HYKE 2020年春夏コレクション
Image by: FASHIONSNAP.COM

Kaijiro Masuda

"メタボセクシャル"の衣食日記(7-2)ーーHYKEの現在地とこれから

増田海治郎

ファッションジャーナリスト

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HYKE 2020年春夏コレクション
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東京で売れているほとんどのウィメンズブランドには、ある共通点がある。それは「古今東西(とくに欧米)の銘品」をベースにしていること。ミリタリーならアメリカ軍のMA-1、M65、フランス軍のF2、ジーンズならリーバイス501、トレンチコートならバーバリー、バスクシャツならセントジェームス、オイルドコートならバブアー......。こうした名作を、あの手この手でアレンジして、今っぽく仕上げる。DJデザイナーと揶揄する人もいるかもしれないけど、音楽のメロディと同じように洋服のデザインもほとんど出尽くしているわけで、今の時代の王道のデザイン手法なのだ、と僕は解釈している。さかのぼれば、ヴィヴィアン・ウエストウッドは80年代の時点で「デザインは過去の模倣からしか生まれない」というニュアンスの発言をしているわけだしね。

「HYKE(ハイク)」「beautiful people(ビューティフルピープル)」「THE RERACS(ザ・リラクス)」は、これまで何かと比較されてきた東京を代表するブランドだ。大まかに言えば「銘品ベースのアレンジ型のクリエーション」「細部にこだわった最上級のクオリティ」「東京で有数の売れているブランド」という3点で。でも、以前は横並びで語られる事の多かったこの3ブランドも、この1年で各々の方向性がずいぶん変わってきたように感じている。

HYKE 2020年春夏コレクション
HYKE 2020年春夏コレクション

ビューティフルピープルは一足お先にパリに出て、もがき続けながら、様々な着方を楽しめる「Side C」というコンセプトを生み出した。パタンナー集団という出自ならではの新しい発想で、トラッドというベースは守りつつ、モードの枠に踏み出しつつある。パリでの注目度もうなぎのぼりで、ようやく海外市場で勝負できる体制を構築しつつあるようだ。

ザ・リラクスは、今年の3月、初めてランウェイショー形式でコレクションを発表した。ブランドを代表するピーコートやトレンチコートは、もういじる箇所がないくらい完成されているにもかかわらず、シーズン毎に微修正を加えて完成度を上げるのに余念がない。でも、初めてのショーは、そうした職人気質な部分を守りつつ、これまでよりデザイン要素が強くなった印象を受けた。倉橋直実(倉橋夫妻)は、90年代後半のラフ・シモンズやヘルムート・ラングに強い影響を受けている。今後はそうしたモードの部分が強く出てくると思うし、そうなっていくと期待している。来週には2回目のショーが控えている。

前置きが長くなったが、ハイクである。前進の「green(グリーン)」時代から一貫しているのは、クリエーションの根底にミリタリーがあること。ウィメンズのブランドとしては、ここまで"軍モノ"がベースにあるのは世界的に見ても珍しく、それだけで世界で戦う上で大きなアドバンテージを持っているように感じる。

HYKE 2020年春夏コレクションのファーストルック

ファーストルックのベースにある1940年代のイギリス軍のモーターサイクルコートは、このブランドの顔のひとつと言っていい。バーバリーが開発したタイロッケンコートも、アメリカ海軍のデッキジャケットもハイク定番のネタ元だが、いつもと違うと感じたのは、再構築というよりはディテールのみを抽出していること。グリーン時代から繰り返してきた丈感やサイズバランスの調整ではなく、あくまでデザインの一要素として取り入れているように感じた。2枚のフロントを前後で重ね合わせたGジャンとM65は、グレン・マーティンスの「Y/PROJECT(Y/プロジェクト)」的なニュアンスを感じさせるが、こちらはあえて本物感を追求することで攻めたデザインとのバランスを取っている。本当に上手い。

繊細な色使いも素晴らしい。とくに、藤の花を連想させる淡い青みを帯びたパープルの発色は、出色の出来映え。プリーツの繊細さもシーズンを追うごとに完成度が高まっていて、もはやシグネーチャーのひとつになりつつある。ハイクといえばコラボレーションのイメージが強いが、アディダスのスポーツアイテムも、チャコリのバッグも、ビューティフルシューズのサンダルも、いい意味で本体を引き立てる脇役にとどまっている。ジュリアス タート・オプティカルの角ばったシェイプのティアドロップ(超マニアック!)のみは、いまだ消えぬ"古着屋魂"を感じたけどね。

「HYKE」というブランド名は、吉原秀明と大出由紀子の家族のファーストネームを並べたもので、とくに意味はないという。でも無理やりカタカナでハイキングのハイクと解釈するなら、彼らはのんびり自分たちのペースで歩きながら、富士山の頂上に到達した。今回のショーを見て思ったのは、彼らはエベレスト(パリ)を見据えて動き始めているのではないか、ということだ。ウィメンズのワールドトレンドがミニマルに触れている今は、絶好のタイミングだと思う。

>>HYKE 20年春夏コレクション
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増田海治郎

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