までのモデルが着ているのは、色とりどりのニットだ。5色で国を色分けした地球儀柄のハイネック、スペースシャトルのタートルネックセーター、子供が描いたような宇宙船のプルオーバーなど、地球と宇宙をモチーフにしたものが多い。そこに80年代風のレーシングスーツ(おそらく古着)などを加えて、1980年代のベネトンの広告(主に人権問題を主題にした)にオマージュを捧げている。合間には「地球に腰掛けて侵略をもくろむ宇宙人」と「悪いやつがいないか宇宙からパトロールするスーパーマン」が登場し、コレクションに絶妙のアクセントを加えている。笑いながら泣きそうになった。笑いと木霊するように平和への願いが心に響いてきたから......。

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 第2次世界大戦が終結して70年が経った。日本が戦争を放棄して70年が経った。今世界中で他人(国)を思いやることを忘れた人たちが、武器で経済で映像でペンで互いに傷つけあっている。マイケルと少年少女合唱隊は、サビでこんな言葉を投げかけてくる。「世界を治療しよう。より良い場所にしよう♪」と。

 地球儀は山縣がもともと使ってきたモチーフだし、コレクションの多くは事件前に製作していたのだから、事件と結びつけるのはやや強引なのかもしれない。それでもこのコレクションはシャルリー事件に対する山縣の回答以外の何物でもない。かれはファッションショーを通して平和と笑うことの大切さを訴えたのだ。ニードルパンチという洋服の技術で作られた地球儀は、愛とユーモアに満ち溢れた"平和の爆弾"だった。そして、その地球儀の分身であるカラフルなセーターは、自分と周りの人を着るだけで幸せにしてくれる"平和の銃"なのかもしれない、と思った。

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>>writtenafterwards ショーの詳細・映像

 ショーの後の囲み取材で山縣はこう言った。「日本人は中間が分かる」と。意訳すれば「表現の自由にこだわる人の気持ちも、自分の信じるものを傷づけられて復讐に燃える人の気持ちも分かる」ということなのだろう。パリ滞在中、何度かフランス人に、ファッションデザイナーや食堂のおばちゃんに「お前もシャルリーだよな?」とすがるように聞かれて即答できなかったもやもやがようやく晴れた。襲撃現場を埋め尽くす「JE SUIS CHARLIE」に混じって、こんなメッセージが立てかけてあったことを思い出した。「JE SUIS HUMAIN」。そう、私はシャルリーでもムハマンドでもない。我々は同じ人間なのである。

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【"メタボセクシャル"の衣食日記 2015-16年秋冬】
(1)75歳が見せたファションへの情熱

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