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SHEINパリ1号店が閉鎖 ウルトラファストファッション規制の動きが高まる

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 このコラムでも、度々取り上げてきた中国発のウルトラファストファッション、SHEIN。同社は2025年11月5日、フランス・パリの百貨店BHVマレ店に初めての常設店を出店した。売場面積は1000m2を超え、取り扱うアイテムは数千点。そのスケールは周囲の度肝を抜き、中国ブランドとしてファッションの街パリに突きつけた挑戦状のようにも見えた。ところが、話題性とは裏腹に数々の問題点も炙り出された。フランス政府はSHEINのサイト上で販売したラブドールが子供のような外見であることから、児童ポルノの疑いで捜査を開始。また、フランスでは特別の許可がない限り購入も所有も許されないゾンビナイフやメリケンサックを販売していたと、同社オンラインサイトのサービス停止の行政手続きにも踏み切った。

 それから約半年後の2026年6月16日、BHVマレ店はSHEINとの提携を解消すると発表した。それに先立ってフランス政府がSHEINに対し総額2250万ユーロ(約42億円)の制裁金を科したことと関係するのは多くが思うところ。政府側は、注文確認メールで価格や販売者情報、配送期限など消費者向け情報の提供が不十分な点に加え、オンライン販売で認められる14日間の撤回権や環境情報の表示に不備があったとするが、背景にはフランス国内のアパレルや小売業を守ろうとする政治的な思惑もあると思う。低価格を売りにする海外プラットフォームは小売業界にとって脅威で、何とか規制をしてほしいとの要望が高まっていた。

 フランス政府としてはそれを無視できず、対策を取らざるを得なくなったと言える。同政府は7月からEU域内に流入する小包への定額課税を導入するほか、9月からはウルトラファストファッション規制法を施行させる。SHEINをはじめとしたファストファッションが越境ECを通じて急拡大していることに対し、政府は制裁、課税、法整備を組み合わせながら競争条件の見直しを進めていくと見られる。

 そんな政治的動きがついに老舗百貨店を動かした。「SHEINパリ1号店が閉鎖へ」。衝撃的なニュースはパリ市民だけでなく、世界中の業界関係者を驚かした。そもそも、BHVマレを取り巻く構図は紆余曲折していた。それは老舗百貨店のギャラリー・ラファイエット(GL)が23年にBHVの営業権を商業施設運営のソシエテ・デ・グラン・マガザン(以下SGM)に譲渡したことに始まる。ただ、この時点で、BHVの土地・建物の所有権はGL側に残されていた。 一方、SGM側はビルの不動産も買い取るための独占交渉権を有していたが、25年11月にBHVマレ店内にSHEINの常設店をオープンしたことで周囲の強い反発を招き、アニエスベー、ディオール、ゲラン、A.P.C.、サンドロ、マージュ、フィガレなど約100ブランドが退店・撤退を招いてしまった。

 一連の騒動を受け、GLは2025年12月19日を期限としていたSGMとの独占交渉期限の更新を見送った。不動産については別の投資会社が取得し、百貨店自体の営業権はカール=ステファン・コタンダン現CEOを含むBHVの現経営陣がSGMから買収(MBO)して独立する方向へ動いた。地元紙ル・モンドによると、コタンダンCEOは今回の買収完了後、SGMのCEO退任の会見を開き、「理想的には、SHEINはクリスマス前にBHVマレから撤退すべきだ」と語っている。併せて、SHEINの導入は「戦略的な誤りだった」と素直に認めたという。振り返ると、25年11月、SGMの共同創業者兼会長でBHVのオーナーであるフレデリック・メルランCEOが「これほど多くの来店客がいるのは喜ばしいこと」「多くはBHVの既存客。最終的には販売する商品の質と、提供するサービスのレベルにかかっている」と自信をのぞかせていたが、状況はわずか半年で一変した。

 もっとも、SHEINの加熱報道とは対照的に、パリ市民は当初から冷ややかな目で見ていた。それはBHVマレ店を訪れたお客の声からも見て取れる。「品質にがっかりした」「ウェブサイトよりもずっと高い」「値段は法外だ」と、来店客からは品質や価格に対する失望感が漏れていた。メディアは価格の安さと商品投入の速さを実践するSHEIN上陸を喧伝し、実際に待ちに待った一部のファンが殺到した。だが、売場で実際に商品を見てみると、期待したほどではないと感じたお客は少なくなかった。欧州には高いクオリティを追求しながら、値ごろな価格を維持しているブランドが数多くある。そうしたアパレルに慣れ親しんだパリ市民からすれば、安い、速いだけの中国発のブランドなど取るに足らなかったのではないか。

 もちろん、SHEINのビジネスモデルは高く評価されている。最先端のAIとビッグデータを活用し、世界のトレンドをリアルタイムで分析する一方、AIがSNSの投稿、検索トレンド、競合サイトのデータ、アプリ内のクリック、購買履歴をリアルタイムで解析する。次に何が売れるかを予測し、新商品のデザインや生地、色彩の決定に反映させる。AIが割り出した需要に基づき、まずは100~200着程度のアイテムを生産。それらのクリック率やコンバージョンレートをAIが監視し、反応が良い商品のみ自動で追加発注・量産する。そして、顧客の閲覧パターンや購入履歴をAIが学習し、ユーザー一人ひとりの好みに合わせた商品をアプリ上に表示する。こうしたフローを可能にするのが中国・広州を中心に数千規模の縫製工場を独自のクラウドシステムで繋いだサプライチェーン。在庫状況や生産能力をリアルタイムで可視化・管理し、企画から販売までを最短3日から1週間という短期間=ファストで行うことができる。

百貨店の戦略は小売業の行く末を暗示

 結果的にSHEINのシステムは、アパレルのビジネスモデルである企画から生産、販売までの直通型から、データ予測、小ロット生産、需要検証、増産を繰り返すサーキュラー型へ進化させた。つまり、AI活用は旧来は売れるかどうかを事前に予測するものだったが、SHEINのそれは実際に売ってからデータを収集していく点で、隔世の感がある。需要予測というより、実需確認とでも言おうか。その点で、コンサルタントや識者の多くが「SHEINが目指しているのは、単なる売上拡大ではない。製造と流通の基盤そのものを握ることだ」「このサプライチェーンモデルが成立すれば、SHEINはファッション企業ではなく、産業インフラ企業へと変わる」と、評価されているのも頷ける。

 ただ、SHEINのシステムやビジネスモデルは、あくまでECでの成功体験の中で作り上げられたもの。それは実店舗の展開となると固定費が増える分、コスト計算を変えざるを得なくなる。また、様々な小売規制にも直面する。常設店では家賃や人件費がかかることから店頭価格を割高にしたり、違反商品の規制を受けてMDをフラットなものに修正せざるを得なかったのもそうだろう。

 お客にとっては高度なシステムも秀逸なビジネスモデルも関係ない。売場で商品を見てデザインや素材を見比べ、価格と価値のバランスを考えた時、良ければ買い、そうでなければ買わない。単純だが、それがお客なのである。ネットと違い現物を見れば、なおさら判断力が増幅する。BHVマレ店のSHEINを訪れたお客から、品質にがっかりした、ウェブサイトよりもずっと高い、値段は法外だなどの失望感が漏れたのが何よりの証左。児童ポルノの疑いや購入も所有も許されない武器の販売も、行政機関や首長は黙っていなかった。いろんな批判が輪をかけてSHEINのリアル店舗の立場を毀損していったのは事実だ。結果的に百貨店の経営陣が商品内容やお客の声を鑑みて、閉鎖を決断したのは当然のことと思われる。

 ただ、器であるBHV側も揺れ動いている。マレ店の他にパリ西郊のパルリー2も新経営陣の管理下に入る。SGMは残りの7店舗(うち5店舗は現在もSHEINの売場が存続)については、引き続き運営するという。BHVマレは1856年設立の老舗百貨店でありながら、近年経営不振に陥っていた。一方、SHEINは2025年の上半期、フランスのファッション小売業者ランキングで第5位にランクインするほどの好調ぶりだ。売上げを挽回したいSGMにとって、SHEINとの協力協定は渡りに船だったと言える。当然、マレ店ほかBHV各店へのSHEIN常設店の展開を視野に入れていたのは言うまでもない。だが、SGMのフレデリック・メルランCEOがパリ以外の店舗でのSHEINとの契約は履行されるとしつつ、長期的には見直しもあると語ったところを見ると、今後どう転ぶかはわからない。

 SHEINマレ店の閉鎖の背景にフランス政府が科した制裁金の影響はあっただろう。SHEIN側は「SGMとの提携は当初から期間限定の実験的プロジェクトだった。双方が適切な時期に成果を評価することで合意していた」と、海外での声明で説明している。閉店はある程度予想していたと仄めかしつつ、提携終了については遺憾とコメントするなど、フランスに対する敵対心を滲ませる。ただ、フランス政府は手を緩めない。審議が続いていたファストファッション規制法案が国民議会と上院の代表議員による両院協議会(CMP)で妥協案として合意された。当初は環境負荷の高いファストファッション全体を対象としていたが、今回の合意では実質的にウルトラファストファッションに絞り込まれた。大量の商品投入や買い替えを促しやすい価格などを特徴とするビジネスモデルを想定し、SHEINやTemuがその代表例とされる。

 法律は対象商品に対して環境指標に基づく負担金を導入する。負担額は税抜き価格の最大50%(上限10ユーロ)を想定し、詳細は施行令で定める。加えて広告を禁止し、インフルエンサーによる販促も規制対象に含めた。かなり踏み込んだ規制と言える。ならば、そんなウルトラファッションの常設店を百貨店がテナントとして受け入れる意味がどれほどあるのか。SGMが国の法規制から、SHEINを受け入れ続けるのは得策ではないと考えたとすれば、至って真っ当な経営判断ではないかと思う。冷静に考えてもフランス、パリには大量生産、低価格のアパレルとは距離を置き、独自の世界観を持って個性を全面に出すブランドの方が似合う。百貨店にはそうしたものをいかに掘り起こし、セレクトしていくかが求められるのだ。

 現にGL本店の売上高は、2025年に20億ユーロ(約3680億円)と過去最高を記録した。コロナ禍により人流が停滞したことを教訓に中国観光客への依存一辺倒から脱却。米国や中東からの集客に注力したことが奏功したかたちだ。今後も世界一の百貨店という目標を掲げ、30年までに約2億6千万ユーロ(約478億4,000万円)規模の投資計画を進めていくという。ボンマルシェは地元客や富裕層をターゲットに、アーティストなどと組んだイベントを定期的に開催している。館内をアミューズメント施設のように仕立て、体験型の百貨店として集客に力を入れるなど独自路線を進む。一方、プランタンは販売の低調が続いている。13年にカタール系投資会社の傘下に入っているが、15年のパリ連続多発テロ事件で観光客が激減した影響を拭えきれず、コロナ禍がさらに収益低下に追い打ちをかけた。

 BHVもSHEINの出店により、アニエスベーやサンドロなどのファッションブランド、ディオールやゲランなどラグジュアリーコスメブランドが一斉に撤退。百貨店としての信用を失ったのは間違いない。経営陣が目先の売上げを優先するあまり、SHEIN導入に踏み切った代償は少なくなかったということだ。現経営陣はマレ店からSHEINを切り捨てたものの、苦戦する他店では売上げ回復のためにSHEINを欲する気持ちは捨てきれないと見える。ただ、日本の百貨店もそうだが、好調テナントを誘致する手法は楽ではあるが、どこも同じような顔ぶれになり差別化できず、独自性を失っていく。洋の東西を問わず、百貨店の戦略は、小売業の行く末を暗示するようで、今後も注目していきたい。

 ※当コラムは2010年ごろからGoo Blogにて執筆をスタートしました。ですが、25年11月18日でサイトのサービスが終了し、Amebaへの引越しを致しました。過去14年にわたる月別アーカイブは、2011年から併載していますlivedoorブログ(http://blog.livedoor.jp/monpagris-hakata/)でご覧いただけます。

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