


今年で6回目の開催を盛況に終えた「大名古屋展」。主催者のビームス ジャパンが、企業や団体、スポーツチームとコラボして、名古屋・愛知の魅力を発信、シビックプライドの醸成、名古屋・愛知に足を運んでもらう機会創出を目指すプロジェクト。それだけでなく、地域をつなぐコミュニティの役割も担っている。本連載では「大名古屋展」プロジェクトリーダーの佐野明政さんがコラボ企業や団体の方々をゲストに迎え、名古屋・愛知のコミュニティが目指す未来について語り合う。
今回のゲストは、名鉄都市開発株式会社 代表取締役社長の日比野 博さん。今後、予定されるリニア中央新幹線の開通を控え、名古屋駅地区再開発計画の一事業者でもある同社が、「大名古屋展」に何を期待し、何を見出したのか。リニア時代のまちづくりと、その根幹にある「人づくり」への想いに迫る。
日比野 博さん/名鉄都市開発株式会社 代表取締役社長(写真:左)
岐阜県出身。1988年名古屋鉄道株式会社に入社。名鉄菜館でのサービスや名鉄協商での営業を経験。営業の醍醐味や名古屋鉄道グループの総合力の大きさを実感。その後、名古屋鉄道の不動産部門へ異動。同社中部支配人、開発部長、不動産事業本部長などを歴任し、2022年4月に名鉄都市開発代表取締役社長に就任。
佐野明政さん/株式会社ビームスクリエイティブ ビジネスプロデュース部 プロデューサー(写真:右)
愛知県名古屋市出身。2000年ビームスに入社。2010年に修士号取得。ショップスタッフを経験したのち、アウトレット事業、ライフスタイル業態であるビーミングライフストアの立ち上げを手掛ける。2015年よりビームス ジャパンのプロジェクトリーダーを務め、立ち上げから現在まで、「日本の魅力的なモノ・コト・ヒト」を国内外に発信する数々の企画を主導。2019年、名古屋・愛知を盛り上げるイベント「鯱の大祭典」の象徴となる名古屋グランパスの選手ユニフォームのデザインオファーをきっかけに、「大名古屋展」を立ち上げた。2021年より現職。
リニアがもたらすチャンスとピンチ。名古屋が直面する未来
― 2035年にリニア中央新幹線が開通する予定です。都市開発に携わる日比野さんは名古屋の未来像をどう描かれているか、お伺いできますでしょうか。
日比野 博さん(以下、日比野):リニアが開通して品川―名古屋間が約40分で結ばれることは、街のあり方を大きく変えるでしょう。それは“チャンスでもあり、ピンチでもある”と捉えています。
まず我々が強く認識すべきはピンチの側面です。大きな懸念は東京に人を吸い取られるストロー現象です。「リニアが開通しても、名古屋に限っては大丈夫だろう」という、無根拠な自信があることを否めません。これではまずいのです。
― ピンチを強調されるのは少し意外でした。この先10年で名古屋駅周辺が大きく変わることが想像されます。ピンチをチャンスに変えるために、何が重要でしょうか。
日比野:名古屋駅地区を中心とした街、つまりハードの整備はもちろん重要です。しかし、ハード以上に大事なのはソフトの部分です。名古屋にずっと住んでいたいと思ってもらうことが欠かせないのです。
現状、教育環境や大学数などを考慮すると進学先に東京を選ぶのは、仕方のないことかもしれません。だからこそ、高校生までの間に“自分の地元はこんなに楽しくて魅力的だ”というポジティブな経験をどれだけ積んでもらえるかが鍵となる。魅力づけがうまくいけば、大学を卒業した後に「地元に戻ろう」という気持ちも生まれるはずです。
佐野さん(以下、佐野):まさにそのソフトの部分で、私たちビームスもまちづくりに関わっていきたいと考えています。

今後、名古屋駅地区が再開発により大きく変わろうとしている
社員の情熱が会社を動かした、「大名古屋展」への挑戦
― ソフト面での魅力づくりは、「大名古屋展」の取り組みにも通じる部分かと思います。改めて、「大名古屋展」に参画された経緯をぜひ教えていただけますでしょうか。
日比野:ボトムアップの提案でした。ビームスさんのヘビーユーザーで、初年度のプロジェクトで中心的な役割を果たした社員の正木が「大名古屋展」を知り、「自分たちも関わりたい」と直談判に来たんです。最初はおかしなことを言っているくらいに受け止めていましたが、熱意は確かに伝わってきました。
佐野:私たちも正木さんをよく覚えています。正木さんの熱意が日比野さんを動かしたのですね。
日比野:熱心な物言いに耳を傾けているうちに、気持ちが動かされたのは事実です。それと同時に2022年に名古屋鉄道の不動産事業部門と名鉄不動産の統合により新体制がスタートしたばかりの当社として「名鉄都市開発」という会社の認知度を上げるために「大名古屋展」への参画は、有効に働くだろうと考えたのです。
しかし、プロジェクトが走り出してみると、当初の目的以上に非常に大きな価値が得られることに気づかされました。
― それは何でしょうか。
日比野:参加した社員の「経験」です。当初は想定していなかった、良質な副産物。「大名古屋展」は、社員を間違いなく変化させ、成長させました。今では、これこそが一番大事な部分だと確信しています。
― 参画の動機だったPRよりも、「人材育成」という価値のほうが大きかったということでしょうか。
日比野:その通りです。当社の事業は都市開発です。名古屋の街そのものが魅力的であって初めて将来が描けます。例えば、短期的な視野でマンションの入居率を上げるのも大切なミッションでしょう。しかし、それ以上に社員がプロジェクトを通じて視野を広げ、経験値を上げること。それこそが、巡り巡って未来のまちづくりの力になり、本業にも好影響を与えるのです。

「大名古屋展」への参画が若手社員のモチベーションを上げ、成長に繋がっていると語る日比野さん
「想定外の経験」が未来を変える
― 日比野さんは、参加された社員の方々にどのような変化を感じましたか。
日比野:正直、普段の業務を行っている時と比較して、目の色が変わっていると感じました。本当に熱心に取り組み、時間の感覚すらなくなっているようでした。
― なぜ、そこまで熱中できるのでしょうか。
日比野:やはり自らの意思で参加を決めたことが大きいのでは。加えて、決められたルールがなかったことも大きく影響していると推察されます。すべてを自ら思案し、時にはビームスさんとのやり取りの中で「それは無理だ」と言われて打ちひしがれることもあるわけです。それでも自分たちの責任のもとで完結させる。この経験が大きいのです。
佐野:ビームス側から見ていても、それは強く感じます。また、都市開発の仕事は、構想から完成までものすごく時間がかかります。一方で「大名古屋展」は、限られた時間の中で必ずアウトプットまで立ち会える。普段なかなか経験できない「最後までやり切る」体験が、皆さんの成長につながっているのではないでしょうか。
日比野:ご指摘の通りです。都市開発は息の長い仕事で、1年2年では具体的な成果が得にくい側面があります。しかし、「大名古屋展」は異なります。短期間でアイデアが商品という「形」になる。入社1年目、2年目の若手社員であっても、自分の関わった商品がメディアに取り上げられることもあり、家族や友人に自慢できる。不動産会社に入社して、まさかこんな経験ができるとは、“想定外”だったはずです。

「大名古屋展」で作った商品の数々
“人づくり”が導く、名古屋の新しい“まちづくり”
― 「大名古屋展」が当初のPRという目的を超え、「人づくり」の場になっていることがよく分かりました。今後は、この取り組みをどのように発展させていきたいですか。
佐野:「大名古屋展」は企業や団体がつながるだけでなく、若手が育つ「人づくり」の場にもなりました。このコミュニティで生まれた「人」のエネルギーを、モノづくりで活かすだけで終わらせず、今後は名鉄都市開発さんの本業「まちづくり」そのものに還流させていけたら、と強く思っています。
日比野:「人づくり」が重要なのは、これからの「まちづくり」が、従来とはまったく異なる発想を必要としているからです。
例えば「熱田外苑プロジェクト」も、単に建物を作るだけではありません。どのような「素晴らしい体験」を提供できるかが問われています。
― 従来の不動産開発のノウハウだけでは伝えられない、ソフトの領域ですね。
日比野:「大名古屋展」で若手たちが挑戦しているような、ゼロベースの企画力や文化的な発想が不可欠となります。文化的な発想とは「地元の若者に、地元の魅力に改めて気づいてもらう」というアプローチに他なりません。それはリニア時代の最大のピンチである「若者流出」を防ぐための「魅力的なまちづくり」そのものです。同時に魅力的な企画を実行できる「人づくり」という当社の課題にも重なります。

― 最後に、日比野さんから「人づくり」と「まちづくり」の未来について、総括をお願いします。
日比野:「大名古屋展」で若手が手にした“替え難い経験”は、彼らのキャリアと共に磨かれ、やがて本業の「まちづくり」で存分に発揮されると期待しています。それこそが「人づくり」の試みが真に実を結ぶ瞬間であり、私が描く理想の未来像です。
文:中谷藤士
撮影:船場拓真
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