2023年春夏シーズンのロンドン・ファッション・ウィーク(London Fashion Week)が9月16~20日(現地時間)に開催され、74ブランドがフィジカルなショーを発表した。エリザベス女王の死去を受け、パーティなどは開催されず、「バーバリー(BURBERRY)」と「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」はショーの延期または中止を発表。国葬が執り行われる19日には全てのイベントがキャンセルとなり、開催直前に大幅にスケジュールが変更された。
そんな通常とは異なるムードの中、ショーを開催した「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」、「アーデム(ERDEM)」、「シモーン・ロシャ(Simone Rocha)」、「トーガ(TOGA)」、「エス・エス・デイリー(S.S. DALEY) 」の新作発表を振り返る。
「JW アンダーソン」のラストルックに込められたメッセージ
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ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が手掛ける「JW アンダーソン」は、ソーホーの旗艦店の隣に位置するゲームセンターを会場に選んだ。英国ファッション協議会はファッションウィーク自体の開催中止も検討したというが、ジョナサンはその中で「ショーをキャンセルすると、特に若いデザイナーは巨額の損失に直面することになる」という考えのもと、2年半ぶりとなるロンドンでのショーの開催に至った。
スロットマシーンが立ち並ぶ通路を歩くモデルたちは、球体のドレスや上下逆さまになったニット、キーボードのキーキャップを繋いで作られたホールターネックなどをまとって登場した。イルカや椰子の木、夕日などのイメージは、スクリーンセーバーからインスパイアされたもので、安価なストックフォトがデザインに取り入れられている。
シュールな世界観の一方で、オーバーサイズのTシャツやフーディといった明快なアイテムも登場した。黒いTシャツのフロントには「女王陛下 1926-2022 ありがとう」の文字が。これはロンドン中のバス停に貼られていたポスターを複製したもの。ジョナサンならではの追悼の表現がコレクションの最後を締めくくった。
大英帝国勲章を受章した「アーデム」はコレクションを女王に捧ぐ
デザイナーのアーデム・モラリオグル(Erdem Moralioglu)が手掛ける「アーデム」は、黒のヴェールに刺繍入りのブラックドレスを合わせたファーストルックでスタート。モラリオグルは、ブランド15周年となる2021年に女王から大英帝国勲章を受章しており、コレクションノートには「”悲しみは愛に伴う代償" このランウェイをエリザベス二世女王陛下に捧げます」と記されていた。これは、21年前に起こったアメリカの同時多発テロの後、女王がアメリカ国民に対して語った言葉の引用だ。
今シーズンは「芸術の修復」について探求し、「保存を追求する際の注意深さと強迫観念の狭間にあるものをイメージした」という。アーデムのチームは、今回の会場となった大英博物館をはじめ、テイト、ヴィクトリア&アルバート、ナショナル・ギャラリーの修復の専門家たちと共に過ごし、修復の過程をリサーチ。ルックには英国らしいクラシカルな要素を取り入れ、フラワーモチーフやレースで繊細かつロマンチックな味付けを加えた。ショーの最後を締めくくったのは黒のドレス。ミュージアムへの敬意と、亡き君主への哀悼の意を表した、アーデムらしいコレクションとなった。
メンズでもロマンティックな世界観を貫く「シモーン・ロシャ」
シモーン・ロシャは「オールドベイリー」と呼ばれる中央刑事裁判所でショーを開催。ホワイト、ピンク、ベージュといった淡いカラーパレットと透け感のある素材、壁紙のようなフローラルプリントがロマンティックな雰囲気を漂わせる。垂れ下がったパラシュートテープやパールの装飾などがアクセントを加え、頭にはベールが被されていた。これは、赤いペチコートを葬列の際に被る、アラン諸島の伝統から着想を得たものだという。
今回のコレクションは、メンズのフルコレクションのお披露目の場でもあった。シモーンらしいロマンチックな装飾がメンズウェアにも活かされており、ボンバージャケットやトレンチコートといったマスキュリンな要素も巧みに取り入れられていた。フィナーレでデザイナーのシモーンが登場すると、多くの観客がスタンディングオベーションを送った。
3人の女性アーティストの才能が集結した「トーガ」
古田泰子が手掛けるトーガのデジタルプレゼンテーションは、白い背景のスタジオで撮影された。これは今回のコレクションのインスピレーション源となった写真家・山沢栄子にちなんだもの。1920年代にアメリカで写真を学び、ポートレートや広告写真の分野で活躍した山沢は、日本における女性写真家の草分け的存在だ。彼女のカラフルな抽象写真はスカートやポンチョ、カットソーなどにあしらわれ、シンプルなアイテムの中で強い印象を残した。また、グラフィカルなセットアップやボーダーソックスなども、山沢作品の色使いやモダンなコンポジションを連想させる。
パンデミック以降、身体性を意識したクリエイションが存在感を増している古田らしく、ねじれたようなホールターネックや、深いVネックのタンクトップなど、肌を見せるルックが多く登場。官能的なニュアンスではなく、クリーンでニュートラルなムードを放っていた。今回の映像には現代音楽家の石橋英子も参加。異なる分野の女性アーティストの才能が交わる、特別なショーとなった。
うさぎの耳をつけたモデルたちが登場した「エス・エス・デイリー」
Steven Stokey-Daley(スティーブン・ストーキー・デイリー)が手掛ける「エス・エス・デイリー」は、2020年にスタートした新鋭ブランド。アップサイクル素材やデッドストック生地を取り入れたクリエイションが話題を呼び、LVMHプライズ2022のグランプリも受賞している。
今シーズンのテーマは「愛、思慕、ジェンダー、社会階級」。インスピレーションとなったのは、1910~20年代に詩人のヴィタ・サックヴィル=ウェスト(Vita Sackville-West)と作家のヴァイオレット・トレフューシス(Violet Trefusis)が交わした手紙。この二人の女性は恋愛関係にあり、フランスへ駆け落ちしたことでも知られる。ショーではモデルたちが手紙を片手に朗読したりと、演劇的な要素も盛り込まれた。
また、2匹のうさぎのモチーフは、彼女たちの姿を重ねたもの。ヴィタが男装する際に着用していたことから、黒のタキシードも取り入れられた。ダン・レヴィ(Dan Levy)が手掛ける「DL アイウェア(DL Eyewear)」とのコラボレーションも披露され、ブランドの英国的な雰囲気を強調した。
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