通販新聞社は7月、通販実施企業を対象に、今後の通販市場の予測と景況感に関するアンケート調査を実施した。それによると、「拡大する」と回答したのは53%で、前年同期の調査から15ポイントアップした。OMOやDXが市場拡大に貢献するとの声があった。一方で、今後の消費動向は「横ばい」と「下向き」で8割以上を占有。物価高の影響を受けた節約志向の高まりや消費マインドの変化を懸念する声が多かった。
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【通販市場予測】物価高で消費行動の変化に期待
今後の通販市場の予測で「拡大」と回答した企業のコメントを見ていく。
「企業によって伸ばす企業と低迷する企業がより顕著になると予想。OMO施策やDX関連、インフラ投資の差によって顕著になる」(アダストリア)、「ECモールを中心に引き続き通販市場は伸長。広告はネット中心、OMO・DXなど各社デジタルの取り組みを強化していくトレンドは一層強まることが予想され、通販市場は一層活性化するとみている」(ファンケル)などの回答があった。このほか、「Xでのバズりなどが再燃するなど、何らかのムーブメントが起こりやすくなっている。新しいものを求め、消費行動も含めて外への働きかけが積極的になる時代ととらえている」(バロックジャパンリミテッド)なども見られた。
また、物価高に伴う消費行動の変化を指摘する声もあった。「家計負担増加の影響で、通販を利用して少しでも安価な商品を探すといった消費行動になるのでは。今夏の暑さの影響で外出を控えて通販で買い物をする消費者が増える可能性もある」(アプロス)、「市場価格のインフレにより商品購入価格が精査される。そうなると価格比較しやすいECへ流れる」(山善)などがあった。
参入企業の増加も市場拡大につながる。「新規参入が多い」(世田谷自然食品)、「大手が成長市場へエントリーしていることから、拡大する市場を育てるプレイヤーが増えていることを実感している」(ナッシュ)などがあった。
このほか「EC・通販の利用が定着化している」(アスクル)、「コロナ禍で通販市場が拡大した結果、ユーザー自体がその生活様式に慣れた」(イングリウッド)、「コロナ禍を通してEC利用の抵抗感が一気になくなり、日本にEC市場規模は拡大が継続。頭打ちの段階にない」(田中貴金属ジュエリー)があった。
物価高の影響懸念がより拡大
一方で「横ばい」と回答したのは41%で、前年同期の調査から10ポイントマイナスだった。各社のコメントをみると、物価高の影響への懸念が広がっている。「現状大きな変動を予想させる要因はない」(インペリアル・エンタープライズ)、「滑り出しは順調だが消費マインドを引き下げているのが懸念」(ロッピングライフ)、「コロナ禍の当時と比べて伸長は鈍化すると思われる」(ニッピコラーゲン化粧品)、「コロナによる巣ごもり需要が終焉し、物価高騰が個人消費を抑制する。通販各社はコスパや希少性、アイデア性をうたった独自商品の開発や、タイムセールや広告宣伝を積極的に打つ。業界全体の顧客に対するアプローチの質は上がっている」(全日空商事)などがあった。
一方で、市場環境の変化を指摘し、「薬機法などの厳格化が進むことも予想されるため、需要が抑えられる」(第一三共ヘルスケアダイレクト)、「消費者の心理的要因(機能性表示食品やサプリへの信頼性)が払拭しきれない可能性がある」(八幡物産)、「リアルとの融合、OMOマーケティングがさらに重要になってくるのではないか」(HEAVEN Japan)などの声があった。
縮小すると予想は6%で、前年同期の調査から5ポイントのマイナスだった。「物価の継続上昇による消費の停滞。物流業界の社会的要請に応える形での送料発生、送料値上げによる消費の躊躇、購入回数の減少、リアル店舗での消費シフトなど」(再春館製薬所)と多角的な指摘があった。また、「不景気、インフレに近い物価上昇」(オージーフーズ)といった声があった。
【消費動向】「横ばい」最多4割占める
今後の消費動向について聞いた。最も多い回答は「横ばい」で、前年同期の調査から3ポイントアップした。
主なコメントは「物価高による消費者の節約志向は高い」(アスクル)、「自社の調査で、食品の値上げが『家計に影響している』や『よりお得に食品を購入したいと思うようになった』とする回答は昨年調査に続いて多数を占め、定額減税のような支援策を踏まえても節約志向は継続している」(クラダシ)、「夏場にかけて、さらなる物価上昇等の報道を受けて先行きの不安感による消費マインドの冷え込みが懸念される」(ロッピングライフ)などがあった。
また、「円安や物価高の影響はあるものの、一方で株高や企業の業績好調も相まって全体的に横ばい」(インペリアル・エンタープライズ)、「旅行やレジャーの消費意欲が高まっており、関連した便利グッズの需要の高まりがみられる。買い物の目的や動機がコロナ前、コロナ禍、コロナ後で変化しているが、消費ポテンシャル自体は上がっているとも下がっているとも言えない」(全日空商事)、「新型コロナウイルス感染症が沈静化され、経済活動が正常化。一方で物価上昇や中国経済の停滞などによる消費者の生活防衛意識の高まりもあり不透明な状況が続く」(ハーバー研究所)などがあった。
賃金に対するコメントもあった。「賃上げ、定額減税、子育て世帯への支援拡充はありつつもこれまでの物価の値上がり、電気料金の値上がりで実質賃金増につながっているとは言い難い。さらに今後の値上がりへの懸念などから大枠での国内商動向は横ばいとみる。ただし商品・サービスの内容やお客様層によって上向き、下向き、横ばいは異なる」(ファンケル)、「消費動向の上下は景気や賃金に連動するが、これは変化していない認識。消費のされ方や消費の行動先は変化していると考えており、宅配市場の消費行動が増えており、リアル店舗での消費動向は変化している」(ナッシュ)、「円安、物価高、賃上げ企業の少なさ、先行き不安は常に敏感になっている。安易には消費者は動かないが、一定のバズリや熱量には投資するという意味で横ばいかと考える」(バロックジャパンリミテッド)などがあった。
物価高懸念で「下向き」拡大
「下向き」と回答したのは41%で、17ポイントプラスとなった。物価高の影響を懸念する声が目立った。「物価の高騰により節約志向が高まっている」(第一三共ヘルスケアダイレクト)、「家計を守ろうとする心理が強く働くのではないか」(アプロス)、「食料品をはじめ日常生活関連の値上げが続き実質賃金も低下しており節約志向が高まっている」(ヒラキ)、「物価高による生活防衛意識の高まりにより、1人当たりの購入単価が低下している」(日本生活協同組合連合会)などとする声があった。
消費者の商品選択への影響もありそう。「情報やものがあふれ、実質値上げも増えていることから消費者はより吟味してから購入するのでは」(HEAVEN Japan)、「機能性表示食品に対する不信感がふくらむ」(あじかん)、「機能性表示食品やサプリ摂取への不安により消費動向が下がっている」(八幡物産)などがあった。
また、「上向き」と回答したのは15%。前年同期の調査から14ポイントマイナスとなっており半減した。主なコメントは「多種多様な商品展開がみられる」(てまひま堂)、「賃金の上昇」(テレビショッピング研究所)などがあった。また、節約志向の高まりを指摘しつつ「当社の顧客層の購買意欲に翳りはない。将来への不安からくる貯蓄や投資への関心が貴金属製品の購入につながる傾向があり、貴金属市場における消費動向は消費が継続するとみている」(田中貴金属ジュエリー)との声があった。
なお、アンケート調査は2024年7月に実施した。「第82回『2024年夏季特集号』通販・通教売上高調査」内で行った。設問に対し当てはまる項目にチェックを入れてもらい、その理由を聞いた。今回は回答を分類し、主なコメントをまとめた。
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