スリュー 2022年春夏コレクション
今月公開される映画「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」について、装苑11月号に寄稿した。2019年の2月に公開された「マルジェラと私たち(原題:We Margiela)」を見て、私の中でマルジェラ熱は少し冷めていたのだが、今度、マルタン自身が参加(といっても顔は出さずに、声と手の出演)する映画を見て、「メゾン・マルタン・マルジェラ(Maison Martin Margiela)」を作り上げたのは、マルタン自身だ、とまでは思わないまでも、この愛すべき人柄と独創性があってこそのマルジェラだなあと深く感銘した。映画については装苑を待っていただきたいが、このドキュメンタリー映画の中で、10人ほどの人がコメントを寄せて、それがナレーションの役目を果たしている。その中で、トレンドユニオンのリドヴィッジ(リー)・エデルコート(Lidewij Edelkoort)が、「彼は時代を築いた。30年前に始まって、次の20年も彼の時代が続きそう。50年もファッションをリードするなんて本当に偉大よ」と述べていたのが印象的だった。元フレンチヴォーグ編集長のカリーヌ・ロワトフェルド(Carine Roitfeld)も「今もたくさんのランウェイにまだ彼がいる」と語っている。
私も同様に、マルタンの開けたファッションの扉が、様々な人たちに受け継がれているのを好感を持って眺めている。改めて、マルタンを探しながら、今シーズンのポストを書き始めたい。
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ファッションウィーク1日目の「スリュー(SREU)」は、まさにポジティブなマルジェラの継承を感じた。このブランドの古着をリメイクするという方法論とそのセンスの良さを知ったのは前シーズンのことだけど、ショーを見たのは初めてだ。
古着のリメイク自体は大昔から行われてきた営為だろうけど、それをコレクションのレベルに高め、ショーで見せたのは、マルジェラの功績だと思う。その頂点がパリのオートクチュールコレクション期間に招かれたメゾン・マルタン・マルジェラのアーティザナルだ。しかし、スリューには、マルジェラのアーティザナルのような手仕事の極意を見せるつもりはおそらくなく、古着を素材に、どこまで魅力的な服を「量産」できるかに挑戦している。古着にプリーツ加工を施して新しい表情の布に変身させるなどという発想は、経済効率優先の思考からは出てこないし、手仕事をアートの粋に高めるという発想とも異なる。写真では分からないが、1点1点前後の表情が意外なほど変わるのは、スリューならではのデザインのおもしろみだ。
ショーの見せ方も、またマルジェラ的(強引か?)。全員立ち見で、全員がファーストロウ。コロナ禍で、大勢を集められないのを逆手にとって、マルジェラ的な公平な会場を実現した。モデルたちも、様々なタイプを揃えて、これは多様性が問題にされて以来、東京のファッションウィークで散見されることだが、着る服の内容の多様性としっかりつながっているところもスリューの見識だ。
展示会で、この変化に富んだコレクションの細部をじっくり見てみたい。
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