Nagisa Ichikawa

JFWO信田阿芸子×デルトロ坂本政則に聞く① FW東京ヴィジュアル制作の舞台裏

市川渚

ファッション コンサルタント

フォローする:

— ADの後に記事が続きます —

毎シーズン、ファッッション業界人の耳目を集める「メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク 東京(Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO=MBFWT)」のキーヴィジュアル。近年では、長嶋りかこさんや吉田ユニさんなど、ファッションヴィジュアルの実績が多いCD/ADを起用してきた中、2016 S/Sのデザインを担ったのは主にオンスクリーンメディアのアートディレクション、デザインの分野で活躍しているデザインファー ム「DELTRO(デルトロ)」の坂本 政則さんでした。

今回は、これまでとはジャンルの違う坂本さんというパートナーを得て、 Fashion Weekはどんな未来を描いたのか。JFWO国際ディレクター信田 阿芸子さん、「DELTRO(デルトロ)」坂本 政則さんの両名をお迎えし、ファッションとデジタルテクノロジーについて話を伺ってきました。前後編でお届けします!


若手とは、ファッション業界に新鮮な空気を送り込む人のこと

――今までのキーヴィジュアルではファッションヴィジュアルの分野で実績のあるCD/ADを起用されていましたよね。その流れからデジタル寄りの坂本さんに依頼された経緯を教えてください。

JFWO国際ディレクター信田阿芸子さん(以下、信田 敬称略):まず、MBFWTを主催している一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(Japan Fashion Week Organization)は、10年前に経済産業省の肝入で設立された、業界団体としては比較的に新しい団体です。

世界5大ファッション・ウィークのひとつとして、東京のファッション・ウィークの存在感や発信力、クオリティーを向上させることを目指して、毎シーズンさまざまな企業や団体と取り組みを行っていますが、シーズンを重ねる毎に評価が上がっているもののひとつがキーヴィジュアルなんです。

ファッション業界の特徴として、アートや映画などの分野以上に"新しさ"を大事にします。そのため、比較的若手で新しい方向性や独自性をファッションという切り口で表現していただけそうなクリエイターを探しています。

真新しさや新鮮さを重視しているため、毎回非常に優秀なクリエイターに出会いますが、2シーズンを一区切りにして、3シーズン以上、起用させていただくことはないんです。毎年、クリエイターを選考するのは実は大変ですが、さまざまなところに目を向けて色んな人と付き合って行くことが大事なのではないかと思っています。

あと、欧米ではファッションとマスメディアが密接ですが、日本ではその関係に少し距離があるように感じます。日本人の気質かもしれませんが、かっこいいものをあえて語らない、わかる人だけわかればいい、というところがあるからかもしれません。マスメディアともっと近づけば、ファッション業界が大きく変わってくると思うので、MBFWTでも毎シーズンメディアとの取り組みを積極的に行っています。

ファッションはデジタル化がすごく遅かったんですよね。ECサイトの誕生でウェブ上でセールスができるようになっても、頑なに「しません」という姿勢を崩さない企業が多かった。ファッションという分野は、本来「新しいモノ・コト」が大切な産業ですよね。だから、そういうことに挑戦していきましょう、という姿勢を示すためにも、しっかりファッションの本質をご理解いただきつつ、デジタルに強いDELTRO坂本さんにお声掛けさせていただいたんです。

今はSNSもスタンダードになっていますので、デジタルでの拡散性をヴィジュアルのクオリティーと同等に考えていただけることも、クリエイター選びには重要になっていると思います。

先ほど新鮮さが必要といいましたけど、それは若手に限らず、"ファッション業界での新しいクリエイター"ということがポイントなんです。これまでのファッションヴィジュアルとしての王道を外して、おもしろいことをやってくれるという期待感をDELTROの作品や実績を見て感じたので、今回お願いしました。

ファッションとデジタル。近くて遠い業界の未来が切り開かれた

――毎シーズン、キーヴィジュアルを拝見していて思うのは「ヴィジュアル1枚にどんな思想を込めればいいんだろう」ということを、それぞれのクリエイターがすごく考えて作られているなということです。坂本さんは、今回のお話を受けてどうでしたか?

DELTRO(デルトロ)坂本政則さん(以下、坂本敬称略):僕が元々切り開いてきたのはWEBデザインのフィールド、それもとりわけプロモーション寄りのプロジェクト。ジャンルとしては、車、スポーツウェア、デジタルデバイス、アニメ作品などが比較的多いのです。

随分昔にファッションブランドや化粧品ブランドの公式WEBサイトなどを手掛けたりもしましたが、生まれも育ちもメカ/プロダクト・デザイン大好き男子かつ、タイポグラフィを構造的あるいはダイナミックに起用したグラフィックと、これまで関わってきたプロジェクトの規模やテイストなどの影響もあり、気づいたらすっかりファッションや女性をターゲットとしたプロジェクトから縁遠くなってしまったのです。

しかし、いずれも積極的に介入したいほど好きなので、常々機会を狙っていました(笑)。

――そんな坂本さんに、今回のキーヴィジュアル制作のお話が来た、と。

坂本:そうなんですよ。正直、依頼のメールを拝見して目を疑いました(笑)。

2013 S/S、A/Wの吉田ユニさんが手がけられたヴィジュアルも拝見していて「素敵すぎる」と心振るわせていましたし、2014 S/S、A/Wの長嶋りかこさんが担当されたヴィジュアルもしかり、自身の持つデザイン的個性そのものがファッション・ウィークのキーヴィジュアルとして機能している。加えて当然のことながら、毎回キーヴィジュアルを担当されるのはファッションヴィジュアルの分野で実績のある方々。それらを見ていた分、余計に「俺か...このあとコレを俺がやるのか?」って思いましたね( 笑 )。

――そういう意味でも、これまでとは違う時代を切り開いた感がありますよね。

坂本:明らかにフィールドが異なりますよね。むちゃくちゃ興味はありましたが接点が皆無ですから、依頼は絶対来ないと思っていました(笑)。

ですが概要をお聞きすると、プロジェクトの規模、制作物の物量と多様性、スポンサーの意向への柔軟な対応など、ファッションに対する視点以外に必要な素養もかなり重要なポイントだと理解できたことと、この時代/タイミングだからこそ、僕のようなデジタル寄りな立ち位置の人間が候補に挙がるというのもすごく納得できました。あとは切り込み隊長として結果をきちんと出さなくてはと。

キービジュアルが公開された後、周辺同業の方にとっても「あのフィールドに切り込めたこと」に大きな意味を感じとってもらえたのはうれしかったです。

「テクノロジー」と言ってしまうのは大仰ですが、オンスクリーン・デバイスやフィジカル・コンピューティングによる表現とファッションは、様々な面で親和性が高いにも関わらず、橋渡しがほとんどなく剥離しているのがすごくもったいないなと感じています。

これから先、互いの業界がもっと密接にコミュニケーションできるようになれば、今までにない新しいものがどんどん生まれていくのではないでしょうか。。

現実世界に対してグラフィック・オブジェクトが介入している現象

――今回のヴィジュアルのコンセプトについて教えて頂けますか。

坂本:キーヴィジュアル紹介ページのコンセプトの文章がやたら長いんですよね(笑)。というのも構想自体はもっと広い意味でオブジェクトの有り様を考えていたからなのですが、時間的/工数的制約により表現の幅を大きく絞り込まざるを得なくなり...。

簡潔に言うと、ファッション・ウィークが、ブランドの新しい洋服やコンセプトを発表する場であることから、服づくりの過程で生じる発想の転換や取捨選択、マテリアルやカラーの組み合わせなど、洋服として実体化する前のイメージを視覚化することをテーマに設定しました。

5~6年ほど前に、とあるプロジェクトのプランニングをしていた時に、人体に対してコンピューター上で演算処理されたオブジェクトが合成されるようなモノをつくりたいと漠然と考えたことがあり、洋服のようでいて洋服ではないオブジェクトを原石(Gem)と見立て、人体と融合させたヴィジュアルを、グラフィックデザイナーの視点からつくっていこうと考えました。

現実世界に対してグラフィック・オブジェクトが介入している現象という、ソリッドでなんの質感も持ち合わせていないのだけど、それ自体にちゃんと質量があるということの非現実的なおもしろさ。それが、そもそもの始まりですね。

アニメ『AKIRA』の宇宙の誕生、『エヴァンゲリオン』の使徒の特性、漫画『七夕の国』の「窓に手が届く能力」、とかその辺りがアイディアの発端です。

――モデルは松岡モナさんですし、脇を固めるクリエイターのキャスティングも非常に豪華ですよね。

坂本:「歩いているだけのモデル」という単一のフォーマットを用意し、音楽にあわせて身体を包み込むオブジェクトが、さまざまなに変化していくような映像をつくり、そこから1シーンだけを切り出してキーヴィジュアルに落とし込むというアプローチがほぼ固まったところでキャスティングに入りました。

撮影関連のハンドリングやCGのことを考慮し、ビジュアルデザインスタジオ「WOW」のプロデューサーである田崎佑樹さんにはじめにお声がけをし、モデルはエヴァンゲリオン的な立ち振る舞いすら似合う東洋人が理想という会話から、同席していたWOWのプロデューサーの松井康彰さんから松岡モナさんを提案していただき、まさに自分のイメージとピッタリだったんですが、今一番人気の東洋人モデルであり、スケジュール確保が困難とのことだったので、諦めるしかなかったのです。

そこから「SIGNO」「IMAGE」にも参入していただき、スタジオやモデル、カメラマンやスタイリストらの撮影スタッフをキャスティングしていきました。ところが撮影2日前に急遽、第一候補だったモナさんのスケジュール確保が確定し、結果的に自分にとっての最高の布陣で撮影に臨めることになりました。

楽曲を提供していただいた「dajistudio」の吉田健二さんには、僕のディレクションミスもあり何度も提案させてしまう事態になってしまったのですが、最終的にはMBFWT 2016 S/Sの開幕を期待させる躍動感のあるものになり、本当にうれしかったです。

フォントもこのヴィジュアルのために、すごいバリエーション(1つのタイプフェイスの構造体から派生する亜種)をつくったんですけど、結局1種類しか使いませんでした。

僕自身のこのプロジェクトへの想いがすさまじく、様々な野望を持って挑みつつも、最終的なアウトプットの潔さ、スケジュール、工数などなどの課題に直面しながら、まさにコンセプトで書いた通りの、発想の転換や取捨選択を経て着地したものが、このキーヴィジュアル及び派生メディアとして世の中に放流されたのでした。

いや、これいつも当たり前にやってることなんですが(笑)。

――そんな偶然が重なった裏ストーリーがあったんですね。ちなみに信田さんは、仕上がったものをみてどう思いました?

信田:今回、MBFWTのランウェイでもご活躍されている松岡モナさんをキャスティングしていただのも良かったですよね。いま、一番旬のモデルさんなので。ヴィジュアル自体は、いい意味で万人受けする、と思いました。SNS上でも明らかにファッション業界じゃない方の反応もあるんですよ。これも坂本さん効果かなと。

「今回のクリエイターは誰?」と聞かれたときに「DELTROさんですよ」と答えると、ほとんどの方がピンときていない反応をされるんです。それが逆に嬉しいですね。ファッション業界に新しいクリエイターさんを紹介できた!と、発掘してきた感じがしています。やっぱり力がありますね、モナさんは。

坂本:そうですね。知名度が非常に高く、第一候補だったモナさんを起用できたことはかなり大きいです。

信田:オブジェクトに埋もれることなく、むしろバランスが取れている。

坂本:実は「万人受け」というのも着地点として視野に入れていました。容姿端麗で誰が見ても美しいと思えるモデルであり、オブジェクトを合成した時のヴィジュアルイメージで重要だった手足のすらっとした長さ。かつ東洋人的個性を備えた美貌と、目力と、奇抜すぎないヘアスタイルやメイク。その上で、グラフィックデザインとして合成するオブジェクトのモノトーンカラーとポップな2色のキーカラーを設計し、全体的に前衛的にしすぎないバランスを狙いました。

髪型も、オーソドックスなひっつめとプリミティブ寄りにしたヘアスタイルの2パターン撮影しましたが、合成するオブジェクトとカラーのバリエーションやグラフィック側のキーカラーなど、色々な要素が決定していく中で、プリミティブなヘアスタイルと「Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)」の編み上げブーツの組み合わせが結果的にフィットしました。やんわりパンクっぽくなったのもまた良かったなと思っています。

これまでの流れからベクトルを変更し、意外性のあるクリエイターを起用することでファッションとデジタル・コミュニケーションの未来を指し示した、今季のキーヴィジュアル。作品自体の完成度はもちろんのこと、ファッションとテクノロジーの良好な関係性を築くキッカケとしても、素晴らしい成果を残したといえるのではないでしょうか。

後編は、デジタルを活用した「メルセデス・ベンツファッション・ウィーク東京」の今後から、ウェアラブルデバイスをはじめとしたデジタルとファッションの未来についてお伺いしましたので、お楽しみに!

信田 阿芸子 (Akiko Shinoda)
一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)国際ディレクター
1993年伊藤忠商事株式会社入社、大阪本社のブランドマーケティング事業部(現)に配属。2000~05年のリチャード ジノリ ジャパン(株)出向時代には、プレス、商品企画、営業、物流など現場全般業務を務める。その後、東京本社出身部に戻りRoberto Cavalliほかブランドの日本導入などを担当し、伊藤忠ファッションシステム(株)への出向を経て、2008年に一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)国際ディレクターに就任。経済産業省のサポートのもと、イタリア、パリ、ニューヨーク、インド、モスクワ、ジャカルタ、上海、サウジアラビア、シンガポール、バンコクでも日本ブランドのプロモーションイベントなどを実施し、日本のデザイナー、ブランド、ファッション・ウィークの海外発信および若手クリエイターの海外進出支援を精力的に行う。世界のファッションビジネスで影響力のある500名として「BOF 500」に2014年・2015年選出。2015年文化庁文化政策委員会の委員に任命。15歳の長女と13歳の長男を持つ二児の母。

坂本 政則 (Masanori Sakamoto)
DELTRO INC. 代表取締役/アートディレクター/デザイナー
1972年静岡県生まれ。デザインファームDELTRO代表。アートディレクター/デザイナー。1999年よりフリーランスとして活動を開始し、以後、企業、ファッション、アニメ等様々なジャンルのアートディレクション、デザイン、プログラミングを担当。2009年にテクニカルディレクター/プログラマー村山健と共に株式会社DELTROを設立。デザイン/テクノロジーによる表現を主軸にメディアとフィールドを縦断。物事の本質や感動を伝えるべく活動を続けている。カンヌ国際広告賞、クリオ賞、D&AD賞、One Showなど国内外の広告賞を多数受賞。クライアントワーク/プライベートワーク問わず、オリジナルタイプフェイスの制作を積極的に行っている。代表作として「IntelR The Museum of Me」Webサイト、「Honda Road Movies」アプリ、ファッション/スポーツではUNIQLOやNikeなどのプロモーション、フォント開発では「au INFOBAR iida UI用欧文フォント」、アニメ作品のWebサイトでは「攻殻機動隊SAC」「交響詩篇エウレカセブン」「ギルティクラウン」などがある。

※インタビューは10月中旬ローンチ予定の新メディアより

最新の関連記事

Realtime

現在の人気記事

    次の記事を探す

    Ranking Top 10

    アクセスランキング