Image by: FASHIONSNAP

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Bunkamura ザ・ミュージアムによる展覧会「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」が、渋谷ヒカリエ9階のヒカリエホールで開幕した。同展は、1950年代から現在までの日本の女性写真家に光を当てた写真集『I'm So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』(2024年刊行)を起点とし、アルル国際写真祭など世界巡回を経た凱旋記念展だ。
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本記事では、初日に行われた写真家 石内都氏と同展キュレーター 竹内万里子氏による開幕記念トークイベントの模様をレポート。さらに記事後半では、7月4日・11日・12日に開催される連動イベント「わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEKEND」のハイライトもあわせて紹介する。
東京展の真髄は、30人の女性写真家の“異なり”を発揮すること
展覧会の開幕初日に行われた石内氏と竹内氏のトークイベントには、事前応募による抽選で選ばれた約100人が来場。日本女性写真家のパイオニアの一人であり、同展でも重要な役割を担う石内氏のこれまでの歩みや、世界各地での巡回展の様子、東京展ならではのこだわりなどについて1時間半にわたって語り合った。

(左から)竹内万里子氏、石内都氏
トークの冒頭では、キュレーターの竹内氏が同展の背景を説明。ブルックリン美術館写真キュレーターのポリーヌ・ヴェルマール(Pauline Vermare)氏とプリンテッド・マター(Printed Matter)のエグゼクティブ・ディレクターを務めるレスリー・A・マーティン(Lesley A. Martin)氏が編集を手掛けた写真集『I'm So Happy You Are Here』は、海外に向けて日本の女性写真家を紹介する試みとして画期的な書籍であることや、南仏のアルル国際写真祭での展覧会では、同書に収録された約80人から26人が参加したこと、展覧会のキュレーションには竹内氏が加わり、文化的背景の異なる3人がそれぞれの視点で話し合いながら作り上げる点が特徴であることなどを話した。
欧米での巡回展では物理的な制約もあったが、今回の東京展ではヒカリエホールの1600平方メートルの大空間を活かし、出品作家・展示内容を拡大して30人の作家を紹介。竹内氏は東京展のキュレーションにあたり、「各作家にとって日本で今何を見せることが重要なのか」を重視したという。「女性はこれまでひと括りにされたり、搾取されたりといった扱いを受けてきた歴史や背景がありますが、実際には一人ひとりが複雑なアイデンティティや思考を持っている。それぞれの独創的な世界とその“異なり”をどれだけ発揮できるかという点が、この展覧会の真髄になっていると思います」と思いを語った。

Image by: Bunkamura
石内氏は今回、4つのシリーズから14点の作品を選び、壁のレイアウトも自身で手掛けた。展示の中心となるのは「Mother's」「ひろしま」「Frida Love and Pain」という、「女性が残した遺品」をテーマにしたシリーズだ。石内氏は、その原点とも言える「Mother's」について、2005年のヴェネツィア・ビエンナーレでの印象深いエピソードを披露した。
コミッショナーの笠原美智子氏の強い提案により、母の遺品を撮った同シリーズだけで展示を構成したことが大きな転機になったという。「女2人だから『女のヴェネツィア』と揶揄された」と当時を振り返りつつも、同展がきっかけで「ひろしま」やフリーダ・カーロの遺品の撮影依頼へと繋がったことから、「母がここに連れてきてくれたのかなと思って、母に対する考え方がすごく変わったんです。『お母さん、本当にありがとう』という気持ちでしたね」と語った。

「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展での石内都氏の作品展示の様子(一部)
また、東京展で新たに加えた最新作「The Drowned」(水没の意)についても言及。同作は、2019年の台風19号で川崎市市民ミュージアムが浸水し、汚水による被害を受けた自身の過去作のプリントを再撮影したシリーズだ。
同作を加えた理由について石内氏は、「写真はとても危ういもので、額装がなければ紙っぺらなんですよ。美術館に収蔵していれば安心だと思っていたら、全くそうではなかった。写真とはいつ何があってもおかしくない危ういものだということを示すためにあえて出しました」と説明。竹内氏は「石内さんは、建築であれ身体であれ、物が時とともに変容していくさまを1970年代からずっと見つめてこられた。この『The Drowned』もまた、ある種の変容であり、過去のご自身の写真を“物質”としてまなざしているという意味で、非常にメタ的かつ批評的な作品だと感じました」と応えた。

元は「1899」シリーズの石内氏の祖母の手と足を撮った写真だったという。(石内都「The Drowned #2」2020年)
「女だって構わないけど舐めんなよ」石内都流・写真と仕事への向き合い方
続いて、話題は石内氏の写真との出会いや向き合い方、初期の仕事に及んだ。竹内氏は石内氏の写真への向き合い方について「完全な独学で写真を撮ってきたからこそ、従来の写真のありようや観点とは根本的に違う自由なアプローチを追求している」と言及。偶然譲り受けた暗室道具とカメラをきっかけに写真を撮り始めたという石内氏は、「私は暗室が大好きで暗室に入るために写真を撮っている。だから今でも撮影は苦手だし、実は写真を撮りたくないんです」と話す。初めて暗室でフィルムを現像してプリントした際、現れた粒子の美しさに魅せられ、暗室の中で「写真とは粒子の塊なんだ」と発見したことが、同氏にとっての写真の始まりだったという。
そんな同氏がキャリア初期に経験したのが、1976年に企画した10人の女性写真家によるグループ展「百花繚乱」だ。「男」をテーマにした同展では、各作家が35枚ずつ撮影した計350枚の写真をシャッフルして無作為に展示。石内氏は「せっかくだから男を裸にしよう」と男性のヌードを撮影したという。
同展のテーマ設定の意図について、石内氏は「なぜ女は常に撮られる側で、男は女ばかりを撮っているのか。それなら男を撮ろうと思ったんです」と振り返る。当時はウーマン・リブが台頭する社会的な流れの中、「これからどうやって生きるか」を自ら考えた末に生まれた企画だった。同展は、男性中心的だった当時の状況に問題提起する画期的な内容だったが、写真界からは完全に無視され、メディアからは「女が男を裸にする」とスキャンダラスに扱われただけだったという。


「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展で展示されている資料
「ほぼ男性社会だった写真界の中でずっと戦ってきたのではないか」という竹内氏の問いかけに対し、石内氏は当時の切実な思いをこう回想した。「自分では性別を特に意識していないのに、社会や周囲から『お前は女だ』と言われて括られるのは非常におかしいですよね。だから仕事のときはすごく肩に力を入れて、『女だって構わないけど舐めんなよ』という態度でいないと世間に対抗できなかったんです」。
誰に頼まれたわけでもない、自分の生き方を撮った「表現」としての写真
トーク終盤、石内氏から竹内氏へ「私は“冒険”したことは一度もありませんが、なぜ『まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険』というタイトルになったんですか?」と率直な問いが投げかけられた。これに対し竹内氏は、「『挑戦』という言葉に限りなく近く、女性や写真、表現を巡る既存の価値観や固定観念に対する30人のチャレンジと探究という意味を込めました」と説明。さらに「奇跡」には、「女性であるという社会的要請から活動を続けられなかった人も多くいる中で、ここまで『軌跡』が続いてきたことの価値や意義も込めています」と語った。

また石内氏は「写真には報道やスポーツ、ファッションなどいろいろな種類がありますが、この展覧会にあるのは仕事として誰かに頼まれて撮った写真ではなく、全部自分の生き方を撮った『表現』なんです。今回はそれをイベントホールでやることで、美術館に行ったことがない人も見る可能性があるんですね」と、開かれた場所で開催される意義に触れた。
質疑応答のコーナーでは、観客から「加齢や時間の流れについてどう思っているか」という問いが投げかけられると、石内氏は「後期高齢者になって、若いときよりすごく楽」と笑顔を見せた。「若いときは身体と頭が分離していたけれど、今は身体が衰えた分、頭が冴えている。できないことはできないし、できることだけやればいい。だんだん年を取ることで、とてもシンプルになりました」。
この言葉を受け、竹内氏が「若さがなくなっていくことは、女性という身体にとって解放に繋がるか」と深掘りすると、石内氏は「閉経はまさに解放。『やった』と思って、すごく自由になった。女性の身体はどうしても子どもを産むことに縛られているから」と率直かつユーモラスに語った。
竹内氏は続けて、同展のメインヴィジュアルにもなっているやなぎみわ氏の「エレベーターガール」シリーズに言及。「あの作品は、まさに若さと女性性が合体したときの商品化を見事に具現化していますが、そうしたものからの『解放』を、私に教えてくれた一人が石内さんでした」と応じる。

やなぎみわ「案内嬢の部屋 1F」1997年
また石内氏にとって、年齢を重ねることは「美しさ」でもある。「年を取ると時間が堆積して、シミやシワになって現れる。それは『時間の形』だから美しいと思ったのが、40年間人生を支えてきた足の裏や手を撮った「1・9・4・7」でした。そのころから、私の価値観はあまり変わっていないんです」。
最後に、「日本女性写真家」という立場を意識して表現してきたかという別の観客からの問いに対し、石内氏は50年間道を切り拓いてきたパイオニアならではの言葉で締め括った。「今回の展示もトークも、私が年次や年齢が上だという責任感から参加しました。本当は責任感なんてない方がいいんだけど、残念ながら負っているんです。ただ一つ言えるのは、私はどこにも所属せず、先生も生徒も誰もいない、本当にたった1人でやってきたからすごく自由だということ。その自由さが、私にとっては一番の力なんです」。
メイル・ゲイズにとらわれない表現とは? 3人が語る「Female Gaze」の現在地
同日、展覧会の連動イベント「わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEKEND」の1企画として、映画監督・映像作家の清原惟氏、映画評の執筆や特集上映の企画なども行うDIVAのゆっきゅん氏、上映・執筆活動を行う「肌蹴る光線」の井戸沼紀美氏によるトークイベント「映画作品から見るFemale Gazeの地層」も開催された。
トークの中心となった「フィメール・ゲイズ(Female Gaze、女性のまなざし)」とは、映画史に長く横たわってきた「見る主体=男性、見られる客体=女性」という男性中心的で二元論的な「メイル・ゲイズ(Male Gaze、男性のまなざし)」に抵抗する概念のこと。ゆっきゅん氏は、1975年にフェミニスト映画理論家のローラ・マルヴィ(Laura Mulvey)が発表した記念碑的な論文「視覚的快楽と物語映画」に触れながら、フィメール・ゲイズを単なる性別による視点の違いではなく、「大きな権力に対抗する、女性も含めたマイノリティの視点」と定義づけた。

(左から)清原惟氏、ゆっきゅん氏、井戸沼紀美氏
清原氏は、フェミニズム映画批評の視点から名作映画を再検証したニナ・メンケス(Nina Menkes)監督によるドキュメンタリー映画「ブレインウォッシュ セックス-カメラ-パワー」を見た衝撃を振り返り、「自分が尊敬してきた巨匠たちの映画がいかにメイル・ゲイズで作られていたかに気づき、意識が変わった」と語った。一方で、自身が影響を受けたジャック・リヴェット(Jacques Rivette)監督の「セリーヌとジュリーは舟でゆく」などを例に挙げ、女性同士のリアルで自然な関係性が描かれた、メイル・ゲイズにとらわれない作品の魅力を共有した。
ゆっきゅん氏はこの話題に呼応し、制作50年を記念して7月24日から日本で公開予定のドキュメンタリー映画「美しく、黙りなさい」(デルフィーヌ・セリッグ監督)について言及。1970年代の23人の米仏の女優たちへのインタビューを通じ、当時の男性優位な映画業界や、描かれてこなかった女性同士の関係性を浮き彫りにする同作を「フィメール・ゲイズ的な注目作品」として紹介した。
また、3人はそれぞれが表現者として持つ「まなざし」の在り方についても言及。清原氏は「取捨選択したものの外にある、描かれなかった時間やものにも光を当てたい」と映像制作における視点を語り、ゆっきゅん氏は「新曲を作る際は、まだ歌われていない人や感情、空間を見逃さず、掬い上げるようにしている」と自身のスタンスを明かした。さらに井戸沼氏は、近年インディペンデントな映画制作の現場において、監督やプロデューサーだけに権力が集中しない民主主義的なプロセスが広がりつつあるという清原氏の見解に触れ、「多様な声を取り入れる多声的な制作のあり方こそが、結果としてフィメール・ゲイズが持つ対抗的な視点に繋がっていくのではないか」と映画界の変化に感じる希望について話した。
多様なまなざしが交差する──me and youが企画する連動イベントの見どころ
同展の連動企画として7月4日、11日、12日の3日間にわたって渋谷ヒカリエの8階の8/COURTを拠点に開催される、「わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEKEND」。同イベントをBunkamuraと共に企画・運営するのは、ウェブを起点にメディアやコミュニティを運営するme and youの野村由芽氏と竹中万季氏だ。
休館中のBunkamuraが渋谷の街を舞台に行う本企画について、2人は「展覧会を起点に、30人の女性写真家たちの『まなざし』が街へ染み出すとともに、多様な人のまなざしを集めて発信し呼応し合うような場を作りたいというBunkamuraさんの思いを受けてスタートしました」と語る。
この「まなざしを集める」というコンセプトのもと、会場ではクロストークやライブ、写真展、ワークショップ、ブックフェアなど、多角的なプログラムが展開される。今週末の7月11日と12日に開催する「SHIBUYA PHOTO BOOK FAIR」では、渋谷にゆかりのある書店やショップ、me and youとつながりのある写真家などが参加。国内外の写真集やZINE、写真をプリントしたアパレルや雑貨などが並び、写真表現の幅広さに触れることができる。

「わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEKEND」会場の渋谷ヒカリエ8階 8/COURT
来場者参加型のワークショップも充実している。「つめをぬるひと」が参加者が持参した好きな写真の色合いでネイルを施す企画や、グラフィックデザイナーの小池アイ子とともに渋谷の街で写真を撮影し豆本を作るワークショップ、来場者がスマートフォンなどで撮影した写真を会場に貼り、渋谷での記憶を書き込んでいく「わたしと渋谷と」展も開催。そのほか、11日には写真家の長島有里枝とアーティストの和田彩花によるトークイベント「撮る、撮られるの女性のまなざしの現在地」、12日には浮(ぶい)によるライブも実施する。


「渋谷という街は変化がとても早いですが、そこで少し立ち止まって、1日楽しめるイベントになればと思っています。展覧会を見た後にイベントに行く、イベントの後に映画館に行く、というように過ごしてもらえると嬉しいですし、そうやってさまざまなジャンルを組み合わせることで、自分の中でまなざしが交差し、解像度が上がった状態で物事を見られるようになるのではないかと思います」(野村氏)
「実際に足を運ぶことで予期しない出来事や出会いが生まれるはずです。写真や女性作家にすごく興味がある方でなくても、きっと『何かやってみたい』と思える企画になっていますので、ぜひお越しください」(竹中氏)と来場者に向けたメッセージを語った。
最終更新日:
◾️まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険
会期:2026年7月4日(土)〜8月26日(水)
開場時間:10:00〜19:00(最終入場は18:30まで)
会場:ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ 9F)
所在地:東京都渋谷区渋谷2丁目21−1
出展作家(50音順):石内都、石川真生、今井壽惠、岩根愛、潮田登久子、岡上淑子、岡部桃、オノデラユキ、片山真理、川内倫子、小松浩子、今道子、澤田知子、志賀理江子、杉浦邦恵、多和田有希、常盤とよ子、長島有里枝、楢橋朝子、西村多美子、蜷川実花、野口里佳、野村佐紀子、原美樹子、ヒロミックス、藤岡亜弥、やなぎみわ、山沢栄子、米田知子、渡辺眸、島隆(特別出品)
◾️「わたしのまなざし、あなたのまなざし SHIBUYA ART WEEKEND」
開催日時:2026年7月4日(土)、7月11日(土)〜7月12日(日)
会場:渋谷ヒカリエ 8/COURT
所在地:東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8階
主催:東急
企画・制作:Bunkamura/me and you
<開催イベント>(※7月11日〜12日)
・まなざしトーク:長島有里枝(写真家)× 和田彩花(詩と言葉のアーティスト)「撮る、撮られるの女性のまなざしの現在地」
日時:7月11日(土)20:30〜21:30(受付20:00)
参加費:500円
申し込みサイト
・まなざしライブ:浮
日時:7月12日(日)18:30〜19:30(受付18:00)
参加費:1000円
申し込みサイト
・SHIBUYA PHOTO BOOK FAIR
日時:7月11日(土)11:30〜19:00、7月12日(日)11:30〜17:00
参加店舗(予定):POST/Shelf/Daily Practice Books/Open Room/Commune/Sister/青山ブックセンター/SALT AND PEPPER/UTRECHT/me and youブース
me and youブース委託販売予定作家:石田真澄、植本一子、宇壽山貴久子、大田詩織、長田果純、北田瑞絵、小林真梨子、ソノダノア、羽永、濵本奏、ヤスダ彩
・「わたしと渋谷と」展
日時:7月11日(土)11:30〜19:00・7月12日(日)11:30〜17:00
入場:無料
・つめをぬるひと「1本から塗れる“写真爪塗り”」
日時:7月11日(土)11:30〜19:00
参加費:1本 500円(10分)/2本 800円(20分)/5本 1500円(30分)/10本 3000円(40分)
・小池アイ子「偶然のまなざし」
日時:7月12日(日)12:00〜13:30・15:00〜16:30
定員:8人/回
参加費:無料
・野村佐紀子・岩根愛 ブックサイニングイベント
日時:7月12日(日) 野村佐紀子:16:00~16:30、岩根愛:16:30~17:00
場所:渋谷ヒカリエ 8/COURT『SHIBUYA PHOTO BOOK FAIR』内「Shelf」ブース
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