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株価が上がれば服値は下がる? SHEIN、香港での上場を受けて

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 先日のコラムで中国発のネット通販大手SHEINが香港証券取引所に上場すると書いた。2026年7月26日、同社は香港証券取引所のサイトを通じ、IPO(新規株式公開)の目論見書を公開した。同年8月中に上場する計画が9月1日にずれ込みそうだという。当初、SHEINは300億ドル(約4兆7689億円)の評価額を目指していると言われていた。ところが、目論見書で開示されたSHEINの2025年の売上高営業利益率は、わずか4%。そのため、同社は260億ドル(約4兆1330億円)~270億ドル(約4兆2920億円)に修正したと言われる。上場益のうち100億元(約2365億円)は、実質の本拠地である中国広東省での物流拠点の整備に投資するとも言われる。残りはAI(人工知能)などIT関連に充てる計画ということだったが、目論見書の通りに行くかは全く不透明になってきた。徹底した薄利多売で成長してきたビジネスモデルは、欧米各国の規制で曲がり角に来ていると言わざるを得ない。

 当初、SHEINは米国での上場を目指していた。ところが、同社が新疆ウイグル自治区での強制労働に関わっていたことから監査基準(外国企業問責法など)を満たさず、米国での上場計画は頓挫した。その後、英国でも上場を目指したものの、会社が公正に経営されているか、法律やルールを守るための組織や仕組みが動いているかといった実質的な審査基準に抵触してか、全く進展する気配はない。フランスでは2025年11月以降、SHEINは実店舗をパリの百貨店BHVマレ他に展開したが、サイト上で販売した商品に児童ポルノの嫌疑がかけられ、同国内では特別の許可がない限り購入も所有も許されないゾンビナイフやメリケンサックを販売していたとして、フランス政府はオンラインサイトサービス停止の行政手続きに踏み切った。とどのつまりが26年6月16日、BHVマレ店の閉鎖とウルトラファストファッション規制法の施行。こうした経緯を見ると、EU圏内での上場も無理だと言える。

 結果として、中国の息がかかった香港市場しか受け入れてくれるところがなかったということだろう。まあ、米国と中国の経済的な対立は激しい。そのため、中国企業にとって監査基準が厳格化されると、米国での上場は不可能になる。また、各国の証券業法や制度の違いもある。米国は同株不同権(1株あたりの投票権=議決権に差をつけるデュアル・クラス・シェア/二重株式構造)を認めないが、香港は一定の条件で認めていることで上場できたとも考えられる。SHEINの創業者や経営陣が持つ株式には1株につき10票などの強力な投票権を与えるが、一般の株主には1株につき1票または議決権のない株式を割り当てる。そうなると、マーケットから多くの資金を集めても、経営陣が自身の議決権比率を高く保てるため、敵対的買収から会社を守り易い。IT・スタートアップ企業では広く導入されているから、SHEINが香港市場でも同じ手法を取ったことは想像に難くない。

 SHEINは上場することで、巨額の資金調達が可能になる。同社が発表した通り、集めた資金はAI開発やインフラ整備に投資できる。また、上場企業ということで、企業の信頼性が高まり、優秀なAI人材を確保でき、他企業との提携でも有利になる。これらは上場のメリットでもある。ただ、決算書などで経営状況をオープンにしなければならず、株主総会では投資家やアクティビスト(物言う株主)から様々な要求を受けることが考えられる。特に株主側は四半期ごとの利益を追求し、配当額のアップを求めることから、SHEIN側が目論む莫大なIT投資が抑制されることはある。中長期的に見ると、IT関連のビジネスは景気変動で株価が大きく乱高下する。SHEINの営業利益が低下していることを見れば、今後も隆盛が続く保証は不確かなため、短期でリターンを望む投資家は売却のタイミングを見計らうだろう。となると、経営への影響は必至だ。

 SHEINがグローバル市場で稼いでいく以上、課題は残ったままだ。米国ではトランプ政権が米国における800ドル以下の少額貨物の免税制度(デ・ミニミス・ルール)を廃止した。その結果、物流コストが上昇し、SHEINの2025年12月期の純利益率は前年の8.7%から4.9%に低下。目論見書で開示した2025年の売上高営業利益率はわずか4%にとどまり、26年1~3月期は3%と悪化。最終損益は9900万ドル(約157億ドル)の赤字となっている。フランスでは2026年9月以降、ウルトラファストファッションに負担金が科される。米国でも米連邦取引委員会(FTC)から消費者保護に関する調査を受けている。米当局が強制労働問題などを持ち出して規制上の審査を厳格化すれば、中国側も米当局との調整を余儀なくされ、それがSHEINにとって経営上のリスクになる。グローバル市場ではTemuやTikTok Shopなどとの競合が激化しており、低価格モデルの維持とシェア争いが厳しい。IT投資で果たしてこれらの課題が解決できるかは全く不透明と言わざるを得ない。

AI整備を進めながら、ブランドにも触手?

 では、IT投資は具体的にどんなものになるのだろうか。そもそもSHEINが急成長を遂げたのは、アパレルの需要データと商品の製造体制を直結させた超高速・小ロットモデルを確立させたことにある。今、グローバルではどんな商品が売れているのか。その情報をSNSや検索履歴をもとに収集して商品企画に反映し、3~7日の超短期(ウルトラファスト)で製造したサンプルを、上限で200点ほどの小ロットを市場に投入して、売れ行きを探る。その中で売れた商品のみ製造することで在庫ロスを抑えながら、1日あたり3000~6000種類の新商品を追加する。それを可能にするには中国・広州を中心に数千規模の縫製工場とネットワークを構築し、自社システムではそれらをリアルタイムに管理しているからだ。つまり、売れ筋データから小ロット生産、需要検証、追加生産までのサーキュラーモデルを確立しているのだ。画期的な点は、SHEINが商品の何が売れるかを事前に予測するのではなく、商品を実際に売ってみることで何が売れるかを確認した上で、ファストに追加投入できることだ。

 SHEINは次のビジネスサービスとして、ブランド育成・成長支援のためのパートナーシッププログラム、Xceleratorを外部の独立系ブランドやデザイナー向けに開放。商品企画のサポートからサンプル制作、製造、在庫管理、物流、EC販売までを一体で提供する。つまり、小規模なアパレル企業がこのサービスを利用することでSHEINのマーケットプレイスで商品を販売することが可能になる。小規模なアパレルは初期投資がほとんどかからずにEC販売(サンプルによるテスト販売)がスタートできるし、SHEIN同様に売れた商品のみを生産すればいい。在庫リスクが大幅に削減できるわけだ。D2Cアパレルのさらなる進化形とでも言おうか。実際、このサービスを利用したアパレルからは、「在庫を抑えながらアイテム数を増やすことができた」「まるで数千ものの工場を抱えるメーカーになった感じだ」と言った話が聞かれる。7500超の縫製工場を繋ぐネットワーク、それらをリアルタイムに管理するシステムが活用できるのだから、小規模なアパレルにとってもこれほど有益なインフラはないだろう。

 たが、アパレルとしてのSHEINは厳しい環境に置かれている。先にも述べたが、米国のデ・ミニミス・ルールの廃止、フランスのウルトラファストファッションへの負担金といった規制リスクに晒されている。また、TemuやTikTok Shopとの競合もあり、価格競争が激化する中で、市場は成熟へと向かっている。SHEINに更なる成長余地があるかと言えば、全く不透明と言わざるを得ない。さらに強制労働に対して米国や英国は厳しい眼をむける。サプライチェーンに携わるすべて企業や工場を徹底して調査しており、一つでも問題点があればそのチェーンで作られた商品は輸入が差し止められる。ユニクロでも中国の新疆ウイグル自治区における強制労働関与の疑いや産地証明の不十分さから、綿製シャツが米国税関・国境警備局(CBP)により輸入差し止められた。SHEINでも下請け工場で長時間労働をさせているのではとの指摘がある。1日あたり3000~6000種類もの新商品を追加すれば、その分廃棄されるものも増えていく。在庫ロスがゼロになることはないのだ。

 つまり、SHEINが進めるさらなるIT投資は、アパレルとしての売れ筋データから小ロット生産、需要検証、追加生産までシステムをさらにブラッシュアップする。そうしたインフラを外部の企業に販売し安定した収益を上げることで、投資家や株主を納得させたいのではないかと思われる。ファストファッション企業からクラウドコンピューティングサービス企業への脱皮というか、進化したいのではないかと思う。言わば、Amazonが構築したAWSの中国版とでも言おうか。それをさらに磨いていくためには莫大な投資が必要なため、香港市場から調達する。それが上場の一番の目的ではないかと思う。もちろん、AI関連ではオープンAIやアンソロピックも同じようなシステム開発を行っているので、SHEINが一人勝ちするとは思えない。ただ、祖業のファストファッションECは、物流整備などの投資が嵩む一方、様々なコスト増で収益性は落ちている。投資家や株主はアパレルの業績も見ていくだろうから、それに対する反論材料も必要になる。

 2026年5月半ばには、SHEINが米D2Cアパレルのエバーレーンを億ドル(約159億円)で買収するとの報道があった。投資家に公開するポートフォリオを整える上では、アパレル事業にも投資している姿勢を見せたいからと思われる。LVMHやケリング、リシュモンといったファッションコングロマリットを見ると、傘下ブランドの全てが業績好調というわけではない。コングロマリット側は不振ブランドの立て直しに躍起になる一方、売却案件にあげているものもある。今後、SHEINの株価が上がればIT投資が進み、AIはさらに服の値段を下げることを考えていくだろう。ただ、安いだけのブランドがこれ以上、お客に求められるのか。投資家や株主が求めるのは収益、特に利益ではないのか。そう考えると、SHEINが利益率の良い高級ブランドに触手を伸ばしていくことはあり得る。

 いくら最先端のアパレル製造システムを構築できたとしても、歴史と伝統に育まれた職人技、不易流行を旨とし階級主義的発想を重んじる創造性、コストと時間をじっくりかけたものづくり。そんな至高のノウハウを持つブランドをSHEINのようなファストファッションが作り上げることは不可能だ。ならば、資金力に物を言わせてブランドごと買収する。それも経営判断としては当然のこと。にわか成金の中国系企業なら尚更だと思う。

 ※当コラムは2010年ごろからGoo Blogにて執筆をスタートしました。ですが、25年11月18日でサイトのサービスが終了し、Amebaへの引越しを致しました。過去14年にわたる月別アーカイブは、2011年から併載していますlivedoorブログでご覧いただけます。

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