女性を対象とする総合ファッション企業として、きものやドレス、毛皮などで6ブランドを展開する三松。従業員数は686人(8月時点)で、女性が8割超を占める。店舗スタッフの正社員率が77.2%と高いのも特徴だ。近年は産休・育休取得者も増加したがほとんどが復職し、管理職になるケースもある。女性がモチベーションを持って働き続け、キャリア形成できる職場環境はどう醸成されたのか追った。
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(ライター・宮下政宏)
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「お客様は女性ながら、本社も店舗も上長は男性だった。変わり始めたのは00年ごろ」。人事総務部の榊原長正部長は、そう話す。セレクト中心からSPA(製造小売業)へと舵(かじ)を切ったのがこの時期だった。
補助役ではなく
ドレスブランド「エメ」の仁平香代子さん(現商品部長)は、物作り志望で94年に入社。販売を経験後、開発に注力していた商品部に移った。しかし異動するとオリジナル商品は不振のため縮小され、セレクトへ移行。バイヤーとして7年余り奔走し、SPA化で思いがかなった。ところが作れど売れず、「失敗が続き、在庫との戦いの日々」に。少しずつ実績を重ね、独自のMDが安定に乗った時には5年が経っていた。「我慢してくれた部長には感謝しかない」。この経験を糧に基盤が築かれた。エメは現在160人体制。男性は本社に3人でブランド運営を管理面で支え、現場は女性が担う。
ブランドの構造改革とともに女性が活躍する土壌が育まれ、現在、係長以上の女性管理職率は43%、女性店長は68%を占める。その過程で増えたのが、キャリアを積んで出産・育児に入るケースだ。「00年以前の産休・育休取得者は年間1人ほどで、パートとして戻るのが一般的」(榊原部長)だったが、13年には28人になり、社員としての復職も増えた。この時点で支援室を設け、15年に制度化。以降、育休取得率は96%で推移し、復職率も96%に。時短など働き方を工夫して仕事を続けている。
きもの統括部で今期初めて女性で営業部長に就いた天笠佐都子さんもその一人。03年に紳士礼装業からの転職でエメに所属した。「前職では女性は男性の補助役、三松は全く逆だった」という。店舗と営業部で10年勤め、産休・育休へ。復職で選んだのが未経験のきものだった。
「30代に近づいて自分がブランドイメージに合わなくなると感じ、元の職場で働くイメージを持てなかった」。だが、「三松には様々な事業がある。他分野への人材活用の先陣を切ろうと思った」。きものを選んだのは子育てとの親和性。お宮参りや七五三など母親としての経験は接客に生きる。「転職のよう」なリスタートから経験を積んだ。
努力受け入れる風土
営業部長の現在も時短勤務を要するため、役割分担と連携を重視。実務は営業企画と販売の各課長、自身は客目線でのマネジメントに集中する。例えば、商品勉強会は資料の解説を聞くやり方から、動画やロープレを取り入れ能動型に替えた。特に管理職は「以前のように働けない中で、どう理解や信用を得ていくか。自身の努力が必要」と話す。持続できるのは、「負担が増えても受け入れてくれる職場の人たちがいるから」。社員発で醸成された制度だけに「補い合う」関係が風土化し、制度活用のハードルを下げている。
会社としても、復職前の面談や、復職後約1カ月は子育てと仕事で葛藤するケースもあるため、子供を連れて交流する「ママカフェ」を随時開くなどフォローしている。子供の看護休暇、延長保育の月1万円の補助なども制度化した。今後は「介護休暇や副業などへの対応が課題」とする。
(繊研新聞本紙20年10月7日付)
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