Mugita Shunichi

「モードノオト」金曜日

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

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 来る夜の音と溶け合い始めた恰度そのころ、相も変わらず、私はコップ酒を片手に、我ながら、漕ぐ力もなく波の随意(まにま)に流される小舟のように、心は揺蕩(たゆと)うていた。いくらアルコールの勢いを借りているとは云え、此度の連載でも随分と得手勝手な言葉を吐いてきたと、ゆくりなくも自省の念に駆られるのだった。しかし、所詮は一語一円。せいぜいが、それだけのお値打ちでしかない売文稼業である。無視され続けた雑魚にだって、耳掻きひと掻きほどの矜持はあらぁなぁと、居丈高な物云いを詫びるどころか居直るのだから、てんで始末に負えぬ男だと云えるのである。

 「トウキョウ ニューエイジ」のショーに触れた半年前のこの拙文にて、「此度は買わぬ」と云い切った手前、今回はちと評点を水増ししてみようかなぞ、甘な料簡を起こす気持はさらさらない。憚り乍ら私は専門家なのだから、端無くも新世代が好評を以て迎えられる式の短絡はあり得ない。まぁ、このあたりの自意識過剰気味のポーズが皆から疎まれる因でもあるのだが...。「勿論ショーとファンタジーは不即不離の関係だけれど、真剣に服を売ることを考えているかどうか、そのあたりを自分の眼でしっかり精査しないとダメだよ。彼らが(特段「トウキョウ ニューエイジ」に言及しているのではない)衣裳デザイナーを目指しているのであれば話はべつだけれどね」。一昨日、繊研新聞社の小笠原拓郎より、塩辛な説教を受けた。「ムギちゃん、少しばかり甘やかし過ぎてはいないかい」と揶揄もされたのだった。売ることを前提にビジネスマインドが聡い身体、所謂、特異体質からの体質改善を図らねば、真っ当なファッションブランドにあらず的な正論なぞ百も承知である。しかし、所詮は仮構の世界、如何なる服にも何らかのファンタジーが宿っていなければ、無味乾燥な数字の羅列にしか過ぎず、作り手の顔が全く見えぬのっぺらぼう式のデザインは端より御免であると、こちらも持説に固執して譲らないのであった。反論覚悟で申せば、こちらの頭の中の羅針盤がグルグル振り切れる程の如何物の持つ図々しさ、粗忽さと紙一重の骨太な意志、べらぼうな熱量、つまりは承知も不承知もなしに作り手の体臭が滲み出てしまった服なら、私は買う。その伝で云えば此度も、腋臭のような強烈な体臭を放つ創意には出逢えなかった。綺麗ごとに映った。人形のように糸で操られているような、自由演技のない不自然な所作が感じられた。エチケットをわきまえるよりは、もそっと地金を曝け出して生き恥晒すぐらいの糞度胸を見せて欲しいのだ。「生き恥」とは、まさしくこの場合のル・モ・ジュスト(ピッタリ嵌まった言葉)であろう。ここまで云ってしまったら、放言顰蹙を買うの度を超して、最早阿呆以外の何者でもない。

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 ショーは、新世代の磁場となっていたかは扨措き、かの五つの鼓動は、如何物と服の境界線を彷徨うような足元の覚束ない、それでいて、作品を色分けするならば、紛れもなく色物であった。とりわけ、和に拘泥する「ソウシオオツキ」の、良い意味での似非ジャポニスムが面白かった。此度は生花が主役か、と思わせる程、生きた花や枝振りの良い松がないと成立しないアイデアだった。ポケット位置を上方に滑らせ、身頃の折り返しを下方にずらし、両袖を肩から落としたジャケットや簡素なパンツなどは、さしあたり、剣山を据えた花器の見立てであろう。色鮮やかな生花や、黒い塗料のスプレーで汚された松の枝を服に活けると云う構図がユニークで、炸裂した松飾りなぞは、仮初めの和を揶揄する遊びと云えるだろう。また、ショーの最初に、メゾンのアトリエで働く白衣姿の熟達の職人を模した老モデルをセットした「リョウタムラカミ」は、貴婦人のベールを連想させる人工的なネットでモデルの顔を包み、淫靡な花と意味深な象を象ったニット装飾などの手仕事が、作り手の資質とは真逆にある高貴な雰囲気を仄かに隠喩する構成である。如何わしさ、気持悪さ、恥ずかしさの感情、様々な虚実を編み込んだ作風に少しく個性を見たのである。それぞれの物語は短い。そのサイズにしては緻密に圧縮されていたかも知れない。単なる思いつきか、或は前提を基にしていたかも知れない。優れた作品は、一気に飲み乾すカクテルである。強く効き、すぐに終わる。熱を出して、冷めても後に残る、そうでなければ嘘である。(文責/麥田俊一)

>>東京ニューエイジ 2016-17年秋冬コレクション



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