ビジネス界のトップランナーのキャリアを「丸ハダカ」にする、新感覚対談「Career Naked」。今や若者の間でもブームを巻き起こしているサウナ文化について、いち早くその魅力を発信してきたサウナ師匠ことTTNE株式会社の秋山大輔氏にお話を伺う。イベント会社で多忙な日々を送る中で自律神経を壊した秋山氏は、サウナによって不調を乗り越えられたという。「サウナに恩返しをしたい」と語る秋山氏に、好きなことを仕事にする醍醐味をエーバルーンコンサルティング株式会社の代表である池松孝志氏が聞いた。
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秋山 大輔さん/プロサウナー・サウナプロデューサー
イベントを中心とするブランディングプロモーション会社を経営。20代よりサウナに開眼し、国内外の様々なサウナを経験。サウナ専門ブランド「TTNE」の立ち上げ、「ととのえの日」記念日制定、「CORONA WINTER SAUNA」監修、「サウナシュラン」立ち上げ、「日本サウナ学会」設立、「SAUNA FES JAPAN」や「SKYTREE SAUNA」、「RoofTop 37」プロデュース、「ソロサウナtune」サウナ監修等、次々にサウナ関連のプロジェクトを仕掛ける。
池松 孝志さん/エーバルーンコンサルティング株式会社 代表取締役
1980年生まれ。広島県出身。アメリカ留学時代、古着屋のディーラーとして全米各地を飛び回る。国内の紹介会社を経て、2008年にエーバルーンコンサルティングを設立。代表取締役として主にエグゼクティブ人材のサーチやM&A案件を担当。
サウナを愛するパートナーとの旅行でひらめいた“サウナーTシャツ”からすべては始まった
―秋山さんはイベント会社に勤務されていて、その後、独立されたとお聞きしました。
最初はイベント系のプロモーション会社で8年くらい働いていました。PRイベントを担当し、メディアをひきつける仕組みやロジックの作り方を毎日のようにトレーニングされていて、PRの世界を理解していったんです。それから私はファッションが好きだったので、自分にファッション系の仕事が来るように「ファッションだったら秋山だよね」と言われるように自己ブランディングしていました。
それでご縁があって最初の会社を8年で退社して。次に世界に誇る大規模なファッションショーで、なおかつガールズマーケットを学べるということで、東京ガールズコレクションという会社に応募して、ファッションショーのプロデュースに2年間携わりました。
そうやって環境が変わる中でも、サウナは継続的に行っていました。当時は「ととのう」という言葉も「サウナー」という呼び方もなかったんですけれど、サウナが好きだったんです。職場環境は2社とも過酷だったんですけれど、なんとかサウナに助けられて乗り越えられました。
実は社会人5年目の時に、自律神経を壊したことがあって、会社をやめるところまで行ったんです。2か月お休みをいただいて、ちょっと自分を甘やかしてみようと思い、その時期はずっとサウナに通ってリラックスするようにしていました。そうしたら睡眠が取れるようになって精神的にも安定し、自信がつきだしたんです。
―秋山さんのこれまでのサウナ経験値は、大変な数になりそうですね。
年々増えていっているんですけど、年間ではだいたい600くらい入っています。入るのは1日3回の日もあるし、多い日は7施設のときもありますね。海外は40か国くらい行っていて、必ず現地に行くとサウナを探すんです。
―そういった好きなことを仕事にしようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
そこから1年くらい間が空いたんですけれど、また友人の誘いをきっかけに、2人で5か国11サウナの旅に出かけて。その時に「“サウナー”って書いてあるTシャツとか欲しくない?」という話になって、東京のデザイナーにお願いして、2人で6万円くらい出してTシャツを2~30枚作ったんですよ。
それを自分たちで着ていたら、周囲から「欲しい」と言われてバズって。そもそも今までサウナにはファッションという切り口がおそらくなかったし、経営者層や富裕層の興味があるコンテンツとしては表に出なかったんですよね。実際、多くの人がサウナに入っていて好きだったんですけれど、人に言うことではないし、逆に“マイナスブランディングになる”と思っていた。でも僕らは好きなサウナがそんな言われ方をしてしまうのは悲しいな、と感じて、僕らが得意だった経営者や富裕者、クリエイターやガールズのマーケットに、サウナをどんどん広げていこうと考えたんです。
相方と世界のサウナを見て、ブランディングの仕方を含めて日本と比較した時に、大きく違ったんですよね。日本で言うとサウナが好きな人は年齢層が高い男性で、なおかつそんなにラグジュアリーな感じがない。ある意味、私が手掛けていたマーケットと真逆にあるコンテンツでした。だから自分もサウナに入っていることを、東京ガールズコレクション内やファッション業界でアピールすることもなかったんです。昔のゴルフと少し近いですね。ゴルフをやっていることを言うと、おじさんくさく感じるので言えない、みたいな。
でも世界に行ったら、デートコースになっているくらいで、本当に若い人がいっぱいいて、いろいろな人が楽しめるコンテンツだったんです。
―サウナ専門ブランドTTNEを立ち上げたのはどんなきっかけからでしょうか?
2017年の夏にヨーロッパを回ったんです。そうしたらサウナ旅の模様をあげていてる私のInstagramをコロナビールの代理店の方が見て、私たちがフィンランドで自転車を漕いでいる時に「冬のコロナビールの施策で何かサウナでできないでしょうか?」と連絡が来たんですよ。
それまでやったことのないことをやるのが私の仕事だったので、とりあえずやれるだろう、と思い「やれます」とお答えしました。それで12月に下北沢駅の高架下にテントを建てて、サウナのちょっとしたフェスイベントを開催することになったんです。都会のど真ん中で、真冬に男女がキャーキャーサウナに入るというイベントだったので、それこそNHKからWBSまで全部のテレビ局から取材が来ました。
PRの基本の1つになっていますが、真逆をぶつけるという方法があります。“世界一大きいアリ”とか“世界一小さいゾウ”みたいな見え方を、サウナでどう作れるかなと思っていて。サウナといえばおじさん・クローズドみたいな感じと自分のガールズマーケット、フェス・パーティーみたいな感覚を当てることによって違和感ができて、メディアとしては絶対におもしろくなってくれるだろうと思ったんです。
実際にその空間は世界では当たり前に起こっていますし、日本でも当たり前になるだろうという未来予想図もありました。それをたとえばフェス会場といったらフジロックみたいな山の中で行う方法もあるんですけれど、「ULTRA JAPAN」(お台場で開催されているエレクトロニック・ダンス・ミュージックのイベント)がやっていたように都会の真ん中でフェスをやることの意味も分かったので、それを下北沢の駅前でやろうとしたんです。自分の経験のメソッドがそのままサウナで生きたと思います。
マーケットがないと思われていたもの、誰もやっていなかったことを事業に
―TTNEが手掛けている事業について説明していただけますか?
今までプロデュースしたのは監修もふくめて20件くらいです。イベントまでいれるともうちょっといくと思うのですが。それからサウナストーブなどサウナ機器の輸入代理も行っています。
もともとサウナの機器は、フィンランドが本国なんです。彼らは日本にマーケットがないと思っていたんですよ。なぜかというと、日本にはロウリュ(サウナ発祥の地であるフィンランドのサウナ入浴方法。ストーブの上で温められたサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させることで、サウナ室内の湿度、体感温度が上がり発汗を促す)という文化がなく、今まではガスのストーブでドライサウナ作っていれば良かったので、ロウリュのストーブが必要なかったんです。でも今はフィンランド式がしっかり伝わってニーズが増えている。「日本でもマーケットがあるから、やらせて欲しい」と直談判しに行って、輸入代理店として動き出しました。
―もう1つの軸がアパレル事業でしょうか?
それこそ最初はTシャツを5000円で手売りしていたところから始まり、いつのまにかアパレル事業になってしまいました(笑)。今は全国のデパートでポップアップを行っていたりします。自分たちがプロデュースしたところのお土産コーナーのところに置いていたりしますが、月にだいたい500枚くらい売れているんですよ。
―コラボレーションも積極的に行っているそうですね?
今までは基本、自分たちがプロデュースした施設と、サウナハットをロゴ、ダブルネームで作ったりしています。また、「ととのえエージェント」というエージェント機能もあります。女性のグラビアアイドルの方とかモデルさんなど、サウナ好きを豪語しているサウナタレントさんがいらっしゃるんですけれど、そういう方たちと企業のマッチングをエージェントとしてやっていこう、と。もともと以前の会社でキャスティングを担当していたので、マネージメント会社がどのようにして交渉して日程調整し、リスクはどこまで負うか、肖像権の使用をどこまで認めるか、といったところまで携わっています。こういったことは、実は今まで誰もやってこなかったんですよ。
池松さんは熱波師をご存じでしょうか? ドイツ語でアウフグースと言うのですけれど、ロウリュで発生した蒸気を専門スタッフが入浴者に向けて扇ぎ、熱い空気を直接浴びせることで、もともと海外の文化なんですよ、そのアウフグースのマスターが日本にいたりして。あとウィスキングという白樺の葉っぱでマッサージするウィスキングマスターという職業があって、ドイツやロシアといった海外だと免許がいるものなんですよ。それをやりだしている人たちもいるので、そういうサウナ界の技術者も抱えて施設に派遣したりしています。
ファッションショーを開催したら、モデルやヘアメイクをキャスティングしますよね。その感覚で、特技がある人たちを送り、なおかつそこで指導もするようにしています。
今までは「好きだ」「やりたいです」という人と、「どうやってお願いしたらいいかわからない」というクライアントしかいなかったので、その間に入って整理して、どんどん成熟させていくことに関わっています。
サウナの魅力を伝えることは自分たちの“宿命”であり“恩返し”
―今後の目標について教えていただけますか?
私と相方は「サウナにもらってばかりだから、恩返ししなきゃ」と考えています。結局、サウナの良さを知ってもらうことが大事で、それをいろいろな手段でやっているというだけなんです。ストーブがないとサウナの良さは伝えられないし、影響力のある方が「サウナは良い」と言ってくれないと伝わらない。
だから私たちはサウナで仕事をしている人たちを、プロサウナーと呼んでいるんです。“サウナー”は“サウナで汗をかく人”。“プロサウナー”は、サウナのために汗をかく人。このフレーズは、私たちのブランド理念であるんです。
私たちはフィンランドなど、自分たちがもらったところに恩返ししていきたいんです。だから今、サウナをどこに一番作りたいといったらフィンランドに作りたいです。たとえば日本のカルチャーをのせたりして。それこそ日本の蒸し風呂の文化は奈良時代からあって、日本で一番古い温浴法もサウナなんです。だから日本でカスタマイズして、ラーメンやカレーのように、フィンランド、ドイツ、ロシア、アメリカでも伝えていく。中国の人も冷たい水は嫌いだけれど、「水風呂の向こう側」という言葉とともに良さを伝えたい。そういう海外展開が私たちの恩返しとしてのゴールですね。
日本は海外からファッションショーが入ってきても、おもしろいファッションショーに変えて、また海外に持っていったりすることができる。そういうミックスカルチャーを作るのが日本人は非常にうまい。だから自分たちで新しいものにして、フィンランドだけではなくロシア、ドイツ、アメリカ、カナダといろいろ見て、どの国に持っていくか検討しながら、将来的にはグローバルにどんどん広げていきたいと思っています。
―今、秋山さんはサウナという好きなことを仕事にして活躍されていて、実際に成功されていらっしゃいます。それのことに関して幸せを感じますか? それとも葛藤がありますか?
私は以前、これは自分の宿命だな、と思ったんです。大好きなサウナに今までの自分のキャリアや人脈が完全にピッタリはまって、サウナの素晴らしさを伝えれる存在が日本の中で他にいるのか?と考えた時に、「自分がやらなくて誰がやる?」と感じました。私の相方もそういうマインドで一緒にTTNEをやっているので、「これはやりたい、やりたくない」ではなくて、初めて生まれてきて、これがやるべきことなんだな、と気づけました。
これを突き詰めていくとまた新しい課題などが出てくると思うのですけれど、とりあえずいったん今は自分がやらずして誰がやる、というくらい、儲かる儲からないではなくて、今そこに向かって、日々試行錯誤しながらやっています。やはり新しいことに挑戦すると、ハプニングはつきものです。誰もやったことがないので聞く相手もいないし、説明書もない。そこをやり遂げる力が一番大事で、途中であきらめたり折れてしまったりすると、結局中途半端になって、「ぐちゃぐちゃにしてあいつは去っていったな」となってしまうので。少なくとも、後に続く人のことを考えなくてはならない。法整備も昭和23年くらいから変わってなかったりするので、ルールのところも実績とともに変えていかないと、続く人が続くことができないんです。
―どうやったら、秋山さんのようにやりたいことに対して一歩を踏み出せるのでしょうか?
私も相方もそうなんですけれど、お互い日々の生活がありながらできたのは、自分の本職があったからです。今は副業が認められているところが増えてきているから、自分のセカンドIDというか、2つめのアイデンティティを成しえるうえで大事だと思うのは、ファーストIDをまずはしっかりやっておくことです。そのうえで、Tシャツを作ったりとか、サウナ施設を回ったり勉強していかないと、たぶんイチかバチかになると思います。本気でやりたいのだったら、自分の仕事をしながらスキマ時間を見つけてできるはずなので。大きな勝負をしなくても、そこから勝負を始められるのではないかと思います。
取材:キャベトンコ
撮影:Takuma Funaba
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