「MISTERGENTLEMAN」の2021年秋冬コレクション
「MISTERGENTLEMAN」の2021年秋冬コレクション
Image by: FASHIONSNAP(Mika Inoue)

Kaijiro Masuda

「メタボセクシャル」の衣食日記(9-2)――オオスミさんのクリエイティブには限界がなかった

増田海治郎

ファッションジャーナリスト

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「MISTERGENTLEMAN」の2021年秋冬コレクション Image by FASHIONSNAP(Mika Inoue)
「MISTERGENTLEMAN」の2021年秋冬コレクション
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 前のショーから急ぎ足で移動し、開始時刻の5分前に渋谷ヒカリエのAホールに到着した。「フェノメノン(PHENOMENON)」と「ミスター・ジェントルマン(MISTERGENTLEMAN)」のショーが幾度も行われてきた場所。考え得るかぎり最も見やすい席を用意していただいた。背筋がピンと伸びる。2010-11AWのフェノメノンのデビューショー以来、オオスミさんが手掛けた全てのショーをこの目で見てきた。彼とはお酒を酌み交わしたこともないし、ゆっくり話したこともない。彼はショーを通して今の気分を表現し、私はその感想(批評)を文字で返す関係。だからこれまで通り、オオスミさんと吉井さんの最後のショーの感想から書くことにする。

 ミスター・ジェントルマン 2021年秋冬コレクション

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 ファーストルックは、茶のコーデュロイスーツに藤色のニット。ベーシックなスタイリングだが、首元にスカーフのようなものを巻いて抜け感を出している。3つの違う柄、編み地を縦に切り替えたニットは、ダブルフロントのパンツにインして着こなす。存在感のあるデニムパンツは、腿から下がダウンに切り替えられている。うーん、いつもながら自由だ。カラーパレットは落ち着いたアースカラーが中心で、遊び心のあるアイテムとのバランスを上手く取っている。

 いつもと毛色が異なるのは、フェノメノン時代からのオオスミさんのシグネーチャーが散りばめられていること。袖にポケットと身頃にボンボンがついたニットや、レモンツリーカモのレギンス、身頃を拘束するアームカバーなどの名作が、トラッドな世界に自由と彩りを加えている。そしてなんと言っても、ウエストから下がプリーツスカートのように広がる白のロングシャツ! 2010-11AWのフェノメノンのデビューショーで見て、個人的に大きな衝撃を受けたアイテムだ。あの頃はジェンダーレスな服はまだ一般的ではなかった。

「MISTERGENTLEMAN」2021年秋冬コレクション Image by FASHIONSNAP.COM(Mika Inoue)
「MISTERGENTLEMAN」2021年秋冬コレクション Image by FASHIONSNAP.COM(Mika Inoue)

 ブランケットやコートに書かれた「PRACTICE  NONVIOLENCE(非暴力の実践)」や「FREE YOUR MIND(心を自由に)」という言葉は、着る人へのメッセージであり彼の47年間の生き様でもある。20年に及ぶ彼のファッションデザイナーの集大成を見届け、彼と彼の作品に出会えたことに深く感謝した。

 訃報が報道された日、パリのストリートブランド「PIGALLE(ピガール)」のステファン・アシュプールは、インスタグラムのストーリーズにこのようなメッセージを記した。

He’s was the pioneer of street style and high fashion w/ his brand Phenomenon.

(彼はストリートとハイファッションのパイオニアだった)

He had no creative limits. I was fuge fan of his freedom, fantasy.

(彼のクリエイティブには限界がなかった。私は彼の自由とファンタジーの大ファンだった)

ステファン・アプシュールのInstagramストーリーズ
ステファン・アプシュールのInstagramストーリーズ
オオスミタケシ 逝去

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 私はステファンに100%同意する。彼はファッションデザイナーとして圧倒的な存在だった。「ストリートとモードの融合」「男女の境のないジェンダーレス」「様々なアイテムを融合させたハイブリッド」の3つは、2010年代のメンズファッションを語る上で欠かすことのできないキーワードだ。2010-11AWのフェノメノンのデビューショーは、この3つの要素の全てが詰まっていた。まるで2010年代のメンズファッションの未来を暗示するかのように。今見返しても全く古さを感じさせないコレクションは、同シーズンのミラノやパリ勢と比較しても圧倒的に先進的だった。

 私はこのショーを見て完全にノックアウトされた。前述のプリーツスカート風のシャツとコートのジェンダーレスな出で立ちに畏怖し、日本の鎧と西洋のミリタリーをハイブリッドしたMA-1に目を丸くし、昭和のやくざ文化を象徴する花札モチーフのニットに腰を抜かした。そして、フィナーレに登場したオオスミさんの巨体に驚き、インスピレーション源に「ガレージロック」を挙げたことに慄いた。ラッパーなのにガレージロック? このジャンルを超えた興味の幅と自由な編集力こそが、彼のクリエーションの本懐だったのではないだろうか。

 この頃の私はまだファッションの興味の幅が狭く、自分が通ってこなかったことを理由に、ストリートや裏原カルチャーを毛嫌いしていた。フェノメノンのデビューショーは、私を違う世界に誘ってくれた。ジャンルという壁にとらわれず、自由な視点でファッションを見られるようになった。ファッションがこれまで以上に楽しくなり、これまで以上に愛おしい存在になった。50を間近にしてもファッションへの興味が尽きることなく厨二のままでいられるのは、あの日のショーのおかげだと思っている。

 オオスミタケシさん、本当にありがとうございました。願わくは一度ゆっくりサシで話してみたかった。差し入れでマックとケンタッキーとクリスピードーナツをたくさん持っていくから、いつか天国でインタビューさせてください!

オオスミタケシ 逝去 ミスター・ジェントルマン

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MISTERGENTLEMAN 2021年秋冬

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