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「誰が作るかではなく何を作るか」LVMHプライズを本気で狙う「ヴェーテー」とは

村田太一

 デザイナー ニック中村が手掛けるメンズブランド「ヴェーテー. ヴォルフガング タンホイザー(WT. Wolfgang Tannhäuser/以下、ヴェーテー)」が、2027年春夏シーズンに本格始動する。海外メゾンの服を多数手掛けてきた青森の縫製工場 サンラインをはじめとする全国各地の生産工場の確かな技術力を背景に「ファッション界のF1カーのように、世界的に見ても卓越した技術を持つ日本工場の見本市的な存在になる」ことを目指す。

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 デザイナーの中村は、銀座のテーラー 英國屋でキャリアをスタート。その後、「エドウィン(EDWIN)」で経験を積み、2020年にディレクター 金山大成とともにファッションブランド「サブレーションズ(SUBLATIONS)」を立ち上げた。ヴェーテーは中村にとって2ブランド目で、自身がソロで手掛ける初のブランド。「美学を伴う技術は永遠である」という思想に基づき、中村が世界最高レベルと考える日本工場の技術の限界に挑戦する。「ヴェーテーでは、『工場が持続していく』という点に重きを置いています。ファッションのワクワク感や、今まで見たことのない服が作られている驚きは、感度の高いお客様を刺激します。モードを突き詰めることで、ファッションピラミッドの上位層に支持され、結果として、その背景にある工場に注目が集まる。そうして、日本の素晴らしい技術を後世に伝えていきたいんです」と中村。

 ブランド名は、ドイツの架空の人名。ファーストネームとファミリーネームはどちらも音楽家から着想を得ており、ヴォルフガングはモーツァルトのファーストネームに、タンホイザーはワーグナーのオペラにそれぞれ由来している。ファクトリーを背景に持つブランドを立ち上げるにあたり、「デザイナーが表に立つのではなく、匿名性を持たせたかった」と中村。また、タンホイザーは「タンネンバウム(モミの木=葉が落ちないことから『永遠』)」と「ホイザー(家)」を組み合わせた「永遠の家」という意味を持つ言葉で、ブランド理念を体現している。

 ブランドの核となるのが、テーラリング畑出身である中村のパターンメイキングとサンラインの技術力を結集した総毛芯のテーラードジャケット(15万9000〜18万円)。海外メゾン御用達の尾州ウールを贅沢に使用しており、パッド入りの肩周りはコンケープ気味にデザイン。肩幅は狭めに設定し、存在感がありながら日本人の体型にフィットしたショルダーラインに仕上げている。着心地にも配慮しており、肩線を後ろ身頃側でやや大きく取って背側にゆとりを持たせ、着用時の可動域を確保。またサイドベンツの内側には、着た時に必要以上にシルエットが広がらないよう、重しとしてチェーンを手縫いであしらった。同ジャケットと、セットアップで着用できるパンツ(6万4900〜8万300円)は今後も定番アイテムとして継続的に展開。サンラインの背景を活かし、顧客の体型に合わせたセミオーダーにも対応する。

 カットソーを除く全アイテムには、アクセサリーデザイナーと協業して作った白真鍮のオリジナルパーツを取り付けている。中村が所有しているヴィンテージウォッチの文字盤をベースに「針のない時計」をイメージして製作し、ブランドの思想である永続性を表現しているという。そのほか、ジップの引き手にも同じく白真鍮のパーツを使用し、こちらには「技術」「美学」「不朽」を意味するラテン語を配している。

 2027年春夏コレクションのテーマは「SENTIMENTALIST」。形あるものや既存の価値観が時間の経過や外部要因によって変化していく様や無常感を表現した。象徴的なのが、レオナルド・ダ・ヴィンチ作とされる絵画「サルバトール・ムンディ」「モナ・リザ」をモチーフにしたシャツジャケット(24万7500円)。外部要因や第三者評価によって価値が変動した2作品を題材にした、コラージュアーティスト Lira Wrapによるアートをコンピュータ刺繍で再現し、人の手で錆加工を加えて仕上げている。そのほか、バイクのマフラーに施される焼き入れ処理を衣服に応用し、鈍い虹色を表現した「BURN COAT加工」や、衣服に朽ちた建造物のような表情を与える「DECAY加工」を施したアウター(22〜28万6000円)など、日本各地の職人・工場と協業して作り上げたアイテムが揃う。

 現時点で決まっている卸先は国内で4アカウントほどだが、本格始動したシーズンでありながらファッション好きにその知名度は着実に広まっている。9月上旬にセレクトショップ「アマノジャク(Amanojak.)」で開催した2027年春夏シーズンの先行受注会では、ブランドの強みであるテーラードを中心に想定以上のオーダーがつき、担当者からは「始動したばかりのブランドとしては異例の数字」だと言われたという。「ブランドの知名度が全くない中で、SNSで商品画像だけを見て多くのお客さまが足を運んでくれた。現代では『誰が売るか』『どうやって伝えるか』といった物以外の戦略が重視されがちで、作り手としては歯痒くもある。そんな中で『良いものは売れる』という事実が目に見える形で証明された今回のイベントは、大きな希望と自信に繋がった」と中村。今後は展示会形式で年に2回発表を続けながら、ランウェイショーの開催も視野に入れる。

 ブランドとして掲げる大きな目標が、ファッションプライズ「LVMH Young Fashion Designers Prize(以下、LVMHプライズ)」のグランプリだ。同プライズは応募に40歳以下という年齢制限を設けており、現在39歳の中村は2027年度が最初で最後の機会となる。中村は「もちろん簡単なことではない」とした上で「始動したてのファクトリーを背景に持つブランドがLVMHプライズを受賞したら『誰が作るかではなく何を作るか』という価値観が世界的に認められたという証明になる。日本の生地や技術は間違いなく世界トップクラス。ブランドを通じて、日本のモノづくりの魅力を世界中の人に伝え、それが産業の永続性に繋がっていけば」と語った。年内に2027年秋冬コレクションを完成させ、そのポートフォリオで勝負をかける。

WT. Wolfgang Tannhäuser 27年春夏

2027年春夏コレクション

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2027 SPRING SUMMERルックブック

最終更新日:

文・村田太一

Taichi Murata

FASHIONSNAP 編集記者

群馬県出身。男子校時代の恩師の影響で大学では教員免許を取得するも、ファッション業界への憧れを捨てきれず上京。2021年にレコオーランドに入社。主にビジネスとメンズファッションの領域で記事執筆を担当する。幼少期、地元の少年野球チームで柄にもなくキャプテンを任せられた経歴を持ち、今もプロ野球やWBCを現地観戦するほどの野球ファン。実家が伊香保温泉の近くという縁から、温泉巡りが趣味。

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