ウェールズ・ボナー 2023年秋冬メンズ
Image by: Photography: Jack Day, Courtesy of Wales Bonner
グレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)が手掛ける「ウェールズ・ボナー(WALES BONNER)」が2023年秋冬コレクションを発表した。
今季より発表の場をパリに
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「A hymn to the passers by…(通りすがりの人への讃歌…...)」
「ウェールズ・ボナー」による2023年秋冬コレクションへの招待状には、そう小さく記されている。そしてアメリカの文筆家・写真家であるカール・ヴァン・ヴェクテン(Carl Van Vechten)が撮影した、アメリカのシンガー、キャブ・キャロウェイ(Cab Calloway)の写真も同封され、タイトルには「Twilight Reverie(たそがれの白昼夢)」と添えられていた。
長らくロンドンでコレクションを披露していたウェールズ・ボナーだが、ルックブック形式での発表が続いたコロナ禍を経て、2023年春夏シーズンではピッティ・ウオモの招致デザイナーとしてランウェイに復帰。そして、この2023年秋冬シーズンにおいて、発表の場をパリへ移すことになった。コレクション発表の地を変えるのは、デザイナーにとって重大なことだ。それを裏付けるように、今回のテーマに添えられたのは“パリ”そのもの。コレクションノートには、アメリカからパリに移住し、「光の都」とも呼ばれる街の自由な雰囲気の中で多くの傑作を残した作家ジェームズ・ボールドウィン(James Baldwin)や、ジャズシンガーのジョセフィン・ベーカー(Josephine Baker)らの名が綴られ、それは祖国を離れ、初めてパリコレクションウィークに挑むグレース自身の姿を重ね合わせているようにも見える。
サロン形式のショーで勝負
ショー会場に選んだのは、パリ1区、ヴァンドーム広場にあるオテル・デヴルー(Hôtel d’Évreux)。18世紀初頭に建てられ、かねてよりオートクチュールの発表などでも使用されてきた伝統ある邸宅だ。小さな部屋と部屋の間をモデルが闊歩する、いわゆるサロン形式のシンプルなショースタイルは、まさにクラシックで王道なパリコレ。アフリカンスピリットを西洋服飾文化に応用し、訴求してきたブランドが、ついにラグジュアリーの本丸で、強気のど真ん中直球勝負を挑んだのだ。
巧みなテーラリングの紳士服
ファーストルックを飾ったのは、ガーナ出身のモデル、マリック・ボディアン(Malick Bodian)。写真家としても活動する彼は、2022年春夏のルックや2023年春夏のキャンペーンヴィジュアルを手掛けており、まさにブランドのミューズと言っていいだろう。マリックがまとう端正なフロックコートは、華やかなパリの舞踏会を示唆しつつ、グレースがテーラーリングに長けた紳士服の街、ロンドンの出身だということを思い出させてくれる。
サヴィル・ロウの名門「アンダーソン&シェパード(Anderson & Sheppard)」が手掛けたシルクのスモーキングジャケットは、グレースのディレクションによって、熟練のテクニックは生かされつつも、剛健なブリティッシュテーラードとは表情の異なるフォルムを描く。
アディダスとのコラボレーションも
タキシードパンツには、「アディダス(adidas)」とのコラボアイテム(グレースのルーツでもある、ジャマイカの新しいサッカーユニフォームも発表)など、スポーティなトップスを合わせ、近年のウェールズ・ボナーの魅力の一つである、軽やかなエレガンスが提示されている。
タンザニア生まれのペインターの作品
そのほか、2017年のターナー賞にも輝いたペインターのルバイナ・ヒミッド(Lubaina Himid)とのコラボレーションによる、シャーティングやシルクのスカーフがモデルの首元を彩り、ハンドメイドで作られたガーナ産のアフリカンビーズやバロックパールは、ブローチやイヤリングに仕立てられ、コレクションにささやかながら印象深いアクセントを加えた。
ショーの音楽には、デュバル・ティモシー(Duval Timothy)やサンファ(Sampha)、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の楽曲がオフィシャル使用され、ケンドリックは楽曲「United In Grief」にて、このショーのために収録された特別なイントロを披露している。
コレクションのラストは、ファーストルックと同様の、純白のカラークロスがあしらわれたタキシードジャケットで締められた。ノンシャランな感覚を携えた堂々たるショーは、パリ1区というロケーションが暗示する、ファッションにおける権威の中心を席巻するものだった。
未来を見据えた新章の幕開け
グレースには、空席が目立つラグジュアリーメゾンのクリエイティブディレクターに就任するのではという噂が飛び交っているが、そんな中でのパリへの移動。今もっとも思慮深く、クリエイションの文脈に重きを置くデザイナーによるこの決断は、何を示唆しているのだろうか。コレクションタイトルを思い返すと、グレースにとって、パリのロマンスは白昼夢であり、そして彼女自身もまた、パリを“通りすがる人”なのかという疑問も湧いてくる。その答えは、近いうちに明かされるのかもしれないが、いずれにせよブランドにとって、未来を見据えた新章の幕開けであることは間違いない。
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