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箱根駅伝着用者0人からの逆襲、「とにかく勝てるシューズ」を目指すアシックスの一手

 2017年までは東京箱根間往復大学駅伝でシューズのシェア率1位を誇っていた「アシックス(asics)」。だが、厚底シューズの登場以来「ナイキ(NIKE)」の独壇場が続き、2021年の第97回大会では遂に着用者が0となってしまった。王座奪還に向けた逆襲の一手として、アシックスは社長直轄組織「Cプロジェクト」を始動させ、2021年3月に同プロジェクトの第1弾シリーズとして「メタスピード(METASPEED)」を発表。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では道下美里選手をはじめとした3選手が金メダルを獲得したほか、福岡国際マラソンで日本人トップになった細谷恭平選手など、メタスピード着用者が各大会で好成績を残している。アシックスの復権はどのように始まったのか、パフォーマンスランニングフットウエア統括部で、Cプロジェクトのリーダーを務める竹村周平氏にメタスピードの開発秘話を聞いた。

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まずは頂上を攻めよ、Cプロジェクトとは?

 Cプロジェクトは2020年1月に発足。「まずは頂上を攻めよ」というアシックス創業者鬼塚喜八郎氏の言葉をモットーに、「Chojo(頂上)」の頭文字Cを取って命名した。開発を中心に、スポーツ工学研究所やマーケティング、フットウェアの生産など様々な部署の人材で構成された横串型組織で、意思決定を円滑に行うため廣田康人社長直轄でモノづくりを行っている。

 2017年頃まで高いシェアを維持できていた理由について、竹村氏は「軽量性の分野で優れていた」と分析する。当時のマラソンシューズに最も求められていた軽量性のほか、足型やアッパーのメッシュの構造など細かく作り込んだことで履き心地の良さが高く評価された。しかし、2018年頃から反発性とクッション性の両立を実現した厚底シューズが注目を集め、ナイキが市場を独占。「当時はアップデートモデルを出し続ければシェアは取れる」と思っていたそうだが、結果的に着用者減を止めることはできなかった。

 Cプロジェクトでは、アシックスの原点でもある「アスリートと共に行うモノづくり」に重点を置いている。アスリートの意見を参考にした製品開発はこれまでも行っていたが、Cプロジェクトではこれまで以上にアスリートの意見を尊重。「実際に商品化していく中でアスリートだけでなく、営業やマーケティング担当などの声も取り入れていたのがこれまでです。ただ、それでは『1秒でも早くゴールしたい』というアスリートの期待に応えきれない部分がありました」。今回のプロジェクトでは「アスリートの武器になるシューズを作る」を最重要課題に掲げ、とにかく勝てるシューズを目指したという。

2021年3月に開催された「ASICS INNOVATION SUMMIT 2021」の写真。(写真左から)竹村周平氏、廣田康人社長、アシックス  スポーツ工学研究所 フューチャークリエーション部 谷口憲彦氏
2021年3月に開催された「ASICS INNOVATION SUMMIT 2021」の写真。(写真左から)竹村周平氏、廣田康人社長、アシックス スポーツ工学研究所 フューチャークリエーション部 谷口憲彦氏

「アシックスのシューズでは勝てない」厳しい言葉から始まったシューズ開発

 商品開発はプロジェクト発足と同じ2020年1月からスタート。当初は2021年に開催予定だったユージン世界陸上競技選手権大会に向けてシューズを発表する予定だったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で約1年延期となったため、同じく開催時期が後ろ倒しとなった東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会での選手着用を目標に製作を続けた。プロジェクトがスタートして最初の1ヶ月は内外問わず情報収集を行うことに注力したが、「アシックスのシューズでは勝てない」や「別のメーカーのシューズに契約を切り替える」など手厳しい言葉もあったという。また新たに契約アスリートを獲得しようとしても「勝てるシューズがないメーカーは紹介できない」といった代理店からの声もあった。ただそれでもチームは前を向いた。竹村氏は「そんな中でも信じて残ってくれたアスリートもいますし、期待して新たに契約してくれたアスリートもいた。彼らに応えてあげたいという思いはより一層強くなりました」と振り返る。

 短期間で結果を出すために、様々なタイプのサンプルを一度に製作。アスリートへ配布し、フィードバックを受けた。アスリートの声や、スポーツ工学研究所が収集した走行データを分析したところ、スピードを上げる際に「ストライド(歩幅)に依存するタイプ」と「ピッチ(回転数)に依存するタイプ」の2つのパターンに分類されることがわかったという。社内からは「プロジェクトが発足したばかりなので、まずは一足に集中したほうが良いのではないか」といった声もあったそうだが、「アスリートのために勝てるシューズを」というプロジェクトの原点に立ち返り、アスリートが好みのシューズを選べるようストライド型の「メタスピード スカイ」と、ピッチ型の「メタスピード エッジ」の2モデルの展開を決めた。製品開発が進むに連れ、実業団選手などからのフィードバックにも変化があり、「正直、大したことないと思っていたが着用して驚いた」や「良い意味で期待を裏切られた」といった好意的な意見が増えていき手応えを感じたという。

異例のスピードでパーソナルベスト更新者が続出

 フィードバックによって感じた手応えは、2020年10月に確信に変わる。メタスピードシリーズのプロトサンプルを着用したアメリカのサラ・ホール(Sara Hall)選手が、ワールドマラソンメジャーズのロンドンマラソンで自己最高の2時間22分1秒を記録して2位に入賞。その後も世界中の大会でメタスピードシリーズ着用者によるパーソナルベストの更新が続き、アシックスの歴史の中でも異例のスピードとなる約1年で195回のパーソナルベスト更新数を記録している。これを機に新規契約選手の獲得に繋がった例もあり、「アシックスがランニングシューズを本気で開発している」という話題がグローバルで広がった。

 竹村氏はメタスピードシリーズの長所の一つとして「安定性」を挙げる。トップアスリートの走行では基本的に中足部から前足部にかけて踏み込んで前へ進むことが多いため、当初は軽量性の観点から必要最低限の接地面で良いのではないかと考え、踵を大幅に削ったサンプルも作ったという。しかし、アスリートからのフィードバックを受ける中で「踵から接地することがあるため踵の安定性が必要だ」という声が多く、安定性を考慮した改良に踏み切った。最終的には、中足部から前足部にも安定性を発揮するような改良を施し、「速いのは当たり前だが、安全にレースができるシューズ」としてアスリートをはじめ、大学の監督やコーチからも高い評価を得ている。

 「2022年1月2日から始まる第98回大会箱根駅伝では、帰ってきたアシックスを感じてもらえると思います」と自信をのぞかせる竹村氏。実際に10月23日に開催された「箱根駅伝2022予選会」では、予選突破10校と関東学生選抜の計11チームでのメタスピード着用者は去年の0人から大幅に増え、132人中15人と予想されている。今後もアスリートの声を尊重して「勝てるシューズ」の開発に打ち込むアシックスのCプロジェクトと、箱根駅伝の着用シューズシェア率に注目が集まる。

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